エネイブルーアーカイブ 作:イチカの開眼好き好き侍
「……今俺は正義実現委員会じゃないんだが?なんだったらエデン条約後もティーパーティーにいる勢いだぞ」
「まあそう言わずに。相棒のお願いっす。あと逃がさないので覚悟しとくっす」
「俺の安眠返せよ」
「ハグしてあげるっすから」
「余計いらねえぶはっ!?」
銃底による一撃をみぞおちに受けて崩れ落ちる俺の首根っこをもってずりずりと引きずるやつ……誰あろう我が相棒の仲正イチカである。ナギサからしばらくの休暇を言い渡された俺はこれ幸いと惰眠を貪るつもりで家に帰ったら、家の中にこいつがいた。
まあ家の中にいるのはいい。相棒としてどうたらっつって合いカギ捥ぎ取っていったからな。いることに対してはなんも不思議に思わんのだが……こいつ俺が休もうとしてたら夜パトロールに無理やり同行させやがった。
ふざけるなよナギサと一緒にいて無駄に頭使って疲れてるんだ俺は。熱いヒノキの湯舟にしっかり浸かって火照った体を縁側で寝転んで冷ました後に布団に入ってゆっくり眠るつもりだったんだよ。それをなんだ、夜警に付き合えだと?お断りだね!
「にひひ、いっしょにパトロールにいくっすよ、ほら」
「風呂が冷めるだろうが……!」
「あ、私が先にいただいたっす。何でか沸いてたんで」
「ふざけんな一番風呂返せや!」
「ついでに泊まってくんで布団もう一つ準備してくださいっす。一緒に寝たいならそれはそれで」
「部屋は分けるぞ当たり前だろ。男女7つにして同衾せずだ」
「なんでそこは真顔なんすか……」
肩に銃をかけ、両手を後ろで緩く組んだイチカが振り向いて悪戯っぽく笑う。そういえばここ2週間くらいこいつにあってなかったなぁ。キヴォトスの授業はブルーレイによる映像授業だから教室に行かなくていいし、俺はティーパーティーにずっといたから正義実現委員会にはご無沙汰だ。
「いやー久しぶりにキンジの顔が見れてよかったっす。マシロも寂しそうなんでもっと顔だすっす」
「こんな顔見ても面白くはないだろ。エデン条約が終わったら顔見せるようにはするが、今は無理だ」
「真面目っすね。普段はやる気ないのに」
「悪かったな。ただ、危ないやつは心配してやるのが人情だ。まあ俺がティーパーティーに完全に引き抜かれたら元気にしてろよ」
「……笑えない冗談っす。というかキンジの知り合いのゲヘナテロリストが攻めてきたんだけどどうなってるんすか。美食研究会とかいうやつ」
冗談ですめばいいんだがな。ナギサの状態は正直言えば相当悪い。いつ自分が狙われるのかわかない恐怖と何も信じられない不安。そして誰も助けず向けてくるのは敵意ばかり。そして先生も自分の側にはつかない潜在的な敵として成った。そのナギサがギリギリ信頼できる俺を手放すか?俺はそうは思わんね。
けど、あいつに届く言葉はもうない。無理やり離して寝かせたとしても待っているのはエデン条約の失敗だ。あいつが自分を完全に取り戻すにはエデン条約が成功するしかない。そういやちょっと前の夜騒がしかったなーと思ってたけどあいつらが攻めてきたのか。
「なんか持ってかれたのか?」
「貴重な魚らしいっす」
「なるほどつまりフウカが犠牲になるのか。すまんなフウカ、助けられなくて……」
「なんかわからないけどその人が不憫なのは理解したっす」
ほんとフウカは不憫だよなあ可哀そうに、となんだがどこ方面を心配してるのかわからないが……まあそれはそれでおいておこう。ああそうそう、補習授業部について何だが……いよいよナギサが暴走に近づいてきたみたいでな、ついには直接的な妨害に乗り出した。
それは、テストを受ける場所をゲヘナ内部に指定すること。さすがの俺もそれに関してはナギサに苦言を呈したが、もう俺の言葉もどうやら届かないらしかった。これに関してはどう頑張ってもナギサをフォローするのは無理だな。
すでにナギサの中では補習授業部は悪で、排除しなければならない存在になってしまった。まあ俺も正直、何もないのにブービートラップなんかを仕掛ける奴がいる部活はどうなのかとは思うしな。制御する先生も気づかなかったのは脱帽だ。
ぶーっ、ぶーっと俺のスマホが鳴った。取り出してみると……ナギサからだ。文面はなく、場所の指示だけ。戻って来いってことか。しょうがねえな。あいつのセーフハウスがいくつあるかは知らんが場所は学園内の……屋根裏?変なところにいるな―あいつ。
「悪い、呼び出しかかった。泊まるんなら勝手に泊まってくれ。んじゃな」
「えっ!?ちょっ!キンジ!」
身を翻してひらひらとイチカに手を振る。ついてくるって言いそうだがまあイチカも一応は次期委員長、仕事とそうじゃないものの区別はついているだろう。後ろから小さなため息が聞こえてきて少し申し訳なくなったが、俺はそのままナギサの指示した場所に向かうのだった。
「なんだ、こりゃ」
指定場所に近づいていくとおかしいことが目についた。警備の生徒が無力化されている。全員を確認してとりあえずは無事なのに一息ついたが、ナギサが心配になった俺はメールで救護騎士団にSOSを送ってからナギサのいる場所へ向かった。
そうしてすぐさま屋根裏部屋につくと、話し声が漏れていた。そっと中を伺うと驚いて音をたてそうになった体に慌てて自制を利かせる。何でここにいるんだ、浦和ハナコ、白洲アズサ……!クソ、白洲アズサがナギサに銃を突き付けてる。うかつには動けないぞ……!ヒス化する薬を噛みしめながら様子を伺う。
「やりすぎだとは思わなかったのですか?」
「……思っていますよ。最初から。ヒフミさんに対し申し訳がなかったと。あなたたちにもそう思っていました。さっきまでは」
「冷静ですね♡誰も助けになんかきませんのに。あなたが排除したせいで」
「それがなにか?別にここで殺すなら殺せばいいでしょう。浦和ハナコさん、白洲アズサさん……私は後悔はしていませんよ。大義のため、私は私のやることをしただけです」
「ふふ♡なるほど……それでは私たちの指揮官から伝言です。『あはは。えっと……それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』とのことです♡」
その言葉と同時に白洲の持っている銃が火を噴いた。俺は浦和の吐いた言葉と、それを発したであろう指揮官とやらに今までかつて感じたこともないほどの怒りが脳天からつま先まで満ち満ちていくのを感じて、その血流がヒステリアモードと混じり合うのを他人事のように感じていた。
「……おい。浦和ハナコ、白洲アズサ」
「っ!?」
「まあ……!」
「3秒以内にそこから離れろ。3」
荒々しく扉を蹴破った俺のカウントを前にして白洲が弾切れになった銃の装填動作を開始する。浦和は止めようとしているみたいだが、もう……
普段のヒスった俺なら絶対にやれない選択肢を流れるようにとった。俺自身がこれを腹に据えかねている証拠だ。なめんなよ補習授業部、俺は容易くねえぞ……!
「なんだ、お前ら結局全員グルだったわけだな。まさかヒフミ……いや阿慈谷もとは恐れ入った。コハルもそうなのか。すごいじゃないか、見事に俺らを騙しぬいたわけだ」
「違います、キンジさん。お話を……」
「お友達ごっこだったわけだろ?名前なんて呼ぶんじゃねえよ。ちょっとでもお前らが白だって信じてナギサを諫めてた自分が恥ずかしいぜ。先生もトリニティをひっくり返したかったのか。全く大人ってやつはすげえな。見事に騙された」
「違います!嘘なんです!ヒフミさんやコハルさんはなにも……!」
「おい、口を閉じろよ。お前らは既に一線を越えてるんだ。殺されたくなければ今すぐ失せろ……!」
俺が本気で殺気をまき散らしているのを見た浦和と白洲は目を丸くするが、それでも引かない。ナギサにそんなに用があるか。指揮官は阿慈谷だっつったな?回り込むように気絶したナギサにたどり着いた俺は、銃を向けたまま無言で二人とにらみ合う。
「今の俺は女にも厳しいぜ。お前らが白か黒かはもうどうでもいい。今の俺に見えた真実は、お前らがナギサを傷つけたってことだ。心も体もな」
「こうして押し問答してる時間はない。遠山キンジ、桐藤ナギサは狙われている。私の自治区、アリウス分校に。暗殺される前に助けるために私たちはここにいる。ハナコのさっきの言葉はどうして言ったのか私にはわからないけど……」
「はい。私の……ただの八つ当たりでした。ヒフミさんを傷つけたナギサさんに対する意趣返しだったんです。あなたがやったことはこういうことだ、と伝えたかったのです」
「それが本当なら悪手が過ぎるぞ。ナギサが何回泣いたか知ってんのか、それでもって歯を食いしばって一つ一つ拾っていったもんを全部台無しにしようとしてるやつの言うことを、俺は今信じられん」
認めよう、俺は今冷静じゃない。頭に血が昇っている。だからこいつらが言うことが真実なのかは判断できない、いや……認められない。確かにナギサは悪いことをした、こいつらにとっては。だが、トリニティ全体で見ればそれが悪いことではないはずだ。問題があるやつを纏めて、同じところで管理する。妨害だけは擁護のしようがないが、チャンスは与えた。
もちろんそれは言い訳に過ぎない。先生だって味方しなかったのがいい例だ。ただ、俺はナギサが俺にしか見せない顔を知っている。疲れた顔も、泣き顔も、仮眠をとったときに阿慈谷に寝言で謝ってたのを知っている。いま、この状況でどっちを信じるかは火を見るよりも明らかだろう。
「マクロとミクロの視点の違いだな。浦和、俺は正直お前はトリニティが嫌いだと思ってたよ。俺がいじめなんかに介入するときいつもお前は悲しい顔をしてたからな。トリニティの裏を知ってるやつがする顔だった。でも今のお前は立派なトリニティの人間だ」
「キンジさんっ……私は……!」
「お仲間がたくさんいるみたいだな。悪いが俺はここでサヨナラだ。ああそうだ。指揮官……阿慈谷に伝えておいてくれよ……お前らは俺の敵になったってな。先生にもよろしく。次は会わないようにな、俺自身お前らに何するかわからん」
「待って!待ってくださいっ!!」
俺は銃を仕舞い窓を蹴破る。反対側の窓にうごめいてるやつらがいた。十中八九こいつらの仲間、仮に信じるとしてもアリウスとやらの部隊だろう。味方じゃない。気絶したナギサを背負って飛び降り、無音で着地する。
ヒステリアモードの視覚は夜でもナイトヴィジョンいらずだ。気配を消して、やってきた奴らの腰から手榴弾を失敬してから気絶させて、部隊がいる方向に投げる。閃光、爆発……にわかにざわつく。
どうする、と考えてすぐに思い当たった。逃げよう、ただしトリニティはダメだ。トリニティには未だにナギサを狙う何かが巣くっている。ベストは学区外……なら土地勘がある場所に行くべきだ。百鬼夜行に行こう、実家にはじいちゃんとばあちゃんがいる。
ナギサを背負ったまま鷹潜の要領でその場にいる奴らの視線と死角を把握しできるだけ気づかれないようにしつつどうしようもないやつは気絶に追い込み、跳弾なんかを利用して攻撃位置を誤認させて同士討ちに持ち込んだりしながら、思ったよりあっさりと包囲網から抜けることに成功した。
やりたくはないんだがと適当な装甲車、まあティーパーティーの備品なんだがキーに関しては生徒手帳なので安心して乗れる。アクセルを踏み込んでライトは付けずに走る。どうやらアリウスというのは優秀らしく何人かついてきたが、ミレニアム謹製グレネード弾をくれてやって排除。あとは逃げの一手だ。
幸い、百鬼夜行までは数時間ってところだな。しっかり手入れしてるのかこの装甲車の燃料は満タンだし、大丈夫そうだ。ナギサの様子も……まあ問題なさそうだ。ただ、アサルトライフルの弾を一マガジン食らったのだが、まあそれはキヴォトス人だしな。羨ましいことだ。
高速道路まで入れば、まあ一安心だろう。ライトをつけて、ほとんど走る車もない高速道路を制限速度をぶっちして走っていく。真っ暗闇の中、装甲車の走る音と眠るナギサの息遣いだけが車内に満ちていた。
「んう……ん……」
「起きたか」
「え、あ……キンジ、さん……?私はあの時、ハナコさんとアズサさん、に……はっ、はっ……あ、ああ……」
「やめろ、思い出すな。俺も正直あいつらのことはわからんが、そのあとアリウスってところから襲撃を受けた。一回逃げる、奴らの届かないところにな」
「……すーっ、ふーっ……落ち着きました。それで、どちらに?」
「百鬼夜行の俺の実家だ。トリニティよりはましだろ」
2時間ほどでナギサの目が覚めた。取り乱しかけたナギサは驚異的な自制心で平静を取り戻す。俺はそのナギサに目的地を伝える。ナギサは、それを聞いてちょっと驚いた様子だった。
このキンちゃんは最悪の場所に最悪で入ってしまう特性があります(大本営発表)正直ここでアリウス&ミカ相手にするルートもあったのですがキンちゃんなら多分守るほうを優先するだろうなという考えのもとに逃亡ルートです。アンチ・ヘイト要素はここら辺からですね。気に障った人はごめんなさい。