来崎くんは今日も辛辣   作:Raitoning storm

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辛辣:見方や表現が厳しいこと。


その一:帰れ。

ねえねえ?知ってる?

ミレニアムにさ、男子生徒がいるんだって。

しかもその人、どの部活にも所属してないのに個人で研究室を持っててミレニアムプライスでも毎年入賞してるらしいよ。

ほとんど研究室から出てこないから存在もあまり認知されてないけど、ミレニアム内では知らない人はいないらしいよ。

あとね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじゃましまーす!!」

「うるさい、帰れ。」

 

勢いよく実験室のドアを開けたのはゲーム開発部所属の才羽モモイ。対して椅子に座ったまま作業をしていたのは、『音楽研究部』訳して『音研』部長である来崎ハルト。

 

 

説明しよう!『音研究部』とは!音や音楽が人に与える影響や、スピーカーの音質の向上を目指したり…

まあ要するに!音について色々研究している部活である!

ちなみにミレニアム内の放送アナウンスやスピーカーを管理しているのも音研であり、それらについての権限をすべて持っているのも音研である。

 

 

『マスター。いかがいたしましょう?』

 

 

透き通るような声で聞いてくるのは音研のサポートAIである『ウェーブ』。もはや彼にとって生活必需品となっているそれは、一年前エンジニア部と『何か問題が発生した時にユウカをなだめる』という条件のもと取引して手に入れたもので、身の回りの世話から精神的なサポートまでなんでもござれな感じのAIである。

 

 

「実験室から引っ張り出してくれ。できればゲーム開発部まで。」

 

『命令コマンドを承認。行動を開始します。』

 

 

モモイには目もくれず、パソコンに向き合ったまま冷たい対応を命じるハルト。

その命令通り、ウェーブはモモイは実験室から引っ張り出そうとするが…

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよー!まだ何も言ってないじゃんか!」

 

「だとしてもせめてノックくらいしろ。無礼だぞ。」

 

 

呆れた様子のハルト。だが顔をこちらに向けて…

 

 

「はぁ…で?今日はどういう用件だ?」

 

 

こちらのことを気にかけてしまう。ひとえに彼の甘さのせいだろう。

 

 

「…え?聞いてくれるの?」

 

 

 

 

「まず聞くだけだ。やるとは言ってない。」

 

 

 

 

「心配してくれるんだ?」

 

 

 

 

「うるさい。このまま何もしないで帰られる方が迷惑なだけだ。」

 

 

 

 

「正直じゃないなー。」

 

 

 

 

「黙れ。聞いてやらないぞ。」

 

 

 

言うまでもないと思うが彼は甘い。今まで数えきれないほど迷惑をかけられているにも関わらずお願いを聞いてしまう。そんな男なのだ、ハルトという人間は。

 

 

 

「じゃあ言うね!あのねー。ユウカにまた「断る」えー!」

 

 

 

だが、何事にも例外というものはある。先ほどの甘さは何処へ行ったのか。すぐに辛辣な対応をとるハルト。

 

 

「今回で何回目だ?部費の交渉。」

 

 

「だってしょうがないじゃん!ゲームのためにちゃんとした機材を揃えようとしたら今のままだと絶対に足りないんだもん!」

 

 

「なら貰えるだけの成果を上げればいいだろ。いきなり大きいことをしようとするからそうなるんだ。第一お前たちは俺に借りが多すぎる。」

 

 

理詰めで少しずつモモイを苦しめていくハルト。彼と口論になると毎回こうなるのだ。言葉で彼と対等に張り合えるのはミレニアムでもユウカとノアくらいだろう。

 

 

「何回やったかわかんない部費の交渉にお前らの部室に置いてるスピーカーが2台。この前のゲームのBGMとモンスターの鳴き声。ナレーションにウェーブを使った。どうする?まだやるか?」

 

 

「ゔっ」

 

 

ダメージをくらいすぎてとうとう地面に倒れ込んでしまったモモイ。未来に希望など無かったのだ。

 

 

 

「失礼しまーす、って!お姉ちゃん!?」

 

 

その妹、才羽ミドリが実験室に入ってくると自身の姉の様子に驚いているが

 

 

「ミドリか、すまないがモモイを部室まで連れてってくれ。必要であればウェーブも使っていいから。」

 

 

「え?あ、うん。」

 

 

ハルトはさして興味のなさそうな様子でパソコンの方に向きながら作業を進めている。

するとミドリが、

 

 

 

「いつもごめんねハルト君…いつも色々頼んじゃって。お姉ちゃんも迷惑かけちゃってるし…」

 

 

 

そういうとハルトはバツが悪そうな顔をしながら

 

 

 

「別に…気にすんな。ほっといて変なことになったら嫌なだけだ。今更迷惑の一つも二つも変わらない。」

 

 

「それにミレニアムは良くも悪くも結果主義なところがある。それ自体を否定するつもりはないがそれだけだと見方が偏ってしまう。開発部がやればできることは知っている。それが正当に評価されないのは気に食わない。」

 

 

 

才羽姉妹は、いやミレニアム生は知っている。彼は口が悪くて対応がそっけないだけで根はキヴォトスでも指折りの聖人だということを。

 

 

「ほら、何ボーッとして突っ立ってる。迷惑をかけている自覚があるなら早く部室に戻れ。」

 

 

「う、うん。失礼しました…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…つーわけで、俺の実験室の予算の半分を開発部に回して欲しいんだけど。」

 

 

「…えー。」

 

 

 

というわけで、ハルトはセミナー会計である早瀬ユウカのもとへ赴いていた。

 

 

「…セミナーとしては別にいいのだけれど、納得していない自分がいるわ。」

 

 

「じゃあ納得してくれ。実験ならポケットマネーでなんとかなるし、必要としていない俺に予算回したってしょうがないだろ。」

 

 

 

「うーん。どっちにしろわたしだけで結論は出せないから、あとでノアと話し合わないといけないわ。」

 

 

「わかった。いい返事を期待してる。」

 

 

そのまま去ろうとするハルトに、ユウカは一つの質問を投げかける。

 

 

「…どうしてそこまであの子たちを気にかけるの?わたしが言うのもなんだけどあの子たちもそれなりに実力だってあるし、いざとなれば自分たちでもなんとかできるわよ?」

 

 

「…ただの気まぐれだ。理由なんてない。それにまだあいつらに借りを作ったままだからな。このままどっか行かれたら困る。」

 

 

 

「…そう。引き止めてごめんなさい。」

 

 

 

ハルトは音を立てずにドアを閉めた。後には静けさしか残っていないその部屋で、

 

 

 

(…その気遣いに嫉妬してる私もいるのだけれど)

 

 

 

ユウカは一人、自らの気持ちに悩んでいた。

 

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