エネイブルーアーカイブ 作:イチカの開眼好き好き侍
百鬼夜行連合学院自治区、巨大な桜の木がランドマークになっている自治区で俺の実家がある場所でもある。俺は小学校を卒業するまでここにいたんだがじいちゃんに見聞を広げろ(意訳)って言われてトリニティに行ったわけだ。
俺には妹が二人いるんだが、その方針に伴ってでかい方の妹はミレニアムの中学校に、小さい方は山海経の梅花園に行ってる。じいちゃん曰くだが、学校なんぞただの入れ物に過ぎない、要はそこで何をするかということらしい。そう思えばトリニティに行ったのは間違っていないのかもな。
「ついたぜ。お前の家に比べりゃ狭いしなんもないが。落ち着くまではここにいてくれよ。あとで必要な着替えなんかを買いに行くか」
「いえそんな……趣があって素敵ですよ。なるほど、今のキンジさんのお家はこちらのものだったんですね」
「おや、まあ……キンジ、帰ったのかい?そちらのお嬢さんは?」
「ああ、ばあちゃん。まあなんだ、色々あって暫く泊まらせて欲しいんだ。こっちは桐藤ナギサ、一応俺の上司って感じかな」
「桐藤ナギサです。突然のご訪問で恐縮なのですが……」
「気にしなくていいよ~。お茶を淹れるから、ゆっくりしていきなさい。あの人は外に出てるから、帰ってきたら呼ぶねぇ」
「いや、ほとんど徹夜なんだ。布団借りてもいいか?」
「ふふ、いいよ。ちょうどよく干したてなの。準備しとくから待っていなさいな」
縁側で掃除をしていたばあちゃんが武家屋敷っぽい我が実家の敷居をまたいだ俺に気づいた。しゃんと姿勢よくしずしずとこちらにやってきたばあちゃんに羽を畳んでぺこりと頭を下げる。じいちゃんはどうやら外にいるらしいので適当に居間で待つことにした。
「トリニティじゃ居間にあるのはテーブルと椅子だろうが家はちゃぶ台と座布団でな。座れるか?」
「お気遣いなく……あの、キンジさん」
「あ~~~……とりあえず寝るぞ。夜走で疲れてるしな。疲れてると碌な考えも浮かばん。ここならどう頑張ってもお前を狙うやつなんざ来ないから寝られるだろ」
「……はい」
仮になんか来てもじいちゃんとばあちゃんが撃退するだろうしな。二人とも遠山の人間なので実質人間兵器みたいなもんだ。経験分俺より強いかもしれん。ナギサはどうやらトリニティの様子が気になるらしいが、あんな状況でスマホを持ってくる余裕もなかった。で、一応持ってた俺のスマホには今ジャンジャン連絡がきてる。補習授業部のやつらはブロックしたけどな。
「エデン条約までは残り一月ほどあるな。トリニティにはそれまで戻らないでおこう。先生は補習授業部側だしな。連絡が来ても知らんぷりだ」
「ティーパーティーの仕事はエデン条約まで身を隠すためにすべて先んじて終わらせています。仮に急な案件があってもミカさんがいれば問題ないでしょう。エデン条約に変更を加えようとしても……この印がなければ契約の神秘は働きません」
逆探知を防ぐためにスマホからバッテリーを抜いて、俺はナギサが取り出した角印をみる。これだけは奪われまいと隠し持っていたのか。やるじゃないか。その印鑑は多分トリニティの権力そのものだな、その印を押したらトリニティはこれに同意するっていうことになるわけだ、おーこわ。
キンジ~~とばあちゃんが呼ぶ声が聞こえる、どうやら布団を敷き終わったらしい。ぱたぱたとやってきたばあちゃんがお着換え買ってくるからねとナギサに言って止める間もなく出て行ってしまった。
「あの……サイズをお教えしていないのですが」
「ばあちゃんなら見ればぴったりサイズのもの買ってきてくれるよ。あ、誤解ないように言っておくが俺にはできんし興味もない。ふわ~~……」
「むぅ……くぁ……はっ」
俺がクソデカイあくびをするとなぜかむくれていたナギサはつられて小さいあくびをして真っ赤になった。淑女がどうのってやつか?と思いながら俺は客間に案内、すると布団がなかったのでまさかと思って自分の部屋に行くと布団が二つ並んでいた。おいおい……
「客間に移すかぁ」
「いえ……その、そのままで、お願いします」
「……そうか」
きゅっと俺の上着の袖をつかんで言うナギサの手は震えていた。そうだよな、心細いよな。俺も頭に上っていた血が今は降りてある程度冷静になれたが、ナギサの視点では裏切り者は実は補習授業部全員でもしかしたら先生も一緒だったかもしれないのだから。
多分、それは違うはずだ。アリウス分校……調べる必要があるな。補習授業部のやつらには警戒する必要はあれど話し合いには応じるべきだろう。真実を知る必要がある。上着を丸めて投げ捨て、布団に入る。ついでにネクタイもポイだ。
ナギサも無言で布団の中に入ると、すっと横を向いて俺を見つめる。なんだよ、と俺が横目で見るとナギサはそっと布団の中から手を伸ばして俺の手を握った。
「ありがとうございました。あの時、アズサさんとハナコさんが現れたとき……天罰だと、そう思ったんです。反撃されても仕方のないことをしたと。エデン条約を締結できた後に、彼女たちに身をささげようとしていたのが早まっただけだと思っていました」
「そうだな。言っちゃ悪いがお前のやり方は強引だった。だが、そうせざるを得ない理由はあった。あいつらそれぞれがそれぞれ問題を抱えていた……まあコハルはとばっちりだったかもしれんがな。だとしても、だ。お友達ごっこでした、なんていうのは口が裂けても言うべきじゃなかった。それだけは俺は何があっても許せん」
「それは違いますよ、お友達ごっこにしたのはきっと……私だったんです。ヒフミさんの本来のやさしさに付け込んで駒にして……本心がわからないから敵だと目の前を曇らせて」
「俺からしたら、どっちも悪かった、だ。お前が友達を駒のように扱ったのも悪かっただろう、それが最初だった。だが、反撃でクーデターまがいなことをするのはやりすぎだ。当然殴ってでも止めなかった俺もな」
「いえ、自分でわかります。私はきっと何をされても止められなかった。キンジさんがそうしなかったのはそうすれば私はほんとに独りになるからでしょう?私があなたを遠ざけるから、と。こうしてようやく自分を客観視して……ほんとにひどい……っ!?」
俺は仰向けからナギサの方を体ごと向いてナギサが握っている手とは別の手でナギサの唇を指で押さえる。行きすぎるところまで行くのがこいつの悪いところだ。反省するのはいいがブレーキの一つくらいつけろよ。
「疲れてるからネガティブなことばっかり浮かぶんだ。寝ろ、寝ちまえ。寝て起きて飯食ってから考えろ。トリニティはお前だけで回ってるわけじゃねえんだ。暫く居なくても回るさ」
「……はい」
ナギサはそう言って目を閉じる。布団の中でナギサの片翼が俺の手と重なった。俺はそれを見ないふりして仰向けの態勢に戻って目を閉じる。薬でヒスったせいかひどく眠い。徹夜したから倍率ドンだ。隣で寝息が聞こえたのと同じくらいで、俺の意識も落ちた。
目が覚めるとすでに夕暮れが空を彩っていた。カラスのアホっぽい鳴き声がすりガラスの向こうから聞こえてくる。体を起こすと、ナギサも目を覚ましたらしく寝ぼけ眼で体を起こした。枕元にはばあちゃんが買ってきたらしい最近百鬼夜行で流行りの和服と洋服を折衷したような服が置いてあった。
「おはよう、ナギサ。俺はいったん出るから着替えたら居間に出てきてくれ」
「……っ!?っ……はい」
ナギサは寝起きを見られるのが死ぬほど恥ずかしかったらしく布団に顔まで潜ってくぐもった声を返してきた。さてさて、どうしたもんかといったん外に出てバキバキと背中を伸ばし、居間に向かうと珍客がいた。
「むぉ!?きんふぃどの!?おふぃさしぶいでふ!!……んむぐ、イズナはあえて大変うれしいですっ!」
「おい、何でお前が俺の家で当たり前のように飯食ってんだ」
「なんでもなにも、イズナちゃんには遠山の技をいくつか教えることにしたからの。いや筋がよいぞ」
「そう!忍法を極めるために!にんにん!」
「で、キンジや。トリニティで何があったんじゃ?あの娘っ子は確かトリニティの為政者じゃろ」
「あー、まあいろいろあって殺されかけたんで助けた。追手がくるかもな」
居間に入るとなぜか小学校の頃の後輩が飯を食ってた。だいぶでかくなったなぁこいつ……ふかふかしてそうな狐の耳と尻尾が特徴的な見るからにバイタリティにあふれている女子……久田イズナがサンマを頭から丸かじりしていた。
「うちはもともと侍であって忍者じゃねえだろ」
「間宮は忍者だったじゃろ」
「本流から外れてんじゃねえか。大体間宮の技は殺人技だろ」
「教えるわけなかろう鳶穿なんぞ。今は影の修行中じゃ。それよりも準備しとくかのう」
「忍法分身の術の修行中なのです!」
じいちゃんは追手が来るという俺の言葉に頷いて、適当な戸棚をずらすとそこには日本刀と槍、あと古めかしい銃があった。というか、イズナこいつ……マジで分身の術覚える気なのか……。
「すいません、お待たせしました。初めまして、桐藤ナギサです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「遠山鐡じゃ。気にせんでええ、疲れとるじゃろ。たくさん食え」
「久田イズナですっ!師匠に忍法を教わりに来てます!」
「ナギサちゃん、こんなもので悪いけどたくさん食べてね。イズナちゃんはほら、お魚のお代わり」
ばあちゃんが見立てた服は、ナギサによく似あっていた。ばあちゃんが空けたらしい翼用の袖もぴったりの様子だ。俺はばあちゃんから茶碗と魚、それとみそ汁を受け取って手を合わして食べ始める。ナギサはどうやら箸を使えるらしく上手にサンマを分解してた。
腹が減ってたので懐かしい味がする食事をひたすらに詰め込んでいるとじいちゃんがつけていたテレビがニュースを流し始めた。クロノスのバカどもが流すゴシップの中にトリニティの騒動が映ってはいたが、ボヤ騒ぎ程度の扱いで詳細は全くわからなかった。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです、ほんとうに」
「よかった。お粗末様ね。どれだけいても大丈夫だから、遠慮はしないこと。キンジはしっかり守ってあげるのよ」
「わかってるよ。ばあちゃんお代わりくれ。イズナ、ちょっとナギサと一緒にいてやってくれ。お客さんらしい」
「無粋なやつじゃ。少し休む時間をやらんかいな」
「キンジさん、私も……」
「いいや、俺がいいと言うまで出てくるな。狙撃でもされたら困る。イズナ、護衛任務だ」
「承知しました!イズナにお任せくださいっ」
イズナはちょっとアホのケがあるが、真面目で実直だ。なぜか忍者に憧れてるらしくうちに通っていたが本格的な弟子になったのか。しかし、もうバレたのか、速いなと玄関の門のあたりが車のライトで照らされていた。補習授業部か、あるいはティーパーティーか、はたまたアリウスとやらか。
もらったお代わりのご飯を味噌汁にぶち込んでかきこんだ俺は立ち上がる。じいちゃんもよっこいせと立ち上がってポン刀片手についてきた。じいちゃんは少々価値観考え方は古いところはあるが、遠山の義を貫いた人間だ。俺がナギサを連れて逃げてきたのを見て何か思うところがあるのだろう。
うちには呼び鈴なんてものはないので、ノックする必要があるが警戒したばあちゃんが普段は開けっ放しの門を完全に閉じてしまったのでノックも聞こえない。困っている雰囲気が門の向こうから感じ取れる。
じいちゃんは正面から、俺は側面にある隠し扉を開いて門から外に出る。外にいたのは……ウェーブのかかった金髪と、特徴的なタブレットを両手に持って右往左往していた先生だった。じいちゃんが指を鍔にかけようとしたのを見て俺が先に声をかけることにする。
「もう少し休ませてくれよ、先生。ああ、近づくなよ。悪いがもう信用してない」
”キンジ、そうだね。私は君たちに伝えるべきことを伝えに来ただけだよ。昨日から今日にかけて、何があったかを”
「それは今じゃなけりゃならんのか。あんなぼろきれのような嬢ちゃんを追い詰めてまですることか?のう、大人として判断せんか」
”……反論はできません。ですが、どうしても言わなければいけない。エデン条約を成功させたいのなら。ナギサが日常を取り戻すために。絡まった誤解を解かなくては”
じいちゃんに責められても顔色を変えずに先生は言い切った。じいちゃんの魔王のような殺気を前にしてもそう言い切るってことは本当に重要なこと、あるいはシャーレとしての立場をかけての言葉だ。俺は聞く態勢に入った。聞きたくないと思いながらも。
アロナさんのせいで生徒である限りどこへ逃げても無駄である。ちなみにですがトリニティでは大体原作通りに事が進んでいます。ミカはナギサ様を補習授業部が確保したとして登場、いやキンジが連れて逃げたんやでで( ゚д゚)となったのちにキンジはどこっすかー!と突入してきた正義実現委員会とシスターフッドの連合軍にコレマジ?となって破れてます。命令無視、南無。ちなみに待機命令を破った理由は前話のあたりで救護騎士団に飛ばしたSOSが原因です。