今回はテマリちゃんが大暴れしてます。これにつき、タグに最強をつけましたが負ける時は負けます。
初めの違和感はゲヘナの南端に位置する見張りからの定時連絡がなかった事だと記録されている。
ゲヘナ学園は自由と混沌を学風にしている為か、キヴォトスにおいて珍しく警戒されている学園であり自治区が隣接する学園は来訪者含めて念の為、ある程度の監視を行っているのだがその日は何一つとして連絡が来なかった。
しかし、ゲヘナ生徒なのでサボりかな?とあっさりと受け流され次の定時報告を待とうと結論が下り、その次の定時報告の時には初めに連絡が来なかった場所から少し離れた場所の見張りからの連絡もなかった。
「あれ?お昼の時はしっかり報告あったよね?」
「うん。本日も平和よく晴れてた日で、野球が楽しいって来てる……此処の見張りからも連絡はなかったし念の為、上に報告してくるか」
「おぉー、偉いねー」
「そんな気分ってだけだよ」
普段ならちょっとゲームを嗜んでからと動くこの生徒の気紛れがゲヘナの危機をいち早く察知する事になるとはこの時、本人すらも思っていなかった。
「ふむ……雷帝の一件もある。マコト、部隊を揃えて確認に行ってくれるか?ヒナには戻り次第合流する様に伝える」
「分かりました」
ゲヘナの雷帝が残した爪痕から未だ完全に回復していないというのに、舞い込んできた異常事態に当時のゲヘナ生徒会長は自身の後を継ぐであろう羽沼 マコトの実績作りの一環として一個小隊ほどの部下を与えて偵察に送り出した。
どうせただのサボりだろうと件の場所まで雑談をしながら向かったマコト達偵察部隊は、目的地まで残り一キロという辺りで異常を検知する。
「マコト先輩。前方一キロ先から黒煙が立ち昇っています!!」
「キキッ……大方、何処かの部活が大暴れをしただけだろう。気にせず」
先に進むぞとマコトが続けようとした瞬間、爆発が起こり自分達が乗る車のすぐ近くに壊れた戦車の砲塔が深々と突き刺さり、堰を切ったよう様に反対側から多くの人々が逃げ出してくるのが視認できた。
「ッッ!?あんたら生徒会の連中か!?急いで伝えてくれ!!たった一人でゲヘナに喧嘩売りに来た奴がいる!!」
「何を言っている?雷帝の一件があったとは言え、ゲヘナは三大校の一つだぞ。たった一人で攻め込むなど正気の沙汰じゃ」
「あぁそうだよ!!だから正気の沙汰じゃないバケモンが来たんだよ!!」
「……先ずは落ち着かせて話を聞くぞ。おい、お前水を」
明らかに逃げてきた者はその恐慌状態に陥った表情も含めて、冷静ではないと判断したマコトは部下に水を用意させ与えると彼女は勢いよくコップの中の水を飲み干し、先ほどよりは落ち着いた様子で口を開こうとする。
あの言葉が聞こえてくるまでは。
「正義執行」
初めにマコト達が感じたのは強い揺れだった。
車に乗っている自分達が一気に前のめりになるほどの揺れは、停車していた筈なのに事故ったのではないかと錯覚するほどで一瞬何が起きたのか分からなかった彼女達の耳に水を与えた生徒の甲高い悲鳴が聞こえ前を見ればそこに彼女は立っていた。
「ひぃぃぃ!!」
ボンネットの上に降り立っていたのは、マコト達が見上げるほどの大きな女性で腰まで届く黒髪ロングに切り揃えられた前髪はまるで、大和撫子の様だが鋭い銀の瞳は銃が当たり前となったキヴォトスで、あまり見かける事のない抜き身の日本刀の如き輝きを放っておりその一点だけで先程の印象は一気に覆され、鉄火場に立つヤクザの様な有り様となる。
しかし、そのイメージとは裏腹に身に纏う服装はヴァルキューレ警察学校のものでもはやどの様な印象を抱けば良いのか分からなくなるマコト達であったが、他の学園に精通しているマコトはいち早く襲撃者の正体に辿り着いた。
「貴様──天秤 テマリか?」
「……整った身なりに数々の胸章。それなりの立場と本官は愚考するが如何か?」
天秤 テマリ──マコトが有する情報において新人でありながらも数々の事件に関わり、その多くを行き過ぎた正義感で解決に導いたとされる『執行者』として記録されている存在。
その為、彼女が下手に出ている態度はブラフで自分達が即座に攻撃しようものなら反撃する体勢が出来上がっている事を察し、その上で質問を投げかけてくる意味があるのだと判断したマコトは通報しようとしていた部下を手で制し銀の瞳と視線を合わせた。
「キキッ、貴様の行動はゲヘナへの侵略行為だ。今なら大人しく帰れば不問にしてやるが」
目の前の人物が少々、やり過ぎた捕まえ方を実行する者と知っている為、今回もゲヘナに逃げ込んできた者を捕える為にやり過ぎたのだろうと思いヴァルキューレとしての立場を失いたくなければという遠回しな脅しの意味も込めて撤退の勧告を行うがすぐに自身が読み違えていたと理解する事となる。
「不要だ。本官の目的はゲヘナ学園の消滅なので」
「……は?」
暗に自分の地位を伝え、大人しく下がれと命じたつもりだったマコトの耳に届く正気の沙汰とは思えない発言。
だが、同時に目の前の女はその狂言を間違いなく実行するつもりだと数巡遅れて思い至ったマコトは周囲がテマリを嘲笑うより早く部下の通信機を奪い去り
「対応が早いな」
「ぐっ!!」
一瞬の通信の後に車は彼女のシコ踏みだけで、容易く破壊され悲鳴を上げながら地面に転がる自身の部下達を他所に自身の愛銃であるWA2000を元にした『唯我独尊』を構えながら距離を取る。
「正気か貴様!!ゲヘナを裁いたところで待っているのは更なる混沌だぞ。三大校の一つを失う意味が分からんのか!?」
「分かっている。その責任も全て取るつもりだ」
「なんだと?」
怪訝な表情を浮かべるマコトを他所にテマリはズレたのであろう黒い指貫グローブを引っ張り整えながら、ゴミと化した車を蹴り飛ばし進む。
轟音を立てて迫る鉄塊をテマリから一定の距離を取る事を意識しつつ、マコトが避けていくと漸くグローブの調整が終わったのか一際強く引っ張ったテマリがグッと腰を落とす。
「全ての暴徒を本官が潰せばそこには平和が広がる。多くの人々を悲しませるゲヘナは消え去り、新たな体制で歩み始めるキヴォトスが。故に本官が為すべき事はただ一つ──正義執行」
音を置き去りにした──そう錯覚するほどマコトが覗いていたスコープから消え去るテマリ。
何が起きたと彼女が理解するより早く、背後から振るわれた手刀が隙だらけの彼女の首を穿ちマコトは短い悲鳴と共にその場に力なく崩れ落ち、ヘイローの輝きが喪失する。
「全ては最大多数の最大幸福の為に」
微かに意識を残していた生徒がその言葉を最後にテマリの姿が消えたと証言した。
時間にしてみればほんの僅かな時間しか稼げなかったマコト達であるが、生徒会長の元へと通信を繋げていた事が功を奏し通信が乱暴に途絶えたのをきっかけに生徒会長は即座にゲヘナ学園の武装組織に戦闘準備を命じ、各地に派遣している部隊も学園へと戻る様に通達を出し襲来する脅威への対策を整えさせた。
そしてマコト達との通信が途絶えた三時間後、ゲヘナ学園の一キロ先に展開された部隊がテマリを捉えた。
「ッッ、攻撃開始!!」
警告は無し。
展開された中隊規模の一斉射撃が堂々と歩くテマリに向けて放たれ形成される銃弾の雨を前にしても、テマリの動きは変わらずゲヘナ側の攻撃が着弾。
「なっ……目標健在!?馬鹿な一斉射撃だぞ!?」
僅かなのけ反りもなく、テマリは歩みを進めその3歩目が地面を砕くと、予め展開された防御用のバリケードがまるで戦車に突っ込まれたと錯覚するほどの勢いで破壊され、扇状の形で展開していたゲヘナ側のちょうど中央に展開していた生徒達がギャグ漫画の様に吹き飛んでいく。
それがただの突進により引き起こされた被害だと彼女達が認識するより早く、テマリは手近な武器を拾い上げると呆気に取られたままの右翼側へと突撃し拾い上げた武器を鈍器の様に使い、生徒達を吹き飛ばしていく。
「なんなんだこいつは!?!?!?」
現実を正しく認識し、恐慌状態へと陥るゲヘナ側の攻撃はもはや人数の有利を全く活かせていない散発的なものでしかなく虚しく放たれる銃弾はテマリの持つ鈍器に叩き落とされるか、当たってもヘイトを稼ぐだけで手傷を負わせる事も出来ず接敵から三十秒も保たずに、ゲヘナ側の第一防衛ラインは壊滅する事となる。
「うぐ……ば、バケモノ……」
「なんの権利が……あって……」
「……」
立ち上がる事は出来ないものの微かな力を振り絞り、テマリへと文句を告げる生徒達を無機質な瞳で見下ろしたテマリは再び、歩み始め彼女と対峙する事となる。
「随分、暴れてくれたわね執行者」
「……」
問題児の鎮圧を行っていた現ゲヘナ最強ヒナが静かな怒りを秘めた表情で、大きく翼を広げテマリの前に立ち塞がりそんな強者の気配を察知したのか今までゲヘナの人間達をまともに視界に捉えていなかったテマリが初めてヒナを視界に収めて立ち止まった。
「既にヴァルキューレには抗議が届いているわ。貴女がゲヘナを滅ぼしたところで帰る場所はない」
「……だろうな。その程度の覚悟をしていないと思ったのか?」
「いいえ。ただ確認したかったのよ。何処まで本気なのか」
「本気であれば手加減してくれるのか?」
「違うわ」
後にゲヘナの英雄と称されるヒナの本気により、小さな身体とは比べ物にならない程の神秘と殺気が立ち昇り戦場を支配していく。
倒れ伏したゲヘナの生徒達、彼女の後ろで有事に備えている生徒達全員が味方である筈のヒナに恐怖の感情を抱き、鳥肌が立つがその空気を一身に受けているテマリに一切の変化はなく、大きく深呼吸を一度した後に黒いグローブを引っ張り同じく神秘を解放する。
「ゲヘナを護るために本気で行かせて貰うわ執行者」
「来るが良い。ゲヘナの正義よ、本官の正義を打ち砕けるものならな──正義執行」
瞬間、今までの様にテマリの姿が消えヒナが横に飛び退くと先ほどまでヒナが居た場所がクレーターへと変わり、中央には拳を振り下ろしたテマリがヒナの方へと視線を向けていた。
観戦している者達にはテマリの動きが見えなかったが、ヒナには見えていた様で避けた彼女は追撃が来るより早く愛銃デストロイヤーを加減なく放ち、銃弾である筈のソレは神秘によりまるでビームの様にテマリを蜂の巣に変えんと迫る。
「ふん!!」
激流が壁にぶつかり逸れる様にテマリへと放たれた弾丸は彼女の拳に次々と、弾かれ色んな方向へと拡散していく。
今までも銃弾を弾くという脅威的な頑強さと反射神経を見せていたテマリであったが、それは相手がヒナであっても変わらない様で回転数が上がっていき速度の威力が増していくデストロイヤーの攻撃を難なく弾く──だが、その場から動く事は出来ない様で拳を叩き込めない様でもあった。
永遠と続くかと思われた時間であったが、如何にヒナの攻撃がビーム兵器の様であっても銃である以上弾切れの概念が付き纏い、この時間はガチャンという弾切れの音によって幕切れを迎えた。
「はぁぁ!!」
「!!」
その瞬間をテマリが見逃す訳もなく、ヒナへと詰め寄り拳を振り下ろすが戦い慣れしているヒナは落ち着いた表情で、振り下ろされた拳をデストロイヤーで受け流すと大きな翼でテマリの顎をかち上げ、体格に見合わないデストロイヤーを槍の様に使い鳩尾に放つとその衝撃を利用し距離をとって、手早くリロードを行う。
数歩下がったテマリであったが、ダメージは小さい様で首をゴキリと鳴らすとリロードが終えたヒナへと真正面から突っ込み、拳を地面へと叩きつける。
「くっ!?」
飛び散った無数の瓦礫がヒナの視界を塞ぐのと同時に、小さな身体を吹き飛ばさんと迫るがヒナの神秘を前にただの瓦礫がダメージを負わせられる訳もなくただ衝撃だけを与えて地に落ちる。
だが、無数の瓦礫が与えた衝撃はヒナの動きを僅かばかり鈍らせ自身のダメージなど知った事かと真正面から瓦礫の雨の中を突っ込んできたテマリの拳の直撃を許してしまう。
「ヒナさん!!」
ゲヘナの生徒の悲痛な声が彼女の名前を呼ぶ。
明らかに体躯が劣っているヒナが凄まじい勢いで吹き飛んだのだから、彼女の敗北を想像してしまったのだろう。
しかし、この程度で倒れる事が出来るのなら彼女はゲヘナの正義たり得ていない。
「……来るか」
一度たりとも視界をヒナが飛んでいった方向から背けなかったテマリが呟くのと、同時に立ち上る土煙を超えヒナが弾丸の様にテマリへと迫り、頭上を取ると弾幕が展開される。
「少しだけ痛かったわ」
「ははっ、そうか!」
頭上から放たれる弾幕の雨の中をまるで、ダンスを踊る様な足取りで避けるテマリに対し単なる弾幕では効果が薄いと察したヒナは即座に攻撃を辞めて地面に足を着けると顔面スレスレまで迫ってきていたテマリの拳を避け、懐に入り込みほぼゼロ距離での弾幕を放つ。
「う、ぉおおおお!」
今度はテマリが弾幕の圧に押されて近くのビルまで吹き飛ぶと、そこへ容赦なくヒナは弾幕を叩き込みながら周囲へと指示を出す。
「榴弾急いで!!戦車も!!ありったけの火力をぶつけて!!」
「「「りょ、了解!!」」」
ヒナが蓋をし、そこをゲヘナの集中火力が叩く。
分かりやすい総力戦がテマリを襲い、瞬く間にテマリが吹き飛ばされたビル一帯は砲撃の雨に晒され爆炎が包み込む事となり、そこで一旦ヒナは攻撃を辞めてリロードを行う──その姿はまるでまだ戦いが終わっていないかの様だった。
「……凄まじいな。本官でなければ死んでいたぞ」
降り注ぐ榴弾の一発が、ゴォン!!っという音と共に逸れていったことで攻撃が止むと今まで火の海となっていたところから上半身が剥き出しになり大事な部分を辛うじて、残った服が隠しているだけのテマリが姿を現す。
ダメージは負っている様だが、あの火の海の中で幾らヘイローの加護があるとはいえ普通なら死んでいるのが当たり前で多少の流血だけで済んでいるテマリの規格外さがよく分かる。
「……今日が終わり明日が訪れる。それでも貴様ら、ゲヘナは変わらないのだろうな。己の悪意が赴くままに無辜の人々を傷付ける……それが本官は堪らなく許せないのだヒナ」
「貴女が今している行為も十分、悪意だと思うけど」
「滅ぼすと決めた存在に善意を向ける者が何処にいる?」
「執行者。貴女の正義はゲヘナを滅ぼして次に何処へ向かうの?トリニティ?ミレニアム?……いずれにしろいつか貴女の正義はキヴォトスを滅ぼすわ」
「本官が悪となった時、別の誰かが本官となり討ち倒すとも。それが正義だ」
「……そう。燃え尽きても構わないと言うのね。なら、私が貴女になってあげるわテマリ」
今までとは異なる体勢へと変わり、片膝をつきながらデストロイヤーを構えるヒナに対し、テマリは両腕を大きく広げながら自分を撃てと言わんばかりの態度で悠然と歩みを進める。
銃口に神秘が集まり、否応なしに周囲の緊張感が高まり静けさが訪れる。
その緊張が正しく頂点に達した刹那、デストロイヤーから神秘が解放されまるでビームの様な攻撃がテマリを襲う。
「ぐっ、ぬぅぅん!!」
一発目を喰い縛り、空中へと弾いたテマリの視線の先でヒナが再度体勢を変え第二射目が放たれる。
先程のよりも強く神秘が込められた一撃が地面に一本筋を作りながらテマリへと迫り、防御体勢をとったテマリを後方へと押し込む事に成功するが二射目もまた空中へと弾き飛ばされる。
「これで終わり」
「ッッ!!!!!!!!」
二射目を弾き飛ばし、体勢が整っていないテマリを今まで以上の神秘が込められた一撃が襲い爆発する。
立ち上る煙と形成された大きなクレーターがその威力の絶大さを示しており、流石のヒナも疲労感が伺える表情で銃を杖代わりにし待機する。
クレーターの中央では、テマリが大の字で寝転がっており誰もがヒナの勝利を確信し歓喜の声を上げた。
「は、ハハハハハ!!強いなヒナ!!」
「……頑丈すぎるわテマリ」
ズンッという地響きと共にテマリは両足の力だけで起き上がるというタフさを見せつけ、両腕を組んだまま立ち上がる。
もはや胸は完全に露出しているのだが、本人は全く気にも止めずクレーターから飛び上がり着地するとゴキゴキと全身の骨を鳴らしながら拳を構えた。
「まだやるの?」
「当然。本官は戦える」
「そう。じゃあ貴女が捕まるまで付き合ってあげる」
そして再び、二人は戦いを始めこれより三日間、銃撃の音がゲヘナから途絶える事はなかった。
だがしかし、この一件で執行者はヒナの実力を認めた様で連邦生徒会とヴァルキューレ及びSRTの混成部隊によって捕まったあと、ヒナと親しげに話す姿が目撃されたという。
「──これがテマリの起こしたゲヘナ襲撃事件の流れよ『先生』」
“……教えてくれてありがとうヒナ。えっと……なんというか規格外だね”
「何処かで私が立てなかったらゲヘナを滅ぼしていたでしょうね」
そう話すヒナの視線は自分と向かい合う位置に座り、アコが淹れたコーヒーに顔を顰めているテマリへと向けられるのだった。
Q:なんで倒れないの?
A:正義だからです。言ってしまえば、気合だけで立ち続けるタイプです。倒すためには心を折りましょう