正義の執行者と謳われる七囚人   作:マスターBT

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書いててやはり、テマリのキャラクター性好きだなと親バカ発揮中


VS小鳥遊ホシノ 前編

 ブラックマーケット──キヴォトス各地に点在している連邦生徒会の管理が届かない治安の悪いエリアで、いくつかの企業が自らの利益の為に違法行為を平然と行う正に悪の巣窟と呼べる場所。

 

「ぐぁぁぁ!?!?」

 

 そのうちの一つ、砂漠が広がるアビドスのブラックマーケットに居を構えているヤクザ事務所が悲鳴と共に窓ガラスが割れ、目の当たりに大きな傷跡が残る猫型の獣人が地面へと叩きつけられその意識を手放す。

 

「……おい、あそこって猫又組の事務所だよな?」

 

「あぁ。この辺りでクスリを撒いてる連中だった筈だけど」

 

 ヘルメットが特徴的な学生達が困惑の声を漏らす最中も、事務所から聞こえてくる怒声と銃声はどんどんと激しさを増していき悲鳴が上がる度に獣人が窓から放り出されていく。

 どの獣人達もキヴォトスでは珍しい殴打された痕跡が残っており、困惑が広がっていく中、猫又組の若頭『重兵衛』がこれまでの者達とは違い、自らの意思で飛び出してきたのであろう華麗な着地を見せる。

 

「チィ!!ウチの事務所が次々と襲われていると話は来てたが、やはりテメェか執行者!!」

 

 丸みを帯びた愛らしいフォルムには相応しくないドスの入った声で叫ぶのと同時に、彼を追って静かになった事務所から一人が飛び降りる。

 身長190cmの恵まれた身体と、大和撫子を連想する長く美しい黒髪、そして抜き身の刃の如き鋭さを誇る銀の瞳は真っ直ぐに重兵衛を睨み付け、彼女の神秘に呼応する様に天秤の形をしたヘイローが金色に輝く。

 

「──正義執行」

 

「餓鬼の遊びに大人を巻き込むんじゃねぇ!!」

 

 和服であるが故に取り出しやすい懐からマカロフ拳銃を引き抜き、執行者──天秤 テマリ──へと向け放つ重兵衛だったが、彼が引き金を引くのとほぼ同時に視界からテマリの姿は消え、驚きの声を発するより早く車に轢かれたと錯覚する衝撃が腹部を駆け抜け、あっさりと意識を手放してしまった。

 

「遊び……か。本官にその言葉を届けるには些か貴様は悪党が過ぎる」

 

 何処から取り出したのかロープで気絶した重兵衛を縛り上げると、軽々と米俵でも担ぐ様に持ち上げ事務所の中へと戻って行くテマリ。

 騒ぎを聞きつけ、ブラックマーケットを取り締まるガード達が事務所に入ってきた時には既に彼女が去ってから、一時間は経過しておりそこには未だに気絶した重兵衛達を含む猫又組の者達が縛られ、まるで封をする様に紙が置かれているのみであった。

 

『彼らをヴァルキューレへと届ける事。もしも、このブラックマーケットで再び彼らを見ればその時は容赦はしない』

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当にやるんですか?」

 

「ん。もうこれしか方法はない」

 

 数日後のブラックマーケットにて、深刻化する砂漠化とそれに伴う膨大な借金により廃校を憂いに立っているアビドス高校の面々と何の因果か彼女達に巻き込まれたトリニティ総合学園のヒフミ、そしてシャーレの先生の姿があった。

 困惑を隠せないと言った様子のヒフミに対し、覚悟の決まった表情を見せるアビドス高校のシロコは青い目出し帽を装備しながら口を開く。

 

「銀行を襲う」

 

 大切な母校を守る為、自分達が必死に稼いだ返済金を悪事に転用しているカイザーの不正証拠を手に入れる為とはいえ、ぶっ飛んだ解決策を実行しようとするアビドス高校の面々にヒフミは更に焦る。

 そんな彼女を見兼ねて目を閉じていた先生は乗り気なアビドスの面々によく聞こえる様に言葉を発した。

 

“確かに相手は正規の手段が通じない相手だ。けど、悪を撃つ為に悪へと手を染めるのが君達の正義なのかい?”

 

 苛烈な正義の体現者──天秤 テマリとの出会いは先生の価値観に強い衝撃を与えていた。

 此処とは違う彼女と出会っていない世界(アプリ世界)では生徒達の味方であり続けるというスタンスと、良くも悪くも押しが強い面々に流される形で銀行強盗に進んで協力しているのだが、テマリを見ていた影響で彼女の正義が焼き付いてしまった『先生』は一つ返事を出来なかったのだ。

 

「うへ」

 

「向こうが悪いのよ!!」

 

“そうだね。でもそれは君達が悪人になって良い理由にはならない”

 

「んなっ!?じゃあ、先生はどうしろって言うのよ!?」

 

 アビドス高校には猶予がないのも彼女達に短絡的な方法を選ばせてしまう理由だろう。

 途方もない借金を抱え、必死に稼いでもどうにか利息分を稼ぐのがやっとで大元を返せないのでは幾ら働いたところで、彼女達の借金地獄が終わることはなくやがて訪れるのは廃校という現実だ。

 しかも自分達が稼いだ金が襲撃者達への支払いに使われていると知った今では、銀行強盗という最終手段を選ぶのも仕方がないと言える──と、理解した上で先生はそれでもと綺麗事を語るのだ。

 

“別の方法を探ろう。きっと何か手がある筈なんだ。君達が危険な事をしなくても良い方法が──”

 

「……優しいね先生は。でも、アビドスの現実は残念だけど優しくないんだ」

 

 そんな先生を止めるのは、アビドスという現実をよく知るホシノだった。

 酷く諦観に満ち溢れた声で必死に自分達を止めようとする先生の言葉を遮ったホシノは、シロコから渡されていた目出し帽を被るとガチャリとショットガンをリロードし構える。

 

「アビドス高校を守るためなら私はなんだってするよ。だからごめんね先生。貴方の優しい選択肢を選ぶ事は出来ない」

 

“ホシノ……”

 

 悲しいけれど、覚悟が確かに込められた強い瞳を見て先生は自分の言葉がホシノに届かない現実を悟った。

 そしてそれは彼女と思いを同じくするアビドス高校の面々も同じであろうと悟り、自分の情けなさ、無力感を強く噛み締めながらそれらを全く感じさせない強い表情で懐からシッテムの箱を取り出す。

 

「ッッ」

 

 ずっと朗らかな表情であった先生が見せる覚悟に無意識にホシノは呑まれ、一拍の後に自身が呑まれていた事に気がつくと『甘い大人』という胸のうちの認識を切り替えた──この人は『覚悟』が出来ている大人だと。

 

“──私も責任を負うよ。もしもの時は私に任せてね”

 

 この様な一悶着はあったものの、シッテムの箱を有する先生が味方したのもありアビドス高校及びヒフミの覆面水着怪盗団はブラックマーケットの銀行の襲撃に成功する。

 以前から計画していたのであろうシロコの入念な計画と、戦場の全てを見渡しているかの様な先生の指揮は極めてスムーズな強盗を可能としたのだが、そのあまりのスムーズさは予想の出来ない方向へと転がっていってしまう。

 

「ヒィィ!!渡します渡します!!」

 

「ちょ……」

 

 先ず、優れた強盗だと確信してしまった銀行の受付は、シロコの要求をほとんど聞き取らずに不正の証拠と共に多額の金をバッグに詰めて渡してしまう。

 これを訂正するには少々、口下手なシロコでは出来ずまた連日のテマリによるブラックマーケットの襲撃で動きが素早くなっているガード達の動きを察知したアヤネと先生により撤退の指示が飛んだ事もあり、彼女達は金と共に逃走してしまった。

 

「何か騒がしいと来てみれば銀行強盗とはな」

 

「ッッ、みんな下がって!!」

 

「──正義執行」

 

 逃走経路の先で不幸にも彼女らは出会ってしまった。

 苛烈な正義の具現者──天秤 テマリに。

 

「ぐっ!!」

 

「ほぅ」

 

 ぶつかり合う二人の神秘はその場の全員に空間が歪んだ錯覚を見せるのと同時に、自分達が介入して良い戦いではない事を直感させるのであった。




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