アビドスの地下労働者   作:bishop

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初投稿やね


第八話

「おじゃましまーす!!」

『ドアを開けてから言うんじゃないぞデカガキ』

 

 バチコーンと開け放たれた倉庫の扉。シコシコと義足の手入れをしていたスメラギは無遠慮に入って来たユメに対して文句を垂れ流す。

 

『ったく……で、今日はどうしたんだ。あのヤケに高性能な盾の整備か? それともまたトチってハンドガン壊したか?』

「違うよ! 今日は嬉しい事があったからお話に来たの! ……でもハンドガンの修理はして欲しいかな?」

 

 そんなことを言いながらユメはスメラギの隣に腰を下ろす。そして、スメラギの足の切断面を見て少しだけ表情を歪める。

 

『……気持ちが悪いだろ? 片足の兵隊さんって奴さ』

「いや、気持ち悪いだなんて思わないよ。私達の為に走り回ってくれてるスメラギ君の足だもん」

『あー……ははっ、お前マジで卒業したら口には気を付けろよ。見知った顔が一面を飾るのは見たくない』

 

 この人誑しがよ、とスメラギは笑う。とっくのとうに懐柔された死刑囚は本気でこの能天気な少女の行く末を案じていた。

 

 なにせ、彼は――

 

『ま、良いや。そんで、良い話ってのはなんだ?』

「それは~~……なんと! 入学希望者が来てくれたの! イェイェイ!!」

『そりゃあ良いな、パーティーでも開くか? マリファナもコカインもねぇがな』

 

 自身の学校に新たな入学者が来るかもしれないという事にユメは笑顔いっぱいだ。無論、そんなユメに絆されているスメラギはパーティーを開いてはどうかと提案する。もっとも、彼の考えるパーティーは少々おかしいようだが。

 

「パーティー! それも良いかもね!」

『そうだろうさ。折角だしその入学希望者も呼んでやればいい。超早めの入学式みたいなもんさ……お前は見れないだろ、その子の入学式』

 

 シコシコと義足の整備を続けながらスメラギは言う。ユメは3年生だ。入学式の前にこの学校を卒業することになる。4月の初めなんてのは誰だってドタバタだ。ユメの進路なんてスメラギは知ったこっちゃないが、彼女が入学式を見れないだろうという事は分かる。

 

『それにここは良い学校だってそのパーティーで騙くらかしちまえばそいつが入学する確率だって上がるだろ?』

「確かに……って!! 騙さなくたってアビドスは良い学校だよ!!」

『ハハハハハッ!! それもそうか!!』

 

 義足の整備を終えたスメラギは馬鹿笑いしながら半ばで切断された自身の足に無骨な機械を装着する。非常に単純な作りのその足は確実な動作、そしてスメラギが地下に居た間に一度も壊れたことは無いほどには信頼性もある。

 

 そんな最高の一品の整備を終えたスメラギは工具を持ち換えてユメに工具を持っていない方の手を差し出す。

 

『ほれ、ハンドガン寄越せ。チョチョイッと直してやる』

「あ、うん。ありがとう」

 

 ユメの相棒を受け取ったスメラギは丁寧に銃をバラし、ブラシで汚れを落としていく。粗雑で乱雑、しかし繊細に行われる地下労働の現場で叩き上げられたスメラギの整備はまさに神業。

 

 文字通りアッと言う間に再組み立てまで終わってしまった。ものの20秒で終わったものだからこの光景を数度見て来たユメもやはり口をあんぐりと開けている。

 

『終わったぞ。パーツの損耗も特に無かったぞ、丁寧に扱ってるな? 良い事だ』

「……スメラギ君って本当に作業が早いよね、瞬きしたらほぼ終わってるんだもん」

『こんなもんは慣れだぜ、慣れ。同じ作業ずっとやれば勝手に手が慣れるんだよ、■■■■と一緒だ一緒』

 

 そう言って卑猥なハンドサインをしながらスメラギは笑う。無論そのようなスラングもハンドサインも知らないユメは首を傾げている。

 

『ま、ひとすら経験積めば良いってこった。暇な時に自分の銃でやってみな? 壊れたら直してやるから』

「うーん、それじゃあちょっと練習してみようかな?」

『そうすりゃ良いさ、出来て困る事じゃねぇ』

 

 スメラギはケタケタと笑う。この会話が楽しいのだろう。

 

「あれ」

 

 そんなスメラギの目を見てユメは違和感を覚える。本当に小さな違和感だが、見逃してはいけないような気がする違和感。

 

『……ん、どうしたんだ?』

 

 故にユメはじぃーっとスメラギの目を見る。何かあるはずなのだ、見逃してはならないナニカが――

 

「むむむむ……ひぃん!?」

『はい時間切れ、残念だがここから先は有料コンテンツ。支払いはコカインでも良いぜ』

 

 あまりにもユメが自分の目を凝視するものだから揶揄いたくなったスメラギが近場にあったタオルをユメの顔に投げつけ、一瞬視界を遮る。

 

『まぁそんなに見たいなら見れば良いさ』

「……えあ、え?」

 

 そしてタオルがユメの顔から滑り落ちた時には、スメラギの手の平には1つの眼球が乗せられていた。その光景の理解を脳が拒んだことにより、ユメは綺麗にフリーズする。Yume-Kutinashi.exeは応答していません。

 

『ハハハハハッハハッ!!!! 心配すんな、こりゃグミだよグミ。ほれ、食べてみな』

「うぇ!? え、グミ???? あ、本当だ美味しい????!!??」

『ハハハッ!』

 

 未だに混乱しながらも口に押し込まれたグミを咀嚼するユメ。その愉快な光景を見てスメラギは膝を叩き笑う。

 

 

 

 そんなこんなで、そこそこの時間を倉庫で過ごしたユメは生徒会の仕事があるからと言って倉庫から出て行った。最後にパーティーについて考えておくねと言い残して。

 

『ふぅ……ったく、うまいこと誤魔化せて良かった。っぱりカラコンとかしておくべきかね?』

《特段写真などは無いから大丈夫と言って居たのは貴方では無いですか》

『そうだと思ってたんだがなぁ、俺のイケメンフェイスにデカガキがあそこまで首ったけだったとは思わんかったから仕方が無いだろう?』

《はぁ……》

 

 綺麗な青色の色彩をしていたスメラギの瞳は、今や鮮やかなマゼンタに変色している。これは彼の言う脳内AIちゃんが彼の体に住み着いた影響でこうなって居るのであり、別に彼が†闇の力†に目覚めたとか言う訳では無い。

 

 ユメが去り、静かになった倉庫の中。暇になったと寝転んだスメラギは、少しでも休息を取ろうと目を瞑り……先程と比べて小さな足音が倉庫に近付いてきていることに気が付いた。

 

『はぁ……今日は来客が多いな』

 

 目を開き起き上がったスメラギは、倉庫の扉が開かれるのを見る。倉庫へと入って来たホシノの表情は、なにやら不安を感じているように彼には見えた。

 

『よぉ、チビガキ。銃の整備って訳じゃなさそうだな?』

「ッ……はい」

『俺はスクールカウンセラーなんかじゃないんだが……まぁ、話くらいは聞いてやろう』

 

 そう言って、スメラギはホシノに話すように促した。




義足:単純明快な作りの義足。激しい戦闘行動にも耐えられるのはその単純だからだろうか。
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