一方、ルミナにいるリーナも、エストルムの流れの異常を感じ取っていた。彼女はシオンのことを心配しながらも、ルクス・ハートに異変が起きたのではないかと胸騒ぎを覚え、街の中心部に向かうことを決意する。
夜のノクタは、いつも以上に静まり返っていた。街灯はすでにその大半が消え、わずかな明かりが地面に影を落とし、街全体に不気味な静寂が広がっている。シオンとガイルズは、冷たい夜風の中を歩きながら、警戒を怠ることなく周囲の様子を伺っていた。轟音の余韻がまだ耳に残り、街にはざわついた不安が漂っていた。
「ガイルズさん、こっちの通りを見てきます」
シオンは低く呟き、ガイルズに視線を送る。
「俺はここで見張ってる。何かあったらすぐ知らせろよ」
とガイルズが返し、シオンは軽く頷いて、狭い路地へと足を踏み入れた。
路地はひんやりと湿気を帯び、石畳の隙間から苔が顔を出している。シオンは、倉庫で目にした紫色のエネルギーのことが頭から離れない。それは明らかにエストルムとは異なる何かであり、彼の中に拭い切れない不安を呼び起こしていた。
その時、ふいに背後で足音が響いた。振り返ると、そこには一人の年配のヌルの男性が立っていた。彼の顔には不安と疲れが浮かんでいる。
「おい、あんた、ここら辺で妙な光を見なかったか?」
と男性は低い声で尋ねた。男は続ける。
「紫っぽい光だ。どこからか漏れてくるのを見たんだが…それが、なんだか妙に不気味でな…」
シオンははっとした。紫の光。それはまさに、倉庫で見た、あの怪しいエネルギーの色だった。だが、男性が言う「光」の正確な場所がわからないことに、さらに不安が募る。もしそれがエストルムの枯渇と関係しているのなら、事態はますます悪化しているかもしれない。
「紫の光…どこで見ましたか?」
シオンは尋ねた。
「正確にはわからん…。ただ、地下から漏れてきたんだ。それ以来、なんだか街全体の空気が重くなってきてる。まるでどんどんエストルムが減っていくようにな…」
シオンはその言葉を聞きながら、かすかな悪寒を感じた。ガイルズが近づいてきて、苛立ったように呟いた。
「まったく、面倒なことが起きてるようだな…」
「俺たちが倉庫で見た紫の光…あれと関係があるかもしれませんね」
とシオンが言うと、ガイルズは険しい顔で頷く。
「だが、今の俺たちにはできることが限られてる。とりあえず、もう少しこの辺りを調べてみるしかねぇな。迂闊に動くんじゃねぇぞ」
シオンはその言葉に従い、路地をさらに奥へと進んでいく。紫の光、その正体を確かめなければならない。だが、何が原因で光が生まれているのか、まだ手がかりは少ない。
ガイルズと共に再び足を進めるシオンの胸中には、倉庫で見た紫のエネルギーと、この街全体の異変が密接に繋がっているという確信が少しずつ芽生え始めていた。
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リーナは街を駆け抜け、エストルムの供給源であるルクス・ハートへと向かう。エストルムの流れが不安定になっているのを彼女は肌で感じていた。いつもの穏やかな輝きが消え、どこか不気味な影のようなものが漂っているように思えた。
ルクス・ハートの近くにたどり着いたリーナは、驚愕の光景を目の当たりにした。巨大なクリスタルが淡い紫色の光を放ち、そのエネルギーはまるで内部を侵食しているかのように見えた。それはこれまで見たことのない異質な輝きだった。リーナの心臓が高鳴る。
「何これ……こんなの、今まで見たことがない……」
リーナは目を見開きながら、クリスタルに漂う不穏なエネルギーに圧倒されていた。
「エストルムの流れが完全に乱れてる……」
彼女は、ルクス・ハートに集まるメイジたちの様子を見て、不安を感じながら呟いた。彼らもまた、この異常事態にどう対処すべきかを計りかねているようだった。
リーナは近くにいたメイジに声をかける。
「このエネルギー……何が起こっているの? こんなの、初めて見る……」
メイジは険しい表情で振り返り、短く答えた。
「原因はまだ不明だが、エストルムが危険なほど乱れていることは間違いない。このままではルクス・ハートは持たないかもしれない」
その言葉に、リーナの心はさらにざわめいた。クリスタルの中でうごめく紫のエネルギーは、異常な力を放っているように見える。もしかすると、これがエストルムの枯渇と何か関係があるのではないか――そんな考えがリーナの頭をよぎる。
「シオン……どうか無事でいて……」
リーナは、不安を押し殺しながら、ルクス・ハートのほど近いところまで歩みを進め、異常の原因を探ろうとする。彼女はまだ、この紫のエネルギーの恐ろしさに気づいていなかった。
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同じ頃、ノクタの地下深くにある秘密の集会所「ヴェイル」では、ノクティアのリーダー、オズマが冷静な目で仲間たちを見渡していた。ヴェイルの中はほの暗く、壁に刻まれた古い魔法陣がかすかな光を放ち、薄い霧が漂う空間に静かな緊張感が満ちている。
「時は来た。上層のメイジたちがエストルムを独占する時代は終わりだ」
オズマの冷酷な声がヴェイルの空気を裂くように響いた。
「我々にはニューエストルムがある。これを使えば、ノクタもアルヴァーナも、我々の手で救えるだろう」
オズマの手元では、紫のクリスタルが浮いていた。その中には、紫色のエネルギーが脈打つようにゆっくりと回転しており、暗闇の中でその光は不気味に輝いていた。集まっているヌルたちはオズマの言葉を無言で聞き入っていたが、その眼差しは次第に熱気を帯びていく。
「これが、エストルムに代わる新たな力だ。上層のメイジどもに頼る必要はもうない。ニューエストルムの力で、この街を救うんだ。我々が行動を起こし、ノクタを守り、アルヴァーナの未来を変える時が来たのだ」
オズマの言葉が響き渡ると、ヌルたちは深く頷き、決意の光がその目に宿っていた。彼らは自分たちの未来のため、そしてヌルの誇りのために、エストルムに頼らない新しい世界を作ることを決意していた。オズマのカリスマ性に引き寄せられ、彼らは一心に彼の指導のもとで行動する覚悟を固める。
だが、誰も気づいていなかった。ニューエストルムの力がもたらすのは希望だけではなく、かつてないほどの危険がその内部に潜んでいることを。紫のエネルギーが静かに脈動を続け、まるで何かを待っているかのように見えるその様子に、ヌルたちが抱く理想と信念は揺らぐことはなかった。
こうして、ノクティアはその運命の歯車を動かし始めていた。