エネイブルーアーカイブ 作:イチカの開眼好き好き侍
「そう……ですか。ミカさんが……いえ、気づけなかった私のミスですね」
「気づけねーのが当たり前だ。あいつ、そんな素振り見せてなかったんだろ。ま、戦争したがるっていうのは全く解せねーがな。あいつはそんな奴じゃねえ」
「本当に……私は周りが見えていなかったのですね……キンジさんにも迷惑を掛けました」
「おい、次迷惑かけたって言ったらぶん殴るからな。俺はお前のために働くことを迷惑だなんて思ったことは一度もねえぞ。強引だとは思ったがな」
先生が帰ってから、俺の部屋でナギサに先生から聞いたことを話した。補習授業部の中に確かに裏切り者はいたが、その糸を引いていたのはミカであり、追放されたアリウス分派からの行動だという話を。つまり、盛大な内ゲバでしかなかったのだ。
ナギサはヒフミなんかよりもずっと付き合いが長いはずの幼馴染であるミカが実質的な黒幕だったことを知らされても、気丈にも自分を責めていた。いや、もうどうしていいかわからないのかもしれない。涙すら流す気力がないのか。
ただ、俺に迷惑をかけたと言われたのには腹が立った。確かに俺は内心や口ではナギサに振り回されることについて愚痴を吐いていたさ。だが、ナギサのことについて迷惑だのなんだのって思ったことはねえ。それに関してはしっかり訂正しとかねえとな。
「たぶん、場所がばれてる時点でそのうち補習授業部の面々も来るかもしれん。どうしたい?会いたくないなら場所を移せるぜ」
「……いえ、私は彼女たちに謝らなければならないのです。一度も真正面から向き合わずにこうして逃がされてさらに逃げるのは私の矜持に反します。今度は逃げることなく、彼女たちに向き合います」
「……そうか」
「それに私には、頼りになるナイトがいますからね?」
「誰だろうな」
「もう、はぐらかさないでくださいな」
俺は確かにお前の味方ではあるが、お前だけの味方じゃないぞ。お前が本当に悪いことをすりゃ止めに行くし敵に回るかもしれん。まあ、信頼されているとみれば悪くはないのかもな。ちなみに俺は騎士じゃなく侍なんでそこんとこよろしく。ご先祖様の話だけど。
「それでなんだがナギサ」
「はい、なんでしょう」
「これどうしようか」
「どうしましょうか……」
俺たちの目の前にあるのは自らの携帯電話である。ちなみにナギサのは先生が持ってきてくれた。浦和が利用されないようにと部屋から回収しといてくれたのだそうだ。まあ、そこは感謝しといていいだろう。
で、その中身なんだがいまだにぶんぶんとかかってくるのだ。なにが?知り合いからの着信とモモトークである。阿慈谷なんかひどいぞ、モモトークと電話が俺ら二人に対してパンパンだ。次点でイチカからクドクドなんかきてる。あたしじゃだめっすか的なことが。だからお前とナギサはイコールじゃないのだ。どっちも大事なんだよ。
というかハスミ先輩からもなんかきてるしマシロからも来てるし、珍しいことにツルギ先輩からも来てる。あと数えられないくらいたくさんの後輩からも。というかトリニティ以外からも来てるよ。具体的にはゲヘナの生徒会のマコトと風紀委員会のヒナだ。両方とも行くとこないなら保護するから来いってよ。
ヒナはほぼ善意だろうがマコトはなんかあるなこりゃ。情報戦が得意なヤツのことだ、トリニティをひっくり返す材料にしたいんじゃないのか?うーんやりかねん。ブロックしておこ。あ、イブキからのモモトークは返信しておこう。妹みたいなもんだしな、うん。
で、俺はまだ知り合いだからまだいいんだがナギサの方はトリニティやべーから戻ってきてくれっていうティーパーティーからの悲鳴である。おまんらナギサがおらんと何もできんのかと言いたい。書類仕事だけならミカにやらせりゃいいだろ、牢獄の中ででも。
混乱はあると思うが、そこらへんは今まで文句ばっか言って何もしてこなかったやつらに丸投げさせてやらせろ。シスターフッドとかシスターフッドとかシスターフッドとか。無駄に戦力だけ確保して勢力として圧力かけてくる割にあいつら政治面は関係ありませんのでとか言ってやらないからな?
ふざけんなじゃねーーよこの野郎。なら武装解除しろと言いたい。ティーパーティーに圧かけてくる時点で十分政治介入してんだよお前ら。なのに面倒くさいのはこっちに全部投げてそれでいて自分の利になるように配慮しろっていうんやろ?温厚な俺も怒るぞ、せめて手伝えや。
「……おいサクラコ」
『????なぜナギサさんの携帯からキンジさんの声が?いえ、それはいいのですが……』
「ナギサはエデン条約まで休む。つーわけで後は頼んだ」
『へ!?ちょっと待ってくださいキンジさん!?あまりにも一方的すぎま』
「これでよし」
「よくありませんが!?」
俺はちょうどナギサの携帯にかかってきたシスターフッドの長、歌住サクラコの電話に勝手に出てトリニティの後処理を無理やり押し付けた。そのあと携帯の電源を切って終わりである。あとでシスターフッドがいかにティーパーティーに圧力をかけていたかを懇切丁寧にモモトークで送ってやろう。それで文句も言えまい。
俺の突発的な行動にちょっと素がでて突っ込んだナギサにいやこのくらい許されるだろお前も俺も学生だぞと適当を吹き込んでみるがさすがにそんな甘くないか。思えばキヴォトスも歪だよなあ、どこもかしこもトップにいるのは学生で、それ以外はほとんどロボットなんだから。
じいちゃんの話によると、外の世界で政治のトップ貼ってるのは大体50か60くらいのおっさんたちらしい。むしろそんくらい人生経験豊富じゃないとダメだろそりゃ。でもま、あとはこれでサクラコと先生たちが何とかするだろ。ナギサはこれまでノンストップだったんだから休暇くらい許せよ。
「……はあ、帰るのがもうすでに憂鬱です……」
「楽しいかもよ?ゲヘナみたいに自由になったトリニティとか」
「キンジさんはゲヘナの方がいいんですか。あの白くてふわふわの委員長がいいんですか。人間は不可逆なんですよ?大きく成長できても小さくはなれないんです。取り返しがつかなくなってから何でそんなこと言うんですか」
「おい話の趣旨が飛んでいったぞ。なんでそこでヒナが出てくるんだ。それはともかく、明日は百鬼夜行を案内してやるよ。降ってわいた休みだろ?」
「それは……楽しみです」
なんだかわからない話の吹っ飛び方になったが、エデン条約まではまぁ時間がなくはない。ナギサはもうほとんど準備を終えてしまっているのだから調印式には今持っている印鑑持っていくだけでオッケーだしな。不測の事態は大体ドンパチなので俺が速やかに鎮圧したらいい。脳みそが必要ならナギサに任せる。適材適所だ。
どうせ俺らがいないところでなんかやる場合は大体俺らがいてもなんかやるからな。エデン条約なんて大きな機会逃がすわけないし。なんだかんだティーパーティーの後輩や先輩はハキハキ働くしたまにナギサ様を休ませてくださいって俺に言ってくるくらいだし。俺に言うなよって話だが。
少しだけ笑顔が戻ったナギサをぽいっと布団に放り込んで俺も自分の布団に潜り込んだ。疲れていたのかすぐにナギサは眠りにつき、俺も緊張を解いて眠るのだった。
「なんでお前ここにいるんだ?」
「うへ~それはこっちのセリフだよキンジくんや~。おじさんはあれだよ~、借金返済のために賞金首を狩ったところなのさ~」
「なるほどなあ、いや元気そうでよかったよ」
「うんうん、ほんとにその件は感謝してるよ~。あなたが桐藤ナギサさん?私は小鳥遊ホシノ、キンジくんを送り込んでくれてありがとね~」
「いえ、その件は事後承諾とはいえ無断での派兵となってしまってこちらとしても心苦しかったのですが……」
「なにがさ~?私は助けられた側だよ~?もっとドヤ顔して高笑いとかすればいいんだよ~」
翌日、ばあちゃんの朝食をそろっていただいた俺とナギサは泊っていった上に騒がしく修行と騒ぎ立てるイズナのためということで遠山家の残像を使った技である『影』と『真影』を見せてやったあと尻尾を振るイズナとじいちゃんに見送られて実家を出て、百鬼夜行をぶらついた。
子供の頃によく行った駄菓子屋とか、そういう俺が知っているローカルな場所ばかりではあるがナギサはむしろそういうのが知りたいというのでそういうのを案内していた時に見覚えのあるピンク色のちっこいのに遭遇したのだ。いや、年上だけどな?自称おじさんだし。
俺がここにいることに頭上に4つくらい?マークを浮かべて首をかしげていたホシノだったが、すぐに気を取り直してアビドス砂漠の件のお礼を言ってくれた。いや、それに関しては俺も心配してたんだよな、なんだかんだ連絡先も交換してなかったし。
「それでさ~聞いてよ~。ヴァルキューレが言うには、振込に時間かかるんだって~。だから現金受け取り確認の呼び出し待ちなんだ~」
「てことは今暇なのか」
「うん暇~」
「まあ、ではよろしければ私たちとご一緒しませんか?降ってわいた休暇中でして……キンジさんに百鬼夜行を案内していただいてるところなのです」
「うぇ?いいの~せっかくデートしてるのに?おじさんお邪魔虫になりたくないな~」
「いえ、そうではなく……アビドスの借金についてなのですが……いくつか案がありますのでできればご協力したいなと」
「うへ?ここにきて真面目な話しちゃう?」
「諦めろ、こいつは困りごとがあるやつにはどうしても手を差し伸べたいんだよ」
どこか落ち着けるところはありませんかとナギサに聞かれて近くに茶屋があることを思い出した俺はそこに二人を案内して席をとってもらう。降ってわいた話ではあるがナギサは俺を派兵した時にカイザーのやり口に静かにブチギレしていたのでそこらへんで助けたくなったのだろうな。
「実は今現在エデン条約のことに関して様々見聞きされてると思います。それで、会場警備に関してですが……いくつか両校の治安部隊じゃないところからの警備をお願いしようと考えていまして」
「ああ、その話な。今俺がカンナに頼んでヴァルキューレ、もしも行けそうならSRTの派遣を頼んでるんだが、確かにアビドスなら腕もたつか」
「依頼ってことはもしかしてなんだけど」
「はい、相応の依頼料をお支払いします。具体的には……まあこのくらいでしょうか」
ナギサはさらさらっと持ち歩いてるメモの中に金額を記入してホシノに差し出した。ホシノはそれを見て眉を大きく上げた。多分破格の値段がかかれているのだろう。一気にさっきまで緩かった顔を引き締めたホシノは声を鋭くして問う。
「あのさ、高すぎない?逆に胡散臭いよ?私たちのことバカにしてたりする?」
「適正ですよ?当たり前の話ですけど、失敗したらトリニティとゲヘナの全面戦争に発展するかもしれない条約の調印式の警備です。外部からの横やりで失敗した時に失うものに比べたら、はした金です」
「ふーん、本気度は伝わってくるね。まあゲヘナとアビドスは近いからなあ。戦争の火種がこっちにきたら困るし……持ち帰ってみんなに相談してみるよ」
「はい、よろしくお願いします。足りなければ私のポケットマネーからもお支払いしますので交渉も私宛にお願いします」
ナギサは大まじめにホシノに返事をする。ホシノはナギサの瞳の中に何を見たのか、ゴクッと唾をのんでから頷いた。ナギサもナギサで休みっつったのに仕事の話しやがって……まあらしいっちゃらしいか。
「なんか、わかっちゃうなー。ナギサちゃんはさ、トリニティが大事なんだね。多分人が少ないアビドスじゃわからないようなことをたくさん経験したのにそれでもやりたいって思っちゃうんだ」
「ええ、私が今の席にいるのは、トリニティの平穏無事な生活を自治区の皆さんに約束することですから。だって、隣にいる人が気づいたら銃を向けて、自分も向けていたなんてあったら……悲しいではないですか」
「おお~トリニティの隣人愛の精神?たしかに悲しいよね。友達同士で撃ち合うのって、うん」
まあせっかくだしモモトーク交換しようよとホシノが差し出してきたケータイを皮切りになぜか俺もモモトークを押し付けられた。運ばれてきた緑茶と団子のコンボを頬張って暫くしてそろそろいこうかねとホシノが立ち上がろうとしたところでナギサがそれを止めた。
「ホシノさん、会ってすぐこのような話をするのは非常に不躾で失礼だと思うのですが……おひとつ尋ねさせてください。どうして……闇銀行で銀行強盗をするような真似を?」
「………………何のことかな」
静かに真剣に問うたナギサを前に、ホシノの額から一筋の汗が流れた
ホシノおじさんは多分借金返済のために日中は賞金首狩りをして夜に警護するとかやってそう。作者が好きなだけともいう。あとどうでもいい話ですけど更新を1週間に一回のペースにしようと思います。転職したてでとても仕事が忙しいので。それではまた。