アビドスの地下労働者   作:bishop

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第五話

『こことここを繋いで……ああ、これとこれも繋がなきゃか?』

 

 アビドスに来てからなんやかんや1ヶ月くらい経った。俺はと言えばちょこちょこ地下労働して小銭を稼いだり、自分の装備の整備や2人の装備の整備をしたりして過ごしていた。

 

 何とも平凡で素晴らしい毎日。1ヶ月間も人間の死体を見ないで済んだのは初めてだ。あの饐えた匂いをマスク越しにでも嗅ぐのはかなりキツいものがあるからマジでありがたい。

 

『んで、これを閉じて、そんままここを繋いで……っし、一旦完成か』

 

 ようやく完成した。

 

 地下労働の報酬使って集めたパーツで作り上げた自作トリップマイン。壁なり地面なりに貼り付ければ赤外線レーザーを真っ直ぐに発射し、それに何かが引っかかった瞬間に爆発する。

 

 一応敵味方識別装置もオリジナルにはあるが、諸々の事情でコピー品からは外してある。だからマジで誤爆には気を付けなきゃならん。

 

『とはいえこれで戦術の幅は広がるな』

 

 バイオトラッカーにトリップマインはこれで俺の手中に入った。あとはセントリーガンとC-FOAMがあれば完璧。というかC-FOAMに関してはマジで欲しい。スナイパーがバイオトラッカー持つの普通にクソ。

 

 あのランダウンに関してはスナイパーがバイオトラッカー持つのが最適解であっただけで普段は絶対に持たないんだぞオイ。

 

 まぁ、ソロプレイしてる時、まさに今はバイオトラッカー持ってて良かったって思ってるんだけどな。なんせさっき上げたC-FOAMやらセントリーガンに比べてバイオトラッカーを自作するのが一番難しい。

 

 そう考えると、俺がバイオトラッカーを持ってこっちに来ちまったのは幸運なのかもしれない。

 

 さて後片付けをするかねと気合を入れなお――コンコンとドアを叩く音がした。

 

「入るね~スメラギ君」

『それを入りながら言ってちゃァ意味無いと思うぜデカガキ』

 

 出来上がったコピーマインを机の上に置いて、そこら辺に置いておいたタオルで顔を拭っていると倉庫の扉が急に開け放たれる。どうするよこれでもし俺がシコってたりしたら。俺が捕まるのかその場合。

 

「ってあれ? また新しいものが増えてるね」

『ああそれ、触るなよ』

 

 倉庫に入って来たデカガキが興味を示したのはつい先ほど完成させたコピーマイン。万が一作動しようものなら俺は即瀕死になるので触らないようにとだけ注意をしてから経口補水液を飲む。

 

『そりゃあトリップマイン、のコピー品だ。簡単に言えば地雷だよ地雷』

「へぇ、地雷……」

『作る時にケチったから安全装置とか無いぞ、マジで気を付けろよ』

「うぇええ!? それをケチっちゃうくらいならもうちょっとお金を自分で使おうよ!!」

『ちげぇよ、ケチったのは金じゃなくて労力と時間だ。面倒なんだよ安全装置つけるの』

 

 「じゃあなおさらケチっちゃダメだよ!」とデカガキが言う。別にいいだろ俺は事故らないしお前らが事故っても精々骨折くらいだ。そこらの不良で実験したからそこら辺は分かってる。

 

『んなこと置いておこう。そんで、どうしてここに来たんだ? 銃と盾の整備は一昨日したばっかりだろ』

「へ? ……あ! そうだったそうだった。今日はね、スメラギ君に大事なお願いがあるの」

 

 そう言うデカガキの方を見れば、いつになく真剣な表情でこちらを真っ直ぐ見ていた。こりゃ超真剣モードにならなきゃいけない感じか。

 

『なるほど、良いぞ”梔子”、言ってみろ』

「うん、ありがとう、それでお願いって言うのは私がここから居なくなった後の事なんだけど……」

 

 は?? 梔子がここから居なくなるだぁ? このアビドスという場所が好きなコイツが、だと?

 

 ……ふといつの間にやら2人の内どっちかが勝手に置いていたカレンダーに目をやる。ああ、なるほどな。

 

卒業か』

「うん」

 

 まだ数ヶ月、されど数ヶ月。仮にも梔子は一組織のトップだなのだからこれくらいの時期から諸々の引継ぎが必要なのは納得できる。

 

『だがどうして俺なんだ?』

「それは――うわぁっ! っとと……危ないなぁもう」

 

 そこらにあったパイプ椅子を2つ広げて片方を梔子へと投げ渡し、もう片方に俺が座る。危ないとか言いながら危なげなくキャッチできるんだからこの世界のガキはやっぱり頭おかしい。

 

「よいしょっと……えっと、どうしてスメラギ君なのか、だっけ?」

『ああそうさ。どうして部外者の俺なんだよ、ええ?』

 

 あくまで居候。いつだってここから出ていけるようなロクデナシが俺だ。学園が政府のような役割を果たすこの世界で、その学園の情報を俺のような奴に伝えるのはガチでマズいはずだ。

 

 なのになんで俺なんかに伝えようとするんだ。

 

「それは、スメラギ君が信じられるからだよ」

『……ハ。ハハハハ……ハハハハハハハハハハハ!!』

 

 真っ直ぐな目でそんなことを言ってのける梔子に思わず笑ってしまう。あークソ、キレるわ。

 

『ハハハ! ……はぁ。世間知らずのガキがバカ言ってんじゃねぇよ。言ってなかったな? 俺は死刑囚なんだぜ?』

『国家転覆に婦女暴行、そういやテロもやったな? 人だって殺したさ、何人もな』

『そんなロクデナシが俺だ、そんな奴を信じれるだって? 抜かせよクソガキ。人を見る目も無い癖に他人に頼ろうとしてんじゃねぇぞ』

 

 パイプ椅子を蹴り飛ばして梔子に掴みかかり、溢れ出した言葉を自制せずに全て吐き出す。かなりの力を入れているがこいつらにとっちゃマッサージみたいなもんなんだろう、ケロりとした顔をしている。

 

 だから言葉を自重しなかった。

 

「うん、信じられるよ」

 

 それだというのに、梔子は平然とケロリといつものように言ってのける。あーもうクソクソクソクソ! クソクソのクソがよ、俺の負けだ。

 

 梔子の肩から手を離し、立て直したパイプ椅子にドカリと座る。

 

『……あーそうかよ! ったく敵わねぇ……良いさ託されてやるよ。恩は返すさ俺みたいなクズでもな!!』

 

 

 


 

 

 

『あ~~~~、生徒会長サマは無茶を言いなさる』

 

 アビドスの街をバイクで走りながら俺はポツリとそんなことを呟く。あのガキ天然かそれとも意図的か解らんが大分面倒なタイプだ。

 

『クソクソクソクソ……あーイラつくぜマジで、ええ? ガキかよ俺は。そんなに誰かに信じてもらえるのが嬉しいかよ?』

 

 近くの廃墟のガラスに映る気色悪い笑顔を顔に貼り付けた男を見てウゲーとなる。キッショイなマジで。

 

 そんなこんなで走り続けてしばらく。到着したのはブラックマーケット――この都市で最も自由な場所、とでも言うべき場所だ。

 

 ここでは大抵の物が手に入る。お陰様でトリップマインの複製品を作れたし、他にも銃の予備パーツやらなんやらも買わせて貰ってる。マジで今のところ欲しいものは大半手に入ってるからスゲェよな。

 

『さて、目当ての物はあるかねっと』

 

 バイクを停め、鍵を抜く。今日の目当ての品はC-FOAMの原材料。

 

 C-FOAMってのはトリモチみたいなモンで、扉の補強から敵の拘束にまで使える地下での必需品だ。

 

 コイツがあるとこの世界での戦法が広がる。なにせ頭に輪っか浮かべた生徒達は窒息と毒には弱いって割れてるからな。トリップマイン何個も使って殺すよりはC-FOAM一発で殺した方が楽だし確実で良い。

 

 あと、こっちに来てから校舎を奪おうとするバカとの防衛戦が多いから遅延に使えるかつ施設にあまりダメージを与えないモンがやっぱり欲しい。

 

 てなわけで、俺はC-FOAMの素材を探しに来ている訳だ。

 

『空気に触れると膨らみ、粘度が高い物質……あんのかなそんなもん』

 

 まぁ、気長に探す――悲鳴?

 

 距離は大体500mかそこら。多分口に布とか噛まされてる。十中八九事件性がある。

 

『……行くかァ!』

 

 C-FOAMの素材探しなんざ後だ。生憎今の俺は気分が悪い。合法的にボコせる相手が居るってんなら喜んで向かう。

 

 やっぱり暴力。暴力でのストレス発散が一番良い。

 

 

 


 

 

 

「へへっ、悪いな嬢ちゃん。まぁ運が悪かったって諦めてくれや」

「んーー!!」

 

 ブラックマーケットの路地裏。手足を縛られ視界は隠され口に布を嚙まされた少女が悪い大人達によって誘拐されていた。

 

 本当に、運が無かったのだろう。偶然たまたまブラックマーケットの近くを通りがかり、偶然たまたま人攫いに目を付けられた。このキヴォトスという都市のブラックマーケットにおいてはそこそこありふれた話だ。

 

「にしても結構な上物だな、こりゃあ報酬も期待できるってもんだ」

「ああ、何なら味見もさせてもらえるかもしれねぇぜ?」

「そりゃあ良いなぁ、処女を好きにできるなんて最高だぜ」

 

 ただまぁ、運が無かったのは厳密には少女では無く悪い大人達の方だろう。なんせ――

 

「俺は金さえもらえればお気に入りのびょぎょら――!?」

 

 銃声

 

「おいおい、どうし――」

 

 再度の銃声

 

「んーーーー!?」

『はい、2人』

 

 これから全員、死ぬのだから。

 

 大口径のホローポイント弾によって1人は顎の身を残して頭が破裂し、1人はオイルを撒き散らしながら頭が丸々消し飛んだ。

 

 下手人は当然スメラギだ。彼は全く音を立てず、闇に身を潜めて忍び寄っていたのだ。

 

 瞬きすら許さぬ速射で2人仕留めたスメラギはそのままスナイパーライフルからナイフへと持ち替えて吶喊する。

 

 気付かれていないのなら、ナイフのみの奇襲で10体ほどの化け物を葬ることが出来るのがスメラギだ。相手が2桁にも満たないのなら、最初にスナイパーライフルを撃って気付かれたところで何も問題は無い。

 

「クソ! なんん……」

 

 1人、喉を斬り裂かれ声を奪われる。

 

「ボスに連絡を入れろ! 早く!!」

「クソクソクソ! どこのどいつだ!!」

 

 1人、脊椎を貫かれ即死する。

 

 ようやく状況を把握できた1体と1匹が連絡と攻撃を行おうとする。

 

 だが遅い。

 

『イヤーーーーーーーッ!!』

「「っ!?」」

 

 そう、あからさまに姿を晒しながらのシャウトによる威嚇。単純ながら効果はあった。

 

 一瞬の動揺、その僅かな静止の時間に連絡を行おうとした方は首を引き千切られ、攻撃を行おうとした1匹は目を抉り取られた挙句耳からナイフを刺しこまれ脳をかき混ぜられる。

 

 ビクリと獲物の体が震えて、その後に倒れ伏したのを確認してスメラギはナイフをしまう。

 

 呆気ないがこれで終わりだ。最後に喉を引き裂かれてなおも生きていた奴の頭を踏みつぶしながら、今も拘束されたまま震えている少女の元へと彼は歩く。その体には返り血すら殆ど浴びていない。

 

『あー……いよっこらせと』

「んん!?」

 

 スメラギは一瞬少女の拘束を解こうとする素振りを見せたが、思い直したのかそのままの状態で抱え上げる。そして、新鮮な肉塊(命だったモノ)が溢れる路地裏から彼女を運び出す。

 

『えっと、まぁここらで良いか』

「んーーーーーー……!! ぷはぁっ!!」

 

 そして、少女の拘束をナイフを使ってパパっと外す。潤んだ目がスメラギを見る。

 

『もう大丈夫だぞ、お前を攫ったわるーいヤツは俺が懲らしめてやった』

「ほ、本当……?」

 

 可愛らしい声だった。口調からしても恐らく見た目と差異はそこまで無い年齢――中学生くらいだろうかとスメラギは推測しつつ、安心させるように少女を撫でる。

 

『ああ、全員今頃泣いて謝ってるだろうさ……そんで、お前はどこから来たんだ?』

「ええと……あ、スマートフォンが……ごめんなさい、分からないです」

『分かんねぇか……まぁ、警察にでも連れていくかね』

 

 確かここからバイクでしばらく走らせたところにこの都市における警察の施設があったはずだ。ブラックマーケットにそこそこ近い位置にあるのは色んな意味でどうなのだろうかとスメラギはふと思う。

 

『んじゃあ、俺がお前を警察の所まで連れて行ってやる。それでいいか?』

「はい……」

『うし、じゃあ行くぞ。歩けるか?』

「歩けます……」

 

 『なら良い』と言ってスメラギは少女の手を引いて自分のバイクの所まで連れて行く。ついでに道中で自分がアビドス高校という場所に居ると話の流れでウッカリ口を滑らせた。

 

 だいたい5分ほど歩いて、停めていたバイクの元へ到着。そのままバイクに少女を乗せ、彼女の後ろから覆いかぶさるようにして彼もバイクに乗る。

 

 2人乗りだがまぁ俺なら大丈夫だろうし、後ろに乗せるよりは安全だろう。と言う根拠のない自信を持ちながらバイクは出発した。なお、ノーヘルである。

 

 

 

 程なくして、2人はヴァルキューレ警察学校の施設に到着した。バイクを停めて、施設の中に少女の手を引いて入り受付に事情を説明して少女を引き渡す。

 

「私、黒見セリカって言います! 本当にありがとうございました!」

『気にするな、暇潰しだよ』

 

 ぺこりと頭を下げるセリカにそう返して施設を出た。そしてバイクのエンジンをかけなおして地面を蹴ってアクセルを捻り出発する。

 

 それにしても、やっぱりどの世界でもケモミミって需要有るんだな、とそんなことをスメラギは考えつつ、軽快なエンジンの音の中で一連の流れを思い返す。

 

『……ええ? 随分と丸くなったじゃねぇか死刑囚さんよ。ガキに絆されたか?』

 

 彼の持つナイフには、黒いオイルと変色し始めた血液が未だにこびりついている。




C-FOAM:トリモチ。囚人たちの生命線その1。危険な個体をこれで固めてタコ殴りにしたり扉を固めて地雷とセットにして遅延戦術したりと汎用性は高い。スメラギは対生徒用の殺しの武器としての性能に目を付けた。
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