正義の執行者と謳われる七囚人   作:マスターBT

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先生の正義

 私の責任だ。

 テマリの苛烈な正義を知りながらホシノ達、アビドス高校の面々が抱える高校の存続と借金問題、そして嘗ての経験から大人への不審からくる銀行強盗という悪事を止める事が出来なかった。

 

“二人とも私の話を聞いて欲しい!!”

 

 それでも今此処で二人の戦いに呑まれて、何も出来なければ私が先生として立っている意義を無くしてしまう。

 そう感じたからアロナの忠告が聞こえていたけど、私は身体を張って二人の間に割り込み背中に当たるホシノのショットガンの感触と目の前で止まったテマリの拳に冷や汗を流す様な無茶を通した。

 

「……『先生』貴方には然るべき後にお話を伺う予定でしたが、その身を賭してまで悪を庇うのなら貴方は本官の正義執行すべき悪と判断致しますが」

 

「ッッ!!『先生』退いて!!」

 

“ホシノ。大丈夫だから──落ち着いて”

 

 テマリは私の身がキヴォトスで生きるにはあまりに脆弱過ぎる事と、唯一彼女を拘束するだけの正義を宿していた連邦生徒会長が選んだ大人だからという期待から話を聞いてくれるけど、少し気が激っているホシノは今にも暴れそうだからゆっくりとした声で落ち着かせる。

 少しだけ、背後の気が落ち着いたのを感じながらごくりと唾を飲み込む──テマリと視線を合わせ続ける事がこんなにも疲れるのは少しだけ、予想外だったかな。

 

“……先ずはお互いに共通している事実を話そうか。私達は銀行強盗を行った、相手はブラックマーケットを拠点と置くカイザー系列の銀行だね”

 

「その通りですね。例え、ブラックマーケットでの営業であったとしても定められた法の範疇を超えていなければその業務は守られるべきものであり、これをいかなる理由があろうとも犯す者は悪と、本官は断じますが」

 

“そうだね。だからこれから私が知る真実を話そう”

 

「……お聞きしましょう」

 

 突き出されていた拳が下がり、テマリが一歩後ろに下がってくれる。

 何処までも理性的な感情の乱れが全くない銀の瞳に私の胸の内が透かされている様な気分になるけど、言葉を紡ぎ続ける事を選んだ。

 

“ホシノ達、アビドスはあの銀行に多額の借金を負っている。原因としては砂漠化の進行によるインフラ等の修理や改善……端的に言うなら進行する砂漠化に対応する為の自分達が自由に使えるお金が足りなくなってしまったから”

 

 アロナに頼み事前にアビドスがどの様にして転落していったのか過去の資料を遡って貰った。

 そこには正式な記録が失われたものも多かったが、軽く目を通すだけで嘗てのアビドスが必死になって砂漠化を食い止めようと足掻いていた記録が確かに残っていたんだ。

 

「苦しい思いをしたのだから情状酌量の余地はあると?……本官が記憶している限り、アビドスは在校生徒が極めて少なく廃校となるともやむなしだった筈です。そもそも、悪に手を染めて犯罪者となるのなら廃校を選び借金から解放される。その道の方が余程、健全だと思いますが」

 

「ッッ!!何も知らない奴が好き放題言ってくれるね……!!」

 

「はい。悪の道に堕ちた者の考えだと理解する気もありませんので」

 

 あぁ……折角、落ち着きつつあったホシノの怒気がそれに向こうで話を聞いている対策委員会の皆からも怒ってる気配が漂って来てるし。

 分かっていた事だけれど、感情ではなく理屈が通る数多くの人間にとっての正義を重んじるテマリと自分達の学園を守る為に必死になっているアビドスの皆の相性が悪い!!

 

“ッッ、なら!!その銀行がアビドスから返済されるお金を別の団体に流し、更なる困窮を彼女達に与えていたとすればどうだい?彼女達はしっかりと借金を返済し滞らせた事はない上で”

 

 険悪の一途を辿る空気が暴力での解決へと行き着く前に声を張る。

 テマリは自分の正義に絶対の自信を持つが故に相手がどれだけ強大であろうとも、膝を屈することを良しとしない性格だ。

 圧倒的なまでの武力で一時的に撤退させる事は出来ても、彼女を完全に退けるには武器ではなく彼女が諦めてしまった言葉による解決を達成するしかない。

 

「……仮に『先生』の仰る事に嘘偽りはないとしましょう。ですが、武力による解決ではなく然るべき機関へと報告するべきではありませんか?……あぁ、もしかしてですが確固たる証拠に欠いていた訳ではありませんよね?」

 

 やっぱり鋭いな……私が出した断片的な情報で的確に隠しておきたい急所に辿り着いた。

 私やホシノは顔には出さないけど、彼女の目が彼方に向いたという事は分かりやすいセリカ辺りの動揺を見抜いたと思って良いだろう。

 

“そうだね。疑わしい要素は集まっていたけれど、テマリの言う通り確固たる証拠は掴んでいなかった”

 

「『先生』!?」

 

 なら、此処はもう勘付かれていると思った上で嘘をつかない方が良い。

 今、この対話という均衡が保たれているのには偏にテマリが私に期待と言う名の信頼を向けているからであって、不利益な情報を嘘で覆い隠せばその信用は最も容易く崩れて無くなる。

 

「なるほど。真摯な返答をありがとうございます『先生』……ですが、私を言い包めるお積りなら隠し通すべき言葉でした。私の中で『先生』を含むアビドス高校の皆様は正当性に欠いた暴力による行使を行なった悪であると結論を出す他にありませんから」

 

 消えていたテマリの圧が再び高まっていくのを感じ、私は乾いてゆく喉を必死に唾で潤しながら最後の札を切った。

 

“真実はまだ終わってないよテマリ。明確な証拠がない、けれど集めた情報からほぼ確実であると判断した私はシャーレの権限を用いて、現在身動きの取れない連邦生徒会に代わり、カイザーローンへの強制調査を敢行した。この際、人員の不足のため現地の生徒に調査協力を依頼したんだ”

 

 全ての責任を取る為にアロナに頼み、作って貰った書類をシッテムの箱に映し出しテマリへと向ける。

 

“つまり、今回の強制調査に対する責任の所在は全て私にあり彼女達にはないよテマリ”

 

「……お借りしても?」

 

“どうぞ”

 

 シッテムの箱を受け取ったテマリは素早く表示された書類に目を通していく……この緊張感、シャーレでもリンちゃんやアオイ相手に沢山経験してるんだよね。

 自分では不備がない完璧なものと思っていても、意外と細いところで誤字脱字や勘違いがあったりして。

 まぁ、今回はアロナに頼んだものだから大丈夫だと思うけど。

 

「……書類に全く不備はありませんね。この書類が例え、全てが決まった後に作られたものであったとしてもそれを確かめる術は今の本官にはありませんのでこれ以上、疑いを深めても悪魔の証明となるのは間違いないでしょう」

 

 淡々とお返ししますと返されたシッテムの箱を受け取る。

 やっぱり、感情の色を伺うのは難しいが一先ず身を刺すほどの圧も怒気も感じる事はない。

 

「貴方は……何処までも生徒の味方であるらしい」

 

“そうだね。そうありたいと強く願っている”

 

「……その在り方はいつか自分を擦り減らし、生徒の為の犠牲となります。もし、本官が貴方を初めから悪と断じていれば、もし私の正義に沿った正しき物を用意出来ていなければ貴方は今この場で何一つして背負う理由などないアビドスの為に死んでいたでしょう。早死にしますよ貴方は」

 

“そう、かもしれないね。でも、少し違うよテマリ。私は先生で彼女達は生徒だ。責任は当然、私が背負うべき物でその結果、死ぬとしてもそれは私の選択だよ”

 

 やっぱり優しい子だテマリは。

 当然に他人を気遣うことができ、他人の痛みに想いを馳せることが出来る。

 

“勿論、君もねテマリ。いつでも私を頼りにしてくれて良いから。君の正義と私の正義はぶつかり合う部分も多いけど、目指す景色は一緒の筈だ。手と手を取り合っていけたら良いと思わない?”

 

 スッと手を差し出して微笑む。

 テマリの正義はとても苛烈で、他の生徒の障害になる事もきっと多いけど彼女は沢山の人が幸福に生きられる世界を望んでいる……だからこそ、私達は互いがぶつかり合ってでも手を取り合うべきだと思うんだ。

 

“理想と現実、そのどちらも欠けてはいけないものだと私は思っている”

 

「……本官はまだその手を取れません。貴方の在り方は正義にも悪にも染まる──まるで灰色だ。今回の一件で結論を出すには難しい」

 

“そっか”

 

「……ですが、これくらいは良いでしょう」

 

 彼女の手から飾り気のない使用した傷がなければ、出荷されたばかりじゃないかと錯覚するスマホが握られ何か操作をしたかと思えば一つの画面を見せてくる。

 ピンク色のトークアプリ……『モモトーク』だと気づくのに時間はいらなかった。

 

“ふふっ。私の方で登録をしておこうか?”

 

「お願いします。こういうのは……疎いので」

 

 堅物のテマリらしいと言うべきかな。

 スマホを受け取って自分の連絡先を登録する……覗き見るつもりはなかったけど、友達登録が私を含めても三件しかないねテマリ。

 

“はいどうぞ”

 

「ありがとうございます。では本官はこれで──アビドス高校の一件、確認を取り後日連絡しますので」

 

 背を向け、テマリは凄い勢いで走り去って行った。

 いつか彼女と一緒に並び立つ事が出来れば良いなと思いながら、テマリに関して詰め寄ってくるアビドスの皆を相手するのだった。

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