自称「平凡だけど、どこか神秘的で儚げな……ただの百鬼夜行の一生徒」の妹による曇らせツアー   作:藍終

35 / 37
え〜……お久しぶりでございます。報告レポートの作成や公式からの百花繚乱水着の供給などなど……公私諸々の事情が重なっておりました。
失踪しやがったか?と思われた方、生きてます。(万一、打ち切る時は通知しますので…)

前話に引き続き、キキョウ視点から始まります。


為すべきこと

 

 

 ――一発。

 

 良家のお嬢様らしく、艶やかに整えられた紫の束が舞う。

 

 

 ――一発。

 

 百花繚乱の厳しい鍛錬にも弱音も吐かずに食らいついてきた、誰もが目を引かれる肢体を穿つ。

 

 

 ――一発。

 

 疑うことを知らない、仔犬のような天真爛漫な笑顔を、端正な顔から消し去る。

 

 

 ――一発。

 

 儚くも、幸せで……何にも代えがたかった硝子細工の憧憬を叩き割って。

 

 

 ――一発。

 

 既に倒れ伏した後輩の身体に、追い立てるようなトドメの破裂音が突き刺さった。

 

 

“ユカリっ!”

 

「うぐっ……はぁ……はぁ……み、身共は大丈夫ですわ」 

 

「こ、ここまでする必要は……ちょっと酷すぎませんか!?」

 

 

 決着がついたと見るやいなや、ユカリに駆け寄る大人とお祭り運営委員会の委員長。

 

 後者からの非難が飛ぶが、酷いも何もこれは百花繚乱の継承戦なのだ。

 

 己の立場と権力、誇りをかけた戦いに情けなど不要。

 

 挑戦者は己の強さを名実ともに示し、挑戦に応じる者は、自らを蹴落とそうとするものを徹底的に潰す。

 

 金輪際、そんな事を考えられないように、骨身に刻ませる。

 

 力の強さで優劣が決まる百花繚乱において、敗北の二文字が持つ意味の重さを、日々のぬるま湯に浸かっている彼女が分かるはずもない。

 

 

「これが百花繚乱の継承戦だよ。……わかったよねユカリ、これが現実。ナグサ先輩と継承戦をしたところで、あんたじゃ勝てない。私にすらこのザマなんだから……」

 

「み……身共は……」

 

「あんたのそのおめでたい夢物語は、所詮は独りよがりのままごとなんだよ」

 

「身共は……ただ、皆様と百花繚乱として活動していたあの日々を取り戻したくて……」

 

「ハッ……笑わせないで。あんたはいつから夢想家になったの?……私はレンゲと違って優しくないから、ハッキリ聞くよ」

 

 

 心が軋む。しかし同時に、偽りのない本心からの苛立ちであることにも変わりはない。

 

 ナグサ先輩を倒し、百花繚乱の委員長となり、この混乱を収める。一見筋が通っているように見えて、その実は何も解決はしない事を、ユカリは理解していない。

 

 

「――あんた、本当にナグサ先輩を倒して元に戻りたいと思ってる?いや、それ以前に、それで元に戻ると本気で思ってるの?」

 

「そ……れは………」

 

「答えられないよね。あんたは百花繚乱の委員長という座につけば、何でもどうにかなると考えてるんでしょうけど……」

 

「……っ……違います!身共は、百花繚乱の解散令を止めて……」

 

 

 ――嗚呼、本当に苛つく。目の前のことにしか目を向けられず、事態の根本に気づこうとしないのも。己の理想は必ず叶うのだと信じてやまない目も。

 

 ……或いは、そんな無責任で無鉄砲なユカリを見て、何もできなかったくせに、先輩面で講釈をたれようとしている私自身も。

 

 

「なら仮に、あんたが委員長になって、解散は止まったとするよ。その後は?解散例の一因になった、クユリの事はどうするつもりだったの?」

 

「それは…………」

 

「はぁ……、呆れた。目先の事に全力なのは美点だけど、その先に盲目になるようじゃあ汚点としか言えない。ナグサ先輩はクユリを殺した――仮に、そこの大人の言う通り、違うのだとしても、クユリが帰ってこないことには、同じことの繰り返しになるだけ。これくらい、分かってると思ったんだけどね」

 

 

 噂はすでに広がってしまっている。クユリの不在でナグサ先輩の不殺をいくら叫ぼうと、誰も信じやしない。

 

 浸透した噂は、いつしか普遍の真実にすり替わり、噂であったことすら埋め立てられていく。

 

 そもそも、シャーレの大人が勝手に言っているだけの事。

 

 噂ではなく真実なのは変えようもないのだ。

 

 今の百花繚乱の団結力など、塵芥にも等しい。

 

 ユカリが委員長となったところで、今さらどうこうできる段階ではとっくにないのだから。

 

 見れば、シャーレの先生とやらはその事に気付いていたようで、ぐうの音も出ないといったように佇んでいた。

 

 一方で、図星なのか、否定の言葉を必死に紡ぎ出そうと喘ぐユカリに、私はとどめを刺しにかかることにした。

 

 

「……そもそも、あんたが百花繚乱に居るのだって、家を継ぐまでのお遊びなんだから」

 

「………っ…!?」

 

“キキョウ、それは―――”

 

 

 ここからは、ただユカリを百花繚乱から遠ざけるための方便にすぎない。

 

 先までの事実ではなく、虚構と虚妄、自己満足に塗れた……現実の傷を抉り出す心無しの欺言。

 

 私の言葉に眉をひそめた大人が、それは言い過ぎだと言わんばかりに割り込もうとしてくるが、場の流れを途絶えさせはしない。

 

 

「シャーレの先生に、一つ聞くけど……そこのお嬢様はすべてを打ち明けた上で助けを求めたの?――勘解由小路家の人間としての義務を捨ててでも、百花繚乱の活動を続けたいって。本人の事情を、ちゃんとその口から聞いたの?」

 

 

 予測可能、かつ回避不可能な沈黙が、否定の意となって私に吸い込まれた。

 

 離れから飛び交う祭りの準備の喧騒さえ、この空間には侵入することを拒んでいるような静寂に、嘆息が一つ。

 

 

「……そんなわけないよね。だって全部お遊びなんでしょう?レンゲにも言われたんじゃない?ユカリには、百花繚乱以外にも、帰るべき場所があると。そんなあんたの、無責任で、向こう見ずで、脳天気な夢につきあわされる身にもなってよ……」

 

 

 ここで止めていれば、或いはまだ……戻れたのかもしれない。

 しかし……決定的な防波堤は、いとも容易く、行き場のない感情の瀑布の前に泡沫と化した。

 

 

「ほんと、正直……反吐が出る。お嬢様のお遊びはここまでにしてくれないかな。認めなよ、百花繚乱“ごっこ”は、もう終わったんだよ」

 

「キキョウ先輩は……身共を、ずっとそんな風に……」

 

「そうだよ。どれだけ鬱陶しかったことか……」

 

 

 ――痛い。

 

 過去の記憶が、憧憬が、柔らかなはずの光が……私の心を抉り取っていく。

 

 

「まぁ……その様子じゃ、気づいてなかったみたいだけどね」

 

 

 ――演じないと。

 

 ユカリを、まだ何も知らない光の後輩を、こんなところから追い出して、整備された輝かしい道へと。

 

 大きさの合わない仮面が肉を削ぎ、醜悪な肉塊へと固定していく。

 

 それはまるで、今朝の悪夢で反吐をはいた私自身のように。

 

 泣き喚く己を必死に封じ込めていると、諦念にまみれたユカリの声がぽつりと響いた。

 

 

「――最初から……最初から、身共ではナグサ先輩に歯が立たないことも……百花繚乱の委員長になったとしても、その場しのぎでしかないことくらい、承知の上でした……」

 

“……ユカリ……。”

 

「それでも……それでも、身共は取り戻したかったのです。あの日を、あの時を……。ですが、レンゲ先輩もキキョウ先輩も……百花繚乱はもう全て終わったのだと、あの日々には戻れないというのなら………っ……!」

 

 

 泣いていた。

 

 あのどんな事があっても決して挫けず、太陽のように笑っていたユカリが。

 

 彼女の涙は……それこそ、クユリが様々な代償を払って帰ってきた時くらいか。

 

 いや……泣いているのではない。

 

 ――泣かせたんだ。私が。目を、逸らすな。

 

 絞り出される嗚咽が止まると、そこには全てを悟ってしまった諦めの双眸が、濡れて輝いていた。

 

 

「……先生。ご迷惑をおかけして……本当に、申し訳……ありませんでした……っ」

 

“待って、ユカリ――”

 

 

 信頼していたはずの先生の静止を振り切り、街角へと姿を消していくユカリ。

 

 これでいい、これでいいのよと言い聞かせなければ、私はこの場で脳髄を撃ち抜いていただろう。

 

 無意識に、抑えきれない弱音が喉奥の閉塞感の隙間から漏れてゆく。

 

 

「もう……何もかも終わったのに、どうして……。ナグサ先輩が“証”を返却した時点で、こうなると分かりきっていたのに」

 

 

 みんなも、口を揃えていい始めた。

 

 これで百花繚乱は終わり、全部壊れてしまったんだって。

 

 

「……なら、本当に壊れきってしまう前に終わらせるのが情けというものでしょう……?」

 

 

 誰よりもナグサ先輩に憧れていた彼女が、これ以上傷つく前に――だから、これで良かったの。そう……これで。

 

 一度でも欠けてしまったものは、もう元の形には戻せない。

 

 ひび割れた陶器は、外見を取り繕えても、組織の断裂までは戻らない。

 

 残されるのは、貼り付けられた不格好な……何の価値もない仮面だけ。

 

 

「だから、残るのは……私だけで十分」

 

 

 せめて……まだかつての面影を見られるうちに、壊してしまおう。

 

 全ての業は、闇は、私が背負うべきなのだから。

 

 それが、私の……桐生キキョウの為すべきことなのだから――

 

 

“キキョウ、それは違うよ。”

 

「……は?」

 

“それは他人が決めることじゃない。ユカリの気持ちは、ユカリのものだからね。”

 

 

 なんだ、この大人は……。知ったような口をきいて…。

 

 なんだ、その目は……。まるで悪いことをした子どもを諭すような、厳しいとも柔らかともとれる眼差しで……。    

 

 すべてを見透かしたような態度をとって……!

 

 

「……余所者に一体私たちの何がわかるっていうの」

 

 

 シャーレの先生だかなんだか知らないけれど、私の神経をとことん逆撫でするやつだ。

 

 情報では、この大人は銃弾一発すら耐えられない軟弱な身体であるらしいし、どうせ、私に残るものなどないのだから……。

 

 今、目障りなこいつをこの場で――

 

 引き金に指がかかりかけた、その瞬間だった。

 

 

「あのぉ……部外者の私が口出しする事ではないかもしれませんが……自分の居場所を決めるのは、他の誰でもない、自分自身だと思います」

 

「……あんたまで……」

 

「相手のためを想っているからといって……それを押し付けるべきじゃ、ないと思います」

 

“ユカリも実力の差は分かっていたみたいだし、きっと、みんなに会う理由が欲しかったんだ。”

 

 

 シズコの言葉を皮切りに、畳みかけるような言葉が私の目尻を熱くする。

 

 なんだ?これではまるで……私が全て間違っているみたいではないか。

 

 

「……今さら、そんな事を言われたって。それに、私は間違ったことを言ったとは――」

 

 

 ナグサ先輩のことも、クユリの事も、百花繚乱の現状の事も、ユカリの夢想の事も……何も間違っていない、純然たる事実で……。

 

 

“お遊びだなんて、本当にキキョウはそう思ってるの?”

 

「……っ…、それ……は」

 

“もしも、相手を思っての建前だとしたら……それは互いを傷つけるだけだよ。”

 

 

 出来損ないの仮面の継ぎ目を、的確に突いたその忠言を前に、とうとう私の舌は硬直してしまった。

 

 

“それに、クユリの事も、私は絶対に諦めないよ。生きてるって、信じ続ける。”

 

「クユリ………でも、あの子は……!」

 

 

 私の性に合わない、洒落た桔梗の髪留めに手が伸びる。

 

 勝手な幻想の温もりが、あの日の朱の差した愛しい人の顔が、とめどなく溢れてきて――

 

 

“……それは、もしかしてクユリとの大切な物?プレゼントとか……”

 

「……だったら何だっていうの」

 

 

 返答次第ではその首を噛みちぎってやろうとせんばかりに睨む私を、先生は安心したような穏やかな目で見つめていた。

 

 

“ううん、キキョウも心の奥底では、クユリのことを諦めていないことが分かったから。”

 

「…………は?」

 

“もし、本当にすべてを諦めて、捨ててしまいたいのなら……その髪留めも捨てているはずだよ。”

 

 

 頭を鈍器で殴られたような衝撃が、視界を歪ませる。

 

 足元が覚束なくなって、まっすぐに立っていられなくなるような錯覚――いや、実際によろめいているのかもしれない。

 

 何を言い返すどころか、呼吸すら忘れて立ち竦むしかない私をよそに、先生とシズコはユカリを探しに駆けていく。

 

 くぐもった耳鳴りが収まり、遠ざかっていた街の喧騒が聴覚野に押し寄せてくる頃には、私一人がぽつりと残されているだけだった。

 

 

 そこからどうやって帰ったのか、調停室に倒れ込むようにして体を滑り込ませた私は、生気のない動きである物を手に取る。

 

 確かな重みを持つソレを、ゴトリと卓上に置く。

 

 次に、永遠の愛を象徴する髪留めを引き抜き、共に横たえる。

 

 何代も継承され、補修痕が目立ちながらも、目を惹く濃紺は何時までたっても色褪せない『百蓮』。

 

 たとえ勘違いの産物であっても、一生の思い出が詰まった桔梗の髪留め。

 

 それらをまとめてかき抱く。僅かな幸せの残滓に縋り付くように。

 

 

「……私に、どうしろっていうの」

 

 

 もう、後戻りなど出来ないというのに。

 

 私が、全てを壊したのだというのに。

 

 今更、どの面下げて………!

 

 

「……教えてよ、ナグサ先輩。……助けてよ、クユリ」

 

 

 朝から弱りきった精神はついに限界を迎えて、畳の湿りと……木材を引っ掻く耳障りな音が、悲鳴となって孤独に響き渡った。

 

 

 

 

 

✵✵✵✵✵ ✵✵✵✵✵

 

 

 

 

 ――皆、口を揃えて言う。

 

 

『今代のお嬢様は大変優秀ですね。』

 

『この間の百鬼夜行連合試験も満点で、先日のコンクールでも優勝されて……』

 

『本当にまっすぐで真面目で、機敏で器用で、美しいお方ですね』

 

『これなら無事に今代も……百鬼夜行の歴史に、勘解由小路の名を刻めることでしょう』

 

 

 ――満点を取るのは当然で、他人の役に立つのは当たり前で、期待通りにあるのは義務だった。

 

 

 “勘解由小路家の者としてまっすぐ在りなさい”

 

 耳にタコが出来るほど刷り込まれた、身共の使命であり、義務。

 

 理解もしている、納得もしている。

 

 家の者たちの言い分が間違っているわけではない。

 

 ――それでも……。

 

 ナグサ先輩――初めて、やるべきことではなく、やりたいことを教えてくれた人。

 

 クユリ先輩――やりたいことを実現するために、為すべき事を教えてくれた人。

 

 

 ――それでも……、皆様は、身共が思い描いていた光景を……誰も望んでいないのなら。

 

 ――誰も、身共の事を理解してくれないのなら……いっそのこと、全部――――――

 

 

 これまで感じたこともないような、どす黒い感情の渦が、全身の血管を通して身体を染めていく。

 

 あんなに誇りに思っていた百花繚乱の羽織が、ただの重石にしか感じられない。

 

 いや……キキョウ先輩の言う通り、実際に百花繚乱にとっては、身共はお荷物でしかなかった。

 

 家の責務から逃げ出して、都合の良い隠れ蓑にしていたことに、何の違いもないのですから。

 

 

 鼻腔を、焼き鳥の匂いがくすぐる。

 

 お祭り……。百花繚乱が居なくとも、百鬼夜行はいつも通りに、変わらずお祭りを続ける。

 

 我儘で縋った居場所の存在価値さえ、失われていくというのなら、身共は――

 

 

「はぁ……はぁ……見つけた…!ユカリさん!」

 

「お、お祭り運営委員長?どうして……?」

 

 

 そんな思考の沼から、一時身共を引き上げたのは、例の委員長殿だった。

 

 息を切らせながら探し回っていた様子から、もしやお祭りの事で再び提案しに来られたのだろうかと、考えてみる。

 

 しかし、開口一番飛び出してきたのは、今の身共にとっては、最も辛い提案だった。

 

 

「百花繚乱の調停室に戻りましょう!」

 

「……えっ」

 

「キキョウさん……でしたっけ、ちょっと言い過ぎだと思います!ユカリさんの居場所はユカリさんが決めるものなのに……!さぁ、腹を割って話しましょう!」

 

 

 そのまま身共を引っ張っていきそうな勢いの委員長殿。

 

 少し前の身共なら、喜んでそうしたのかもしれません。

 

 しかし、身共が居場所を決めるというのなら……既にそれは決まっていた。それだけのことなのです。

 

 

「………お言葉は有り難く頂戴します。ですが、身共は大丈夫ですわ」

 

「えっ……大丈夫ってどういう……」

 

「お祭り運営委員長……いえ、シズコさん。もう時間もありません。幸い、儀式の手順は覚えておりますので……

 

 

 ……身共は、勘解由小路ユカリは、ご希望の通り、巫女として参加いたしましょう」

 

 

 勘解由小路ユカリの居場所は最初から、あの家にしかなかった。

 

 為すべきを為さずしてきた代償が、この現状を生み出していたのなら、身共には、それを清算する義務がある。

 

 何も変わらない、ただ戻るだけ。

 

 何も感じず、期待通りのユカリであればいい。

 

 勘解由小路家の者としてまっすぐ在ること。

 

 それが身共の、為すべきことなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

        〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 陽はその威光を地の彼方に沈ませ、陰の帷が百鬼夜行を覆い尽くす。

 

 人類の原初の恐怖、暗闇が齎される刻であっても、百鬼夜行の光源はあたかも結界のように、その闇を弾き出していた。

 

 誰もが期待と興奮に満ち溢れ、そこかしこで笑顔が咲き誇る中、とある一角では、子どもらしい地団駄が虚しく奏でられていた。

 

 

「チッ……!お祭り前だっていうのに、百花繚乱にやられっぱなしなんて!」

 

「リーダー、そろそろ諦めましょうよぉ……」

 

「そうっすよ、もう普通にお祭りを楽しみましょうよ……」

 

 

 彼女らは、魑魅一座。一言で言えば、百鬼夜行随一のトラブルメーカーであり、お祭りの時に幼稚な策で、何かしらの面倒事を引き起こす困ったちゃん達である。

 

 その真の目的は未だ不明なものの、一部の住民からは魑魅一座の暴動まで含めてお祭りだと宣う者まで出てくる始末なのだから、相当なのだ。

 

 当然、治安維持部隊の百花繚乱とは積年の関係にある。

 

 そんな集団を取りまとめるガキ大将的な立ち位置であるアラタは、子分の言い分に若干揺らぎを見せていた。

 

 

「ん〜、やっぱそうするか……?どこかの偉い人が、足るを知れって言ってた気がするし」

 

 

 子分らは首をそろって傾げる。

 

 古来中国の老子に述されているものだと思われるが、そんな事など知るはずもない。

 

 

「だがしかし……いや、駄菓子菓子!」

 

「……どうして言い直したんですか?」

 

「う、うるさい!我らは泣く子も笑う魑魅一座!」

 

「……それって馬鹿にされてるんじゃ……」

 

「そう簡単に引き下がりはしない…!ここはリーダとして、諦めない姿でお前たちの手本に……!」

 

「いや、誰もリーダーにそんな期待は……」

 

「んだとっ!?」

 

 

 いっそのことコントや寸劇でお祭りに貢献したほうが、余程良いのではと思うようなやり取りが繰り広げられる。

 

 彼女らもまた、立派な百鬼夜行のお祭りを構成する要素である事に違いはないのかもしれない。

 

 そう思わせるような、どこか微笑ましい会話の隙間に、忍び入る影にも気づかない事も含めて……。

 

 

「くっ……ともかく、このままじゃ悔しくて夜しか眠れやしねぇ!」

 

「ぐっすりじゃないですか……」

 

 

 懐に入り込んだその影は、一度増えれば止まりはしない。

 

 お祭りに似つかわしくない、思想、言動……付け入る隙を僅かにでも見せたこの瞬間から――

 

 

「……それはそれは……困りますねぇ。このように、とてもとても喜ばしいお祭りの日に、悲しみに暮れている方がいるだなんて……。ええ、手前、とても、とて〜も……残念です」

 

「……だ、誰だ!?」

 

 

 ズルリと、微かな陰より滲み出てきたソレは、どこか小馬鹿にしたような声音で語りだす。

 

 

「お力、お貸ししますよぉ?猫の手も借りたいのでしょ?ふふ……手前は猫じゃありませんけどもね」

 

 

 陰の帷が深くなり、光の内に入り込んだ闇はその姿を白日の元に曝した。

 

 あばら骨の浮いた、明らかな栄養不足の肢体。

 

 至る所が破け、痛ましい包帯が見え隠れするボロ衣。

 

 嘲るような紅い濁り眼が、値踏みをするかのようにうっすらと細められた。

 

 

「――猫の手、ご入用です?」

 

「は………はぁ…?」

 

「おや、分かりづらかったですか。――助けてほしい、ですか?」

 

 

 

 物語は捲られる。

 

 絶望と失望、怨嗟と悲鳴に彩られた風流が綴られる。

 

 全てを燃やし、無に帰す欲望の交差点――百物語〈かいだん〉が。

 

 

 

 その結末は、綴り手すらも凌駕し、果てしなく根を伸ばし、いつしか……黒き鐘を咲かせることになるなど、誰一人として考えることはなかった。

 




水着ナグサちゃんの白さに、目がムスカ大佐になりました。
…………………来年までお預けって、マ?

次回、百鬼夜行、燃ゆ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。