アビドスの地下労働者 作:bishop
『Get The Fuck Outッ!! 死に晒せ化け物共!!』
突然だが異世界転生という物をご存知だろうか。文字通り異世界に転生するという現象で、一般人が凄い力を手にして異世界へと送られてウハウハする的なことが多い。
しかし、それと同じくらい多いパターンがもう一つある。
『入力はどこまで終わった!?』
『残り2つだ!!』
『早くしてくれ! 弾薬がもう持たない!!』
それはただの一般人がクソみたいな環境でクソみたいな地獄に苦しむパターン。それが俺の経験した異世界転生だ。
インターネットなんて麻痺しちまったからこの地獄の原因なんて今となっては分からない。何か疫病が流行ったような気もしたし、その治療薬が大失敗を起こしたような気もした。
なんにせよ、俺は記憶を消された囚人で、こうしてメキシコ湾の地下で化け物相手に銃撃戦するのが仕事だ。
『バイオトラッカーに反応無し! だがまだ奴等の声が聞こえ――来やがった! スゲェ数のスリーパーだ!!』
『Fuckッ! 弾を込める暇もねぇのかよ!!』
『ああクソクソクソッ! メインの弾薬がもうマガジン2つ分しか――145方向だ!!』
仲間の声を聞き、言われた方向に視線と銃を向けて発砲する。ドタドタと立って走ってくる奴に四つん這いで寄ってくる奴。そいつらに鉛球をぶち込んで等しく黒い液体と肉片へと変えてやる。
『入力残り1つ!!』
『ラストスパートだ!! 撃ちまくれ!!』
そう声を上げてのろまなデカブツの頭をスナイパーライフルで消し飛ばす。すぐさまスナイパーライフルをマウントし、メインウェポンのアサルトライフルを構えなおしてクソ共へと引き金を引く。
『残り1つにしてはなげぇなオイ!!』
『最終認証に時間がかかってるんだよ黙って撃ってろ!!』
『クソ! サブマシンガンの弾が切れた!!』
『黙ってその腰に下げたピストルでスリーパーの足を止めろ! 俺らが殺してやる!!』
奥の通路からデカブツが現れる。それを確認した瞬間アサルトライフルとスナイパーライフルを入れ替えてデカブツの頭へと照準を向ける。
『最終認証完了!! 退くぞ!!』
『よくやった!』
撤退の合図に照準をデカブツの足へと変えて発砲。コケさせることで後続どもへのクソへの妨害とする。
『走れ走れ走れ!!』
『最後尾の奴はドアを全て閉めろ!! 少しでも奴等の足を遅めろ!! C-FOAMはまだあるか!?』
『ああタップリだ。最後尾1人前を俺が走る! 最後尾の奴が閉めた扉は俺がすぐに補強する!!』
走りながら仲間と示し合わせをする。最後尾を走るのはスナイパーライフル担当で未だに体力の残っていた俺だ。
ドアがあれば閉め、味方が固めたのを確認したら再び走る。ひたすらに走る。
先行する2人が脱出地点への道はクリアリングを済ませてくれているので俺らは安心してドアをしっかりと閉めて後ろから迫って来るクソ共への妨害が出来る。
そうして走って走って走って。ひとすらに走ってようやく脱出地点が見えて来た。既に2人が脱出地点に到達していたことで迎えのリフトが降りてきている。
あと少し、もう少し、あと1歩――
『――は?』
気が付けば、俺は砂漠に居た。
『おいおい……どういうことなんだ……?』
こうして別世界のような場所にワープさせられる経験は地下で幾度も経験したことがあるが……にしては仲間が1人もいないし、あれはしっかりと身体に変な感覚を感じる。今回は一瞬気付くことも出来なかったほどの事だった。
夢か幻かとも思ったが今照り付けるこの太陽の熱さがこれは夢ではないと肉体に知らせている。
『あー……Fuck!! ……クソッ。とりあえずどこかこの暑さをしのげる場所を探さねぇと……』
ここでウダウダと考えて居たって仕方が無い。優先すべきは生存だ。
汚染された地下での戦闘に備えた重装備は余りにもこの暑さに弱く、このままでは文字通り蒸し焼きになるだろう。
物資だってそうだ。経口補水液はあるが飯なんて無い。どこかで見つけなきゃならん。
しかし、周囲を見渡しても視界の範囲全部が砂漠だ。もうこれどないせいっちゅうねん。
『あぁクソ、クソ化け物から生き残ったと思ったら今度はクソ砂漠でクソ太陽に殺されそうとかクソかよクソだわクソが死ね』
悪態をつきながら太陽を背にして歩きだす。一定の方向に歩き続ければいつか何かがあるはずだと信じて。
重い装備に砂を嚙んで関節から変な音の鳴る義足。照り付ける太陽がジリジリとそれらの温度を上げ、俺の体を焼く。
まだ経口補水液がある為脱水症状で死ぬことは無いだろうが、冗談抜きにボイルになって死にそうだ。
『クソクソクソクソ!!』
口から悪態が漏れ出てくる。もう数時間単位で歩いた。いつの間にやら太陽は傾き始め、極寒の夜がすぐそこまで迫っている。
幸いにもボイルにはならなかった。代わりにフリーズドライ食品にでもされてしまいそうな寒さが来る。
『あークソ。俺が何したってんだよ……!』
程なくして夜になった。幸いにも寒さには耐性のある装備であるから思っていたよりは寒くない。だが思っていたより寒くないだけであって普通に寒いからやっぱりクソだ。
地下で鍛えられた悪態が自然と口から漏れ出てくる。歩き始めて優に12時間は経過した気がする。未だに建造物のようなものは見えていない。経口補水液の残量は残り2割といった所。
『クソだクソクソ。この世界ぜーんぶク……ソ。とは、言えねぇかもな』
「いっそ銃しゃぶって頭吹き飛ばして死んでやろうかな」と考え始めた頃、夜闇の中で動く影を見つけた。天使か悪魔か、どちらが来たって良いさと一応銃を構えつつ近付く。
「うぅ……」
『あ? 女のガキ?』
うつ伏せに這いずったのであろうガキを蹴って仰向けにする。意識レベルは低そうだが生きてはいるようだ。
この感じ、恐らくは脱水症状かそれに類するものでの意識障害だろう。
『クソ、無駄足か』
死にかけのガキ相手に時間を無駄にした。さっさと銃をしまってまた砂漠からの脱出を目指して歩き――
「ホ、シノ……ちゃん……?」
『……クソが』
今まで意地でも外して居なかったマスクを外す。脳裏に感染して死んだ奴等の顔が浮かぶ。新鮮な冷たい空気に反吐が出そうになるが今はそれどころじゃない。
ガキの隣に座り、装備の中の胸のあたりにある経口補水液のパックを取り出す。そしてガキの頭の下にマスクを置いて少し高さを確保してからその口に経口補水液のストローを突っ込む。
『頼むぜ飲んでくれよ、オイ』
経口補水液のパックを高い位置に置いて少しずつガキの口に流し込んでいく。生憎医者じゃないのでどれくらい飲ませればいいのか解らんが、とりあえずこのガキが飲む分は全部飲ませるくらいの勢いだ。
定期的に口を無理矢理開いて飲み込んでいるかを確認しつつ大体残りの半分を飲ませ終わる。
『お前にゃ俺と違って待ってくれてる人が居るんだろうが、死んだら恨むぜ』
らしく無いとは思った。なんでこんなことをしているんだとも思った。
だがしかし、んなしょうもねぇこと全部捻じ伏せて、この子を助けたいと強く思った。
だから俺はこうして自殺行為に走っている。
『っし、こんなもんかね』
残り0.5割ってとこの経口補水液を再び胸の所に収納して砂を落としたマスクを着けなおす。そしてガキを背負ってついでにガキの持ち物であろう物理盾も拾って歩き出す。
ドチャクソに重いがこれくらいでへばってたら地下で生き残れちゃいない。まだしばらくは歩けるだろう。
『せめてコイツが、安全に目覚めるまで、待てる場所を、見つけなきゃ……なッ!』
気力を振り絞って走る。義足が嫌な音を鳴らしているがんなこたどうでも良い。珍しく俺が頑張ってんだから、コイツも使い潰されて本望だろうよ。
てなわけで走る。走って、走って、走って。やっぱり走って走り続けて兎に角走るのを止めない。
不思議と気力ってのは無限に沸いて来るもんで、もうそこそこの距離を走ったような気がする。いや、実際に走っている。
そうしてしばらく走って、日中に日陰になりそうな廃墟を見つけた。こりゃあ良いと思いその中に入ってガキを寝かせ、隣に物理盾を投げ捨てる。
そんで、マスクを外して最後に一口だけ経口補水液を飲んでから再び胸元から取り出して彼女の胸元に置く。
あとはまぁ、運次第だな。彼女が帰り道を知っているかそれとも彼女を探す誰かがここで彼女を見つけるか……文字通り神のみぞ知るってやつなんだろう。
『っと、なんか妙な安心感で眠くなっちまった。俺もひと眠りするとするかね』
マスクを着けなおし、適当な壁に寄りかかって目を閉じる。十中八九、この環境で長く生きるのはガキの方だ。
ならまぁ、これは分の良い賭けになるんだろう。
『あの世で死んだ奴等に笑われちまうな』
意識が朦朧としてくる。こうして寝てしまえばもう起きることは出来ないかもしれない。
そうだな、願わくばもし次も転生するんなら美少女だとかチートだとかそんなのどうでも良くて、一生を銃なんて握らずに平和に暮らせる場所に転生したい。
……頼むぜ、カミサマ。
「起きろ!!」
『オボォアッ!?』
何かが顔にぶちまけられる感覚に飛び起き――ることは出来ずに、眼前に突きつけられた銃口と目が合う。
「答えろ、ユメ先輩に何をした!!」
何が何だか分からない。困惑しながら質問の主を見ればまだ年端も行かないガキだ。
『あーなるほどな? なるほどなるほど』
寝る前に願った世界と違い、美少女が居て、チートなんて無くて、こうして目の前に銃口を突き付けられるクソッタレ平和な世界。
どうやらカミサマは俺に臨む者を何も与えてくれる気は無いようだ。
『Fuck Out GOD……恨むぜオイ』
そう呟いて、大人しく手を上げて降参の意を示した。