先生は共犯者に恋をした。
※先生について「ん、昔の女が忘れられないみたい」要素・捏造設定があります。
先生の性別については決めていません。自由に受け取ってください。

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古びた想いを暖炉にくべて

 美しい。飛び込んでくる美の暴力に、全身全霊が奮い、震えている。

 

 琥珀の瞳が私の心を射抜く。私は床に膝をつき、目を細めて彼女を見上げ、手指を組んで彼女を拝んだ。目の前の少女の全身が光を放っているように思われた。小さな頭を細い首が支えている。細い首は薄い体に繋がっている。薄い体から非の打ちどころの無い四肢が伸びている。それは完璧な肉体美であった。肩から胸へと至る曲線、慎ましい胸部と控えめな腹の肉、胸から腰にかけての稜線。この世の物とは思えない美しさとともに、血肉や臓腑や骨を伴った生き物としての美しさを備えている。

 

 小さな頭からは彼女の手首ほどの太さの、私の手首から指先ほどの長さの、捻じれた角が生えている。私は目を閉じていてもその形と色とを思い起こせる。角の付け根から先端にかけて、黒から赤へと色彩は遷う。深い黒と暗い赤。暖炉の炎を思わせる。仄暗くも暖かい色だ。ああ、私はこれ無しでは生きてゆけないのだ。節立った角の表面は艶やかで、その手触りを思い浮かべるだけで、手指の芯に甘い痺れが走った。口の内で唾液が溢れる。溺れそうだ。ただ、甘美だ。腰の下まで伸びた髪からは、清涼さと甘酸っぱさが混ざった複雑な匂いがする。顔を埋めて深く息を吸えば、陶酔からしばらく戻って来れないだろうとも思われた。

 

 彼女の腕はシャツの布地と白衣の袖に隠されており、第二ボタンまで開かれ鎖骨だけでなくあばらの一部までをも見せつけるような胸元との対比によって、宇宙的神秘を想起させる。惜しげもなく曝されている脚は、赤裸々でありながら理想的な、限りない美しさそのものだった。無垢な足の指が見えるサンダルが足首とふくらはぎを引き立てている。ホットパンツから、太腿の付け根に被さるようにしてシャツの裾が出ている。尻尾は角よりも、先の方の赤色が少し淡い。彼女の尻尾の、特に付け根付近の滑らかさとある種の弾力が思い起こされ、私は軽く身震いした。ああ、私はもうこれ無しでは生きられない体なのだ。

 

 私の視線は彼女の顔に戻る。短く整えられたつり眉は、輝きを帯びた瞳と合わさって自信過剰を思わせる。だがそれも、私が求めたから彼女がそう振る舞っているのだ。私の、今のこの心酔も、彼女の思惑の内だ。そうあって欲しい。私はあの日、この共犯者に、自分でも忘れていたはずの弱みを見せてしまった。本質は変わらないらしい。変わらないことを願っているのかもしれない。何にせよ私はもう、この女無しではいられない。形はどうあれ満たされるのなら、私は、それを拒めない。

 

 今一度目を見開き、彼女の姿を魂に焼き付ける。上から下まで一四八センチ。後光が差している。熱く、じわじわと温い。しばらくぶりに汗が出る。目の下が熱くなる。ああ、私は暖炉の火に溺れようとしているのだ。

 

「カスミ。私は」

「何も心配はいらないさ、先生」

「うん」

 

 少女の体が優しく、覆い被さってくる。視界も心もほどけて、白くなっていく。魂が焼けていく。




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