アビドスの地下労働者 作:bishop
「忌々しい……!!」
どこぞのビルの上の方。ガタイの良いオートマタがそう吐き捨てた。
「ヤツが来てから全てが上手く行かん! せっかくの借金すらも既に半分が返済されてしまった……!!」
数十年にも及ぶ計画。それを突如現れたキチガイ1人によってぶち壊されかけているのだから、彼がこうして怨嗟の声を漏らすのも仕方が無い事であろう。
「クソッ……黒服も黒服だ! 奴には関わろうとするな等と契約に追加しおって!!」
彼の――カイザーの膨大な兵力を用いればあのキチガイ程度あっという間に排除出来るというのに、彼の協力者はそれを許さない。
故に彼はそのキチガイに直接は関わらない回りくどい方法でそのキチガイについて調査させるしかなく、無論その調査結果は芳しくない。なんせ、今彼の手元にあるぺら1枚の資料がキチガイについての全てである。
何処から来たのか、どうしてアビドスに居るのか、膨大な金を手に入れるに足るオーパーツの出所が何処なのか……分かっていることを数えた方が圧倒的に早いだろう。
そんな大した意味も無い資料を見ながらブツクサと怨嗟の声を漏らしていた彼の中で、その資料の中のとある情報と協力者との契約内容がふとパズルのピースのようにピッタリと合わさった。
「……そうだ。奴には関わろうとするな、との契約だ……向こうから関わって来た場合はその限りでは無い筈だ」
名案を思い付いたと言わんばかりにニッコニコで(オートマタなのでほぼ変わりはないが)彼は机に備え付けられた電話へと手を伸ばす。
『私だ、件の作戦の実行地域をアビドスに近いブラックマーケットへと移動させろ』
”最後の一線を越えるな。さもなくばスレイヤーがやって来る”
ここ最近のブラックマーケットではそのような事がにわかに囁かれるようになった都市伝説に近い噂話。多くの住人は”夜に口笛を吹くと蛇が来る”や”4時44分に鏡を見ると未来が見える”等の子供の楽しむ怖い話に過ぎないと思っている。
事実そうだ。ブラックマーケットで最後の一線を越えたとしてもスレイヤー等と呼ばれる存在はやって来ない。やって来るのは――
『ったく、的には困らねぇなこの都市は』
『次はコイツで行こう。HK416の……A5か? これで行こう』
複数の銃器を背負った死刑囚ことキチガイこと我らが主人公であるスメラギ。彼の今日の目的は試し撃ちである。
悲しい事に彼は地下労働の経験によって一線(キチガイ基準)を越えた人間を殺傷することに躊躇が無いという終わりの価値観を育んだ。無論、地下労働から解放されこの都市に来た今もその価値観に変わりは無い。
故に合法的に使える肉の的を求めて定期的にブラックマーケットで惨劇を起こすのだ。やってることが死刑囚で試し切りする江戸時代の人間と大差が無いぞ、このキチガイ。
縛り上げられた
「――――ッ!!!!」
『やっぱM4A1よりRPMがちょっと高いだけでもかなりの違いだな』
目の前に広がる惨状には目もくれず、スメラギは当然のことのように銃をしまって次の銃を取り出す。
『次はSIGの556を試そう』
「ッ!! ッ!! ッ!!!!!!」
再び銃を構える。そしてまたもやすぐさま発砲。肉の的は覚悟をすることすら出来ずにただでさえ巨大な赤を更に広げる。
『うーん……悩ましい所だな、扱い易さで言えば416だが、アイツに合うのはSIGな気がするな』
路地裏に広がる地獄と呼ぶに相応しい光景。それを前にして真面目に銃器の考察をする彼はどうしたってイカレている。
『ん? ああ、そうだな。そろそろズラかった方が良いだ――いや、どうやら悩みを解決できる素晴らしい場所がありそうだ』
ナニカと会話をし、その場を離れようとしたスメラギは、遠くから僅かに聞こえた銃声と悲鳴に反応する。次の瞬間には路地裏の中を強引に突っ切って来たバイクに飛び乗ってそのまま走り出す。
『肉相手にゃ試したがロボ相手には試してなかったんだよなァそう言えばヨォ!!』
路地裏をバイクで駆け、たまに大通りに出て人を轢きかけながらやはり路地裏を駆ける。ガスマスクを着けた彼の表情を詳しく見ることは出来ないが、その目は間違いなく笑っている。
どうしようもなく破綻して、もう直すことも出来ない。直そうとも、直されようとも思わない。
歪みに歪んだ銀の弾丸が、獲物へと到達する。
『タリホーーーー!!』
バイクの音で既にバレていると踏んだスメラギはそのままバイクでの突撃を選択。路地裏から少し広い場所へと飛び出した瞬間に背中にマウントしていた銃を一丁手に取り、片腕でバラ撒く。
スメラギの半ばデオチめいたキャノンボール的エントリーは的確に効果を発揮し、的達の彼への反応が若干滞った。
「クソ!! 応戦しろ!!」
『AEKは威力もレートも申し分ねぇな!』
片腕で7.62x39mmをRPM900もの連射速度でばら撒いたというのに、スメラギの腕は満足に動いて次の銃を取り出し即座に連射。片腕でアサルトライフルを連射するのはやはり人間技とは言い辛い。
『SCAR-L、扱い易さに関してはピカイチだ』
5.56mmのライフル弾が低レートながらも連続して宙を斬り裂き、オートマタの表面近くで炸裂する。
「ガッ!? こっなクソがああああああああああああ!!」
『うおっと!? っぱロボ相手にHPは効きが薄いなぁ……』
SCAR-Lを収納しつつ、サブアームとして持ち込んでいた拳銃を手に取りながら華麗にバイクから飛び上がる。
『ジャックポットだ』
FN Five-seveN。PDW用弾薬をぶちかますことが出来る自動拳銃。高貫通弾が装てんされていたのもあり、放たれた弾丸はあっという間にオートマタの頭をズタズタにする。
『――言ったろ? ジャックポットだって。あんなに溢れてんだから意味合い的には間違えてない……シャレって奴だよ、AIちゃんには難しいかね?』
拳銃をホルスターに収納し、適当に背負っていた武器をまた一丁取り出す。
『まったく同情するよ、お前らには』
安全装置は既にオフだ。セレクターは連射を指し示している。
『俺に関わるなって言う黒い奴の話をお前らの上の連中が大人しく聞いてりゃこうはならなかった』
「何を言って――」
スメラギの腕が跳ね上がる。強く引かれた引き金が軋み、放たれた弾丸はオートマタ達をズタボロにしていく。
『ま、俺達仲間って事だな。クソッタレな上の連中に振り回される錆びた弾丸だ』
跳弾した弾丸は、どこへと跳ぶか誰にも解らない。
FN Five-seveN:P90の弾薬を使う拳銃。