エネイブルーアーカイブ 作:イチカの開眼好き好き侍
「あれ、キンジどこ行くっすか?」
「ん、ああシャーレに呼ばれてな。当番ってやつをやらされるらしい」
「……いつの間にシャーレに入部したんすか」
「アビドスのアレが終わったとき先生がボロボロだったから心配になったんだよ」
「はー……ほんと、女が好きなんすねえ。私じゃダメっすか、そうっすか」
「おい語弊がある言い方をするな。あとお前はいなくちゃダメなんだから拗ねるんじゃねえよ。お前の代わりなんぞどこ探してもいないんだからな?」
しっかりばっちりアビドスの一件を乗り越えた後日、俺が珍しく腕章をつけて出かけようとしているとイチカがストップをかけてきた。実はあの後俺たちより体力がないらしい先生が結構ヒーハー言っててなんか心配になったのでシャーレの方に入部申請をしたのだ。なんかほっとくとあの人死んじゃいそうで怖いんだよ。
なんかイチカがいじけだしたのでとりあえず思ってることをそのまま口に出すとだんだん顔を赤くして暑いっすと手で顔を仰いでいる。アビドスほどトリニティの気候はひどくないはずなんだがな。というか先生って一回アビドスで遭難してるってマジか?ますます危ないんだが?
拗ねていたくせになぜか心地よく送ってくれるイチカに見送られて詰め所を後にする俺。途中でティーパーティーのお手伝いをしている白い後輩から先生に手土産をとクソ高そうな手土産を持たされた。ナギサだな?いい加減にしろよ全く。
ハイランダーの車内売りからコーヒーを買って飲みつつ、車内旅を満喫する。正義実現委員会、略して正実の腕章をしていると余計なものに絡まれないのがオトクだな。ああそうだった。アビドスは今どうしてるかね?楽しくしてるといいんだけど。
あの後、ホシノを背負ってこっちに戻ってきた先生と合流した俺はカンナに通報してヴァルキューレを動かし展開したヴァルキューレの大隊によってカイザーPMCは御用となった。まあ、一生徒の誘拐を企業が行ったんだから当然っちゃ当然だ。
ホシノはゲヘナとトリニティの混合部隊がいることにひどく驚いたようだったが、まあ憔悴している以外は特に問題はなさそうだったな。うちらも喧嘩が起こることなく別れられてよかったよ。一部げんこつ落としたけど。なぜゲヘナは喧嘩を売りに来るのか、これがわからない。なお相手側の抗議はヒナが握りつぶした、権力。
んでまあカイザーPMCの大本であるカイザーコーポレーションは今回の事件を理事の独断と断定しトカゲのしっぽ切りを行ったがさすがにノーダメージとはいかなかった。なにせゲヘナとトリニティという犬猿の仲だった両者が協力作戦を展開したのだ。クロノスによってセンセーショナルに報道された。
当然株主大激怒案件だ。このキヴォトスは行政からインフラまでほとんど全て生徒の手で回っている土地だぞ?その生徒を誘拐したとあれば批判はそこかしこに行くし元からグレーな印象だったカイザーの評価はブラックに固定される。で、トリニティのティーパーティーが共同で批判声明出したもんだからもう大変、具体的にはトリニティからカイザー資本が一掃された。これは痛いだろう。代わりにネフティスが入ってきたが。
まあまあ資本主義の小難しい話はどうでもいい。物価が安くなるわけでもないし。弾代だってバカにならんのだ。まあこの前のはナギサが任務扱いしてくれたから経費で落ちたけど。あと踵落としした時に脚甲歪んだからミレニアム行って修理するついでにもっと硬くしろって文句言おう。俺は無傷なのに金属が負けるとは軟弱が過ぎるぞ。
「でっけーな、おい」
「おや?これはこれはキンジさんではありませんか」
「カヤか」
「まったくそれ以外の何に見えるというんです?D.U.にいるとは珍しいですね。あ、そうです!せっかく会えたのでしばしお待ちくださいな?」
「おい俺はシャーレに行くんだがって……」
シャーレの建物の前に連邦生徒会の拠点を横切って乗り継ぎの駅まで行くんだが、その途中で知り合いに遭遇した。不知火カヤ、ヤギみたいな横に広がった瞳孔と柔らかそうな桃髪が特徴的なやつ。役職は防衛室長で端的に言えばキヴォトス全域の防衛を担う行政官でカンナの上司にあたる。
見た目は俺の知り合いのやつらと変わらんぐらい美少女だが、なんだか腹に一物抱えているような感じのやつだ。好きか嫌いで言えばまあ好きな方だがニガテという印象だな。なんせ俺は行政的な搦め手に弱いし。待てと言われたから待っていると5分ほどでカヤが戻ってきた。だいぶ急いだのか汗をぬぐいながら。
「いやはや、キャラではないですが急いでしまいました。それはともかくキンジさん、トリニティのコーヒー豆をおすそ分けしていただいたことがあったでしょう?こちらそのお礼です。負けず劣らず美味しいと思います」
「あぁ、あれか。悪いなわざわざ」
「いえいえ、この前などは公安局長がお世話になりましたし、被害も抑えられました。賄賂というわけではないですが今後とも協力してほしいので、まあ奮発しました」
「……多分だけどお前が胡散臭いって言われるのそういうところだと思うぞ」
「ひ、ひどくないですかっ!?わざわざ私が!私が手ずからお礼の品を持ってきたというのに!」
「ほらメッキが剝がれてんだよ」
「……おほん。その暴言は不愉快ですが受け止めるとしましょう。ですがその……私も女なのであまり言われると、傷つきます……」
こいつが反則なのはプライドが高い癖にテンパるとメッキが剥がれる。それでいてたまにこうやって『女』を出してくることだ。そしてそれが演技だという可能性も否定しきれないところにもたちの悪さが山盛りセットってわけだ。普通に接するなら話の分かる行政官なんだがなあ。腹芸だけはキヴォトストップだろこいつ。ナギサですらこいつを前にしたら小鳥ちゃんだ。
まあ紅茶党が幅を利かせるトリニティじゃ希少なコーヒー党であるこいつとの縁を切るのもなんだかもったいない気がする。あとカンナにパワハラじみたことをしないように釘させなくなるし。
おれはいじらしく頬に指をつけて苦笑いするカヤから高そうな紙袋を受け取って踵を返した。
「では、キンジさん。これからもよろしくお願いします」
「はいはい。お前も体壊すなよ。クマ浮いてるぞ」
「……もう、そういうところですよ」
徹夜明けらしいカヤの目元、化粧で隠してあるがうっすらと浮いていたクマを気を付けるようにだけ言って俺は駅へ向かい、電車に乗り込んでシャーレのオフィスへ向かうのだった。
”あ、キンジ。まっていたよ。今日はよろしくね”
「どうも先生。この前ミレニアムに行ってきたんだって?ユウカとノアは元気してたか?」
”キンジは顔が広いんだね。うん、とても元気にしていたよ。それでね、今日キンジに来てもらったのには理由があるんだ”
「理由?」
”そうだよ。そろそろエデン条約の調印式が近いでしょう?ナギサに呼ばれてね。それで一回トリニティに行くことにしたんだ。それで、キンジに色々聞いておこうと思って”
ウェーブがかかった豊かな金の髪をふわりと躍らせてそっと両手を合わせる先生、ひいいい美人度マシマシだ。やめてくれよ同年代でもやべーしなんだったら一個上のカンナとかですらもっとやべーのに年頃のおねーさんがそんな仕草するなよ。ここでヒスったら俺は迷いなく自分の頭に銃向けてトリガー引くぞ。
手土産を先生に手渡すと彼女は”わぁ、これ高いやつじゃない?開けちゃうから食べながら話そっか”と隣の給湯室に引っ込んでいった。彼女の机の上には整理整頓されてはいるものの書類が山になっていた。こんなもん見たくねえなあ。
”お待たせ。美味しくないかもだけど許してね。それで、聞きたいことなんだけど……キンジにとってナギサってどんな子?”
「飼い主だな」
”あんまり学生のうちからそういうのは感心しないよ?”
「?何の話だ?俺は今トリニティにおける猟犬の役割を担っているんだよ。指令を出すのはナギサで、あいつが平和を乱すって判断した奴らを潰す。まあこれが俺とナギサの関係だ。正義実現委員会とは別にな」
”な、なんだ……私汚れてるのかな……こほん。じゃあキンジから見てナギサが私に何をさせたいかとか想像つく?”
「悪いがわからん。自慢じゃないが頭は悪くてな、腹芸なんぞできないんだ。ただ……多分アンタ面倒ごとに巻き込まれるぞ。ナギサがわざわざ貸しにしたんだ。碌なことじゃない」
先生が淹れてくれたのはコーヒーだった。紅茶でも飲めなくはないが俺はブラックコーヒーが好きでね。で、聞かれたのはナギサのことだった。目的は情報収集ってところか……いや、そんな後ろくらい理由じゃねえな。多分人となりを知りたかったんだろうか。
ただ、ナギサがわざわざ先生に貸しを作ってそれを念押ししていた以上あいつは何か目的というかやらしたいことがあったんだろう。特にシャーレの権力を使ってやりたいことが。おーこわっ。まああいつのことだから悪いことはせんだろうな。
”そっか。それじゃあナギサについてはこのくらいでいいかな。キンジの反応からすると悪い子ではないと思うし、会ってみた私の感想と一緒だ”
「そりゃどうも。念押ししておくけどあいつは俺と違って腹芸が得意だがお人よしだ。俺なんかじゃあ思いつかないようなことをやっている、トリニティのために。だから俺はあいつのために動く。あいつの邪魔をするものは俺が殴り飛ばすさ」
”ふふ、キンジがそんなに慕ってるんだ。アビドスのみんなとホシノみたいだね”
「いいや?あんなきれいな関係じゃないさ。でも手伝ってやりたいって思ってるのは本当だな」
”そっか。エデン条約、うまくいくといいね”
「あ、それは多分100億%失敗するぞ」
”ええええええええっ!?”
うまくいくわけねーじゃん発案者不在の条約なんざ。トリニティとゲヘナの関係の悪さは根深いんだ。条約結んでハイ平和とはならん。条約は結ばれるだろうが何年かで形骸化するかどっちかが破るのがオチだろ。
ただ、これは布石だ。エデン条約そのものはまず間違いなく火種になるが、調印までこぎつければ前例となる。前例ができれば一度失敗してももう一度改良した条約を戻ってくるかわからんがその時にいる連邦生徒会長主導で調印すればいい、盤石なやつをな。今はゲヘナもトリニティも不安定すぎる。
”それじゃあ、ナギサは失敗するって思いながらやってるの?”
「まさか。あいつはこれで終わらせるつもりでやってるさ。それでも現実も見なきゃいけないのがあいつを苦しめてるんだけどな。まあ成功したら間違いなくハッピーエンドだ。もし失敗しても俺が守るだけだしな」
エデン条約っていうのは失踪した生徒会長肝入りの策だが、失踪によって空中分解しかけていた。それをナギサが一つ一つ拾い上げつなぎ合わせて何とか形にしてる。それが、あいつの精一杯の虚勢だ。誰も信じられない状態の中でそうしている。ならせめて俺は裏切らないようにしないとな。
”なんというか……キンジは悪い男の子だね。女の子の敵だ。私までドキッとしちゃった”
「おいやめてくれよ最近知り合いがみんな似たようなこと言うんだ。俺は別になんか狙って言ってるわけじゃない。思ってること口に出してるだけだ」
”うっわ~無自覚なんだ。みんなかわいそう”
「おいどういうことだよさすがに俺だって怒るんだぞ」
なんか先生があまりにもひどいものだから思わず文句が出てしまう。一応俺も正義の徒だぞ。やる気はないけど。その俺を捕まえて悪い男の子とはどういうことだ。いいのか?俺の拳は男女平等だぞ。その気になれば俺はジャーマンスープレックスだってかけられるぞ。具体的にはこの前ツルギ先輩に模擬戦でかけた。全く堪えてなくてへこんだけど。
「そういえば、根本的な問題なんだが先生はどうしてキヴォトスに来たんだ?生徒会長と面識でもあったのか?」
”会ったことは……あるのかな、ないのかな。確かに彼女に呼ばれたのは間違いないんだけどね。もう一つ理由はあるよ”
「それ聞いていいやつか?」
”ふふ、別に隠してないからいいよ。ある子をね、探しているんだ”
「勿体ぶるなよ。だれだ?知ってるかもしれん」
”私のね、娘なんだ”
……わたしの、むすめ。は?まじで?この人こんなに若いのに子持ちだったのか!?え、ちょっとまってと大混乱の様相を呈する俺に先生はドッキリ大成功~~という感じで笑っているが、否定はしていない。
俺が脳内で多数の知り合いを高速でピックアップしていると、何となく思い浮かんだ奴がいたがいやまさかと切り捨てる。先生の年齢、20代前半なら大きすぎるしな。梅花園あたりに似たやつがいないか?
いやしかし……人は見た目でわからないものなんだなと俺はまた一つ学ぶのだった。
連邦生徒会の被害者(婉曲表現)はカヤちゃんです。ですので予定上クーデターの話は変える予定です。エデン条約これ無理じゃろってなってるキンちゃん。なお本人の思想と仕事は別なのでやるべきことはきっちりやります。やったねナギちゃん。