エネイブルーアーカイブ   作:イチカの開眼好き好き侍

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アビドス砂漠へ

「まったく貴方は!今のこの微妙なタイミングでゲヘナに行くとは何を考えているのです」

 

「へーへー、ほら。土産のゲヘナ産カカオだ」

 

「……もらっておきますが!」

 

「そこでもらうあたりナギちゃんもナギちゃんだしキンジくんもキンジくんだよねえ~」

 

 ゲヘナでしこたま飯を詰め込んでついでにフウカの家で一泊した後、トリニティに帰ると俺を待っていたのは予想通り怒髪天をつくナギサのお怒りであった。

 

 ホットチョコレートにするとおいしいですよとフウカに勧められたゲヘナ産のカカオを渡すとナギサはぷりぷりと怒りながらも受け取る。ちなみにミカは適当なものをお土産に渡すと握りつぶされる。なので適当にコンビニで買ったストレス解消用にぎにぎボールを渡した。秒で破裂したが。

 

 しかし大丈夫なのかトリニティ。ゲヘナに行ってわかったがやつら誰もエデン条約の話してなかったぞ。いやまあフウカのあたりが平和なのかも、平和じゃねえわあいつ拉致されてたし。

 

「はぁ……どうしてあなたは……」

 

「なんだ、正義実現委員会から外すか?」

 

「そうではありません。好き勝手どこにでも行くから首輪という形でそこに入れてるのに、これでは意味がないじゃないですか」

 

「俺からしたら、ゲヘナもトリニティの争いもくだらなくてな。まあ、外の世界じゃ肌の色一つ、言葉一つで戦争になるんだから五十歩百歩……むしろ基本発砲自体が違法な外の方が平和なんじゃねえか?」

 

「そうですね……そういう意味では外の世界は進歩しているのでしょう。でも、ここはキヴォトスです。外の世界以上に力には責任が生ずる」

 

 耳が痛いこと極まりねえな。実際ナギサの言うことは100%正論だ、俺の屁理屈が入り込むスキマはない。普段の俺ならまあ、一般生徒として自由にさせときゃいいさ。ただ、自覚はあるがヒスった俺は強い、トリニティにとっては政治的カードになるほどに。

 

 ヘイローがなくて、男で、それでいて強い特異点は手元に置いて手綱をつけるに限る。ああ、ああ、わかるさ。煩わしいことこの上ないが、ナギサのやりたいことはわかる。いいさ、協力してやろう。

 

 エデン条約……トリニティにおける大問題、ゲヘナとの和平が成るまでは俺はナギサの反抗的なワンちゃんでいてやるよ。こいつもこいつでカワイイところはあるしな。そもそも問題俺はナギサのことは腹立っちゃいるが嫌いじゃねえ。むしろ、芯が強くて好みではある。

 

 先日のクロメーテル事件のことは別にしても、こいつ自身は理不尽なことは言わないしいろいろふわふわしてるミカと厭世的で体が弱く今年のホストをナギサに代行させてるセイアも政治的にはかなり頼りない。実質ナギサのワンマンだ。

 

 それでいて、正義実現委員会に匹敵する武力を隠し持ってると言われるシスターフッドや、救護が使命なのに委員長が積極的に武力制圧してくる救護騎士団、そもそもがトリニティは教義的に3つの分派がお互いの喉元にナイフを突きつけながら運営しているような状況だ。

 

 そりゃ、分派に縛られなくてしかも強い手駒が欲しいよな。こいつの下には敵しかいないんだから、分派の代表ってだけで利益を吸いたい輩がごまんと自分の下にいて、隣に居る奴は友達でも別の分派の代表だ。腹割って話せるやつもいなかろう。

 

 いまのナギサの状況を例えるなら両手を切り落とされてマスを間違えたら即死するチェスゲームを口で打たされてるような感じか?ピンピンに張り詰めた糸、切れる寸前ってかんじだろ。もともと俺が各地に行ってなかったら軟禁でもされてたかもな。今更だからしょうがないってなってるだけで。

 

「今回ばかりは正直庇いきれません。主戦派、穏健派ともにあなたへの罰を求めています」

 

「まあ、そうだろうな。うまいカフェモカでも差し入れてくれ」

 

「もう、やめてくださいね……あなたのことは、信頼しているんです」

 

「キンジくーん、あとで遊びに行くね~☆」

 

「心の隅に置いとくよ。あとミカはこんでいい、部屋が狭くなる」

 

「なにをー!」

 

 というわけで牢屋いきなわけだ。うん、妥当っちゃ妥当だな。一歩間違えばゲヘナと戦争のきっかけになったとせっつかれればさすがのナギサも何もしないわけにはいかないってか。政治ってのは複雑で難儀なもんだ。捨てたくないものを捨てなきゃならない、やりたくないことをやらなきゃいけない。

 

 それでもなお、傷ついた両足でトリニティをまとめるために立ち上がる女のことは、かっこよく思えてしまうもんだ。表向きは優雅にしていても、裏でどうなってるかなんざたやすく想像つく。湖の上では嫋やかな白鳥も、水面下では必死に足を動かしてるっていうしな。だから俺は、桐藤ナギサを尊敬する。

 

 

 

 

 

「キンジ~いないと思ったら何でそこにいるっすか~」

 

「そりゃお前あれだろ、悪いことしたからだよ。俺の部屋より快適だぜ」

 

「やっぱゲヘナ行き怒られたんすね」

 

 4日後、俺の家の総額ぐらいの部屋の中で運ばれてきたカフェモカを口に着けていると簡易的な椅子を小脇に抱えたイチカがやってきた。ハスミ先輩からの反省文の宿題を伴って。おろおろする牢番の生徒ののどを撫でてごろごろ言わしているイチカが牢屋の前に座り込んだ。

 

「そういえば、アビドスがここにきてるらしいっすよ。先生もきてるとか」

 

「アビドスだぁ?なんだ資金援助でも求めに来たのか?まあ金持ってるからなトリニティは」

 

「そういえば一人足りなかったすね。小鳥遊ホシノの姿がなかったっす」

 

「ぶぇぇぇんキンジくぅぅぅん!!!どうしてそんなところにいるんですか~~~!」

 

「ん、何でこんなところにいるのか不思議。破ればいいのに」

 

”キンジ、なにしちゃったの?ごめんなさいはちゃんとした?”

 

 ソファに寝転んでいた俺は、唐突な叫び声に顔をしかめてそちらを見る。そこには驚きすぎてすごい顔になっているヒフミががっちゃんがっちゃんと優美な装飾の鉄格子を揺らしていたし、なぜかシロコがいるし、なんだったらその後ろに先生がいてアビドスのやつらもいた。

 

「悪いことしたんだよ、トリニティにとっては。久しぶりだなお前ら、元気してたか」

 

”ぼちぼちね。それよりもごめん、緊急事態なんだ。キンジの力を貸してほしい”

 

 緊急事態ぃ?なんじゃそらとソファに座りなおして前を向く。大混乱のヒフミはイチカに抱きしめられて止められてるので静かになった。で、話されたのはホシノが大人に騙されて誘拐されたって話だった。で、カイザーPMCの本拠地にカチコミかけるから助けてくれないかってことか。

 

「お願い、もう後がないの!ホシノ先輩を……助けたい」

 

「ナギサには?」

 

「ナギサ様は、保留と」

 

「だろうな。タイミングが悪い、エデン条約がなかったら助けられただろうに。で、俺の件だが……戦力になるのは構わんが、今はこの状況でな。まさか脱獄するわけにもいかん」

 

 別に脱獄してもいいが、そしたら退学だろうなあ。反逆の恐れありで投獄されたのに脱獄したらそりゃ反逆罪だ。ナギサの許可がありゃ出れるだろうが……。

 

「許可しませんよ」

 

「ナギサ様、なんで……」

 

「報告を受けて急いで来てみましたが、やはり頼りましたね。ヒフミさん、お気持ちは非常に理解します。ですが、ここでツルギ委員長に並ぶ戦力のキンジさんを公的に動かせばゲヘナの主戦派に開戦の理由を与えることになります。もしも、もしもですが……あちらが空崎ヒナを動かせばツルギさんかキンジさんを動かせますが……」

 

 後ろからやってきたナギサは、不許可だ。どうにかしたいっていうのはこいつも理解しているのだろう。譲歩に譲歩を重ねるような形で交換条件を引き出した。ちなみに俺は部屋より居心地がいいのでしばらく泊まっていたいでお馴染み牢屋に入るのは予測していたがここでアビドスになんか起こるのは予測してなかったので見事に柔らかい脇腹をつつかれた。勘弁してくれ。

 

”ゲヘナが動けば、手伝ってくれると考えてもいいのかな?”

 

「はい。先生はご存じかわかりませんが現在トリニティとゲヘナはエデン条約の関係で緊張状態です。トリニティからこれを破るのは憚られますが……ゲヘナはそんなこと気にしません。ましてやそれがトリニティに直接侵入するということでなければ動くでしょう。ですが、風紀委員長を動かせるかどうかはあなたがたの手腕にかかっております」

 

「ん、わかった。ゲヘナに行く。皆もそれでいい?」

 

「風紀委員長の空崎ヒナさんといえばゲヘナどころかキヴォトス全域で見ても最強と呼ばれる人です。あの時は引いてくれましたが今回の虫がいい話を聞いてくれるか……」

 

”そこはほら、私が何とかするよ。私は大人で先生だ、君たちのためなら……なんでもするよ”

 

 覚悟キマってるなこの人……割とマジで命すら生徒(俺たち)のために投げだしそうな顔してるわ。さて、ナギサは……なんだよこいつ多分ヒナが動かなくても俺を動かすつもりじゃねえか。預けた俺の武装を隠し持っていやがる。いやだねえ為政者は。

 

「先生、ヒナに伝えとけ。仕事しろよってな。まあそれでいいだろ。他の風紀委員にストップかけられたらキンジのげんこつっていえば通すだろうよ」

 

「キンジのげんこつってあれっすか?この前戦車の鉄板ぶちぬいたやつ」

 

「あれは威力の調整ミスっただけだ。本来なら戦車が吹っ飛んでた」

 

「頭イカれてるんすか」

 

 なんだとこの野郎とイチカを睨みつけるとイチカはにんや~と猫のような笑みを浮かべてべろべろバーと牢屋越しに俺を煽る始末だ。この前使った大和っつー触れてるものから重さを借りる技をしくって転がすつもりだった戦車の装甲をぶち抜いた話を蒸し返された俺は改めてアビドスの面々と先生を見る。急げよと言うと彼女たちは頷いて出て行った。

 

「で、ナギサお前先生に何吹っ掛けたんだ」

 

「吹っ掛けるなんて人聞きが悪いですよ。ただ、貸しを一つと先生に確認しただけです。そういえばあなたの罰の期間を決めていませんでした。本日今をもって遠山キンジさん、あなたの営倉入りを解くこととします。手始めにそうですね……人命を救ってきてくださいな」

 

 そう言って牢をあけたナギサは俺の手にベレッタを銃身をもって手渡した。グリップに入っているトリニティの校章をみえるようにしているあたりこの女は用意周到だな。ぐりっと肩を回して牢を出る。牢番の生徒が残りの武装を引っ張ってきてくれた。

 

「さて、ヒフミ。状況についていけてないところ悪いんだが……お前も行くんだろ」

 

「え、はい!私もその、行かせていただきます!」

 

「だ、そうだが?」

 

「そういえば砲兵隊の全体訓練が近いので日程を変更しましょうか。アビドスには事後承諾になりますが……さて、キンジさん。部隊の指揮と人員の選抜はお任せします。ヒフミさん、推奨は致しませんが貴方のその優しさに救われる方がいらっしゃるでしょう。では、私はこれにて」

 

 状況の変化についていけずおろおろとして俺とナギサを両方見ているヒフミに声をかけると飛び上がるほど驚きながらぶんぶんと首を上下に振っている。ペロロというらしい正直あまり好みじゃないデザインの鳥のバッグが盛んに揺れている。くくられてる手榴弾が爆発しそうで怖いんだが。

 

 そもそも論の話になるが、ナギサは厳格な為政者であると同時にこの上なくお人よしでもある。見捨てればいいものを何とか屁理屈こねくり回して助けようとしてる今を見ればそれがよくわかる。そのお人よしの根源はきっと分け隔てなく誰にでも優しくできるヒフミから来てるんじゃないかと思うんだがな。

 

 だが、公を優先し私を捨てられるのもまた為政者の資質。トリニティを統括するナギサがわざわざ先生に貸しを作る……きな臭くて鼻が曲がりそうだ。ああ、単純明快なゲヘナと違って裏でぐるぐる回ってるのがトリニティの悪いところだな全く。

 

 目と圧で『ヒフミさんをきちんと守ってくださいね』と伝えてきたナギサを白けた目で見送った俺はとりあえず目の前で暇そうに椅子でプラプラしてる相棒に声をかけることにした。こいつもこいつで『まさか私に声かけないなんてことはないっすよね?』って顔してるし。

 

「イチカ、こい」

 

「りょーかいっす。指揮は私がするっすよ。キンジは、ストレス解消でもしてほしいっす」

 

「任せた。ヒフミ、お前は俺とヘリだ。助けに行くぞ」

 

「はいっ!」

 

 誰を連れていくかと後輩と先輩のピックアップを始めた俺とイチカのうしろを小走りでヒフミがついてくる。アビドス砂漠にカイザーPMCか……首を洗って待っていやがれ。 

 




 しっかりばっちり怒られたキンちゃん。アリア的に言うと彼は現在ナギサ様のドレイです。何があろうと絶対に裏切りません、お互いにそういう信頼をしています。政治と良心に挟まれながらも必死に取り繕うナギサ様って良くない?作者は好き。トリニティ仕草ってだいじね~。
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