膣○射精したらデバフを回復させるチートを貰った転生者のお話   作:一般紳士

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98……もはや何も言うまい。

おいは恥ずかしか!生きておられんごっ!


TS魔法少女編~承4~

 

「さて、ここらでお開きにでもするか」

「それもそうだな、そうするか」

「瞬には溜まった仕事があるしな」

「……取り敢えず、今日は寝る」

「お嬢」

「分かったわ。さ、私も手伝うから行きましょう?」

「ちょっと待ってくれ。もう22時だぞ?これは逆パワハラじゃないのか!?労基はどうした!?」

「社長に労基なんて贅沢は適用されない。諦めるんだな、海藤社長。明日も元気に社会のゴミ共と戦うためだ」

 

 などと言うやり取りの末に、アリシアに首根っこを掴まれて執務室へと連行された瞬。その様子をハッハッハと笑いながら見送った彩葉は、二人の気配が遠ざかると同時に立ち上がった。

 

「さて、私の方も行くとするか」

 

 彩葉は二人の気配が遠ざかったのを確認すると、椅子から立ち上がって自身の研究室を出る。そして、彼女が足を運ぶのは、今しがた瞬とアリシアが向かった方向とは反対にある場所だった。

 

(ん?誰かいるな。……まぁ、どうせメイドの誰かだろう。私は奴らに興味ないからどうでもいいがな)

 

 彩葉が目的の部屋へと向かう間に、彼女の視界の端で微かに映った人影。彩葉はそれを冷めた目で一瞥するだけで、すぐに興味を無くしたように歩みを進める。

 

「お、お疲れ様です。彩葉様っ」

「あぁ、お疲れ」

 

 それからも、彩葉が歩く道には何人かのメイドがいた。声を掛けられたら彩葉自身も軽く返事を返す。だが、基本的には無関心を決め込んでただ歩く。そうして歩くこと数分ほど、彩葉はとある部屋に繋がる扉の前で立ち止まる。

 

 (ここが白川光に与えられた部屋だな、中には乙瀬湊もいるか……)

 

 彩葉はジーッと扉の奥を見通すように視線を向け、扉の向こうから感じた気配に対して、そう結論を下した。そうして、彩葉は身体の重心を後ろに傾けて壁に背を着けるようにして凭れ掛かる。

 

(ふむ……乙瀬湊は白川光にどんな評価を下すのか見させて貰うか)

 

 彩葉は電波を遮断する特殊なガラスをレンズに仕立て上げたメガネを外す。メガネを外したことで乱れた髪を、軽く頭を振ることで後ろに流す。そのまま、メガネを折り畳んで白衣の胸ポケットに仕舞うと、ゆっくり目を開ける。すると、彼女の亜麻色の瞳は幾つもの可視化された電波を捉える。

 

(部屋の監視カメラは……これだな)

 

 彩葉は屋敷及び、その周辺にある全ての電子機器から伝わる膨大な情報を捌く。扉を挟んだ反対側にあるからか、彼女の求める監視カメラの電波を素早く探り当て、それを辿るようにして彼女の固有魔法である『電操魔法』の魔力を飛ばす。

 

機器電操(エレジャック)

 

(届いた。カメラ(視界)、良好。マイク(聴覚)、良好)

 

 彩葉は自身の魔法を発動させ、監視カメラと自分の感覚を共有した。彩葉の視界はデュアルディスプレイのように分割された視点となり、部屋の中の光景が彩葉の脳裏に浮かんできた。

 

(ふむ……ついでに白川光が起きた辺りから確認しておくか)

 

 彩葉は、監視カメラを伝ってデータ保管用の共有ストレージにアクセスし、過去の映像記録を閲覧する。

 

『んっ……あ、れ?オレ、寝てた、のか?ここ、どこだ?』

 

 最初にカメラがとらえた動きは、真っ白なシーツと掛け布団からもそもそと動いて起き上がった真っ白な髪をした美少女であった。だが、その儚げで可愛らしい少女の姿をしていると言え、彼女の性自認および過去の記録は間違いなく男であった。

 白髪の少女……白川光は体を起こしたままキョロキョロと周囲を見回す。そして、彼女の視界に自身の白髪が映った。

 

『ん?白い、髪?』

 

 光は自分の白髪を一束ほど掴み目の前へと持っていく。じぃっと眺めてから光はこてんと小さく首を傾ける。

 

『オレの髪、か?て言うか、この感じってピュアホワイトの髪じゃ……?』

 

 光は毛先を指で擦るように弄びながら、思考を続ける。やがて、彼女は髪の毛から手を離し、胸やお股の方へ手を持っていき、

『んひゃっ!?』

 ぴくんと体が跳ねて動きが止まる。やがて、ほうっと小さな吐息を漏らしてから口を開いた。

 

『……そっか、オレは怪人に捕まって、それでアイツらに犯された、と。でも、何で魔法少女(ピュアホワイト)の格好をしたままなんだ?』

 

 自分の両手を目の前に持っていき、グーパーと拳を握ったり開いたりしながら光は呟く。そんな彼女の様子は、少し前まで自身が受けていた地獄のような時間が無かったかのような印象だった。だが、発した言葉から分かると思うが、彼女の記憶から事実が消えたわけではない。

 

(やはり、瞬の治癒能力は凄まじいものだな。身体の治癒は勿論のこと、思い出すだけで常人であれば発狂するような記憶を……消すのではなく、受け入れさせる。まぁ、その効果に見合った大きなデメリットもあるがな)

 

 光の心の傷が無くなった訳では断じてない。しかし、彼女の心に巣食う大きな大きなその傷を、光は既に自分の胸の内で受け入れているのだった。

 その様子を見た彩葉は一度思案してから頷き、今も思考の隅で流しているカメラの記録を早送りにし、幾つかの記録を傍観する。

 

『失礼します。……お目覚めになられましたか、白川光さん』

『ほへ?……お、お乙瀬湊!?』

 

 こんこんとノックをしつつも、光が未だ眠っていると思ったのか返事を待たずに部屋の中へ入ってきたのは乙瀬湊である。引退発表もなしに突然表舞台から消えた元トップアイドルの登場に驚愕する光。

 

(まぁ、乙瀬湊の失踪についてだけは、我々からは何も世間に通達していないのだから当然の反応ではあるな。……ここまでは今までのメイドらと何ら変わらない)

 

 彩葉はそんな感想を胸に再び映像を早送りにして、光と湊が互いに自己紹介をする様子やら光が湊にどぎまぎする様子などの、彩葉にとって無駄な時間を飛ばす。

 

(……白川光の持つ今回の記憶に関係する話はここら辺からか。キミがどのような選択をするのか、見極めさせて貰おう)

 

 彩葉は漸く目的の話題を見つけ出した。早送りを止めて、映像を眺める。映像では、光が記憶している限りの出来事を湊へ伝えているところだった。

 

『――それで、オレは助けてくれた恩人を殴って……』

『そこまでで大丈夫ですよ、ありがとうございます。光さん』

 

 光は湊へ自身の身に起きた出来事を語っていくうちに、徐々に記憶が鮮明に脳裏へと定着していくのを感じた。そして、幾ら向こう()に非があるとは言え、光を助けた恩人を自分の手で暴力を働いたことに気付き、その白く整った端正な顔から更に血の気が引いて青白くなっていく。

 それを見た湊は、自分の両の掌を見つめて呆然とする光へ声を掛けることでそれ以上の思考を止めさせる。だが、人間と言うのはマイナス思考に思いやり(プラス)を掛けた場合には更にマイナスの深みへと嵌まるものである。光は一度だけピクンと肩を跳ねさせて、恐る恐る湊の顔色を伺うように震えながらも顔を動かした。

 

『あ……み、湊さんって、あの人の……』

『安心してください、光さん。私達が貴方に危害を加えることはしません。私、いえ、私達(メイド)は貴方と一緒なのですから』

『それってどういう……』 

 

 湊の意味ありげな言葉に、光は眉をひそめて言葉の深意を問おうとする。だが、気付いていないのか、気付かないフリをしてか、湊は光の様子を無視して話を始める。

 

『そう言えば、ここが何処なのかまだ話していませんでしたね。ここは、海藤財閥の当主である海藤瞬様の邸宅。数多ある客室の一室になります』

『……海藤家?………………オレ、生きて家に帰っても、不敬罪で《民意の三巨頭》に殺される?』

『…………天童家と鬼瓦家が光さんに対してどのような対応を取るのかまでは、流石に私達では判断し兼ねます』

『はは……そうですか……』

 

 『民意の三巨頭』……この日本国に残った、国民を守る最後の砦から敵対されるかもしれない。湊からそう言外に言われた光は、もはや諦めに近い乾いた笑いをあげる。

 これから訪れるであろう惨事を想像して、またもや顔の色が青くなった光を見兼ねてか湊が救いとも言えるべき言葉を投げ掛ける。それは、彼女の主が望んだ言葉でもあるものだった。

 

『光さん、今の貴方には幸いなことに幾つもの選択肢があります』

『選択肢、ですか?オレに?…………それって、青森の海に行けとか……開拓地に送られるとか、地下帝国の建設を……みたいなことですか?』

 

 到底、この館の主に手を上げた人間に対する言葉とは思えない発言に困惑する光。だが、続いて彼女は、選択肢を与えられどもその中身が最悪なものではないかという考えに行き着き、戦々恐々とする。

 

『いえ、そのようなことをさせるつもりはありません。ただ、どのような選択肢があるのかを私から告げることはできません』

『……選択肢を言えない?他の人が知っている、とかですか?』

『いえ、そもそも私達から光さんへ与える選択肢など存在しません。選択肢を与えてしまったら、それに考えが囚われてしまうからと。貴方が望んだことを可能な限り叶え、最大限の支援を惜しむことなく行う。それこそが、御当主様の望みです』

 

 そう言って湊は光が座るベッドに近づくと膝を付き、彼女の手に自身の手を軽く重ねて言葉を続ける。

 

『ですから、聞かせていただけますか?白川光さん。貴方はここで何かしたいこと、して欲しいことがありますか?貴方には、その権利があります』

 

 真っ直ぐと自分の目を見つめながらそう言った湊に光は思わずポカンとした表情を浮かべる。そうして、幾ばくかの時間が過ぎた頃、ようやく光が口を開いた。

 

『えっと、じゃあ――オレは、助けてくれた人たちにお礼を言いたい。言わせて欲しい、です』

『は?え?』

 

 そして、光の望んだ願いは、予想した回答とは大きく掛け離れた的外れなものだった。次は湊がポカンとした間抜けな表情を浮かべる。

 そんな湊とは反対に、光の言葉をカメラ越し、マイク越しに聞いていた彩葉の眉がピクリと揺れる。続いて、くつくつと抑えきれない小さな笑い声と共に肩が震える。

 

「クックック、そうかそうか、お前が……お前だったのか白川光。この暗く澱み先の見えない、私やお嬢では手の届かない、伸ばす資格がないその先へ入れるのは。乙瀬湊でも届かず、瞬に拒まれた場所へ踏みいる資格がお前にはあるのか……。分かっていた、分かっていたとも、私達とお前達は前提条件からして違う。私達にはないものがお前達にはある。お前達はそれがない私達を羨んでいるが、私達もまた同じだ」

 

 そう捲し立てるように小さく呟いていく彩葉の表情は最初は待ち望んだゲームが手に入った子どものように喜色で染まっていた。だが、徐々にその色は失せていき、最後に残ったのは強い嫉妬と羨望入り雑じったものだった。

 

「いや、待て。飽くまで私は瞬の為に生きている。それ以上でも以下でもない。なら、やることは一つ、だな」

 

 彩葉は頭を振って、余計な思考に走りそうになった脳ミソを強制的にリセットする。そして、一度だけ小さく深呼吸をすると、彩葉は目の前に置かれた扉に手を伸ばす直前に、内側から開かれた部屋の中へと踏み込んだ。

 

「聞かせて貰ったぞ、白川光。何故お前はあのようなことを望んだ」

「……だ、ダレ?」

 

 彩葉がベッドの上で座っている光に対して問い掛けながら、扉の前で彩葉に向けて頭を下げる湊へ頭を上げるように手振りを投げ掛ける。

 そんな彩葉の登場に、彩葉と面識のない光は困惑する。思わず、光の口から出た疑問に彩葉は――

 

「巨万の富であろうと、今回のような目に合わないと確約した安全だろうと、些末事なんぞ気にしないで済むほどに圧倒的な力でも、私達はお前に文字通り何でも渡せる。それに、仮に瞬へ礼を言うとしても、感謝なんぞより謝罪を先にした方が良いと私は思うのだが、そこのところをどう思う」

「話を聞けよ……!」

 

 ――全く聞く耳を持たずに話を続けた。

 

「話を遮るな、今は私がお前に問うている。それを先に答えろ。今は少々気が立っていてな、私の気はそこまで長くないぞ」

「……ッ」

 

 その時、彩葉の身体からパチパチッと静電気のような魔力が部屋全体に撒き散らされた。その魔力は光にも当たり、肌に静電気が流されたかのようにバチッと小さな痛みが生じた。

 今まで少なくない時間を魔法少女として戦ってきた光は、どう見ても本気で魔力を放出したとは思えない彩葉の魔力が、今まで戦ってきたどんな敵よりも強大なものであることに気付く。自然と強ばる身体を抑えて光は彩葉へと言葉を返した。

 

「……それ(感謝)こそオレが今一番伝えたいことだから。勿論、殴ってしまったことは当然謝る。でも、それを言うのは『助けてくれてありがとう』って言った後だとオレは思う。だって、謝るのは自分の為にしかならない。むしろ、変に気を遣わせてしまう気がするから。きっと、あの人はオレに謝ることを求めていない……と、思う」

「……ふむ、いいだろう。その言葉を信用してやる」

 

 光の言葉に何か感じるものがあったのか、彩葉は自身の魔力を身体の内側へと戻した。そして、胸ポケットからメガネを取り出して掛けると同時に、いつの間にか鋭くなっていた視線を眠たげなものへと戻すと口を開いた。

 

「さっきは無礼を働いて申し訳ない。改めて、私の名前は柊彩葉。この海藤家で、そうだな……大体三番目に偉い人間だ。お前が瞬に礼を言いたいと言う愉快な願いを叶える場を整えてやろう」

「本当か!?……あ、本当ですか?」

 

 態度が180度ぐるりと回転した彩葉の様子に驚きつつも、彩葉の言葉に思わず敬語が外れて素が出てしまう光。慌てて取り繕ったように言葉を言い直すと、彩葉は小さくころりと笑いながら言葉を付け足した。

 

「無理に敬語を使わなくても構わない。気楽にしてくれていい」

「そ、そうか?分かったよ、彩葉さん」

「ふっ、素直なことはいいことだ。そうは思わないか?乙瀬湊」

 

 彩葉は含みの籠った視線と共に、湊へのキラーパスを渡し壁際へと目を向ける。彩葉が部屋に入ったその瞬間から壁際で控えていた湊は伏し目がちに、しかし確固たる意思を持って答えた。

 

「滅相もございません」

「……ふん、堅苦しいヤツめ」

「それが私の仕事で御座いますので」

 

 そう言って恭しく彩葉へと頭を下げる湊に、芝居臭さを感じた彩葉は微かに眉をひそめて小さく舌打ちをする。

 

「……まぁいい。さて、白川光。お前が瞬へ礼を言う場を整えてやるといったが、大体三ヶ月の時間を掛けることにする」

「三ヶ月?長くないか?」

「こう言ってはなんだが、瞬は面倒臭いヤツでな。瞬を舞台に立たせるまでの段取りと言うものがあるんだ。故に、お前にはそれまでの間、この屋敷で過ごして貰うことになる。そして、その間お前にはこれを着けて貰う」

 

 彩葉は話をしながらポケットの中を漁り、一つの革製の首輪、俗にチョーカーと呼ばれるそれを取り出した。

 

「……?チョーカー、だよな?それ」

「ああ、ここに海藤財閥の紋章があるだろう?これでお前が海藤家の人間であると言う証明になる。だから、よっぽどのことがない限りは悪人どもに襲われることはないだろう。更にこの中には、GPSとマイクが内臓されているため、万が一のことが起きてもすぐに救助へ動くことができる。それと、後で乙瀬湊から渡されると思うが、イヤリング型の骨伝導イヤホンとベアリングすることで他者との通信連絡も可能だ。動力源は大気中の魔素または装着者の魔力で動くから充電切れが起こる可能性は極めて低い。因みに、これを外すことができるのは、チョーカーに魔力を認識されている装着者だけだ(一部抜粋)」

「?????……何か分かんないけど、かっけぇ!」

「ふふっ、そうだろう」

 

 長々と説明をした彩葉は、彩葉の長すぎる話を真剣に聞いた結果おおきなおめめをぐるぐるとさせながら彩葉を称賛する光に向けて微笑みを向ける。そして、手に持ったチョーカーを光の首へと持っていく。

 

「今日は疲れただろう。明日からキミが此処にいる間は私が直々に色々と教えてやる。だから、今はゆっくり休みたまえ――《微睡(よい夢を)》」

 

 そのまま首へ腕を回し、光の首の裏でカチャリと留め具を止めてチョーカーを装着させる。それと同時に対象を眠り落とす魔法を唱え、光を眠らせる。彩葉は力の抜けた彼女の身体をそっとベッドの上に横たわらせると、湊へと光を託して部屋を出た。

 

「さてと、第一段階は完了。ウイルスも仕込んだことだし、後は向こうのアクションを待ってから送り込むだけだな」

 

 そう言って彩葉は小さく笑った。

 

「それはそうと、明日から白川光に何を教えるか……まぁ、魔法学についてでも語ってやるか。あれだけの才能がある白川光が雑魚同然だ、魔法少女は大した指導を受けていないのだろうな。それが魔法少女協会の差し金によるものかは判断するまでもない、か」

 

 

 

「瞬さま、そろそろお休みになられたら如何ですか?」

「……それをアリシアが言うのか?お前らが俺に仕事をやれって言ったと俺は記憶しているが?」

「まぁ、そんな細かいことはいいじゃないですか」

 

 時刻は23時を回った頃、俺とアリシアは執務室で溜まった書類を片付けていた。俺もアリシアも書類仕事に慣れているだけあって意外と一時間ほどで残り二割ほどまで減らせられた。

 そんな折にアリシアから言われたのが先ほどの言葉。俺としては、一度手を着けた仕事はできるだけ早く片付けておきたい派であるため、この書類の山だけは無くしてしまいたいところだ。

 

「瞬さまだって良く言っているじゃないですか、上に立つものが休まないと下の人間は休めないんだって」

「……もう一度言うぞ?それをアリシアが言うのか?」

「そう言うわけですから、後は私が片付けておきますから、瞬さまはお休みになられてください」

 

 アリシアは仕事中の敬語口調でそんなことを言ってくる。俺の言葉には完全無視を決め込んでな。まぁ、確かに残った書類はどうしてかわざわざ俺がやる必要のない物しか残っていない。ならば、ここはアリシアの言葉に従ってもいいか。今日は色々と疲れたし。

 

「分かった、今回は言葉に甘えよう」

「ふふ、それでいいのよ。おやすみなさい、瞬さま。執務室側の戸締まりは私の方でやっておくわ」

「ああ、任せた。おやすみ、アリシア」

 

 俺はアリシアへの引き継ぎを軽く行った後に執務室と寝室を繋いだ扉を通って、一応寝室と廊下を繋ぐ扉に鍵が掛かっていることを確認する。そして、魔法でささっと寝間着に着替える。そのままベッドに潜り込んで、今日は夢を見ないことを願いながら目を閉じる。

 

 そして、数分と経たない間に俺は今日も夢を見る。棄てられて肉の塊となった少女の姿を。精神が壊れてしまった少女の狂った笑い声を。そして、それらが流れる裏で耐えることなく聞こえる怨嗟の叫びが、俺の精神を少しずつ少しずつやすりで削るように蝕んでくるのだった。

 

 

 

 

「瞬さま……寝てる、よね?……うん、大丈夫そう」

 

 瞬が浅い寝息を立てて眠る寝室にアリシアが足を踏み入れた。幾ら瞬の眠りが深いとはいえ、万が一にも起こさないようゆっくりと瞬の眠るベッドへ近寄る。

 

「……た…け………まな……」

「……やっぱり、魘されてるのね」

 

 瞬の寝顔を覗き込むようにして確認する。顔をしかめて寝息とはまた別の小さく唸るようにして何事かを呟く瞬の様子を見て、アリシアは顔を少しばかり曇らせる。

 

「……私たち(私と彩葉)では貴方の心の傷を癒すことはできない。そんなこと、分かってるわ。でも」

 

 アリシアは手を瞬の前髪へと伸ばし、ゆっくりとゆっくりと、櫛で髪を梳かすように優しく撫ぜる。

 

「でも、今にも壊れてしまいそうな貴方を……支えることはできる。……まぁ、こうやって一芝居打たないといけないのだけどね?」

 

 アリシアは瞬の少しばかり穏やかなものになった寝顔を愛おしそうに見つめる。ただ、指を動かす手は止めない。そんな時だった、

 

「……あり、しあ」

「ッ……!?」

 

 ベッドの上にただ置いていたアリシアの左手が何かに包まれたのだった。驚きつつもアリシアがそちらへと目を向ければ、眠っている瞬の左手が自分の手を掴んでいる光景が目に入った。

 

「全く……寝てる時だけは素直なのよね。こういうところはかわいいんだから」

 

 慈愛の眼差しを瞬へと向け、先ほどよりも数倍柔らかくなった顔つきで、瞬の頭を撫でる。時折、小さく笑いながら、瞬が一時の安らぎを得られるように、深い深い愛を込めて。

 

 そして、暫くの時間が経ち、夜が深まってきた時間になる。

 

「……あ、もうこんな時間。私もそろそろ寝ないと。……手、離せない」

 

 そろそろ自分も寝るかと自室へ戻ろうとしたアリシアは瞬と繋いだ手を離そうとするが、アリシアが手に力を込めると、離れるなとばかりにキュッと瞬の手にもまた力が込められた。だが、その力は強引に引き離そうとすれば容易く解くことができるほどに弱いものだった。だが、アリシアは無理に力を込めることはせず、我が意を得たりとばかりに口許を歪める。

 

「はー、仕方ないわねー」

 

 アリシアは人差し指を軽く振って《装備換装》の魔法を使い、部屋着こら薄い緑色のネグリジェに着替えると瞬の布団へ潜り込む。二人で繋いだ手の上から更に右手を重ねて言葉を重ねる。

 

「大丈夫よ、瞬さま。私は……私たち(私と彩葉)は貴方に拒絶されない限りは、貴方からは離れないから。同僚に、先輩に、父親だったあの男に裏切られて、感覚の全てを奪われオモチャのようにされていた私たちを助けてくれたあの日から――」

 

 そして、アリシアは瞬の左腕を抱え込むようにして抱き付くと、瞬の耳許へ顔を寄せて口を開く。

 

「私は貴方のことを愛してる」

 

 耳許で囁くようにして告げた愛の言葉。アリシアは、そのまま瞬の頬へ唇を落とし、小さなリップ音だけが寝室内に響き渡った。

 





カットした会話
「因みに、乙瀬湊がお前に投げた質問に対する回答になってないぞ」
「うえっ!?……そ、そうか?そうかも……。つい口が勝手に……」おかおマッカ
「くくく、そうか。じゃあ、お前は明日からメイドだな」
「め、メイド!?お、オレがっ?むりむりむりむり!」おかおマッカッカ


次回は魔法関係の設定についてのお話と、KAT-T○N並みのギリギリ描写の前振りになる予定
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