エネイブルーアーカイブ   作:イチカの開眼好き好き侍

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私のパートナー

 私、仲正イチカには相棒がいる。いつもどこかでさぼっていて、気だるそうだし私たちと必要以上に一緒にいないヤツ。なんだか邪険に扱われるし、遊びに誘っても来ないし……なのにいざって時にこれ以上なく頼れる……男。

 

 そう、男だ。私がいるのは学園都市キヴォトス。把握できないほど大量の学校が寄せ集まりそれぞれが自治区を持つ『外』とは違う常識を持つ特区。この学園都市にいる生徒は彼以外を覗いて全員女で、例外は生徒じゃない市民たちくらい。

 

 その市民たちといっても男の自意識を持っているのは動物が二足歩行したような感じの獣人とロボットで明らかにニンゲンって感じの男は彼しかいない。

 

 彼は特別だ、いろんな意味で。まずヘイローがない。この時点でキヴォトスの学生としては異質。私たちはヘイローがあるから、銃弾が当たっても痛いですむくらいなんだけど、彼にはそれがない。他にも私たちトリニティの生徒が持っているような翼や猫耳、尻尾、角なんかの器官が生えてるわけでもない。

 

 だから彼は、銃弾一発まともにもらえば死んでしまうかもしれない。キヴォトスではほんの些細な口論が銃撃戦に発展するので普通の考えならキヴォトスから出ていくかするのにずっとキヴォトスにいる。なんでトリニティに入学できたかは知らないけど。

 

「イチカ、何ぼーっとしてんだ?お前が報告書書くって言ったんだろ」

 

「へ?あ、ごめんっす。ちょーっと考え事を」

 

「そうか」

 

 これっす。中等部1年、12歳の頃からの付き合いなのにこのぞんざいな扱い!もうちょっとその、心配とかそういう感じのこと言ってくれてもいいんじゃないっすか?お、おほん!私のうしろを気だるそうに歩く彼は、無傷だ。

 

 さっきまで、抗争していたヘルメット団とスケバンの一時連合軍を相手にしていたとは思えないくらい。土埃すらついてないほどで戦闘なんかなかったんじゃないかって思う人もいるだろう。まあさすがに、ほのかに香る硝煙の匂いはごまかせないけど。

 

 ヘイローがないなんてハンデをものともしないほど、彼は強い。反則級にっす。それこそ、トリニティ最強を誇る剣先ツルギ先輩ともまともにやり合えるくらい。模擬戦とはいえ決着ついたところを見たことがない。いつも千日手で終わる。

 

 彼……キンジはとにかく攻撃が当たらない。いつの間にか攻撃に被弾しない位置にいるし、当たりそうな弾は銃弾ぶつけて軌道変えたり、ナイフや刀で斬ってみたり、挙句の果てにはこの前素手で掴んで止めていた。

 

 いくらなんでも限度があると思う。正義実現委員会で初めて組んだ時はこんなに化け物じみてなかった。せいぜい明らかに銃弾を目で追って軌道を読んで躱す程度だったのに今となっては銃弾でお手玉でもするように相手を翻弄している。

 

 執務室について、与えられた机の上でめんどくさそうな様子を隠さずにペンを動かす彼。私も自分の報告書に集中する。パトロール中にマシロからの救援要請を受けて、ヘルメット団とスケバンの抗争に武力介入。全員を鎮圧のち、引継ぎっと……。

 

「キンジ、この後ご飯でも……」

 

「お前らが行くところなんか高いから却下だ却下。帰って食パンでも食うさ」

 

「じゃあ奢るっす」

 

「…………」

 

「そこで真剣に悩むのはちょっと引くっす」

 

 何でキンジはいつも金欠に悩んでるっすかね~。トリニティにいるんっすから別にお金に困ってるわけじゃないでしょうに。

 

 銃も私たちみたいに改造してオンリーワンに飾り付けたりもしないし、なんでなんすかね?キヴォトスじゃ愛銃に名前つけてペイントして改造するのが婦女子のたしなみなのに。キンジは3点バーストとフルオートの改造しただけで外弄らないし。

 

 唯一キヴォトスっぽいって思うのは近接戦用のバタフライナイフ、刀身が暗い緋色をしていてそれっぽい。背中にしょってる刀はそのままだし。ますますキヴォトスっぽくないっすね。

 

「と、遠山先輩……」

 

「ん、ああどうした」

 

「あの、その……拳銃の訓練に付き合ってもらえませんか……?

 

「……お前か。ああ、わかった。つーわけだイチカ、飯は今度な」

 

「いや、それ聞かされたら私も行かないわけにはいかないじゃないっすか」

 

 おずおずとした後輩ちゃん……たしか今年入部の子だったから12歳っすね。後処理を終えた後輩たちが入室してきてそのうち一人がキンジの袖を引いてだんだんか細くなりつつもキンジにお願いをする。

 

 私も昔そうだったからわかるんすけど、よく見わけがつくなとある意味感心するっす。他の区の治安維持部隊もそうなんですけどたいていみんな統一された見た目をしてるっす。うちの場合だと黒のセーラー服に前髪で目を隠すロングにベレー帽が基本。

 

 何でこれかっていうと恨みを買った場合の個人報復を阻止するためっすね。どこの区も顔の特定ができないように髪で目を隠すのを基本としてる。中等部の3年間はこれが必須で高等部から実力を、つまり報復されても跳ねのける力があると判断されれば服装規定は解ける。いやー私もハスミ先輩に認められるのは苦労したっす。

 

 思考が逸れたっすけど、キンジはなぜか後輩に好かれてる。なぜかというのは違うか、キンジは年下には優しく面倒見がいいので好かれてる。さらには現委員長のツルギ先輩と互角の実力者。一緒に任務に就けば積極的にこちらを守ってくれると来ればそれは慕われるのは間違いないっす。

 

 キンジに憧れて規定銃の突撃銃から拳銃への転換練習する子がいるほど。まあ私もサブで持ってるっすけどね、腰のうしろに。けっしてキンジの影響を受けてるわけではない。ほら、近接戦の時はアサルトライフルよりも拳銃がいいし……ツルギ先輩はショットガンで殴ってるけど。

 

「アイソレで構えろ。そうだ、俺の真似するなよ。反動をしっかり受け止めろ」

 

「は、はい」

 

 射撃場で隣から口頭で指示しつつもキンジも同じように射撃をする。狙った場所にしっかり当たっているあたり、ああならなくてもキンジは強いんだなと思う。

 

 ああなる、というのはキンジが戦う時のことだ。私も4年以上付き合ってようやくなんか違うんじゃないかと思えるようになったんだけど、キンジは本気を出すときキャラが変わる。いつものぶっきらぼうでどこかネクラなお人よしから、気障ですけこましな超人に。

 

 そのメカニズムはいまいちわかんないんだけど、今の私の推論だと精神的物理的問わないある程度の衝撃で入れ替わるって感じっすかね?例えばさっきの戦いだとヘッドロックで揺さぶってやったらかわったし。

 

 そうそう……そのキンジが変わった場面に気づいた時のこと……つまりはキンジが頭角を現し始めた中等部3年の頃の話。前線に出るのは高等部の役目だったので私たちは基本後方勤務で後片付けや訓練に精を出してきた。

 

 キンジと組むようになったのはほんとに偶然でたまたまくじの振り分けで組むことになったっす。当時の私は初めて見る同年代の男の子にどうしていいかわからなくてあたふたしてたなあ。キンジもキンジで対応も柔らかくてそれなりにうまくいってたっす。

 

 なーんでか知らないっすけど中等部3年あたりからキンジが妙によそよそしくなってパトロールでも並んで歩かずに単独行動か一歩前を行くか後ろを行くかで並んでくれなくなったし……。

 

 薄情じゃないっすか流石に!3年組んだ相棒っすよ!訓練も事件も酸いも甘いも一緒に潜りぬけた仲なのに!斜に構えてかっこつけちゃって!……正直今の方も似合っててカッコいいかもと思ってるのは内緒っす。

 

 そう、それで気づいたのは中等部3年の大規模事件の時だった。あの時はほんとにひどかった、なにせツルギ先輩が前線で暴れまわってるにも関わらず戦力が足りないなんて言われてたんすから。

 

 当時からすでに一つ抜けてたツルギ先輩が投入されてもなお、戦車やらミサイルやらが後方に飛んでくる始末で戦力が足りずに私たち中等部にもお鉢が回ってきたっす。同時にテロに介入するのは初めてだったのでガクブルでしたね。

 

 アサルトライフルはカタカタ震えて、照準だってまともにつけれない。あれだけ訓練したのに。もたもたしてたら、ミサイルが飛んできてバリケードごと私らは吹っ飛んだっす。思わず私はヘイローを持ってないキンジを抱きしめてかばった。あとで思い出してみるとその……恥ずかしいっすねこれ。

 

 焦った私は翼で何とか制動しようとしたんだけど、間に合わず地面に激突、というところで空中で態勢を入れ替わるように抱き留められた。いつもよりシリアスな顔をして、瞳を鋭くしたキンジに。危なげなく着地したキンジと人生初めてのお姫様抱っこで頭が真っ白になった私の唇に指を添えて……。

 

『いい子に待っててくれ』

 

 それだけ言ってキンジは崩れた前線に飛び込んでいった。訓練とは段違いの身のこなしで、見たこともない技を使って。後方指揮をとっていた当時の副委員長は口をあんぐり開けてたっすね。とっさに順応したのツルギ先輩くらいっす。

 

 結局そこはキンジが防御、ツルギ先輩が攻撃を受け持って鎮圧できたっす。後ろを気にしなくなったツルギ先輩はやばかったっすね。敵がみんな潰れた中身入りの缶詰みたいになってたっす。あれで息があるんだから恐ろしい……。

 

 あのキンジはなんなんだろうかって本人に聞いてみてもはぐらかしたりごまかしたりしたりばっかなので私は誓った。いつか絶対キンジの口から洗いざらい吐かせてやると。といっても本気で嫌がるのなら話は別っすけど。さすがにそのくらいの分別はある。

 

 だって、しりたいんだもの。あの私たちとは違う、固くてしなやかな筋肉に抱きすくめられたあの日から、あの黒曜の瞳に射抜かれたあの日から、絶対に届かない場所に置いて行かれたんだと悟ったあの日から、私の相棒はそっけなくなってしまったのだから。

 

 悔しいっすけど私じゃあどうやってもキンジについていけない。そりゃあ私だっていまや正義実現委員会では上から数えたほうが早いっすよ。でも違う、違うっす。キンジはいうなればあっち側っす。ツルギ先輩、ゲヘナの空崎ヒナ、ミレニアムの美甘ネル、アビドスの小鳥遊ホシノ……そういう、単騎で戦況を変える存在。

 

 一人でだって戦えるよう訓練した。ハスミ先輩に部隊を任せてもらえるほどに勉強した。拳銃だって上手になった。それでも、本気のキンジからしたら私は守られるべき存在なんだ。これを悔しいと言わずになんというのか。

 

 思えば不思議っす。だって、自慢じゃないけど私はやれば大概何でもできるから、結局長続きせずに終わるのが常だった。そんな私が、たった一人の人間、まあ性別とか含めればだいぶ珍しいのは認めるけど……それの人間観察に2年近く費やしてるものだから、驚異的な記録だ。

 

「イチカ、さっきから上の空だぞ。セーフティはかけてくれせめて。暴発したら俺は死ぬ」

 

「どこかの誰かさんが上の空にし……わーわーわー!いきなりマグナム抜いて頭に突き付けるなんて何考えてるんすか!はーなーすーっす!!!」

 

「ええい放せイチカ!あの俺は人生の汚点だ!掘り返されるくらいならいっそのこと!」

 

「ちょ!本気っすか!?み、みんな!キンジを拘束!」

 

 もう!キンジはこれだから!こっちのキンジはあっちのキンジがやったことを恥ずかしく思ってるらしくてちょっとおちょくるとこうなるのがめんど……玉に瑕っす!後輩ちゃんたちもキンジに群がってくれて年下には優しいキンジは身動きできず御用。

 

「はあ、もういいか。解散だ解散。おらイチカ、飯行くぞ」

 

「え、いいんすか」

 

「誘ったのお前だろうが。まああんま高いところはやめてくれると助かる」

 

 背中やら腕やらにしがみつく後輩ちゃんたちをひとりひとり優しく地面に降ろすキンジの言葉に私は自分の胸が高鳴ったのを自覚した。むぅ、ずるい。最初はあんなにそっけなくしておいて最終的には仕方ないなって付き合ってくれるんすから。最初にへこむこっちの気にもなってほしい。

 

 さっきまで使っていた白金の銃をショルダーホルスターに戻すキンジ。大きく開けたブレザーから覗く汗ばんだシャツから目をそらしつつ私は放課後に行こうと思ってたお店を高速でいくつかピックアップする。

 

「へっへーん。じゃあ、キンジ。今日はスイーツバイキングっす」

 

「おいおい、飯だっつったろうが」

 

「だってー、こんなにたくさんいるんっすから~?まさかかわいい後輩ちゃんたちを抜いて私と二人きりがよかったっすか~?」

 

「はあ、おら。行きたいやつは手ぇあげろ。さっきの訓練スコア上位5人は俺がおごってやる」

 

 はいはいはい!と後輩ちゃんが我先に手を挙げる。あー、もしかしてキンジが金欠ってのは後輩の面倒を見すぎなせいじゃないんすかね。と私はキンジがそういうならと残りの子の分を出してあげることにする。

 

 やったーと喜ぶ後輩ちゃんたちにほっこりとしながら私はいくぞと出ていくキンジを追いかけて小走りで並ぶ。いつもは歩調を早めるか緩めてずれようとするキンジも観念すればもう並ばせてくれる。

 

 ――――――――まあ、今はこれでいいっす。でもいつか、どこでも隣で歩いてやるっすよ。私、意外と辛抱強いって自分でもおもってるっすから。

 




 この世界のキンちゃん様

 女しかいないので緋弾のアリア本編よりヒス耐性が高いが、気を許した相手になるとタガが緩むのでヒスりやすくなる。かわいそう。モブちゃんたちはほぼヒスフリー女子認定。群がられようがノーダメだが、血流が危なくなるとやばくなる。え?イチカ?そりゃおめーヒスってんだからアレだよ。
 ノーマルキンちゃん戦闘力としては武偵校1年からずっと強襲科にいるキンちゃんがツルギ先輩に揉まれた結果くらいの強さです。分かりづらい?つたわれ。

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