アビドスの地下労働者   作:bishop

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第九話

「私は、不安なんです」

『不安ねぇ……』

 

 さっきまでデカガキを座らせていたパイプ椅子にチビガキを座らせ、さてどんな悩みが飛び出してくるかと身構えて居りゃこれだ。

 

 なるほど、どうやらガキ特有のくだらない悩みらしい。

 

『何が不安なんだ? ああ待て。言わなくても良い……どうせデカガキが卒業して自分が最高学年になることとかそんなくだらないことだろ?』

「くだらな――っ!! はい、そうです……」

 

 やっぱりくだらない事だったな。ちょっとでも真面目に聞いてやろうと思ってた俺の気持ちを返して欲しいね。

 

「ユメ先輩はおっちょこちょいですぐにドジをするし騙されます」

『まぁ、そうだな』

「でもこの上なく……尊敬できるし頼れる良い先輩だと私は思っています」

『それにも同意でき……まぁ一部同意だな』

 

 尊敬はともかく頼れるかどうかは審議が必要だろ。俺は頼れるとは思わんぞ、ガキ相手だし。

 

「私は……ユメ先輩みたいに良い先輩になれる気がしません」

『なるほどなぁ……』

 

 俯いたままのチビガキを見る。どうしてこんなにくだらない事でこんなになってんだろうな。まぁ、ガキだから仕方がねぇのか。

 

『んじゃあ俺の回答だ。くだらねぇことウジウジ悩むくらいならシコシコ■■■て寝ろ』

「なっ!!!!????」

『良い先輩になれる気がしませんだァ? くだらねぇこと言ってんじゃねぇよガキが』

 

 真っ赤になった顔を上げてこっちを見てくるチビガキに講釈を垂れてやる。

 

『良い先輩だとかそんなもんになろうと思ってなれるやつなんか居ねぇよ。良いかチビガキ! なんかになれる奴ってのはなりたいと思ってる奴かならなきゃいけねぇ奴しかなれねぇんだ。なろうとだけ思ってる奴が慣れる訳がねぇ!』

「そんな――」

『まだ話は終わってねぇよ! それになぁ、そういう肩書とかってのは行動の後に付いて来るもんだ。それを得ようと頑張るんじゃなく頑張ってりゃ勝手にそれが付いて来る。間違っても肩書をゴールにするんじゃねぇ!!

「うぐ……」

 

 ウジウジ言いやがって。なれるかどうかなんて考える暇がありゃあ別の事をやってる方がよっぽど有意義だ。一呼吸おいて、さらに話を続ける。

 

『お前みたいにくだらない事をウジウジ考える馬鹿にも解り易く一言で言い換えてやるよ』

Don't think! Just do it!!(考えるくらいならやってみろ!!)

「Don' think.Just do it……考えるな行動しろ、ですか」

『そうさ、簡単だろ?』

 

 随分と長く講釈を垂れちまった。いやぁ、古い鏡を見てる気分ってこういうのを言うんだろうな。結構イラついてしまった。

 

 何かになりたいとか考えるのは一瞬で良いんだ。一瞬考えて、その一瞬で決意しちまえばあとは行動するだけ。うだうだ長々と考えるのはマジで無駄。人生短いんだから考えるよりもやってみる方が良いってのは地下で嫌と言うほど学んだ。

 

『これが俺がお前に言える全てだ。これでも不安だってなら頭ぶん殴って忘れさせてやるから言えよ?』

「いえ……大丈夫、です」

『そりゃあ良かった。俺も石を殴る趣味は無いから助かるよ』

「石を殴る……って誰が石頭ですか!?」

『生憎ここにはマトモな鏡は無くてな? 石頭を見たいなら校舎の鏡を見てくると良いぜ』

「殴りますよ!?」

 

 いつものように小さな体をプンスコ振り回して怒り始めたチビガキ。やっぱりこいつはこうじゃないとな~~(厄介オタク)。

 

 うだうだ悩んでるのはコイツにゃあ似合わねぇ。世の中でうだうだ考えても許されるのは学者先生と政治家くらいだ。他の奴等、特にガキなんかは悩むだけ無駄。

 

『おう、怒れ怒れ。お前はそうやって子犬みたいにキャンキャン吠えてる方が似合う。ああ、今度からチビガキじゃなくてパピーちゃんって呼んでやろうか?』

「分かりましたそんなに死にたいならそこに居てください今すぐショットガンで頭を吹き飛ばしてあげますから!!!!」

『ハハハハッ!!』

 

 揶揄い甲斐のある奴ってのはやっぱり面白い。手を叩いて笑うなんて地下じゃあ数えるほどしかなかったってのにチビガキで遊んでる時はいつもこうなる。

 

「はぁ……でもまぁ、感謝します。吹っ切れはしました」

『おうよ、まぁこんな信用できねぇ部外者のいう事も10割信じるのもどうかって話だから話半分くらいで覚えておきな』

「? 何を言ってるんですか。スメラギはもう信用できるアビドスの仲間ですよ?」

 

 表情筋が硬直したのをハッキリと認識できた。チビガキの顔は何を当たり前の事をと言わんばかりにいつも通りの顔。

 

『あーーーー……オーケーオーケー、お前は良い先輩になるよ。俺のお墨付きだ』

「は、はぁ……ありがとう、ございます?」

『はいはい、てなわけでさっさと出てけ出てけ。俺はこっから作るもんがあるから』

 

 緩みそうになる表情筋を気合と今生で無理矢理押さえつけ、さっさと出てけとチビガキをパイプ椅子から立たせて背を押す。コイツ軽いな……もっと食え肉とか。

 

「ちょ、いきなり押さないでってどこ触ってるんですか!?」

『ん? いや、背中しか触ってな――っぶねぇ!!??』

 

 表情筋の方に意識を裂いていたせいで意識では反応出来なかったが、無駄に経験を積んだ体が勝手に動き、結果として頭上をチビガキの蹴りが通過した。頭を下げればぶつかりませんって本当だったんだな……あとスカートでハイキックするのはちょっとリスクが高いと思う。

 

「もう!! スメラギなんて知りませんから!!」

 

 バクバクと鳴り止まぬ心音に紛れてチビガキが何やら怒鳴って倉庫から出ていく。マジでなんで蹴られたのか心当たりがなくてビックリしたが……まぁ追い出せたから結果オーライか一旦。

 

『あービビった……デカガキに似てるから良い先輩になるって思ったが。そんなことは無いかもしれんな』

 

 緩みかけていた表情筋はさっきの蹴りですっかり引き締まった。デカブツのラリアットと同じくらいの圧をあの小さな図体で出せるあたりチビガキも大概化け物だ。デカガキの方も怒ったらあれくらいの圧は出せるんだろうか。

 

 その辺やっぱりこの都市の奴らはイカれてるぜ。地下とは別方向にな。

 

 

 


 

 

 

『作る、作る、作る~スメラギは銃作る~っと』

《呑気ですね》

『呑気で良いだろ別に。化け物も居ねぇしヘルメット連中も居ない。平和も平和だ』

 

 即興で適当な歌を歌いながらセントリーガン用の銃を作りながら脳内AIちゃんと会話する。関係無いけどながらながらみたいに同じ接続詞的なのが続くと気持ち悪いよね。

 

 ああ、脳内AIちゃんの呼び方に関しては名前聞いても教えてくれねぇから俺は悪くない。俺にとっちゃこいつは脳内AIちゃんなんだ。

 

『次は……このネジか』

 

 市販品とジャンクの部品を組み合わせて機関部を作るだけの作業。とりあえずこの世界で手頃に入手出来る中だと一番デカかった12.7x99mmを撃てるように作成する。

 

 本当は手持ちのスナイパーライフルの弾丸と合わせたかったが機関部も銃身も生憎俺の手持ち1つしかなかったから諦めた。弾薬ポケットで弾薬生成出来ないのはもう仕方が無い事だと割り切るしかないだろう。弾薬費も考えなきゃなセントリーガンを運用するなら。

 

《やはり呑気です。私の目的を知りながら体を明け渡す契約を結んでいる時点で》

『世界を滅ぼすのに俺の体が役立つとは思えないからな。どうせ体を明け渡した時点で俺は死ぬって話だから俺に被害は無いからデメリットねぇし。ならメリットの方を考えて契約を結ぶのはおかしくない話だろ』

《酷く自己中心的な考えですね》

『そうでもなけりゃあ地下じゃ生き残れなかったんでな』

 

 見方を見捨ててでも生き残るってのは大事な事さ。自己中心的なカスほど生き残る。それも俺みたいに超ド級のカスがな。

 

 

 

「本当に酷く自己中心的……とは、思えないですが」

 

 様々な物が散らばった小さな部屋の中、小さなブラウン管テレビを眺めながらスメラギと同様の戦闘服で身を包んだ黒髪長髪赤目の少女がそんなことを呟いた。

 

「思いもしないのでしょうか、私が貴方の記憶を見ることが出来ると」

 

 少女の手の中に小さなパソコンのようなものが現れる。その画面には暗い研究施設のような場所で生理的嫌悪を催すような見た目の化け物に対して銃を撃つ人間達が映っている。

 

「見えない部分も多いですが、見える部分だけでも貴方の人柄くらい判断できます」

 

 パソコンの画面は、負傷した人間を仲間へと託して迫り来る化け物相手に大立ち回りしている様子を映し出す。圧倒的経験と自信、そして勇気から繰り出される槍捌きと銃捌きは少女をしても圧巻と言わざるを得なかった。

 

「なにより、この行動が出来る人間のどこが自己中心的なんでしょう……人間というのは理解できません」

 

 心底不思議だと言った具合で少女は呟き、その直後に部屋を揺るがすような爆音が鳴り響いたことでパソコンを投げ捨ててテレビへと目を向ける。

 

『やっべぇ……ボルトの向き逆だった……』

 

 テレビには爆発し融解しているセントリーガンになるはずだったものが映り、間抜けな男の声が聞こえてくる。

 

 ああ、心配して損した。これでスメラギの体が変に損傷して居たらせっかく体を乗っ取っても意味が無い。

 

《まったく、間抜けですね》

 

 そんな風に言う彼女の表情は、少しばかり柔らかく緩んでいた。




セントリーガン:4種のセントリーガンがある。今製作しているのはそのうちの1つ、スナイパーセントリー。特徴としてはほぼ100%のヘッドショット率などがある。
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