この手の作品書いてると思想が顔を出すよね──私は衛宮切嗣に脳を焼かれた存在だ。
“七囚人?”
「『先生』急いで離れてください!!七囚人は先ほどの狐坂ワカモと同じ矯正局から脱獄した存在を指す言葉です!!」
ミレニアムにトリニティ、ゲヘナとはキヴォトスの三大校の生徒が揃って護衛とは流石は『先生』というべきですかね?
しかし全員が殺気立って本官に銃口を向けるとは……やはり七囚人という肩書きが邪魔をしているのでしょう。
「ご安心ください。本官は善良な市民には手を出しません。本官の正義は悪を穿つ為にあるものですから」
「ッッ、ならどうして矯正局を脱獄したのよ!?あそこは法的にも正しい場所の筈よ!!」
「先ほどのワカモにも言いましたが、本官一人が捕まっているよりも多くの犠牲が生まれます。であれば、本官は再び世に出て正義執行をするべきだと判断した次第です。どうやら本官に裁きを下した連邦生徒会長も不在のご様子ですし」
「なっ!?」
おや、皆さんの表情が驚きに染まりましたね。
本官の見た目が文官ではないのは百も承知ですが、これでもヴァルキューレの一人として犯罪者の鎮圧には尽力した身ですのでこうまで分かりやすく犯罪者達が暴れ、鎮圧に彼女が現れていないのであれば自ずと察するぐらいの知性はありますとも。
「天秤……テマリ……思い出しました!!単身でゲヘナに攻め込み、当時の生徒会及びヒナ風紀委員長と丸三日戦い続けたと記録が残っている『執行者』!!」
「……やはりゲヘナの生徒にはバレますか。一つ聞くが、ヒナは上手くやっているのか?」
「ッッ……えぇはい。ヒナ委員長が風紀委員長の座に座ってからはゲヘナの犯罪率は低下傾向にあります。それでもまだ多くの犯罪が起きてはいますが貴女との契約通りです」
「ならば良い。今一度、ゲヘナに攻め入るのは疲れるからな」
何よりヒナとの戦いは得るものが何もない。
本官が勝てば確かにゲヘナという多くの人々を悲しませる巨悪を討ち滅ぼす事が出来るかもしれないが、その過程でヒナという正義の為の抑止力を消してしまってはあまりに本末転倒と結論を出す他ないですし。
“君は……一つの学園を滅ぼす事が正義だと本当に思っているの?”
何やら『先生』が怒っている様な表情になっている気がしますが、その問い掛けに対する本官の答えは一年前から決まっています。
「はい。ゲヘナは多くの悲しみを生み出します。ゲヘナと他の学園、人々の平穏。どちらに天秤が傾くかは一目瞭然の事だと思いますが?」
常に救われるべきは多くの人々である筈です。
ゲヘナは人数が多いですが、このキヴォトスの総人口よりは少なくそれでいて多くの悲しみを生み出す……であればかの学園は存在そのものが悪であり本官が正義執行しなければならない存在です。
「……ですがどうやら貴方はそう思わない様だ。『先生』」
“そうだね。私は先生であり大人だ。子供の過ちを見捨てる事は出来ない。例え、今が悪い子でも未来がそうであるとは限らないのだから”
「なるほど……わざわざキヴォトスの外から選ばれるだけはあって善い大人だ。本官としてもその意見が好ましく素晴らしいものである事は認めますが、『素晴らしい未来』とやらに辿り着くまでどれだけ多くの善い人々が涙を流し、苦しまなければならない?無辜の人々はただ、日々を一生懸命に生きているだけだ。それだけだと言うのに己の快楽の為に他者を傷付けることを厭わない盲目な悪人共に何故!!悲しまなければならない!!」
そして『先生』の様な大人に救われ、更生した悪人は誇らしげに語るのだ──自分は頑張ったのだと!!
そんな悪人を周囲は更生して偉いと褒め称える……違う違う違う!!真に褒められるべきは日々を一生懸命善く生きた者達だ!!
“テマリ……私は君の事をよく知らないけどその理想が行き着く果てはきっと君を蝕むよ”
「──構いません。元より覚悟が出来ていたからこそ、矯正局に捕まっていたのです。本官の正義が大衆にとっての悪となった時は本官がそうしてきた様に正義により裁かれるつもりです」
“テマリ……”
「本官を止めるつもりならお好きに。ですが、今はそれよりも成すべき事があるのでしょう『先生』、本官はこれで失礼します──貴方の正義が揺るがぬ事を期待しております」
発砲されるより早く、後方へと一度飛び退き本官の移動で生じた暴風に彼女らが目を閉じている間に業腹だったが、ワカモとは逆方向へと移動させて貰った。
“天秤テマリ……元ヴァルキューレ警察学校二年生、周囲への物的被害を省みない代わりに突出した検挙率を誇りその実績を盾に退学にはならなかったが単身でゲヘナに攻め入るというヴァルキューレの方針に相応しくない行為をとった事で当時のヴァルキューレの生徒会長も庇う事が出来ず、SRTに送られてその後に矯正局入りと。濃い経歴だね”
あの後、みんなを連れて無事にシャーレを奪還し諸々の手続きを済ませた『先生』は、自室でリンに頼んでいたテマリの資料に目を通していた。
“彼女のあの目は覚悟が出来ていた。自分が裁かれても良いと本心で思ってる”
『──構いません。元より覚悟が出来ていたからこそ、矯正局に捕まっていたのです。本官の正義が大衆にとっての悪となった時は本官がそうしてきた様に正義により裁かれるつもりです』
『先生』が思い出す彼女の銀の瞳はあの時、一切の濁りも迷いもなく自身が裁かれる事を許容している瞳で恐らく、『先生』がシャーレの権限を用いてテマリを裁くと決めればきっと彼女は従うだろうと少ないけれど濃密だった会話で『先生』は理解していた。
“でも困ったな……テマリが言ってる事は一つの真実だ。私がどれだけ生徒達の味方になって改心させるにしても時間はかかる。その間に犠牲が出る事を否定できない”
勿論、『先生』は犠牲を出させない様に努めるつもりだが現実的に『先生』は一人であり、使える時間を限られてくるのだからテマリの言う無辜の人々全員を助けるのは無理だ。
そしてそれは同じくテマリにも言える事だが、彼女は何処までも現実を見ているが故に自分の手が届かずに悲しむ無辜の人々がいる事を理解しているが故に目についた悪人に正義執行を行なっているのだろう。
“私が理想を掲げているのなら彼女は現実を見ている。根が悪人ではないから歩み寄れるとは思うんだけど難しいなぁ”
理想と現実の折り合いを見つけるのはとても難しい事で『先生』は眉間に皺を寄せるが、それでも『先生』はテマリを諦めるという選択肢を取る事はない。
何故なら彼女は言っていたのだから。
言葉の最後に消え入る様な小さな声で、けれど確実に『先生』にだけは聞こえる声量で。
“私の正義が揺るがない事を期待するって言われちゃったからね。生徒の期待に応えるのも立派な先生の役割だ!”
時間をかけて全てを解決する正義か、犠牲を産んでも短期決戦する正義か。
さぁ、どっちが正しいのでしょうね?