エネイブルーアーカイブ 作:イチカの開眼好き好き侍
空から女の子が降ってくると思うか……?よくある質問かもしれないが、大体の女はこう答えるだろう。『そんなの日常茶飯事だろ?』と。
いや違う、これはふざけてるわけじゃない。実際俺のいるところ、つまりは学園都市キヴォトスにおいては割とマジで
今日もどこかでドンパチドンパチ、鉄砲手榴弾バズーカミサイル、果ては戦車までも跳梁跋扈して、当たり前のように撃ちあいを繰り広げている。
それで最初の質問につながってくるわけだが、空から女の子が降ってくる。まあつまりそれは爆弾やらなんやらで吹っ飛ばされた女が重力の働きのおかげで降ってくるわけだ。いわゆる物語の始まりのようなドラマチックなことは何もない。大抵気絶してるか即起きてスカート翻して撃ちにいくし。
「ふざけんなこらぁ~~~!!!」
「俺にとったら全部が全部爆弾なんだよ……」
げんなりとした俺の独り言が銃声にかき消される。俺の足元にゴロゴロ転がってきた黒い制服のスケバンがアサルトライフルを両手持ちして戦線に戻っていく。その先には拳銃構えるフルフェイスヘルメットの集団がいるし、流れ弾は飛んでくるしで最悪だ。
大股を開けて撃ちあい、制服が破れてもお構いなしに抗争を続ける両者に俺はあきれた目を向けようとするが、スカートや制服の下から白やストライプのサムシングが見えたような見えないような気がしたところでバッと視線をそらした。
勘弁してくれ、体質上俺はそういうのは断固としてNGなんだよ。お前らはヘイローっつー頭に浮かんだピカピカ蛍光灯が銃弾受けても無傷にしてくれるかもしれんが、俺は銃弾一発受けたらオシャカ。何でお前らの服には神秘は適応されねぇんだっつの。
防弾繊維でできた黒い男子用制服の袖にアサルトライフルの弾がかすってカフスボタンが飛ぶ。俺は渋々制服のブレザーに手を突っ込んで脇のホルスターから白銀の拳銃を抜き取った。そしてそのまま物陰に身を隠して様子を伺う。
「何してるんすか、キンジ」
「……イチカか。見ての通りだが」
「キンジなら様子伺うより突っ込んで弾ばらまいた方が早く終わるっすよ。それに、腕章どこやったんすか」
「あのなあ、お前らヘイロー持ちと一緒にするなよ。俺は一発当たれば死ぬかもしれないんだぞ。腕章は邪魔だから持ってきてない」
「またまたぁ。キンジが模擬戦含めても弾もらったところ見たことないっす。心配するだけ無駄ってみんな思ってるんすよ」
これだよ。後ろからぬっとしゃがんだ俺の肩に手を置くスタイルがいい糸目の女……正義実現委員会所属、仲正イチカに腕を払いながら苦言を呈すると帰ってくるそれ。確かにこいつの言うことは事実だ、俺は半ば無理やりのような形で正義実現委員会に入れられてからまともに弾をもらったことはない。
だが、それにはからくりがある。俺のひっじょ~~~にはた迷惑かつこっ恥ずかしい体質のせいだ、あっちの俺が無茶苦茶やりやがるからこうやっていつもの俺に迷惑がかかんだ。
「だいたい、何でここにいるんだお前。ここお前のパトロール域じゃないだろが」
「それはこっちのセリフっす。キンジこそどうしてここにいるんすか。ここはいまマシロの担当のはずっす。マシロが今向こうでポジションとってるからって私が救援にきたんすよ」
「そうか、じゃあお前に任せるぞ。俺もそのマシロに呼ばれてな。お前がいるなら俺いらんだろ」
「ちょっ!?キンジには言われたくないっす!来た以上仕事するっす!」
「おっ!?やめろお前ヘッドロックするんじゃねえ!」
俺がつれない態度をとっているのをどう思ったのか知らないがイチカがいきなり俺の頭をぐわしと腕で挟んでヘッドロックをかけてきた。なんでトリニティのお嬢様の一人であるこいつがプロレス技なんぞを知っているのかはどうでもいいが、これはまずい!
俺が抵抗しようと両手で握っていた拳銃から片腕を離し離した腕で奴の腕をつかんでロックを解こうと試みるがイチカの野郎、離すどころか余計に力を込めてきやがる。
むんにゅり、と俺の側頭部に伝わる肉毬の感触と走ってきたらしいイチカから香るほんのりとした甘いシトラスの匂い……まずい、ツーアウトだ。なりかけてる……さらに抵抗を続ける俺が面白くないのかイチカはさらに力を籠める。側頭部に伝わってた柔らかさが頬までも……スリーアウトだっ……!!!
ドクッと俺の真芯、中央から熱い熱い血流が全身を巡っていく。脳みそが沸騰するように冴えわたり、神経がとがっていく。ふぅ、とため息交じりに息を吐きイチカの手をやさしくタップする。ああ、なってしまった。なってしまったなあ……ヒステリアモードに。
「悪い子だ……こういう風にしたかったのかな?イチカは?」
「ふふ……さあ?キンジがいつまでもうじうじしてるから喝をいれてやっただけっす。さ、仕事仕事。正義実現のお時間っす」
「しょうがない。マシロを待たせておくのもかわいそうだ。さっと撫でてやろう」
ポケットの中で支援狙撃の許可を求める後輩のマシロのモールス信号が震えてうるさい。教室に置いてきたはずなのに、いつの間にか俺の正義実現委員会の腕章をイチカのやつが袖に通してくる。それをしょうがなく安全ピンで固定して散歩に行くような気軽さで俺はそのままヘルメット団とスケバンが戦争を続けている戦地へ踏み出した。
「あー、正義実現委員会だ。ここら辺はトリニティの敷地、許可のない発砲は厳禁ってことになってる。大人しくお縄についてくれ」
「この人言わなかったっすけど、すでに全方向で包囲してるっす。なので抵抗しないほうが痛くなくてお得っすよ~」
「なんだお前ら!こっちはナワバリ侵されて気がたってんだよ!トリニティのお嬢様どもが粋がってたらハチの巣になんぞ」
「おお、怖い怖いっす。キンジ、相手は拒否するみたいなんでさささーっと行きましょう。頼むっす」
「はいはい。人使いが荒いね」
相手のヘルメット団やスケバンたちはなぜか三つ巴という形ではなく協力して俺たちに当たるらしい。戦力の計算が実に上手で涙が出そうだ。まあ、もういい。なってしまったものはしょうがないし、悪い子のイチカにお尻ぺんぺん程度の軽いお仕置きも必要だ。すぐに終わらせよう。
抜き打ち、だらんと下に下げていたシルバーの拳銃ベレッタM92Fを素早く構えて4発ほど撃つ。フルメタルジャケットの弾丸は亜音速で飛び、ビシッビシッビシッ!と前で構えていた悪い子ちゃんたちの銃のトリガー部分に直撃して破損させる。これで発砲不可能だ。
腕を抑えて後ろにたたらを踏んだ悪い子ちゃんたちの間を縫って滑るように前進する。後ろじゃせっかく俺が無傷で無力化したのに容赦ないイチカのアサルトライフルが火を噴いている。かわいそうに。
「こっ、こいつってまさかっ!?」
「ひ、ひるむな!弾幕を張れ!ヘイローがないんだから突っ込んで来れないはず!」
アサルトライフル、サブマシンガン、拳銃、スナイパーライフルが俺に向かって浴びせられる。だが、俺はそれをもらわない。一発たりとも、かすらない。
「な、なんで!これだけうちこんでるのに!」
「き、機関銃!はやくはやく!」
避ける、とは違う。俺は今向けられた銃口の数、向き、銃弾が通る位置を瞬時に把握してそれらが重ならない位置……つまりは攻撃が当たらない位置にあらかじめ体を潜り込ませることで銃弾を無視している。うちの一族に伝わる古い技術の一つで名前は『
おっと、と言いながら向かってきた弾丸をいなしながらベレッタで発砲を続ける。俺が撃つたびにこちらに向かっている銃口の数が減る。同じようにトリガーを破壊して発砲不可能にした銃が増えていく。
ずぅん、と出てきた機関銃に思わず苦笑いが漏れる。ヘイローがないただの男子学生相手にこんな大仰なものを持ち出してくるのか。と左手でベレッタを持ったまま右手を腰の後ろに回して、バスンッ!と早撃ちで機関銃の銃口に弾を叩き込んでやった。
発砲するより前に銃口から弾丸を届けられた重機関銃はその機関部がオシャカになってしまいトリガーを引いても何も吐き出さない。今のは相手に銃を見せない神速の早撃ち『
そしてそれらをやり遂げた立役者は……砂漠の鷲、大口径マグナム拳銃デザートイーグル50AE。右手にそれを持った俺は2丁拳銃でバカスカ弾を撃ちまくる。ただ、心理上悪い子とはいえ女の子に弾丸なんか当てたくないのであくまで銃のみを狙う。たとえ痛いだけで済んでも、ね。
「や、やっぱりこいつ……
「いかにも。さ、そんなものは君にはいらない。ゆっくりそこで座っているといい」
「ひゃ、ひゃぅっ……」
壊れたアサルトライフルを握り締めてカタカタと震えているヘルメットの彼女からするっとアサルトライフルを奪って地面に捨て、腰をとり合気道の要領で相手の力を利用しつつワルツを踊るように回転してからストっと彼女をベンチに座らせる。くいっと顎をあげて見つめてあげるとぶんぶんと赤べこのように首を上下に振ってくれる、いい子だ。
「すけこまし」
「君もされたいのかい?イチカ」
「今はお断りっす。もうその二面性がわかんないっすよ。戦う時だけそうなっちゃって」
「はは、でもね。今俺をそうさせてるのは君だよ。お望み通りかな?」
「いつものとそれが半分ずつになればぴったりなんすけどね~」
「それはどうしようもないな。なにせ……どっちも俺だからね」
ぽけ~~とヘイローを明滅させているヘルメットのこの子がどうやら最後だったらしい。周りを見渡してみるとおでこに赤いあざがついたスケバンや全身に撃たれた跡があるヘルメット団の構成員などせっかく武器を壊して無力化したのに容赦なくコテンパンにされてて胸が痛むね。
やれやれ、と肩をすくめつつぞろぞろとやってきた正義実現委員会の後処理係……入部したての後輩の女子たちが、まだまだ着慣れない黒いセーラー服をきてぴよぴよとやってくる。そのうち何人かに感謝を込めて手を振ると彼女たちは髪に隠されて目元は見えないものの頬を赤らめて作業に移ってくれる。
「イチカ先輩、キンジ先輩、援護ありがとうございました」
「マシロか。気にしなくていいよ。ちょうど暇だったからね」
「さぼってたんすよね~キンジは。んじゃー、後処理は任せてさっさと戻って報告書っす」
今日は厄日だな……確かにまあ、さぼってたさ。正義実現委員会に入ったのも家の……もっと言えばご先祖様の方針ってだけで俺自身は正義……いわゆる義については正直消極的な方だ。
だけど、後輩に助けてくださいって言われてそれを看過するほどに冷めているわけでもない。いつもの俺なら文句たらたらだろうけど、今の俺は極端に女性に弱いから。
ヒステリア・サヴァン・シンドローム……HSSもしくはヒステリアモードなんて俺が勝手に呼んでる特異体質だ。小難しい話を差っ引いて事実だけを話すと……性的に興奮すると脳みそをはじめとして神経系がいつもの30倍まで強化される特異体質。
もともとは男が子孫を残すための本能が異常発達したものなんて言われるけど……まあ簡単に言えば女に興奮して女を守るために超強化されるスーパーマン体質ってところだ。この状態の俺は女に頼まれれば断れないし、女を守りたくなるし、女の願いはなんだってかなえてやりたくなる。
子孫繁栄のための能力なので、女に好かれるような甘い口調で女を本能的に擽る仕草をする気障な男になるし、この状態が解けてもその記憶は残る。だから普段の俺は徹底して女のいない方向に行くし女とは関わり合いになりたくないからぞんざいに扱う。女が9割を占めるキヴォトスじゃあ無駄な努力かもしれんが。
だんだんと真芯の熱が冷めてきて、いつもの俺が戻ってくる。同時にあらがい難い羞恥の感情が押し寄せてきてしまったベレッタを頭に突き付けて引き金を引きたくなった。な、な、なにが『きみもされたいのかい?』だ!サブイボがでる!
「ほらっ!キンジ!早く来ないとツルギ先輩に怒られるっすよ~!」
「あの人は別に怒らねえだろ……どっちかっつーとハスミ先輩……あ」
「あとで言いつけておきますね、キンジ先輩」
自らの通う学園の階段をのぼりながら俺はがっくりと肩を落とす。頼りになるけどいまいち掴みづらい糸目の相棒と物静かな後輩に前後で挟まれて、もうどうしようもない。
さっきヘルメット団が口にした不可能を可能にする男なんてあだ名はまあ……少し気に入っている。そりゃ撃たれた銃弾でお手玉みたいなことしてりゃそんな名前もつくか。もしも、俺が主人公でさっきみたいな空からヒロインが降ってくる……そんな話はないか。
俺がやるのはドンパチで、不本意だけど守らなきゃならないやつらがいる。それでいて俺も学生で青春ってやつをしてる。ごちゃ混ぜな物語に名前を付けるとしたら……。
―――――――――
メインヒロインはイチカ、はっきりわかんだね。ちなみにただただ最後の行を書きたかっただけなので盛大なダジャレの前振りでしかない。
その、こう……イチカちゃんかわいすぎひんかと思うわけです。次の話はまあ出来次第投降というわけで。それでは