アビドスの地下労働者 作:bishop
「一旦、貴方のことは信用することにします」
『お、おう……わざわざそれだけを言いに来たのか?』
ヘルメット集団――ヘルメット団と言うらしい――を剥いて吊るしているところを怒られた次の日。朝からちょっとした作業をしていたらチビガキがズカズカと入って来てそんな事を言うもんだからちょっとケンカを売っちまう。
「昨日は調整してもらった銃のおかげでいつもより楽にパトロールを終えられましたし、学校の校舎も守ってくれましたから……ですが、なんですかあのハレンチな所業は!!」
『うえ、まだ怒られるのかよ』
「当然です! だいたいどうしてあんなことを――」
『理由は単純、ああやって晒し者にすりゃ再犯と後続に対する抑止になるだろ?』
「……そこはまぁ、そうかもしれませんが」
確かにと言った具合でチビガキが頷く。
『それに加えて、ひん剥いた奴らを見た感じ見てくれは良いからな。適当に写真撮ってネットで売り捌けば借金の返済にぃッ――!?』
ショットシェルが先程まで俺の生身の方の足があった位置を穿っていた。これスラグ弾じゃねぇかマジで足吹き飛ぶぞおい。
「最低です!!!! 何考えてるんですか!!??」
『一挙両得だろうが! 別にイイだろ児ポくらい!!』
「良くありません!! 最低です!!」
『えぇ……』
せっかくいいビジネスだと思ったんだがなぁ……仲間にも何人か居たんだぜ? ガキ犯して捕まった奴とかガキの裸をダークウェブで売り捌いて捕まった奴とか色々。まぁ、全員死んだが。
話が逸れた、つまりガキってのはそれだけで価値のある売り物になる訳だ。一番は襲撃してきた奴を拘束してどこかに売っぱらう事だろうが……それは流石に俺の良心が痛む。
だから写真売って儲けようと思った……んだがなぁ。
「もしかして、最近ユメ先輩にPCを借りたのって――!?」
『あいや、それに関しちゃ別件で使ってる。流石に売り捌くときは足が着かないようにするぜ?』
「そもそも売り捌かないでください!! というかもしかして私達の写真も撮ったりしてないですよね!?」
『流石にねぇよ』
まぁ、チビガキの方はそれこそ俺達くらいの地下まで落とされるレベルの死刑囚共になら多大な需要がありそうなもんだが。
『ま、そこまで言われるなら止めとく。大人しく俺の得意で金を稼ぐさ』
「得意でって……いったい何をする気なんです?」
予め印刷しておいた地図を渡す。
「これは……アビドス砂漠の地下遺跡の場所の地図?」
『ああ、ちょっとばかし地下労働でもしようと思ってな』
地下に送られること十数年。俺の魂は地下にアリ……ってな?
「……危険です」
『あ?』
「ヘイローも無い貴方が地下遺跡に行くだなんて危険すぎます!!」
『はぁ?』
コイツは何を言って居るんだ。未知の場所の探査、それも地下であるのなら俺の右に出る者はそう居ない。あとヘイローってなんだ。
『おいおい待て待て、まずはそのヘイローってヤツの話をしようじゃないか? まずだな、そのヘイローってヤツはなんなんだ?』
「なっ……!? 知らないんですか!?」
『知らねぇよ、自分の常識を世界の常識だと思うんじゃねぇぞ』
「ヘイローに関してはこの都市での常識です! 良いですか! ヘイローと言うのは私たちの頭にあるこの輪っかのことで! これがある人は銃弾くらいじゃ大した傷も付かないんですよ!」
『へぇ~』
なるほど、確かにソレに頼り切りなコイツらにとっちゃそのヘイローが無い俺が危ない場所に行こうとしてたら心配にもなるんだろう。
『まぁ、んなチートが無くても俺なら大丈夫だよ』
「何を根拠にそんなこと――」
『18年』
「……は?」
『18年間、俺はクソ■■■みてぇな顔面の化け物相手に地下を生き残って来た。18年だぞチビガキ、テメェの先輩が親の■■■から出てきた時から今の今まで俺はずぅっと戦って来たんだ』
ああ、思い出すだけで反吐が出る。クソの煮凝りの地下でただひとすらに殺して殺して殺してきた記憶。カミサマとやらが俺にくれたであろうクソなクソギフトのせいで未だに鮮明に思い出せる。
忘れるはずだった記憶も、消されるはずだった記憶も、全部が今この瞬間でさえも鮮明だ。きっと死ぬその瞬間まで
『まぁ、つまりなんだ。心配するだけ無駄って話さ』
「っ!! そうですか!!」
チビガキはそう言って倉庫から出ていく。ちょっとばかし言い過ぎたかと思ったが……まぁ、大丈夫だろ。ガキなんて嫌なことあっても1日もせずに忘れる生き物だ。
んなもん気にするだけ無駄だ。俺は俺のやりたいことをやるとしよう。
朝から細かな調整で感度を上げ、本当にほんの僅かな動きすらもとらえることが出来るようにしたバイオトラッカーを手に取る。ちょっとばかし作動させてみるが今のところ不具合のようなものは見えない。
『っし! 俺は天才だなぁオイ!』
バイオトラッカーの感度の部分を弄ったのは初めてだったが上手くいった。これで地下遺跡に出て来るって言うロボとか相手にも十分使えるだろう。後は俺の頭に埋め込まれたチップと同期させて……よしよし、しっかり同期した。
起動したチップにより視界に浮かび上がったHUDに従い荷物を持つ。特に銃とナイフは念入りにチェックする。
『んじゃあ、行くか』
準備完了。倉庫の扉を開けて外へ出る。
思えば、誰かのために地下に潜ろうだなんて思ったのは初めてだ。こちとら極悪人の囚人なのにらしくねぇこった。
『一応デカガキにも知らせて……アイツ今日は病院だっけか? まぁ書置きで良いか』
スメラギが地下遺跡に出発してから5日が経った。スメラギ本人はと言えば普段から数時間から数週間の長期ミッションに慣れていた為にすこぶる元気に金稼ぎ中であるが、残された方はそうはいかない。
なんせ残された方の片方はつい先日まで遭難していたのだから。
「うぅ、スメラギ君大丈夫かなぁ……」
「止めても行ってしまうくらいですから大丈夫なんじゃないですか? あと前も言いましたがアイツは私達よりも年上ですよ」
本人曰く18年間地下に潜り続けていた大ベテラン。それが本当ならユメがスメラギの事を君付けで呼ぶのはおかしな話だ。
「うーん……でもなんでかスメラギさんよりもスメラギ君の方がしっくりくるんだよねぇ」
「まぁ、確かに見た目は私達とそう変わらない年齢に見えますけど……」
スメラギの顔は若い。体格と身長は明らかに大人のそれであるが肩から上、顔だけで言えば16か17そこらに見える。
ユメにとっては新しい後輩が出来たような気分なのだ。心配にもなる。
「……もしかすると、逃げたのかもしれませんね」
対してホシノはと言えば一応信用したとはいえ好感度はほぼゼロ。スメラギがアビドスではない場所へと行った可能性も考えていた。その思考が別の思考を覆い隠すように彼女の脳内に浮かぶのは仕方がない事であろう。
そんなこんなで少しだけ様子の違う2人がいつもの日常を送る。そんな昼間の最中に校舎へと向かって来る1つのエンジン音を2人は察知した。
またヘルメット団の連中かと銃を持ち校舎から出ようとする2人。しかし、その予想を裏切って現れたのは彼女達の待ち人。
校庭内にバイクに乗って現れたのは5日前と変わらぬ姿のスメラギであった。バイクから降りた彼は校舎から出て来た2人へと気さくに手を振る。
『帰ったぞ』
バイクに積み込んでいたカバンを抱えて2人の元へと歩いて来るスメラギは、よく見れば小さな傷が出来ている。
「おかえりなさい! ビックリしたよ5日も帰ってこないから」
『いやぁ、悪いな。ちょっとばかし良い出会いに恵まれてな? 色々とやってたら5日経ってた』
地下は時間間隔が狂ってヤバいと言いながらスメラギはホシノの方へと顔を向ける。
『どうだよチビガキ、大丈夫だったろ?』
「そう、ですね……」
どこか腑抜けた様子のホシノは、暫くボーっと立って居たかと思えば膝から崩れ落ち、ポロポロと涙を流し始める。
「ホシノちゃん!?」
『チビガキぃっ!?』
そのホシノの様子に仰天したユメとスメラギはホシノに駆け寄る。
小鳥遊ホシノという少女は強い。しかし、年齢相応の心の持ち主でもある。故に時間を置かずに知り合った人間が遭難し死んだかもしれないという状況が直近で起こった出来事で生まれたド級のトラウマを刺激し、じっくりと心が痛んでいたのだ。
その知り合った人間がケロリとした顔で帰ってきたものだから、彼女は安心感やら何やらでホシノはこうして崩れ落ち、泣いているのである。
「うっぐ……えっぐ……」
「あーえっと……あった! ほら、ホシノちゃんハンカチ!」
『あ~~……そうやって泣いてんのは年相応だな、えぇ?』
こんなことを言っているスメラギであるが、ユメがホシノの涙を拭いている最中で優しく赤子をあやすかのように背中をさする。
程なくして、泣き止んだホシノは「泣いてませんから!!」とあからさまな強がりを言って校舎の中へと戻ってしまった。無論、その背中へ煽りを投げかけるのをスメラギは忘れない。
『っぱガキだな……っと、ああそうだそうだ。アレ渡すのを忘れてたな』
「うん? どうしたのスメラギ君」
何かを思い出したスメラギはバイクへと戻り、後ろに積んでいたカバンを抱え上げると、トコトコと着いて来ていたユメへと渡す。
「えっと……なにこれ?」
『現金、確か7000万くらい』
「へー、7000万円……ってえええええええええええええええええええ!?!?!?」
とんだ大金に思わずカバンを投げ上げ驚いてしまったユメは、慌ててカバンをキャッチして中身を確認する。
確かに現金が詰まっている。パッと見ではあるが偽札の類には見えない。
『結構良い値段で戦利品を買ってくれてな? おかげでかなり稼げた』
「ここ、ここここ! こんな大金受け取れな――」
『良いんだ、受け取ってくれ。俺の取り分はもう貰ってる』
スメラギはそう言ってポケットから1つの札束を取り出して見せる。
『これで少しは青春らしいことをする時間と金は出来るだろ? ほら遊園地やら水族館やら……そういう所、せっかくだからチビガキと2人で行って来たらどうだ?』
『俺はそう言うの嫌いだから土産だけで良い』とスメラギは付け加える。
「うーん……分かった、これは受け取るね」
『おう! んじゃあ俺はスクラップ共と■■■■して酷使した装備の整備するから』
「って忘れるところだった! そのバイクはどうしたの?」
『ああ、これか? 戦利品を売った時に向こうの金が足りねぇってんで代わりに貰ったんだよ』
バイクのサドルをポンポンと叩き『カッコいいだろ?』とスメラギは付け足す。
「なるほどぉ、確かにカッコいいね!」
『だろ?』
ユメがバイクの出実に納得したのを確認して、スメラギはバイクを押しながら倉庫へと向かう。
『じゃ、チビガキのフォローよろしくな?』
「うん! 任せて!」
トテトテと音でも着きそうな具合の走り方で校舎に戻るユメを背にしながら、スメラギは自分の寝床へと向かう。
数分後、校舎から7000万円に驚く叫び声が聞こえて来てスメラギは爆笑した。
バイオトラッカー:本来はスリーパーと呼ばれる生物の位置を確認し、アクティブになったスリーパーをマーキングする装備。今回はかなり感度を上げ、地下遺跡に出現するオートマタやドローン相手にも使えるようにした。スナイパーライフル持ちが持ってはいけない()。