それでもよろしければどうぞ。
「もうシャーレの部室は目の前よ!」
『今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました。ワカモ、百鬼夜行連合学園で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がある危険な人物なので気をつけてください』
キヴォトス……『先生』と呼ばれる存在がやってきた場所は今までの常識を覆すような硝煙の香りと騒がしい爆音に支配されたとあるゲームよりも世紀末な場所であったのだが、『先生』は持ち前の善性を此処でも遺憾なく発揮することで自分の職場となるシャーレを取り戻すべく、銃弾の一発でも直撃すれば即死するか弱い身体でこの世界の生徒達と共に戦場に立っていた。
そして目的地に至る前に今回の事件の主犯が明らかになり──密かに彼らの話を聞いていた存在も動き始める。
「──」
静かに伸していた生徒の首を鷲掴みにしていた手を離し、『先生』達の後を着いていく影はその存在を視界に収めた。
「……あらら。連邦生徒会は来ていないみたいですね。フフッ、まぁ構いません。あの建物に何があるのか存じませんが、連邦生徒会が大切にしている物と聞いてしまうと……壊さないと気が済みませんね」
件の人物、狐のお面が特徴的な和服の人物──狐坂 ワカモは動員した不良生徒達の暴れっぷりを眺めながらお面の下で舌舐めずりをした刹那、背後から感じ取ったよく知る気配に振り返り何一つ躊躇いなく発砲するとその弾丸はガギンッ!!とまるで金属に当たったかの様な音を立てて弾かれ、そこには黒い指抜きグローブを引っ張り、今のでズレたのであろうソレを調整している黒髪の人物が立っていた。
「おやおやまぁ!私達と時を同じくして脱走したとは聞いていましたが、今日までお名前を聞きませんでしたのでてっきりご自身の正義に従って再収監されたものと思っておりましたが……ふふっ、貴女も綺麗事で着飾っているだけの同じ穴の狢でしたかね」
そうワカモに話しかけられた人物の服装はキヴォトスで警察の役割を持っているヴァルキューレで正式採用された制服なのだが、知る者が見ればそれが所謂旧型であり、とある一件から一新された前の服装であると分かる。
そんな彼女はワカモをジッと、抜き身の刃の如き輝きを放つ銀色の瞳で睨み付けると漸く調整が終わった指抜きグローブをグイッと引っ張り、目を閉じ一呼吸深く吸い込む。
「お久しぶりですのに釣れないお方。ですが、貴女となら楽しめそうですわねぇ」
「──正義執行」
深窓の令嬢を彷彿とさせる綺麗な声とは裏腹に、重苦しい決意が込められた言葉が紡がれた刹那、ワカモから余裕という態度が消え去り対面していた彼女はアスファルトに靴底の跡を残し姿が消える。
「ふふっ!!」
否、消えたと錯覚する速度でワカモへと駆け寄った彼女の重い拳を愛銃で受け止めると力に逆らうのではなく、あえて受け入れる事で最小限の労力で彼女の一撃を受け流すとガラ空きとなった脇腹に鋭い蹴りを叩き込むワカモであったが、足から伝わる硬い感触に舌打ちしその拳で靴ごと足が握り潰されない内に飛び退く。
「ふふっ、ははは!!やはり鈍っていませんのね!!天秤 テマリさん!!」
「鈍る?そんな訳がないだろう。ワカモ、貴様の様な奴が晴天を歩く限り本官の正義が必ず穿つのだから」
「その割には行き過ぎた正義執行が連邦生徒会長の目に留まり、ヴァルキューレは制服を変える程のイメージ払拭が必要になったそうですが?」
「本官の正義を悪と更に広い視点を持つ者が決め、本官の正義執行よりも多くの人々が救われるのなら従いましょう。ですが、本官を含む七囚人が脱獄したのであれば話は別です。明らかに本官が収容されるよりも多くの人々が悲しみに沈む」
挑発する様に車の上に立っているワカモを見上げながら、テマリはすぐ近くのガードレールを片手で砕き支柱のみを掴み取るとブンブンと振り回しながら、ゆっくりとワカモへと歩いていく。
「それは本官の正義ではない。であれば、同じ七囚人を捕まえ矯正局に戻るのが本官の正義だ」
「……飽きもせず最大多数の最大幸福というやつですか。その正義に他ならぬ貴女が殺されようとも構わないと」
「そうだ。それが正義だ」
相変わらず歪んでいるとワカモは呆れるが、それと同時にそれでこそテマリだとも思う。
自らを犠牲する事を厭わないテマリの正義の危うさを連邦生徒会長は重く見たのかもしれないが、そんなものは甘い甘過ぎると。
このキヴォトスにおいて、自身の様な存在を悪として捕えるのならどの様な悪であっても包み込む寛容さを持ったそんな博愛の人か、目の前に立ついっそ狂気とも呼べる正義を貫く者でなければ話にならないと。
「ふふっ……えぇ、ですから貴女は壊し甲斐があるのですよテマリさん!!」
「理解出来んなワカモ」
一発の銃声に二つの弾丸。
卓越した射撃の腕を持つワカモだから実現した絶技を前に、テマリは歩みを止めずただ鉄の棒を振り回し弾き落とすとその流れのままに鉄の棒をワカモに向けて投擲した。
「っと!」
クルクルと回りながら、風切りの轟音を立てて迫る鉄の棒を避けたワカモの背後で一台の戦車がお釈迦になる音と悲鳴が響き渡るが両者は気にも留めず、空中という踏ん張りの効かない状況で拳と銃をぶつけ合わせワカモは仮面の下で狂気的な笑みを、テマリは鉄仮面のような仏頂面を浮かべると互いにそのまま地面に下り、両者の足元のアスファルトが砕け散る。
「……」
「ふふっ!!」
喰らえば顎の骨が容易く砕かれるであろう蹴りを体操選手の様に上体を逸らし、地面に手をつく事で距離をとりながら避けるワカモは自慢の尻尾で挑発する様にテマリの頬を撫でるが、ふわふわとした感触に一切惑わされる事なくテマリは逃さんと振り下ろした足で震脚を放つと振り絞った右ストレートを放ちながら、至近距離で放たれた銃弾を顔を傾ける事で避ける。
「一撃くらい喰らっても宜しいのに」
「こちらのセリフだ」
姿勢を低くする事で右ストレートを避けていたワカモと短く言葉を交わすと、テマリは即座に蹴りでの追撃を選ぶがそれを読んでいたワカモは膝に銃床をわざとぶつけ、初動を崩すとテマリの鳩尾に向けて掌底を放つ──が、全く効いた様子を見せないテマリを見て距離を取りそんな彼女の背後からやってくる『先生』の姿を捉え、カチャリと狙いを向ける。
「ッッ!!」
“え──”
ダンっと放たれた弾丸を『先生』は認識する事が出来なかったが、その代わり鼻を擽る戦場には似つかわしくない良い匂いを感じやがて、自身が抱き留められている事に気がつくと慌てて距離を取ろうとする。
「動かないでください。今は本官の身体が盾となっていますが、少しでも動けば御身を安心を確約出来ません」
“う、うん”
自分を見る銀色の瞳に安らぎを覚える『先生』は、キヴォトスに来てからずっと感じていた緊張が一気に解れていくのを感じて思わずこのまま彼女に抱かれていたいという欲望が顔を覗かせるが、慌てて教育者としての矜持を取り戻しその欲望を封印する。
そんな謎の葛藤が行われている中、テマリはジッとワカモを睨み続けそんな彼女を揶揄う様に自身の尻尾をむけて、フリフリと煽るとワカモはシャーレのビルがある方へと飛んでいった。
「……取り逃しましたか。お怪我はありませんか『先生』?」
“え、あ!うん。大丈夫だよ!!えっと、君は?”
「あぁ、本官は七囚人が一人、執行者と揶揄される天秤 テマリです。元、ヴァルキューレですが今は退学処置をされた身ですので『先生』の定義からすれば犯罪者となりますかね」
『先生』と一緒にやってきた生徒達から銃口を向けられる中、一切彼女達を気にしていないテマリは転校生が自己紹介する様な軽さで己の名を『先生』へと告げるのであった。
名前:テマリ
フルネーム:天秤 テマリ (あましょう てまり)
役割:STRIKER
ポジション:フロント
クラス:アタッカー
武器種:AR(L85)
攻撃タイプ:爆発
防御タイプ:重装甲
学園:元ヴァルキューレ
年齢:16
誕生日:10/2
身長:190cm
趣味:筋トレ、格闘技、正義執行
CV:松岡美里
基本情報:ヴァルキューレ警察学校で、数多くの犯罪者を捕まえた実績があるものの周囲への被害を省みる事なく犯罪者を捕まえる為、凶悪犯罪者と対峙した際には被害総額だけでヴァルキューレの経済状況を一気に傾ける程の行き過ぎた正義の心を持つ。
一時、SRT預かりになったものの強すぎる正義感は何一つして変わることはなく、やがて犯罪者の一人として矯正局送りとなってしまった。二つ名は『執行者』
固有武器:『正義執行』(L85)
鈍器としても使えるその一点だけで選ばれた。