エネイブルーアーカイブ 作:イチカの開眼好き好き侍
「それで~?遠山君はどうしてあそこにいたのかな~?おじさん気になっちゃうな~」
「ん、不自然。どうしてヘルメット団のトラックにいたの?」
「ずぞぞぞぞぞ……うまいなこのラーメン。簡単な話だよ、小遣い稼ぎだ。昨日後輩どもにしこたま財布を絞られてな。ヘルメット団を矯正局に送って財布を潤そうとしてたんだよ」
「それで助けられたと思うと複雑ね……」
俺が丼に入った黄金色の麺をすすりながら返答すると、隣に座っているセリカが微妙な顔でそんなことを言う。確かに最初は小遣い稼ぎをするつもりだったが途中から正義実現委員会所属のもんとして当然の行動をしただけだ。
”そうなんだ。君はもしかして外の世界からきたのかな?”
「いや、俺自身はキヴォトスの出身だ。ただまあ、ご先祖様は外の世界から来たらしいけどな。俺はたまたま神秘ってやつが宿らなかっただけだ」
セリカの反対隣……まあつまり俺の左手側に座っている先生が尋ねてくる。先生はどうやら外の世界からやってきたらしい。シャーレだったか?連邦生徒会が新しく立ち上げた学校間を超えて生徒を動員できる権限を備えた組織ってことしか知らんが。
あの後適当に言い訳して帰ろうとしたが、セリカから引き止められてなぜか先生を含めてラーメンを食べに行くことになった。朝から何も食ってなかったし昨日に引き続いてヒスったせいで確かに腹が減ってた俺は財布の中にラーメン代があることを確認して了承した。
で、その途中で自己紹介を受けた。まずは自称おじさんの小鳥遊ホシノ、タメだったらしい砂狼シロコに十六夜ノノミ、そんで奥空アヤネに黒見セリカというらしい。遠山キンジと名乗れば知っているやつはいなかった。トリニティの男子程度の認識らしい、面倒がなくてよかった。
それで、入ったのは郊外から少し入った場所にある柴関ラーメンというラーメン屋に入ってさてどこに座ろうかと考えたらボックス席に座るアビドスの面々。そこに入るのはヒス的になんかいやなのでカウンターを見ればすでにカウンターに座りぽんぽんと隣を叩く先生の姿が。えー……。
優しそうな笑顔、柔らかな金の髪と金の目。出るところはでて引き締まるところは引き締まる女性らしいボディライン、当然美人だ。そんな人、しかもヒス的に妙に弱い年上の隣に座るなんてヒスが解けた俺には拷問に等しいのだが挙動不審になって怪しまれても面倒だから、唾をのんでそこに座った。
「で、今度は俺が聞きたいんだが何でお前攫われたんだ?心当たりは?」
「あるわけないでしょそんなの!私が聞きたいくらいよ!」
「あー、気を悪くしないで聞いてほしいんだが……俺がいるトリニティはお嬢様学校だからな、身代金目的での誘拐は割とあるんだ。ただ正直、アビドスの惨状でわざわざ誘拐をする理由に検討がつかなくてな」
「気にしなくていいよ~事実だから。ん~~、セリカちゃんがかわいいからじゃない?」
「なるほどな」
「ちょ、ちょっと!ホシノ先輩何言ってるの!?」
今日の事件はなんだか匂う、と思って探りを入れてみると返事をしたホシノにごまかされた。どうやら何か隠すか探られて困るようなことがあるらしい。ま、それはそれでいいか。これ以上かかわるつもりもない。そう思って確かにカワイイセリカの容姿を上から下まで眺めて頷くとセリカは真っ赤になる。
「ま、無事でよかったんじゃないか。俺が居なくても何とかなっただろうしな」
「え~?そんなことないけどな~。おじさん助かっちゃったよ~」
「はい☆助太刀してくれてありがとうございました!」
「やめてくれ、偶然だ。それにシャーレが介入してるんだからそのうち問題は片付くか上に伝わるだろうさ」
「……それ、どういう意味?」
まずい、地雷踏んだか?さっきまでの腑抜けた声を一変させたホシノに空気が凍る。シャーレってのは俺の認識だと連邦生徒会から独立した組織とはいえグループ上は連邦生徒会って扱いだ。だから、シャーレの先生が見聞きしたことは上、つまりは連邦生徒会に伝わるはずだ。
アビドスの砂漠化は俺が生まれる前より進行しているが、連邦生徒会はほとんど介入しなかったかもしくはアビドスが介入を拒んだのかどっちかだ。なにせ
「連邦生徒会の人間である先生を受け入れたってことはアビドスの窮状がいよいよ進退窮まったか、救う方法があるかだろ?3人いれば文殊の知恵とは言うが、考える頭が一つ増えてしかも
”そうだね。私は生徒みんなの先生だ。アビドスの現状は無視できないしまずキミたちが諦めていない。なら私がやることは
「うへ、おじさん頭かたくなっちゃったかな~~。借金で頭がいっぱいになってたせいかも」
「ん、9億もあったら頭キャリーオーバーする」
「あはは、利子を返すだけで精いっぱいですけどね……」
「まった、借金?9億?……いや違うな。どこに借りてる?ここらだとまさかだと思うが……」
「カイザーローンよ!悪徳金融業者!」
………………なるほどな、アビドスが抱える問題ってのはこれか。借りてる先はカイザーローン、悪徳企業として名高い超巨大多角化企業だ。ネフティスが撤退してからここら辺の店は大体カイザーグループが牛耳ってるからな……いや、待てよ?
「あー、今から言うのは独り言だ。最近口がよく滑っていけないんだが」
「え、アンタいきなり何を」
”セリカ、しー”
「最近、ブラックマーケットが活発になってるらしくてな。法的に禁止された兵器だの、もう生産されない希少物だのの取引が格段に増えた。で、その中で資金洗浄に使われてる闇銀行の大本が、カイザーだっつー噂が流れてる」
「へー、それがどうしたのさ?」
「いいや?例えばの話、カイザーが回収した金がそこで洗われて犯罪に使われてる証拠でもあれば……悪い大人は困るんじゃねぇの」
「……ありがと」
なんのことやら、と俺はボソッと呟かれた礼を無視して少し伸びたラーメンを啜る。ブラックマーケットの闇銀行のバックはカイザー、これは正義実現委員会がつかんだ間違いない情報であり公然の秘密。漏らす俺は犯罪者ってか?でかい独り言が漏れちまった。
”優しいんだね、キンジは”
「俺の一族は昔から正義の味方なんぞをやってた奇特な家系でね、みんな命と口が軽かったんだよ」
”そう。だからなんだね、困っている人を見捨てられないんだ。それはすごく、大切なことだと私は思うよ”
だけど、命は大切にするように。と先生は微笑んで俺の頬を突っついた。俺の独り言はここまで、とラーメンに集中しなおすとコトリと目の前に新しい丼がおかれた。顔をあげると柴関ラーメンの大将が親指をぐっと上げてから背を向けるところだった。
角切りのチャーシューとネギがどっさり乗った丼は甘辛いたれが絡んで実にうまかった。前日に食ったのが甘ったるいスイーツだったのが効いてるのかしれんな。それはともかくアビドスのやつらには死んでほしくはないものだ。全くもって、そういう窮状にいるべきじゃないやつらばかりだからな。
「で、結局金は稼がないといけないわけだ」
『ち、ちくしょう……』
「運が悪かったな」
目の前で手足を捥がれたロボットが悪態をつく。賞金首だ、名前は知らんが値段にすりゃ100万クレジットと少し。運がいい、人助けした結果かな?
ロボットの場合、たいてい指定はデッドオアアライブだ。というか、中身の中枢チップさえ無事なりゃそれを持っていけばいい。生徒の場合は完全に生かしてないといけないが、ロボットに関してはその限りじゃない。
「ご協力、感謝します」
「おつかれさん。こんなところにもいるんだな」
「はい!ヴァルキューレ警察学校はキヴォトスの治安を守るのが任務ですので!」
「そっか、がんばれよお巡りさん」
「ありがとうございます!あ、申し訳ありません。賞金報酬のことなんですが……先ほどトラブルがありまして振込ができないとのことです。急ぎということでしたら公安局に直接来ていただければお渡しできます」
マジかよ、と思ったがしょうがねえ。キヴォトス全体の治安を監視しているヴァルキューレ警察学校のお巡りさんに文句言ってもしょうがないしな。せっかく半殺しで止めたのに容赦なくとどめを差して中枢チップを抜くお巡りさんから目を逸らし、俺はD.U.内にある公安局に行くことにした。
まあ、D.U.つまりは連邦生徒会直轄自治区はだいたいの自治区から電車一本で行けるので楽だ。生活安全局を通り過ぎて公安局に入り、賞金首の報告を済ませる。良く動くタクティカルベスト姿のお巡りさんたちを見送りながら備え付けのソファーで番号が呼ばれるのを待つ。
お、あれは……と事務局の奥の方で見覚えのある薄い金髪ととがったケモノミミが見えた。あっちも俺の視線を気取ったのか目が合う。あいつは公安局長の尾刃カンナ、俺より年上だがまあほかの女子に比べりゃ仲はいいほうだ。
厳しい顔つきで書類を睨んでいたカンナは俺と目が合うとパチクリとした顔をしたのちふっと微笑んで手に持っていたマグカップをこちらにくいっと動かす。ああ、一杯付き合えよってことか、しょうがねえな。俺は適当に手を振って視線を外す、番号が呼ばれるまでは暇だっつーの。
「大将、適当に盛り合わせてくれ」
「あいよ」
「すまない、待たせた。店主、特製ウーロン茶ふたつ」
D.U.の外れの外れあたりにある屋台に座っていると暖簾をかき分けて、制服のジャケットを腕にかけたカンナが入ってきた。彼女は軽く俺に謝ってからすっと俺の隣に腰掛けて飲み物を注文する。ジャケットを隣に畳んで置いた彼女が渡されたウーロン茶の湯呑を掲げる。
こつん、と湯呑を軽くぶつけて乾杯。軽く口を湿らせる程度に口をつけた俺に対しカンナはぐいーーっと一気に飲み干して息を吐いた後、同じものをオーダーした。
「で、なんか用か。忙しいんじゃねえの?公安局は」
「確かに忙しいが、今は息抜きができなくなるほどでもない。折角愚痴を吐ける相手が自分から飛び込んできたんだ、逃がす理由もないだろう?」
「あのなあ……」
「それもこれもお前がヴァルキューレに編入してくれればすべて解決するのだがな」
「勘弁してくれ。どうしてもっていうのならティーパーティーを説得するんだな」
それができれば苦労はしない、とまた湯呑に口をつけるカンナ。遅れてやってくる焼き鳥を手に取る。俺はもも、カンナはナンコツだ。まあなんだ、たびたび俺はカンナからスカウトされている。トリニティからヴァルキューレに入って直属の部下になってくれないか、と。
残念ながら俺にはヴァルキューレの激務をこなしつつキヴォトスの中枢を背負う気力はないし、まあティーパーティーのロールケーキと紅茶を嗜むお嬢様に無理やり入らされたとはいえ今じゃ正義実現委員会の中央あたりにいるんだ。おいそれと転校もできない。
「ふん、SRT特殊学園が解体されるという話が実質決まりかけてるのは知っているだろう。いまヴァルキューレで受け入れの準備を進めているが……なまじ実力がある分上に反抗的なやつも混ざっててな。傷つけないように押さえつけられる人材が欲しい」
「SRTの解体か……あの生徒会長が居なくなったとはいえ無くすなんて勿体ねえな。無くすのだってただじゃないだろうに」
「予算の問題だ。SRTの任務は特殊性が高いからな、一回出動させるのにもヴァルキューレの数倍、悪ければ数十倍予算が飛んでく。命令できるのも生徒会長だけ。軍隊は暇しているくらいがちょうどいいが、制御できない武力集団となれば連邦生徒会も怖がる」
コリ、とナンコツをかみ砕きながらカンナは溜息をついて俺にもたれかかる。勘弁してくれ、お前のスタイルで接触されたらヒスりかねん。まあとにかく疲れているのはわかった。カンナは美貌の割には接しやすいしこうやって飯を食うのも嫌いじゃない。
惜しむらくはこいつに何度かヒスって口説くような真似をしちまったからこの関係が出来上がったことなんだが。ふざけんなよ俺、何が『君の愛らしい顔が歪むのは我慢ならないんだ』だ。それで武装車10台無血開城させたら頼られるに決まってるだろ。
「まあ、困ったんなら連絡しろよ。暇だったら助けてやる。暇じゃないけどな基本」
「……そういったお前が来なかった試しがない」
そりゃそうだろ。女ってのは守るもんだ、たとえ相手が強かろうがな。キヴォトスには基本女しかいねーから男女差なんてものは欠片も見当たらんが、世界ができたときからそういうルールだってご先祖様が書き残してるからな。勝手に頼れ、勝手に助けるから。
女しかいないのでキンちゃんの友達はみんな女、しかたないね。キンちゃんの知り合いは今のところ各地に点在しています。現地妻?いやいやまさかまさか。大体が治安維持部隊ですけどね。
あと原作キンちゃんより懐具合はかなりましです。便利だぜキヴォトス賞金首。目を放せば勝手にポップしてるんだから。