エネイブルーアーカイブ 作:イチカの開眼好き好き侍
知らないなあ、と嘯くホシノではあるがナギサが確信をもって問いかけてきたのがわかるのだろう。2、3分沈黙の時間が続いてついに沈黙の耐えきれなくなったホシノが話し出した。さっきまでのシリアスな感じではなく、いつも通りの緩い感じで。
「う~~ん、何で知ってるのかな~?目出し帽被ってたし先生もいたのに~」
「すまん、俺が現場にいた」
「え~~~~!?どこにいたの!?いつから!?」
「先生が指揮しだしたあたりから物陰に隠れてみてた。というか銃を変えろよ。んで制服でやるな。いやもうやらんとは思うが」
「……はい、キンジさんからの報告で私は知りました。すいません、私の事情からお話しするべきでしたね」
すぅっと何度か深呼吸したナギサが今までのことを話し始める。エデン条約から始まる一連の流れだ。トリニティの裏切り者のこと、容疑者のこと、そして自分の罪に至るまでをトリニティの機密に触れないように、それでいて一切自分を守らずありのままを。
「あなた方と一緒に銀行強盗に加担した阿慈谷ヒフミさんは、私にとっては大事な友人でした。報告を聞くまでは銀行強盗なんて決してしないと思っていたのです。ですが……」
「……ああ、うん……そうなんだ、そうなんだね……ごめんなさい。ヒフミちゃんは私たちが巻き込んじゃったんだ。はっきり言えばその場のノリでしかないよ」
「ノリ、ですか?」
「うん。それでなんで銀行強盗をしたか、なんだけど。あの闇銀行って資本がカイザーだったんだ。目的はお金じゃなくて集金の記録」
「ああ……そりゃ教えた俺のせいじゃねえか」
「まさか。キンジくんは知らないだろうけど、柴関ラーメンで別れた後に闇銀行が怪しいって証拠がバタバタでてきてさ。私たちが返済したお金がそこで洗われてもしかしたら犯罪に使われてるかもしれないって話になったんだよ」
ホシノがいうには、実際にブラックマーケットに潜入してみたら不良に追いかけられている阿慈谷を発見して助けたんだそうだ。で、阿慈谷のやつがなんで禁止区域のブラックマーケットにいたのかは、いわゆる推し活というやつだった。
はぁ、推し活。つまりはあれか、ペロロとかいうあのすっげえキモイデザインの鳥のグッズを求めに行ったと。ふーん………………?????。どうやら俺にはよくわからない世界らしい。あいつなんで戦闘力そこまで高くないのに危ないところ行ってんだ……?
それで、不良に襲われてたから危ないから保護しようとホシノは考えて無理やり同行させて闇銀行に行ってみれば、アビドスにきた集金車が闇銀行に入ってきてさぁ大変。記録を奪って証拠づくりしようとなった結果……あのシロコとかいうやつの提案で銀行強盗を行ったのだそう。
「……つまり、ヒフミさんは巻き込まれただけで自発的には動いていない、と?」
「そうだよ。これに関しては私たちが悪い。しかもトリニティでそんな大問題に巻き込んじゃってたなんて……あなたにも余計な勘違いさせちゃったんだね。本当にごめんなさい」
ぺこり、とホシノはナギサに頭を下げた。少し驚いた、正式な場じゃないとはいえ真面目な話だ。ナギサはトリニティの代表者でホシノはアビドスのトップ。そのトップ同士の話し合いの中でホシノは自らの非を認めて、トリニティの生徒を犯罪に巻き込んだと言ったのだ。
もしかしたら無理難題を吹っ掛けられるかもしれないのにだ。ホシノはそれだけ今の話を聞いて負い目を感じてしまっているということか。しょうがない話だが、俺が無関係じゃないってわかった以上そこは違うだろう。というかそもそも、禁止区域に行ったあいつが悪いのもあるし。
「………………よかったです。ヒフミさんは、あの優しいままのヒフミさんだったんですね……!私が知ってるヒフミさんのままだったんですね……!」
「私はさ、ヒフミちゃんとそんなに長い付き合いじゃないけど……きっとナギサさんが知ってるヒフミちゃんも私が知ってるヒフミちゃんも両方とも『本当』のヒフミちゃんだと思うよ」
「はい……!はい……!」
流れた涙を必死に拭うナギサの背中を眉を下げたホシノがゆっくりと撫でる。俺はそれを見て……目を逸らした。正直言えば俺自身どこかで間違っていたとは常々思っていたのだが、補習授業部の中でもナギサに直接ぶち込まれたヒフミの罪状がほぼ巻き込まれだったと思えば、ほかの二人……白洲と浦和の件もよく考える必要があったのではないか、と。
先生の話を聞いて大枠は理解したつもりだった。白洲は元、トリニティへのスパイだが元のアリウスに反目してトリニティについた。浦和はナギサの補習授業部への仕打ちに対して怒り、仕返しをした。裏の目的なんてなくて、ただただそれだけなのかもしれない。
参ったな。常々俺は頭はよくない、考えるよりも殴るほうが得意なんだと言いまわっているのだが、考えなくちゃならない事態に陥ったようだ。
さて、考えよう。俺はなぜここまで補習授業部に拒否感を抱いているのか?一番大きいのはあの夜の浦和の嘘だ。だが、嘘としてわかっているのでこんな断固として拒否の気持ちがわいてくるのはおかしいはずだ。いつもの俺なら仕方ねえなで流したはずだ。多少は説教をしただろうが。
多分だが……その嘘を向けられたのがナギサだったからじゃないだろうか。俺自身、ナギサのことを悪くは思っていない。面倒ごとを運んでは来るが理由があり、俺じゃなきゃいけなくて、あいつからの信頼があるこの関係を好ましく思っているからだ。
例えばこれがイチカだとか、フウカだとか、カンナだとしても同じようなことを言われればキレる自信がある。俺に言われるのはいいんだろう、嘘だろうが本当のことだろうが言われたことを言われたように対応できるからな。
それでも身内に言われるのはなんだか我慢ならん。それがなぜかがさっぱりわからんが、ネクラを自称する俺がこと身内の女になると熱した鉄のようにカンカンになっちまう。多分ここまで俺が怒ってるのはもう一つあって、あの言葉は浦和も傷つけてると思ったからだろう。
だって、言いたくないじゃないか?普通は。意趣返しにしてもやりすぎだってことはあいつの頭からしたら普通に思いつくはずなのに。俺と同じで一時の激情に駆られて口に出してしまった。それで結果がああだ。先生の話を聞くにひどく取り乱したとも言ってたしな。
そうか、俺が怒ってたのは……誰も幸せにならなかったからだ。言葉を聞いたナギサも傷つけ、嘘を言った浦和も傷ついて、いわれのない嘘を言ったことになった阿慈谷も傷ついた。かかわったやつ全員が不幸になってる。誰も幸せになっていない、ヒスっていた俺はそれに無意識に気付いて、ヒスを上回る怒りに支配された、か。
「キンジく~んや」
「おわっ!?なんだよ」
「いんや~?むずかし~い顔して考え込んでるからさ~。なになに?おじさんに話してみなよ~」
「ん、ああ。ちょっと面倒ごとでな。今の話聞いて整理がついたところだよ、ありがとな」
「おじさんなんにもしてないよ~?あっ!通知きた!それじゃね!また懲りずにアビドスに遊びに来てよ~、セリカちゃんとか会いたがってるよ~?はむっ、
考え込んでいた俺の目の前にドアップになったホシノの虹彩異色に見つめられて俺は後ろに飛び上がりそうになって持ち直した。演技であろう飄々とした態度を崩さないホシノは俺の反応に満足そうに笑って、俺の皿から残ってたみたらし団子を口に含んで去っていった。あいつなあ……。
「……帰るか」
「ふふ、はい」
「……なんだよ」
「いえ、珍しいものを見れたと思いまして。何度も気恥ずかしい姿を見られているのでこれでお相子でしょうか」
「うるせえなあ……似合わなくて悪かったな、珍しく頭使って考えてて」
「まさかそんな。お気づきではないかもしれませんけど……真剣な顔というのは、どなたも魅力にあふれているものですよ」
「おまえとかな」
「ふぇっ……」
珍しく俺が頭を使っていたのがそんなにも面白かったのかくすくすと手を口に当てて上品に笑っているナギサのからかいを軽くいなす。実際真剣な顔っつーのはそいつ本来の気質がそのまま表に出るだろうから魅力的なのはそうかもしれん。
そう納得した俺はナギサもそうだと適当に返して席を立って実家のほうに歩いていく。後ろでナギサが暫く止まったのちに慌ててパタパタとついてくるのが気配でわかる。俺は追いつけるように歩調を緩めながらいい気分転換になったと振り返るのであった。
「んでこれかい」
「この車は……」
「シャーレの車だ。先生が来てるな、もしくは……補習授業部が」
「……会いましょう。私たちには対話が足りていません」
そうか、と俺は玄関前で顔を引き締めるナギサに続くことにした。連絡ないのはしょうがねえ、連絡端末もモモトークも全部無視してるからな、連絡来ても知らんぷりしてるし。門前で止まっているシャーレの車は空っぽ、中にいるのか。入れたのは多分ばあちゃんだな。
「がるるるる……」
「ひ、ひぇぇぇ……」
”ごめんね、私たちは敵じゃないからその……殺気を収めてくれると嬉しい”
一瞬で帰りたくなった。玄関に補習授業部と先生の靴があったのを確認したあと居間に入ると、殺気駄々洩れで犬歯をむき出して唸る尻尾が爆発したようになっているイズナと恐れおののく阿慈谷、コハル、明らかにどよんとしている浦和の姿があった。こりゃだめだ。
「……阿慈谷、さん」
「ナギサ様……そんな……」
「キンジ殿!敵襲!敵襲です!排除任務を!」
「だめだ。暴力に頼ったら元の木阿弥なんだから。ほら稲荷寿司」
「わふーーっ!はっ!その手には乗りません!」
のれよ、と思いつつイズナの口の中に稲荷寿司を詰めてじいちゃんにパスする。無言でじいちゃんはイズナの首根っこを捕まえてぷらーんとさせながら出て行った。まあなんかしないか監視してたんだろな。それで、だ。
けじめのためだろう、俺と同じように阿慈谷を名字で呼んだナギサに阿慈谷がひどくショックを受けた顔をしている。話し合いにしては最悪なスタートだが、まあ仕方ねえだろ。
”ごめんね。連絡はしたんだけど……返信がないものだから。無理やり知らせる方法もなくはなかったけど、それをしたら余計にこじれそうで。だから、直接来させてもらったよ”
「ああ、そこは気にしないでいい。近いうちにそうするだろうなって思ってたからな。話があるのは……まあ阿慈谷と浦和か」
「き、キンジくんまで……」
「……はい」
「その……私も謝りたい。先生から聞いて二人がどれだけトリニティのために動いていて、あの夜のことを怒っているか理解した。原因として、私が謝るべきだと思う」
「わ、私も!結局流されちゃったけど、知ってたはずなのに!キンジ先輩がどうしてティーパーティーにも籍があるのか……!反対できたのにしなかったから……!」
名字を呼ばれたことに対して改めてショックを受ける阿慈谷と諦めたような顔の浦和……そっちもそっちでいろいろあったらしい。開口一番頭を下げてごつんとちゃぶ台にぶつける白洲と土下座せんばかりに頭を下げるコハル……まあこいつらはメインじゃない。
「いえ、お二人のことは巻き込んで申し訳なく思っています。白洲さんについてはいくつかお聞きしたいこともありますが、今は先生を信頼してトリニティの味方であると私も認識します。下江コハルさん、今回はティーパーティーの失策に巻き込み、大変申し訳ありませんでした」
「そんな……結局私が成績が悪かったのは事実で……」
「それでも、です。あなたは本当にただ巻き込まれてしまっただけですから。私から謝罪しなければなりません。正式な謝罪は場を改めさせていただけますか?」
「は、はいっ」
すっと深々と頭を下げるナギサと頭をぶんぶん振るコハル……とりあえずはこれはこれでいいの、か?まあ問題は死にそうな顔してる浦和と、なんかぶつぶつ言いだした阿慈谷のほうか。うーん、まあそうだな……。
「庭、行って来いよ。人がいて言いにくいこともあるだろ」
「そう、ですね。阿慈谷さん……少し二人でお話しませんか?」
「は、はいっ!お願いします!その、ちゃんとお話ししたいことが、たくさんあるんです」
俺の提案に沿って、ナギサは阿慈谷を引き連れて下駄を履き、庭の方に出て行った。すぐに見えなくなったのをよそに、俺は浦和に目を向ける。びくっと肩を震わした浦和に俺は溜息をついて
「お前もなんかあるんだろ、俺もお前に用がある。話す気があるならついて来いよ」
「……はい」
すっと胡坐から立ち上がって背を向ける俺の後ろを浦和がついてくる。白洲があたふたしてたが、先生が止めてくれた。さて、聞いてもらおうじゃねえか、俺の気持ちってやつをよ。
さあ次回で曲がりくねってぐにゃった誤解が解ける!(多分)書けるかどうかは知らない!ゆっくりとお待ちください