【完結】露出系へんたいふしんしゃお姉さん   作:くま

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第二話

 

 深夜1時、自分の部屋。

 

 困惑の極致にあった俺は、警察に連絡できないまま布団に体を預けていた。

 

「……」

 

 灯の消えた部屋に、白く光るスマートフォンの画面。

 

 そのカメラフォルダには、先ほど撮影した不審者の画像が保存されていた。

 

 ────肉付きの良い裸コートの女性が、『見せてはいけない部位』を露わにして。

 

 ────アパートの前の路上に尻もちをつき、困惑した顔で俺を見つめている。

 

「本当に、MIRI部長なんだろうか」

 

 昨晩から俺を苦しめていた露出不審者の正体が、同じサークルのMIRI先輩だとすれば。

 

 あの日の昼の会話は、自分の犯行を誤魔化そうという三味線だったということになる。

 

 ……その事実を、俺は信じたくなかった。

 

「……」

 

 俺はMIRI部長のことを、先輩として尊敬していた。

 

 MIRI部長は俺やクソ兎みたいいな変り者をサークルに受け入れ、先輩として世話をしてくれた。

 

『ウチのサークルへ、ようこそ。後輩君』

 

 先輩は少なくとも、サークルでは恰好が良い人だった。

 

『君の書いた小説には見どころがある、いつかビッグになるさ。そうだ、私が挿絵を描いてあげよう』

 

 文芸雑誌サークルの中で、俺は底辺の部員だった。

 

 クソ兎のような売れっ子漫画家でも、MIRI先輩のような有名なイラストレーターでもない。

 

 俺なりにネット小説を投稿していが、どの作品も鳴かず飛ばずだ。

 

 自分でもわかっている。俺は創作が好きなだけで、創作の才能はない。

 

『どんな有名作家も、最初から評価されないもんだ。今は積み重ねの時期だぞ、後輩君』

 

 だけど部長は、そんな俺を馬鹿にすることはなかった。

 

 そのまま頑張れと、応援して励ましてくれた。

 

 気合の入ったイラストまで、提供してくれた。

 

 ……だから今だって。

 

 俺はネットで全く人気が出なくても、小説を書くことが嫌いにならずにいる。

 

『私は君の作風、嫌いじゃない。そのまま書きたいものを描くといいさ』

 

 ────ものぐさな俺が、飽きもせずサークルに顔を出している理由はMIRI部長がいるからだ。

 

 ……彼女には、大きな恩があるのだ。

 

 

「まずは、確かめるか」

 

 改めて不審者の画像をじっくり見る。

 

 不審者の顔の上半分は覆面に隠れており、MIRI先輩だと断言はできない。

 

 だけど、体格や背格好を見るに『彼女だとしても全く違和感はない』。

 

 

 正直に言って、俺はあの不審者がMIRI部長だと信じたくなかった。

 

 ……少なからず、憧れていた先輩だったからだ。

 

 どこかれ構わず服を脱ぎ、裸体を他人に見せびらかして悦に入るような人間と思いたくなかった。

 

「黒子、がある」

 

 最近のスマートフォンの、画質は高い。

 

 見たい場所を指でつまんで広げれば、詳細に拡大される。

 

 不審者の乳輪の横にある黒子(ほくろ)は、俺が昨晩に見たものと相違ない。

 

 少なくともこの画像の女は、俺に露出行為をした変態であることは確かだ。

 

 

 画像の女に、昨日ほどの恐怖心は感じなくなっていた。

 

 だけど、憧れの女性の裸体かもしれないその一枚をどれだけ見ても、そう言う気分にはならなかった。

 

 むしろ、この女性があのMIRI部長だと考えれば考えるほどに、胸にぽっかりと空虚な穴が開いたようだった。

 

 

 これが部長であってほしくない、そこら辺の気味が悪い変態女であってほしい。

 

 心の奥底で、そう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新作のプロットを作ってきたんで、批評をお願いしたいのですが」

 

 翌日。

 

 俺は朝からサークルの部室に顔を出した。

 

「やっと作りやがりましたか、見せてみろッス」

「サンキュークソ兎。お前、締め切り大丈夫か」

「ぶっちゃけヤバいッス。逆に私も、後で頼みたいことあるんですがいいッスか」

「かまわん、俺で良ければ協力しよう」

「っしゃ」

 

 今日はサークル活動日ではない。

 

 だが締め切りが近いクソ兎など、作業場代わりにしてるヤツは平日も顔を出している。

 

「MIRI部長、おはようございます」

「お、おはよう。平日に顔を出すなんて珍しいな」

「一刻も早く、執筆にとりかかりたくて。先輩もよければ、プロット見てもらっていいですか」

「あ、ああ、分かった。私で良ければ」

 

 MIRI部長は、部室を作業場にして絵を描いている人だ。

 

 だから『今日もいる』と信じて、俺は部室に乗り込んだ。

 

「……ごめんなさい。何スかこのプロット」

「お、どうだクソ兎。面白くなりそうじゃないか」

「ボツっス。才能がない。センスがない。しょうもない。ゴミカス」

「お前先輩の作品をよくそこまでこき下ろせるな」

「はあ?」

 

 開口一番、クソ兎がこの世の終わりみたいな顔で俺のプロットを床に投げ捨てた。

 

 これぞクソ兎がクソ兎たる所以。

 

「面白くないモンを褒め称えて書く気にさせる方が失礼っス。先輩、これはゴミなんで今すぐシュレッダーにかけてください」

「……」

 

 彼女は意見を求められると、歯に衣を着せない物言いで罵倒する。

 

 クソ兎はネットでも高い評価を受けている同人作家なので、その意見に言い返せる部員はほぼいない。

 

 だからこの悪辣な物言いに、心を折られた部員も多い。

 

「先輩ならもっと良いのが書けるの知ってるッス。手を抜いたっしょ、このプロット」

「そんなことは、ないが」

「じゃあ何スかこの展開。頭くるくるぱーッスか」

 

 だけどそれはクソ兎が、創作に対してストイックすぎるからである。

 

 彼女は意見を求められた際、事前に『つまんない場合はっきり言います』と前置きしてからしか批評しない。

 

 お世辞を言わない彼女だからこそ、その意見を有難いと思う部員も多いのだ。

 

「ボロクソだな、後輩君。どんなプロットを作ったんだ?」

「見てくださいMIRI部長、この見る価値がないプロットを」

「ほう、あらすじは……」

 

 だから、このクソ兎の反応は想定内だ。

 

 あんな出来のプロットでは、ボロクソにされるのは分かっていた。

 

 ただ、クソ兎が部員の作品をこき下ろした後は、だいたい部長が気を遣って誉めるところを探しに来る。

 

 つまり糞プロットをクソ兎に読ませれば、部長が釣れるのだ。

 

 なので、

 

「美人大学生ヒロインが露出にハマり、主人公にハレンチな姿を見せてアピールするラブコメっス」

「ぶっほぉ!?」

 

 『サークルの女の先輩が露出狂だった』という小説のプロットを見た、部長の反応が伺える。

 

「いやーナイっしょ? 好意表現が遠回り過ぎてくどいし、そもそも犯罪行為でアピールする時点で頭やべーし、受けるわけないッスよ」

「……そ、そそ、そうだな?」

 

 俺は今日、不審者が部長なのかカマをかけに来たのだ。

 

 急いで作ったからプロットの出来はろくでもなく、クソ兎に罵倒されるのも当然だ。

 

「というかこれ、あれっスよね。昨日の不審者騒動に影響受けまくって、変な願望入ってますよね。ナイから。憧れの先輩が露出狂で路上で全裸になるとか、リアリティなさ過ぎて共感できないから」

「あ、う、その、その通りだ!」

 

 そんなクソ後輩の暴言に、部長はカクカクと頷くのみ。

 

 いつもの部長ならクソ兎の罵倒を宥めつつ、俺のプロットの誉めるところを探すはずなのに。

 

 部長は顔を真っ赤にして、時折俺を睨みつけたり、手で顔を覆ったりと百面相をしていた。

 

「そんなに駄目ですか、コレ。現実でありそうなシチュエーションじゃないですか」

「ブッフー!! ねぇッスから! 頭童貞ッスか先輩!」

「全身童貞だが」

「こんなこと現実で起こったら臍で茶を沸かしてやるッスよ! 先輩の現実感どうなってんスか!」

 

 部長からブレーキがかからないからか、クソ兎の罵倒はエスカレートしていく。

 

 それと同調するように、MIRI部長は額から汗をかいて顔を青くしていた。

 

 クソ兎の罵倒によりクリティカルな被害を受けているのは、他ならぬ部長らしい。

 

「何だよ、じゃあもし現実に起こったらどうするクソ兎」

「え? 起こると思ってんスか?」

「……ああ」

「じゃあ賭けます? というか、賭けになると思ってんスか?」

「いいぜ、賭けても。そんな事件があったか、世界中調べてやる」

「バーッカっスねぇ!! そんなことに時間を割こうって自体が、アホアホっスねぇ!」

 

 俺はその部長の反応をチラチラ確かめながら、クソ兎とのレスバを続ける。

 

 いつもなら止めに入る筈の彼女が、故障したように動かない。

 

「じゃあもしマジでそんなコトが起きてたら! 私がその小説の挿絵のヌードモデルやっちゃりますよ!」

「……えっ」

「ただし期限は明日! さぁ先輩、今から全世界の新聞記事を漁ってくるといいッスよ」

 

 クソ兎はそう言って、心底楽しそうに俺の肩をバンバン叩いた。

 

 相変わらず調子に乗って暴走しているが、負けることとか考えてないんだろうか。

 

「どんな卑猥なポーズでも♪ どんなハレンチな衣装でも♪ このプリティなウサギちゃんが、ポーズとってやるッス♪」

「お、おい。そんなことしたら風紀が……」

「大丈夫ッスよ部長。このアホ男に一日たっぷり調べさせて、現実を知ってもらういい機会っス」

 

 俺はクソ兎という人間が、ブラフや三味線を弾くタイプでないのを知っている。

 

 そしてこいつに、情人が持つべき羞恥心が一切ないのも知っている。

 

 やる。もし俺が賭けに勝ってしまったら、こいつは本気で部室に全裸になる。

 

「私がやるって言ったらマジなのは、わかってるでしょうし。きっとあの童貞、鼻息荒くして徹夜でネット記事を漁りますよ」

「童貞で悪いか」

「創作をするためにはまず現実を知らねばならない。先輩が一皮むける、良い成長の機会ッス」

 

 ……まぁ、今まさにそう言うケースが目の前で起きているのだが。

 

 自信満々のクソ兎は、ニヤニヤと嘲る笑みを崩そうとはしなかった。

 

「────」

 

 チラリとMIRI先輩に目をやると、頭を抱えてその場で蹲っていた。

 

 

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