【完結】露出系へんたいふしんしゃお姉さん   作:くま

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第三話

 

「あの、反応」

 

 あの不審者が『無関心で行くって話になっただろ』と失言した後も。

 

 俺はまだ部長と決めつけず、『あの会話を聞いていた他人』という可能性を捨ててはいなかった。

 

「やっぱり、部長だよな……」

 

 しかし、部長にカマをかけて改めで思った。アレはどう考えても、やましいことがある人の反応だ。

 

 ……なので俺は、写真の不審者が文芸雑誌サークルの部長……MIRI(ミリィ)先輩だと確信した。

 

「どうしてなんだ?」

 

 彼女の奇行を知って、最初に感じたのは疑問だった。

 

 偏見ではあるが、俺はそういう行為をやらかすのは『失うものがない人』だと思っていた。

 

 逮捕されても問題ないような輩が、欲望を満たすべく罪を犯すのだと思っていた。

 

 

 ……だけど彼女は、性格こそ変わっているが、社会的な地位のある人だ。

 

 既に大手のイラスト制作会社に、内定も貰っている。

 

 人生は順風満帆、俺よりずっと恵まれた未来が約束されていた。

 

 これからの人生を棒に振ってまで、変態行為に走りたがるものなのか。

 

 

 いや。

 

 そんなにも恵まれているのに(・・・・・・・・)、欲望に負けてしまうからこそ病気なのかもしれない。

 

 

 今の状況を整理すると。

 

 俺は昨日と同じく公然わいせつ行為を行おうとした不審者を発見し、その証拠の撮影に成功した。

 

 更に偶然にもその不審者は知り合いで、身元もしっかり特定できる。

 

 社会的良識に従うのであれば、警察に通報して彼女の逮捕を依頼するべきだろう。

 

「……どうしよう」

 

 確かに、先輩は許されない行為をした。

 

 俺以外の人にも、迷惑をかけている可能性があった。

 

 だけど、今まで部長に受けた恩を無視して通報していいものなのか。

 

 彼女が逮捕されれば、きっと内定は取り消しになるだろう。

 

 下手したらニュースで『有名イラストレーター逮捕』と報道され、その名声まで失うかもしれない。

 

 女性の露出狂など、きっとネットで話題になる。

 

 彼女が犯した罪の重さに見合わない、社会的制裁になってしまうかもしれない。

 

「……」

 

 一晩、じっくり考ええて。

 

 俺は『その晩は』通報をせず、睡魔に意識を預けることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 

 朝一番、俺はMIRI先輩と連絡を取った。

 

「……き、来たぞ」

「どうも」

 

 話がしたいと言ってファミレスに呼び出すと、部長は二つ返事で『わかった』とだけ返した。

 

 デートのような甘いシチュエーションだが、俺の心は冷え切っていた。

 

「な、何の用かな後輩君」

「言われないと分かんないですか」

「うぅ」

 

 部長は黒いインナーでオレンジの羽織、デニムのジーンズという『普通の女子大生』のような姿だった。

 

 とりあえず、裸コートで来なかったことに安堵した。

 

「……貴女の奇行の件です。話をしないと駄目なのは、分かりますよね」

「あ、ああ」

 

 MIRI部長は見たことない程に挙動不審で、オドオドしていた。

 

 いつもは自信満々で格好いい人なだけに、少し悲しかった。

 

「この裸コートの不審者は、部長ですよね」

「いや、その」

「スマホを奪っても無駄ですよ。クラウドに保存してます」

 

 俺は撮影してあった、例の不審者の画像をMIRI部長に突き付けた。

 

 彼女は唇を噛みしめ、俺を睨みつけて黙り込んだ。

 

「……私、じゃ」

「ないんですね?」

 

 平日の開店直後のファミレスは、あまり客が多くなかった。

 

 俺達の他には数人だけしか、客は見当たらない。

 

 念のため盗み聞きしている人はいないかチェックして、話を続けた。

 

「違うなら、そう仰ってください。部長じゃないなら、通報を躊躇う必要はないので」

「あ、その」

「部長じゃないなら、犯人に慮るところはない。この画像を持って、警察に情報提供します」

「や、やめて、くれ」

 

 俺の言葉を聞いた部長は、泣きそうな声で懇願し。

 

 彼女は自らのジーンズを強く握りしめ、顔を真っ青にして呟いた。

 

「認める。私だ、私なんだ」

「……」

「通報だけは、勘弁してくれ。何でもする、から」

 

 それは鬼気迫る口調だった。

 

 焦燥と、絶望と、後悔の念が見て取れる。

 

「本当に何でもする。嘘じゃない、本気だ」

「……」

「何が、目的か言ってくれ。お、お金だろうか?」

「いえ」

 

 彼女は媚びるように、慈悲を乞うように、声を震わせて話した。

 

 俺は彼女の決定的な弱みを握っており、いつでも社会的に殺すことができる状況。

 

 ……MIRI部長が怯えるのも、無理はないのだけれど。

 

「一つ、聞いてもいいですか」

「何だ……?」

 

 俺には部長の『そこまで追い詰められた態度』をとるのが少し想定外だった。

 

 正直、開き直って好きにしろと言われる可能性すら考えていた。

 

 だって、

 

「部長の動機がよくわからなくて。部長は、見られることに興奮するんですよね?」

「う、うん」

「だったら、その。逮捕されて公に性癖が周知されるのって、嬉しいもんじゃないのですか」

「そんなはずがあるか!」

 

 そう。見られるのが好きなら、自らの変態性を周知して見てもらうのは悪いことじゃないはずだ。

 

 なのにどうしてMIRI先輩がここまで絶望しているのか、分からなくて聞いてみた。

 

「いや、バレても構わないという覚悟でやってたのかと」

「違うんだ、その、それは大きな誤解だ。私は蔑まれたい訳じゃなくて」

「どういう心理か、お聞きしても良いですか」

「え、ええ……?」

 

 しかし部長は、俺の説を大きく否定した。

 

 恥ずかしいのが気持ちいいなら、周囲にバレても興奮できる……という訳ではないらしい。

 

「私は、積極的に見られたいわけではないというか。むしろ、見られるのはスッゴク恥ずかしいのだけど」

「は? だったらどうしてあんなことを」

「ただ、見られてはいけないものを見られている状況が、しかもバレて逮捕されたら人生が終わってしまうスリルとか、そういうのが楽しくて」

「ふーむ」

「絶対にバレるワケにいかないから、身元を特定されない準備はしてたんだ。着替えるための個室を確保出来て、かつ監視カメラの設置していない退路が確保できるポイントを下見して……」

「先輩の優秀なところが悪く出ましたね」

 

 男の露出狂は、自らの性器を『異性に見せつけて』興奮するというが。

 

 彼女はどうやら、見られること自体に興奮しているのではないらしい。

 

「私は『露出を私とバレずにやる』ことが、快感だったんだと思う」

「……」

「だから逮捕されたり、今まで築いていた社会的地位を失うのは、その。厚かましいが、本当に避けたいんだよ。今まで育ててくれた父や母にも、申し訳がなくて」

「ああ、なるほど」

 

 そのMIRI部長の話を聞いて、俺は得心を得た。

 

「つまり部長は露出狂はなく、『クレプトマニア』の一種なのですね」

「クレプトマニア?」

「窃盗癖の一つですよ」

 

 彼女の供述と、近しい内容の話は聞いたことがあった。

 

 窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり、並びに窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感で『盗み』を繰り返してしまう人のことだ。

 

「失礼だな、私は盗みなんてしたことがないぞ」

「違います。クレプットマニアは『盗み』がしたいのではなく、『窃盗行為』をバレずに行うことに快感を得るのですよ。なので彼らは万引きした商品を、そのまま捨てることすらあるのだとか」

「……」

「部長は露出がしたいのではなく、『犯罪行為を行う』興奮と快感に中毒性を感じてるんでしょう? それは恐らく、クレプトマニアと同じ思考です」

 

 そう説明すると、MIRI部長は思い当たることがあったのか黙り込んだ。

 

 彼女の話は性器を露出し、異性が嫌がる顔に興奮する『露出症』とは大きく異なる。

 

 犯罪行為を行う背徳感、バレずに逃げおおせた達成感、そういう非日常的な刺激に嵌まり込んでしまったのだ。

 

 俺は専門家ではないが、彼女の心理をそう考えるとしっくりくる。

 

「いずれにせよ、病的嗜好ですよ。それは」

「……う」

「このままお咎めなし、とならないのは分かりますね」

「ああ。……何でもする。何でも言ってくれ……」

 

 部長の考えていたことは、理解できた。

 

 であれば、次は罪の清算だ。

 

「MIRI部長。俺から要求することは一つだけです」

 

 俺の『要求』という言葉に、部長は表情を硬くした。

 

 何を言われるのか、怯えているのだろう。

 

「その。今まで大切に育ててくれた家族には、迷惑をかけたくない」

「……」

「私は、何をしたらいいんだ?」

 

 部長は気丈な態度のまま、顔を青くしつつもそう言い切った。

 

 今なら何を要求しても、やってくれそうな気配である。

 

 そんな彼女に、俺は。

 

「自首して下さい」

「へ?」

 

 自首を勧めた。

 

 

 

「えっ」

「いや、自首以外の選択肢はないでしょうよ」

 

 公然わいせつは犯罪行為だ。たとえ恩のある先輩と言えど、匿ったりしたら俺も犯人隠避罪に問われる。

 

 だがMIRI部長には、恩義がある。なので後輩として、『自首を促そう』と思って先輩を呼び出したのだ。

 

「その、えっと?」

「色々と調べたのですが、悪質性がなければ公然わいせつは不起訴になる可能性はあるそうです。そうなれば逮捕もされず、前科もつきません」

「は、はあ」

「今回のケースだけなら被害者は俺一人です。そして俺は、示談に応じるつもりです。だったら部長は逮捕されず、不起訴ですむ可能性が高いと思いますよ」

 

 俺は今日、部長に会うまでに色々と調べたのだ。

 

 不起訴処分になれば、前科はつかない。報道もされないので、内定をもらっている会社にバレる可能性が低い。

 

 もし先輩が他にもやらかしていて余罪があるなら話は別だが……。

 

「……それは」

「それに一回、マジでちゃんとした医療機関で診察を受けた方がいいです、先輩。今後も同じ過ちを繰り返さないために」

「……」

「怖いなら、交番まで付き添います。大丈夫、不起訴なら数日で釈放されるはずです。大学は夏休み期間なので、サークルの仲間にもバレません」

 

 これが俺の出した、先輩への義理の通し方だ。

 

 今までお世話になった先輩の将来を無茶苦茶にする気はない。

 

 通すべき筋は通しつつ、できるだけ力になろう。

 

「……う」

「先輩?」

「うぅ……。そうか、そうかぁ」

 

 俺の説得を受けた先輩は、ファミレスの机に突っ伏した。

 

 そして、泣きそうな声になり、

 

「分かった、そうだよなぁ。私も気が動転してた……」

「先輩」

「ごめん、迷惑かけて本当にごめん。……自首か、私がすべきは自首だったかぁ」

 

 顔を上げないまま、イジイジと嗚咽を零した。

 

 

 

 

「実は怖かったんだ。逮捕されたくないなら大金よこせとか、その、ヤらせろとか色々言われるかもって」

「そんなの脅迫行為じゃないですか」

「うんそうだな。……君が変に真面目で安心したよ」

 

 注文したパフェが届き、二人で甘味を囲み。

 

 観念した様子の先輩を前に、俺は穏やかに会話を続けた。

 

「迷惑をかけた悪かった。それと、諭してくれてありがとう」

「いえ」

 

 どうやら、部長は自首する覚悟を決めたようだ。

 

 だとしたら、これ以上俺がすべきことはない。

 

「……今までも、そういう事はしてたのですか」

「いや。知人にいやなことを言われちゃってさ、ストレスに耐えかねて暴走してしまった」

「いやなこと?」

「昔からの、絵かき友達なんだけど。ちゃんと美大に行って学んでる子。その子も、私が内定もらった会社をの面接を受けてたんだって」

「……」

「私は受かって、その子は落ちて。きっと向こうも動転してたんだと思うけど……」

 

 部長はそういって、ふと目を背け。

 

 悲しそうに、昨日の奇行の理由を語った。

 

MIRI(わたし)は、男に媚びる絵を描いて人気を稼いだだけだって」

 

 その子のことを、部長は親友だと思っていたらしい。

 

 だから、いきなり暴言を吐かれて先輩はひどく動揺したそうだ。

 

「私、SNSのフォロワー数は多いんだ。男向けの、きわどいイラストも投稿してるからね」

「クソ兎にフォローもされてますしね」

「実際、その子の絵はうまいんだよ。デッサンも崩れてないし、私なんかより色遣いも上手いと思う。でも、……ずっと私のほうが人気があった」

 

 先輩はクソ兎に影響されてか、パンツくらいは見えるイラストを投稿している。

 

 だからか、先輩のアカウントは結構な人数にフォローされていた。

 

「私はもう就職決まったし、後の学生生活は全力で楽しむだけ」

「うらやましい限りです」

「でも、彼女はまだ一個も内定もらえてないんだ。だからあんな酷いことを、私に言ったんだろう」

 

 イラストレーターの仕事は、不定期の水物だ。

 

 個人事業で稼ぐ人もいるけど、人気がないと安定した収入にはなりえない。

 

 だから、人気がない個人イラストレーターの生活は厳しいものになるだろう。

 

「でもやっぱり、すごく辛くて。どうしたら良いか分からなくて、それで」

「先輩……」

「それで。ストレス解消に、あんな、ことを」

 

 それが昨晩、彼女が奇行に走った理由だった。

 

 一度きりならバレないと、入念な準備を重ねた上で。

 

 ……親友からの暴言に耐えかねて、暴走してしまったのだ。

 

「そういう時は、俺でよければ愚痴を聞きますから。いつでも呼んでください」

「なんだ君は。……私を口説いてるのか」

「更生を促しています」

「そっか」

 

 俺の答えに、先輩は初めて口元を緩め。

 

「わかった。ちゃんとやり直すよ、私」

 

 そう、いつものように自信満々に言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。それは、確かに公然わいせつだ」

 

 その後、俺たちは交番に向かった。

 

 今回の一件は反省しての自首であり、事情聴取は受けることになるが、拘束はされなかった。

 

 警察からの呼び出しはあるものの、日常生活はそのまま送れるらしい。

 

「反省しています」

「そうだな。君の行動は被害者にトラウマを与え、取り返しのつかない心の傷を負わせた可能性もあった。君はとんでもないことをしでかした、という自覚を持ちなさい」

「はい」

 

 お巡りさんに怒られて、先輩はシュンとしていた。

 

 だけど言い返したりすることなく、素直に頷いて謝っていた。

 

「君は被害者なんだね。自首を促したのか」

「たまたま同じサークルだったので、不審者が先輩だと気づいたんです。それで」

「なるほどね」

「とてもお世話になった、大切な先輩なので」

 

 これがきっと、先輩にとって一番いい方法。

 

「ちゃんと向き合ってくれるなら、厳しい処罰は望みません」

 

 俺は警察の人に、そう言って頭を下げた。

 

「俺が言える立場かどうかは知りませんけど。なにとぞ、軽い処分でお願いします」

 

 

 

 結局、先輩は不起訴になった。

 

 就職先の会社にもバレていないようだし、サークルでは体調不良で休んだだけという話になった。

 

 先輩の『やらかし』は、俺と二人だけの秘密という事になった。

 

 

 

 しばらくたって、俺は示談書を作成するのに呼び出された。

 

 示談金なんて要らないといったが、先輩のごり押しで貰うことになった。

 

 これで先輩はしっかり罪と向き合って、清算を終えたことになる。

 

「……少しだけ、君に協力してほしいことがあるんだ」

「はい」

「イケないとわかっていることで興奮する性癖。その治療には、周囲の協力が必要って言われてさ」

 

 先輩は俺の勧めた通り、自らの性癖に向き合うべく医療機関に受診したらしい。

 

 そして何度かカウンセリングを受けて、向き合っているようだ。

 

「私が何か耐え難いストレスで、やらかしちゃいそうになった時。悩みを聞いてくれる人を作ってみろと、言われたよ」

「なるほど」

「だから、よければさ。時々、私の悩みを聞いてくれないか」

 

 サークルの中で、部長の秘密を知っているのは俺だけ。

 

 だから、そういう面で部長に協力できるのも俺だけだ。

 

「俺で良ければいつでも呼んでください、先輩」

 

 その言葉に、俺は満面の笑みで返した。

 

「俺が勧めた話です。全力で応援しますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、クソ先輩。ケツもっと上げて情けなく鳴けッス」

「アォン!」

 

 と、まぁ。

 

 ここで終わっていれば、綺麗なハッピーエンドだったのであるが。

 

「はー、本当に期待外れッスね先輩は。知り合いの女性が露出事件を起こしたなんてニュース、探せばどっかにあったでしょうに」

「アオン! オォン!」

「もう煩いんで鳴かないでいいですよ。そっスね、次はこのポーズで……」

 

 先輩の説得に夢中になり過ぎて、『クソ兎との賭け』を忘れていた俺は。

 

 女の先輩が露出狂だったという事件を提示できず、生殺与奪の権を握られたのだった。

 

「賭けは条件が同じだからこそ成立するんスよ。私が負けた場合だけ脱いで、自分が負けた場合はノーリスクなんてそんなうまい話があるわけないッス」

「……分かってる、分かってるからやってるじゃんよぉ!」

「次はこう、情けない犬みたいなポーズしてくださいッス。秋の同人で使うので」

 

 俺はMIRI部長のことを、サークル内で話したりはしなかった。

 

 部長の件は、墓までもっていくつもりだ。

 

 ……だから、賭けは俺の負けになった。

 

「パシャパシャ」

「あっ写真は……」

「資料として使うだけだから。敗者が文句言うなッス」

 

 そして負けたらヌードモデル、という賭けは俺にも有効だったらしい。

 

 哀れ、俺はクソ兎の同人誌に使うモブ男子のポーズを取らされ、撮影された。

 

 こんなのひどい。

 

「ちょっと調べたら出てきましたよ、女の露出事件。海外の女子大生、ヌーディストグループのやつとか」

「ぐっ……」

「先輩がちゃんと調べてたら、同じことを私にできたのに。勿体ないッスね」

「お、お前な。というか、負ける気だったのか」

「うッス」

 

 そして、何とも奇妙なことに。

 

 このクソ兎、自分が賭けで勝ったというのに不満げであった。

 

「このネーム、見てくださいっス」

「『童貞に露出調教されるJK記録』……?」

「それ次の新作ネームなんですけど、詰まってるんスよね」

 

 ……。

 

「童貞って、女に好きなポーズ取らせられる状況で何させんスかね」

「おいお前まさか」

「鬼の首を取ったような顔の先輩が、私に恥ずかしいポーズを強要してくるとワクワクしてたのに。そのために朝早く来て、部室にカメラまで仕掛けてたのに。童貞に露出調教される私を撮影するために!!」

「……」

 

 ああ、分かった。これ、あれだ。

 

 この女が昨日言ってた『俺に頼みたいこと』って、これのことだ!!

 

「……このクソ兎ィ!! 勝っても負けてもお前に得しかねぇじゃねぇか!!」

「当り前ッスよ。賭けってのはそういう時だけやるもんッス」

 

 この女、負けても別によかったのだ。

 

 ヌードモデルという名目で俺がどんなポーズを取らせるか、取材する気なのだから。

 

「エロ漫画であろうと共感性、リアリティは大事っス。女の私にはない男の……、それもエロ漫画読むような童貞の感性が欲しいッス」

「だからって自分の身体使うか!?」

「使わせる気はないッスよー、でも見せるだけなら無料。恥の概念なんざ母体に置いてきた」

 

 ニヒーっと笑う、エロ漫画に全てをささげたクソ兎。

 

 やはりこの女は、このサークルで最強の存在だ。

 

「土下座するなら後で、私が同じようにヌードモデルやってもいいっスよ。てかやってみないっスか?」

「誰がやるか!!」

「えー? 本当にィ? 私にやられた『屈辱』をやり返したくはないんスかぁ?」 

 

 悔しい、悔しい。

 

 何が悔しいって、ちょっとやってみたいと思ってしまったのがすごく悔しい。

 

「俺はお前なんかに負けん!」

「ざーこざーこ」

「雑魚じゃないが!」

 

 

 

 

 

 

 一時間後。

 

 クソ兎は撮影に満足し、エロ同人の執筆に戻った。

 

 俺のあられもない写真を線画にして、書き込みながら。

 

「……」

「MIRI部長?」

 

 俺は恥ずかしいところを何もかも撮られ、憔悴しきって寝ていた。

 

 露出狂の気が知れない。なんでこんな苦痛を自ら味わおうとするのか分からない。

 

 くやしい、くやしいよ俺。

 

「その、あー、何だ」

「……」

「よかったら、悩み、聞こうか……?」

 

 そんな俺を見かねたMIRI部長が、心配そうに話しかけてきた。

 

 ……。

 




これにて、完結です。応援いただきありがとうございました。
続きを思いつくか、ご要望があれば続きを執筆します。
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