エネイブルーアーカイブ   作:イチカの開眼好き好き侍

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ブラックマーケット潜入任務

「けひゃ、けひゃひゃひゃひゃ!」

 

「なんですかツルギ先輩」

 

「キンジ、もう動じなくなったっすね」

 

 ばたむ、と扉が開いて姿を現したのは血が滴るような赤いヘイロー、ボロボロで一部真っ赤に染まった制服。極端な猫背と狂気に満ちた顔、寄声をあげて笑い続けている女であった。というか俺の上司だった。

 

 剣先ツルギ、トリニティ正義実現委員会の首領、ボス、社長。まあ平たく言えば委員長というやつである。理性が全部吹っ飛んでいるように思われがちだが根は冷静で指示も的確、言動がイカれているもののくくりで言えば常識人だな。ふいに抱き着いてきたりもしないし実にヒス的には安全な先輩だ。

 

 彼女を語るうえで外せないのはその実力。ヒスった俺と全力で殴り合える女だ、一撃で並のキヴォトス人が重症に追い込まれる威力を持つショットガンを2丁同時に扱い、怪物じみた身体能力でごり押してくる。これがまたなまら強い。油断すれば中身入りの潰れたトマト缶になりかねないんだ。

 

「はひゃ……ふひ……」

 

「でもツルギ先輩はいまだにキンジには慣れないんすね」

 

「はー……ツルギ先輩深呼吸して要件をどうぞ」

 

 で、この人の面白いというか厄介なところは若干コミュ症なところだ。特にキヴォトスにおいて非常に珍しい男である俺に対してはめちゃくちゃ緊張してアガってしまうらしく、たいてい奇声とよくわからん動きからスタートする。

 

 後輩たちはツルギ先輩のことを怖がってしまっているが、別にこの人悪い人じゃないんだよなあ。まあ戦闘後みるとPTSDになるやつがいるくらいひどかったりはするんだが、そんなもんキヴォトスじゃ今更だろ。

 

 関わってから結構経つから何となく今何を考えてるのかはわかるんだけど、昔はハスミ先輩の通訳がなきゃコミュニケーションにも苦労したな。すーっと深呼吸したツルギ先輩は俺を指さした。

 

「キンジ……ティーパーティーが呼んでる。すぐいけ」

 

「は?ティーパーティーがですか?うっげ……」

 

「あの人達に呼び出されてそんな顔できるのはキンジくらいっすよ」

 

 そりゃこんなお酢を一気飲みしたような顔にもなるわ!いいか、ティーパーティーのアレ!桐藤ナギサは俺をこの正義実現委員会に放り込んだ張本人にして会うたびに面倒ごとを押し付けてくるんだぞ!

 

 トリニティ総合学園はティーパーティーと呼ばれる生徒会が運営してるんだが所属してるのは3人、権限は同格!だが今回のホスト、生徒会長役がナギサなもんだからだれも止めやしねえ!この前は単騎で傭兵団の殲滅させられたり、1か月前は潜入任務!難易度が高い割に報酬があるわけでもねぇんだ!こんな顔にもなるわ!

 

「んー、私はナギサ様もミカ様もセイア様も好きっすけど……正義実現委員会は分派に縛られないのが利点っすね」

 

「嫌いなわけじゃねえよ?ただ、あの人からの命令は何かと面倒なんだよ。じゃ、行ってくるわ。イチカ、残り頼んだ」

 

「はいっす~。あいぼーにおまかせあれ~ってほとんどやってないじゃないっすか!キンジー!」

 

 許せ相棒、俺は頭がよくないんだ。腕を振り上げて怒るイチカをそっと抑えるマシロに軽く手を振って俺は詰め所より抜け出す。無駄に豪華な装飾があちらこちらにある廊下を歩き、お嬢様ばっかりでなんとも馴染みにくいティーパーティーの執務室がある建物に向かう。あー、何でもかんでも高そうでコケただけでも震えそうだね。

 

 でかい両開きの扉の前にいるティーパーティーの一般生徒と髪の下の目が合う。彼女らはそっと俺から目を逸らして、制服のスカートをつまんでカーテシーをした。やめてくれよ学校の制服ってスカート短いんだから。どでかいため息をついて開けてくれたドアを通って中に入る。

 

「まあ、キンジさん。お忙しいところ恐れ入ります」

 

「あ!キンジくん!やっほ~☆」

 

「忙しいのはお互い様だって思ってたが、お前らは案外暇してるんだな」

 

「ふふ、いえ?キンジさんを呼び出すのですからこうして歓待の準備をしていたのですよ?ささ、お座りになってくださいな」

 

「えー、ナギちゃんったらキンジくんを呼び出したあとそわそわして紅茶たくさんお代わむぐぐぐ~~~!?」

 

 いらん、と突っぱねようとも思ったが機嫌を損ねると後が面倒だ。近衛のやつらは俺が入った瞬間抜けてドアを閉めていったし、マジで何の用なんだ。こういう時たいてい機密性の高い任務が来るから構えちまうんだが。

 

 で、目の前にいるピンク髪で柔らかそうな白い翼を腰に生やし、渦巻く銀河のようなヘイローをもって口にロールケーキを一本詰め込まれてる女が聖園ミカ、んで長い髪、花の髪飾り、太陽のようなヘイローと長い翼をもち……顔を赤くしてミカの口にロールケーキを詰め込んでいるのが桐藤ナギサだ。

 

 無言になってもっもっとロールケーキを食べるミカ様は置いておいてナギサ様の対処をしないとな。しょうがなく席に着くと、ナギサ直々にポットに入ったコーヒーを注いで切り分けたロールケーキを俺の前に置いた。

 

「お願いがあります。キンジさん、ここ最近ブラックマーケットが活発化しているのはご存じですか?」

 

「そりゃな。スケバンを見る回数も増えた」

 

「はい、トリニティにおいては安全のため立ち入り禁止になっている場所です。ですが、最近はそれを破って入りびたる生徒がいるという話が議題に上がりました」

 

「見つけて連れ戻せってか」

 

「それができるといいのですが……入るには理由があるはずです。もしも、トリニティ内部でその理由を解決できるならばその生徒はブラックマーケットに入らなくてよくなるでしょう。連れ戻してもまた行ってしまうなら意味がありません」

 

「なるほどな。トリニティの金にはあまり不自由してないお嬢様たちが、どうしてそこに行かなければならないのかを突き止めろってことか。あーあー急いで食うからだよ。ほれ」

 

「んぐっ!コクッコクッ……にがい!?これコーヒーってまさか!」

 

 なんか構えてて損したな。ナギサから説明された話は今までの任務に比べれば筋道がきちんと通っていた。ブラックマーケット活発化はハスミ先輩も懸念事項として挙げていたし、何か理由があって……例えば犯罪組織に脅されたりしてブラックマーケットにはいる必要がある生徒がいる可能性は、放置していいもんじゃない。

 

 ロールケーキ一気食いでのどを詰まらせたミカに手元にあったカップを渡すとぐいっと一気飲みして顔をしかめている。俺は顔を赤くしてカップを見つめるミカからカップを取り返し、ポットの中からコーヒーを追加して口を湿らせた。

 

「わ、わー、お……」

 

「おほん!とにかく、です!ティーパーティーのホストとしてキンジさんに任務を言い渡します!ブラックマーケットに潜入し、トリニティの生徒の安全を確保してください」

 

「了解。ンじゃあ、行ってくるわ」

 

「あ、でもあなたはブラックマーケットでも有名です。ですので、決してあなたとわからないようにしてください。つまるところ、変装です。女装などいかがでしょう?」

 

「…………はあ?」

 

 

 

「ほ、ほえ~~…………」

 

 ブラックマーケット、キヴォトスでも有数のアンタッチャブルで連邦生徒会の手どころか目も入らない危険地帯。ありとあらゆる悪徳が集う街、文字通りなんでもある街だ。

 

「す、すごいっす……キンジにこんな特技が……!」

 

 まあ闇市程度でいちいち驚いてはいられないだろう。ここはキヴォトス、銃弾と暴力と女が跋扈する不思議な不思議な学園都市だ。そう、だから俺も屈してはならない……!この、この屈辱から!

 

「ゆるすまじ桐藤ナギサ……!」

 

「はいはいクロメーテルちゃん男の子がでてますよ~~」

 

 思わず口を突いて出た怨嗟の声を隣にいたシスターフッドの制服を着たイチカが出発時から変わらぬ驚きを口にしつつ俺に注意をして背中をポンポン叩いてくる。俺はいつもの正義実現委員会の制服、ではなくシスターフッドという部活?委員会?の制服を着ている。

 

 女物、女物である。男としての誇りはどこに行ってしまったのか。だが任務となれば拒否はできない、残念ながら!誠に!遺憾ながら!俺は男の尊厳を捨て女装という最悪の一手を繰り出さざるを得なくなったのだ。

 

 まず黒いロングのカツラ、それをごまかすシスター服のヴェールにゆったりとしたシスター服の中に主張する胸……そこらへんのコンビニで買ったあんパンを詰めただけなのだが、それで通るんだから女ってのは神秘だ。

 

「早く終わらせて帰りたい……」

 

「え~~、せっかくクロメーテルちゃんの隠れた才能が発掘できたのに~~。もったいないっす」

 

「やめろ抱き着かないでくださいまし」

 

 かすれるような声で俺の腕を胸に抱きよせるイチカの手を振り払う。そうだよ!俺は今女装してるんだよ!名前は神崎クロメーテル!シスターフッドのちょっとやんちゃな不良シスターって役でな!業務命令には逆らえねえんだコナクソが!

 

 で、こんな業務一人で終わらせたいと思ったら相棒にも出勤命令がでてこのざまだ!ああクソ!女装してる姿なんぞ誰にも見られたくなかったのにやってられるかこんなもん!今すぐカツラを地面にたたきつけてえ!

 

 そんなことを言ってもしょうがないのだ。真面目にやろう、こんなの真面目にやってもしょうがないけど。そう考えてると視線の先にちょっと見慣れたものが見えた。建物の影にもたれかかるように立ってタブレットを持ち、インカムで指示を出してるであろう先生の姿が。

 

「イチカさん」

 

「はいっす」

 

 名前を呼ぶだけで察してくれた相棒に感謝しつつ路地裏に入って先生を観察する。スカート内に隠した指向性収音マイクを先生の方に向けたイチカが指で3,2,1、コネクトとOKサインがでた瞬間、ヴェールで隠してるインカム内に音声が出力される。

 

”うん、できるだけ傷つけないように。それとあくまで証拠の確保に努めること。特にヒフミは巻き込んじゃったんだから後ろで、ね?覆面水着団?あはは……あなたたちがそれでいいならいいけど”

 

「いまヒフミって……」

 

「しっ、まだ続きがある」

 

 声を出さずにイチカとやり取りしてると突然爆発音が響く。何事かと先生に集中してた視線をさまよわせると別砲口の建物の壁面が塵でおおわれていた。明らかに爆破した跡だ。やられた建物は……ブラックマーケットの主要銀行!?

 

「い、いくらシャーレっていってもこんな無法が通るものなんすか……?」

 

「……無法地帯だから無法行為しても問題ないんだろ」

 

「……あの紙袋の彼女、とても見覚えがあるんすけど」

 

「奇遇ですね、わたくしもですわ」

 

「キンジが動揺のあまりお嬢様になったっす……」

 

 爆破された壁から出てきた一団に俺は非常に見覚えがあった。というかアビドスのやつらだった。なんだったら一人増えてた。我らがトリニティ総合学園の白制服に身を包んだキモイデザインのバックを背負った紙袋がいた。というか知り合いだった。うそだ。

 

 明らかに札束がパンッパンにつまったボストンバックを担ぐ目出し帽をかぶったアビドスの連中は颯爽とブラックマーケット治安部隊、マーケットガードを打ち倒して逃走を開始する。

 

 で、その俺とイチカが見覚えがあるやつというのがその手書きの5を燦然とオデコに掲げたやつ……推定阿慈谷ヒフミがぺこりと頭を下げて逃走を開始した。俺らが唖然としているうちに先生もすっとどこかに姿を消した。

 

 もう驚きすぎて追跡どころじゃなかった。流れ弾がコンクリートを抉る音で正気に戻った俺たちは路地裏の奥へ進んでいき、カツアゲのスケバンを流れ作業で気絶させ、会議をする。具体的にはどうナギサに報告するべきかを。

 

「ど、どどどどどうするっすかキンジ!ヒフミさんが銀行強盗してるっす!」

 

「お、おおお落ち着けイチカ、こういう時はあるがままをナギサに報告をだな」

 

「できるわけないっす!ナギサ様気絶しちゃうっすよ!?なんでやったかすらつかめなかっただなんて無能の烙印を押されるようなもんっす!」

 

「無茶言うな!ここに入った瞬間にアレで理由なんざわかるか!」

 

 確かに俺はカイザーと闇銀行はズブズブだっつー話をしたがそれで銀行強盗するって答えがでるわけないだろ!なんか理由があるはずだ!考えろ!なんでアビドスのやつらがここにいて、ナギサが妹のごとく大事にしてるヒフミを巻き込んで銀行強盗なんかさせてるんだ!?

 

「……イチカ」

 

「……はいっす。多分考えてることおなじっすよね」

 

 俺とイチカはそろって頷く。釘バットをもって後ろから近づいてくるロボットの脳天を撃ちぬいてから俺たちは異口同音を発した。

 

「「とりあえず上に投げよう」」

 

 さすがだぜ、相棒。




 ナギサ様に覆面水着団のことを伝えたのはキンジだったんだよ!という話でした。これでエデン条約編で補習授業部ができちゃうのおいたわしすぎない?ナギサ様信じれるものなくてかわいそう。
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