エネイブルーアーカイブ   作:イチカの開眼好き好き侍

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現実逃避のゲヘナ旅

「南無」

 

「いやキンジいつまでやってるんすか」

 

「さすがの俺でもあの状態のナギサには思うことがあるんだよ」

 

 ブラックマーケットへの潜入任務を恙なく……?まあ恙なく終えた俺たちはシスターフッドの制服を自宅の屋根裏部屋に安置した後あんパンをかじってから重い足でナギサへと報告に向かった。

 

 向かった……はいいのだが……いやマジで何をどう報告したもんか迷いすぎて1時間くらいイチカとすったもんだしてたんだが結局は俺も組織に属する人間でトリニティの公僕みたいなものなのだ。ありのままを伝えなければならなかった。

 

 で、俺たちは恐る恐るナギサのところまで行き、ブラックマーケットに潜入した途端覆面で顔を隠した集団が銀行強盗を決行、大混乱ののちに姿を消したこと、そしてそのうち一人がトリニティの制服を着ていた。

 

 というか、顔を隠していたもののヘイローと持ち物から阿慈谷ヒフミであるという確定的推論を報告した。たまたま一人でお茶をしていたナギサはそれでブーーッとお嬢様らしくないせき込み方で紅茶を吹き出しいつもの様子をかなぐり捨てて

 

『そんなはずありません!ヒフミさんが……ヒフミさんが他校の生徒と協力の上しかもブラックマーケットで銀行強盗などと!』

 

『そういわれても見ちまったものは見ちまったんだよ。ありゃヒフミだ。使ってる銃も同じだったし』

 

『あんまりふざけた報告をすると私自らあなたの口をふさぎますよ!ロールケーキで!』

 

『ふさげるものならふさいでみやがれ。つーかロールケーキは武器じゃねえんだよ』

 

『ああ……そんな……』

 

 そんなやり取りののちナギサは心労がたたったのかふらっと気絶しちまった。そりゃあ衝撃的だろうな、妹分が実は銀行強盗だったんだぜなんて報告受けりゃ。すぐに目を覚ましたんだが、それで俺に改めて嘘じゃないことを確認して

 

『ああ、ごめんなさい』とか『大義の……エデン条約のため』とかぶつぶつ言って、一呼吸したらいつも通りに戻った。いや、いつも被ってる笑顔の仮面をより硬くしたっていう感じになって俺を退室させた。いやな予感するなーああいう顔。

 

 エデン条約ねえ。トリニティの自治区に接しているゲヘナ学園との平和条約のことなんだが発案者の連邦生徒会長がどっかに行っちまったもんだから宙ぶらりんのぐらぐら状態なんだよなー。ゲヘナのやつらとは何度かドンパチやってるが別に悪感情はない。

 

 銃撃略奪恐喝その他もろもろ……悪いことなのは確かだがそんなもんキヴォトスみりゃ1分に一回起こってるんだよ。ゲヘナとトリニティの犬猿の仲の理由は知らんが、俺のルーツはもともと『外』だ。悪いが興味ないな。

 

「ゲヘナに行くか、暇だし」

 

 ぽつりと独り言が漏れる。大のゲヘナ嫌いであるハスミ先輩に聞かれてやしないか心配だったがそんなこともなさそうで安心した。南無南無と手を合わせていた俺と十字を切っていたイチカ。イチカはこの後仕事が入っているが俺はフリーだ。

 

「ゲヘナのお土産で手を打つっす」

 

「期待すんなよ」

 

 いつもの薄目を軽く開いてわざとジト目を作るイチカにお先と声をかけて俺は詰め所を後にする。ゲヘナに行くのも久々だな。なにせ敵対地域だから、絡まれる回数が多いのなんの。私服に着替えていこう、面倒が減る。

 

 防弾ジャケットとスラックスに着替え、適当な電車……相変わらず落書きひでーな……に乗ってゲヘナ自治区に行く。当然だが人はいない、当たり前だ。電車が通ってるのが奇跡……いや、そこらへんはハイランダーのさじ加減か。儲かってはいないと思うがな。

 

 で、なんで俺がトリニティにとっては敵対地域になるゲヘナに行くのが暇つぶしになるかというと、こっちにも友人がいる。それだけの話だ。こいつがまた料理がうまいやつでな、俺の胃袋を握りかけている。飯っていうのは大事だぜ?なにせ食わなきゃ力は出ない。

 

 よくよく考えれば俺はいろんな自治区に顔見知りがいるな。アビドスは別としても結構顔が広いか?まあ、なんせトリニティはかたっ苦しくていけねえ。俺の性格的にはゲヘナが一番合っているだろうが、比較的平和なのはトリニティだ。ミレニアムって手もあったがあそこは定期的に爆発が起こるからおちおち昼寝もできん。

 

 実は進学時点だとアビドスも候補にあったんだが……もうなくなる自治区だと見切りをつけていかなかった。正解か不正解かなんて言えないが、トリニティもなかなか気に入ってるよ。なにせコーヒーがうまいからな。高いけど。

 

 電車から降りると、香ってくる。火薬の匂いと、銃声。あとごみの匂い。そこかしこにあるポイ捨て。あー、自由だなほんとに。さて、どこへ行くか。なにせ俺は正義実現委員会、ゲヘナ学園に入れるわけもなし。

 

 あ、連絡入れてねえとスマホを出してモモトークを開き……目的のトーク部屋を開いてさてどう打ち込もうかと考えてしばらく止まる。いやしかし、あいつはあいつで忙しいはずだ。なにせゲヘナの兵站を管理している女だ、1000人単位の学食を用意するとなると休みでもない今連絡して時間をとらせるのも気が引ける、しょうがない今日は一人でぶらつく―――――

 

「……」

 

 ぶるるぉんとアクセル全開で目の前を通っていく車があった。何のことはないトラックだ。金髪で角が生えた女が満面の笑みで運転していて、トラックの荷台にはぐるぐるに簀巻きにされた女がいた。額から木の枝のような角が生え、そこに髪をひっかけ、三角巾を頭巾にして制服の上からエプロンをかけた……俺の友人だ。

 

 諦めたような顔をしたそいつは缶コーヒーを口に着けた俺と目が合うと驚いたように目を見開く。見開いた拍子にぽろり、とその宝石のような紅玉から雫が柔らかな頬をつたった。おいおいおいおい――――ドクッときた。

 

「人の友達()に何度も手ぇ出してると……百叩きじゃすまねえぞ」

 

 下手人は女なのに思ったよりも低い声が出た。ヒスっている俺にしては珍しい、がさもあらん。今の俺の状態はヒステリア・ベルセ。女を奪われた時に発動するヒステリアモードの派生形、女を奪い返すためのヒステリアモードだ。

 

 思考が攻撃一辺倒に染まる代わりに強化倍率は通常の1.7倍……おおよそ通常時の50倍まで上昇する、しかしなぜなれた?犯人は女なのに……と考えたところで思い当たった。あいつが泣いたからか。しかしまあ、よく被害に遭う女だ、被害者も加害者も知り合いとかゲヘナはこの世の終わりか?

 

 バツッと音をたてて走り出す。秋水の足バージョン、秋草で全力で蹴りこんだコンクリの道路は俺の靴底の形にへこむ代わりに、俺をほぼ亜音速で撃ち出した。

 

 スーパースローの視界の中、俺だけが通常通り動いているような感覚。俺がいることを察して顔を青くして全力でアクセルを蹴りこんでる女……鰐淵アカリに狙いを定める。今回はなんでこいつを拉致するような真似をしたのか知らんが……悪い子にはお仕置きだ。

 

 追いついて、オープンカーのようになっている助手席に乗り込む。そのまま何かを言おうとしているアカリのあごをさらりと撫でると、ふっと彼女は意識を失った。さすがに女相手に本気で殴る蹴るの暴行を働くわけにはいかん、顎を少し揺らして気絶させるだけにとどめよう。

 

 隣からハンドルを握り、アクセルを放させてあとは減速させるがままにし、100mほどかけてトラックを停めてエンジンを切る。何で知り合いに会いに来たのにその知り合いはこれまた別の知り合いに拉致されてんだよ。

 

「フウカ、無事か」

 

「ぶぇぇぇぇんキンジくん~~~~!!!」

 

「おっごぇ!?フウカ角!角が刺さってる!」

 

「助かった!助かりました!ここでまた拉致されて料理させられてたら明日の献立が間に合わないところだったんです!これでまた仕込みが再開できます~~!」

 

 ハンカチの口枷を外し、荒縄をほどくと拉致されかけてた知り合いというか友達……愛清フウカは涙を流しながら俺を力いっぱい抱擁した。キヴォトスの人間の力強さと頑丈さはここでも発揮されて俺の脇腹にフウカの角がぐりぐりと突き刺さりなまら痛い。いたたたたた!?おい貫通するぞこれ以上すると!

 

「はぁ……ほんとにありがとうございました。なんだかまた美食研究会の皆さんが珍しい食材を手に入れたとかで私が必要だって言ってそれで」

 

「懲りねえなこいつら」

 

「ぐぇ、キンジ君??その、もう少し手心を加えてくれると嬉しいというかなんというか」

 

「悪いが今の俺はフウカの味方だ。言い訳は風紀委員にしろ。お前らもこれ以上手を出すと全員ふんじばるぞ」

 

 浅く揺らしたのでもう意識を取り戻したらしいアカリをフウカを縛っていた荒縄で拘束しなおしているとビル上にアカリが所属するほかの美食研究会の面々――――黒舘ハルナ、赤司ジュンコ、獅子堂イズミが見ていたので警告を入れる。仕方ありませんと口にして他の面々はアカリを見捨てて退却した。いつも思うが薄情だな~。

 

「……あれ?どうしてキンジくんがここにいるの?」

 

「お前に会いに来た、暇だったからな。まあ忙しいと思ったからやめて適当にぶらつくつもりだったんだが」

 

「ふぇ、え、連絡してくださいよ!途中でやめたりしないで!何食べたいの?」

 

「最近ストレスが溜まってるから胃にやさしいものを頼む」

 

「あの私にもおすそ分けを……」

 

 適当なポールに縛り付けたアカリがフウカに料理を要求する俺に便乗しようとミノムシのごとくうねうね動くが、だいたい(눈_눈)こんな感じのあきれ顔をしたフウカは無言で運転席に収まり、俺の顔に手を添えて無理やりアカリから視線を外させると車を発進させた。

 

 フウカはたいていこいつら、美食研究会の被害に遭っているのだが今日は特に怒っているっぽいな。哀れに思った俺はクロメーテル変装用の潰れかけあんパンをやつの頭にノールックで放ってやり、あとは見なかったことにした。

 

「しかしいいのか?さすがに急すぎるしお前も忙しいだろ。お前の兵站がなくなりゃゲヘナも困るだろうし」

 

「知りません!せっかく作ってもやれ味が薄いだの肉が足りないだの酢と塩をよこせだの文句ばっかり言うゲヘナ生よりもおいしく残さずきれいに食べてくれるキンジくんに食べてもらった方がモチベーションが上がります!はー、トリニティに転校しようかな……」

 

「フウカ」

 

「はいっ!ひゃっ!?」

 

「眉間にしわが寄ってる。折角カワイイ顔してるんだからせめて俺の前では笑顔でいてくれ。フウカの料理も好きだが、俺は君が笑っている方がもっと好きだ」

 

「……うぅ、ほんとにあなたは……すけこましです」

 

 立派な黒歴史を作った気がしたが原因を排除したことでベルセからノーマルに戻ったヒステリアモードは絶好調だ。まあ、刺激も何もないからすぐに解けるだろうが。

 

 運転しているフウカの頬にフェザータッチしてみれば、ぷりぷり怒ってたフウカは真っ赤になって愚痴を中断する。悪いね、この俺は女の子の顔は涙や怒りよりも笑顔で彩りたいんだよ。

 

 相変わらず死ぬほど警備がザルで適当なゲヘナ学園に入る。部外者なんてお構いなしだ。顔見知りどもはトリニティの俺にもやっほーと適当に手を振ってくれる。まあ、トリニティはともかくゲヘナの場合トリニティに骨肉の憎しみを向けてるのは一部だしな。大抵は『どうでもいい』だ。

 

 フウカに背中を押されて待っててくださいね~♪とゲヘナの第8食堂に押し込まれた俺は、まあいいかと備え付けの麦茶を座って口に含む。うっす!出がらしだぞこれ!さすがゲヘナだ。まあ適当に席について待っていた。

 

「なんであなたがここにいるの」

 

「飯食いに来た」

 

「呆れた……エデン条約を前にしてこんなスパイ行為ともとられかねない行動をするなんてあなたくらいよ、キンジ」

 

「お前こそ何でこんなところにいるんだ?」

 

「あのねえ、私と互角のあなたが突然ゲヘナに現れたって言われたら私に連絡が来るに決まってるじゃない。あ、でもあの子を助けてくれたのは感謝するわ」

 

「何もしてねえけどな」

 

 フウカの楽しそうな鼻歌が厨房から聞こえてくる。その時俺の後ろ、フウカがルンルンで鍵をかけたはずの扉のノブがねじ切れてなんかもふもふでちっこいのが入ってきた。ゲヘナ最強の風紀委員長、空崎ヒナだ。

 

「ドンパチするつもりはねえぞ」

 

「私もそう。あなたとは必要でも戦いたくないわ。そういえばあなたアビドスで何してたの?」

 

「小遣い稼ぎ」

 

「あなたが転校して風紀委員に入ったらお金には困らないわよ」

 

「冗談だろ、ゲヘナはやかましすぎる。俺は平和にのびのび暮らしたいんだよ」

 

「残念。あなたが入れば私の仕事も楽になるのに」

 

 ヒナはなぜか俺の隣にぴったりと座って体重を預けてくる。まだ若干ヒスが残ってる俺は邪険にする気が起きなくなりされるがままになっている。ちなみに俺は明日ナギサにしこたま怒られるだろう、仮想敵と仲良くする主戦力とはどういうことですかってな。しったことかだけど。

 

「あれっ!?ヒナ委員長!?鍵は!?」

 

「私が食堂にいるのがそんなにおかしいのかしら?フウカ、私にも何か頂戴」

 

「え、ヒナ委員長弁当派ってひいっ!?」

 

「や・め・ろ。俺のを分けてやるから威嚇するな」

 

 山盛りになったワンプレートをスキップするような勢いで持ってきたフウカがヒナにビビり倒しているが、ゲヘナの学生であるヒナが学食にいるのは何らおかしいことではない。フウカに威嚇しようとするヒナの頭を軽くはたいて、間違いなく旨そうなフウカのワンプレートに俺はありつくのだった。




 ゲヘナの現地妻(語弊がある表現)はフウカさんです。可愛いよね作者大好き。キヴォトスでは女しかいないのでキンちゃんの俺の女(婉曲表現)判定はゆるゆるガバガバです。多分泣いた方につきます

 
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