自称「平凡だけど、どこか神秘的で儚げな……ただの百鬼夜行の一生徒」の妹による曇らせツアー 作:藍終
こんな駄作でも良ければ日々の読書の慰みにでもしてくださると嬉しいです。
今回は前半はクユリ視点、後半は湿度のオカシイ反吐キャットがメインのお話です。
――どうしてこうなった…。
どうも、ナグサ推しだけど葱鮪はあんまり得意じゃないクユリです。
私こと俺は今の状況に頭を抱えていた。心当たりは…まぁ、あるかもしれない。でも言い訳させてほしい。ここまで大事になるとは思ってなかったのッ!
もともと計画の一部に黒服との協力関係を築くことは入っていたし、割と重要事項だったから、黒服をそれとなく誘ってはいたのだ。
黒服はあんなナリだからなるべく人の目につかない場所や時間帯に、かつ一人でいれば話しかけやすいだろうと色々頑張って行動してみた。
キキョウやレンゲ、時にはユカリの誘いを断ってまで、それなりに心を痛めながら一人でいるように心掛けた。
あ、因みに黒服が自分をマークしていたのは知ってたよ…。
あの人、路地裏の門からひょっこり顔を出してコッチ見てくるんだもん。紛う事なきストーカーじゃんね☆
いや、普通に恐怖を感じた。ストーカー被害に遭う女子高生の気持ちが理解できた気がする…。
まぁ、ここまではよかった。
まさかナグサお姉ちゃんが何時でも何処でもそばにいることを除けば…。
せっかく黒服が興味を持ってくれているのだから―理由?転生者の生徒の身体は特殊とかでしょ、多分―この機会を逃したくはなかった。
加えて精神面もだんだんと女子高生のクユリに近づいてきているからなのか、若干鬱陶しいなと感じる面も確かにあった。
とまあ、そんなわけだからちょっと思い切ってみたのだ。
朝からいちゃついてくる姉を、申し訳ないとは思いつつも、あたかも我慢の限界がきたかのように突き飛ばす。
私にだって一人になりたい時も、やりたいこともあるのだと。一応嘘はついていないし、思春期特有の拗れだと思われるだけだと高を括っていたのだ。
その日の夕暮れ、ゲマトリア特有の謎技術とかねてからのお膳立てもあって、誰にも見られることなく黒服と会うことができた。
余談だが、せめてものお気持ちとして和菓子を用意していたのだが、空振ったりナグサお姉ちゃんが会いに来たりした時は当然無駄になるわけで…。少なくないお小遣いが犠牲になったりした。
そうして、ちょっと興奮したりもしたが、概ね黒服との念願の会談を成功させ、後はあの一大イベントが来る時を今か今かと待つのみだったはずなのだが…
あの…。黒服さんの謎技術は相手から自分達を認識できなくなると同時に、こちらからも周りの人物を認識できなくなるものだったらしく。
すっかり話し込んでしまい、あたりもすっかり暗くなって、流石に心配かけてるかな〜どう言い訳しようかな〜、なんて考えながら和菓子を頬張っていると……。
「お願い……。いなくならないで………」
なんてセリフを原作の泣き顔スチルもかくやというほど顔をぐちゃぐちゃにして抱きしめてくる我が姉がいるではありませんか!
とりあえずその場しのぎの勢い任せな言葉で乗り切ったはいいものの、何となく嫌な予感をひしひしと感じていた。
コレ、かなり大事になってない?と。
「とりあえず、一件落着ってわけだし、みんな協力してくれてありがとね〜!」
「うん…。私の妹のためにここまでしてくれてありがとう。
本当は私一人でやらなくちゃいけなかったんだろうけど…」
「まったく…。アヤメ先輩から百花繚乱の緊急通信がきた時は何事かと思ったよ。クユリが行方不明になったと聞いたから急いで準備したのに…。蓋を開けてみればただの姉妹喧嘩なんて……」
「ンなこといっても、キキョウ。お前めちゃくちゃ必死な顔して捜してたじゃん。ただの姉妹喧嘩だって先輩から聞いた時もあからさまにホッとしてたじゃねぇか」
「…チッ………」
「ご、ごめん…。元はと言えば私がクユリを縛りすぎたことが原因だから……」
「「「それはホントにそう」」」
「…………グスッ…」
なんか事件後のお疲れ様の会開かれてるー!
あのあと、百花繚乱の屋敷にナグサとアヤメとともに帰り、特に問い詰められることもなく、疲れてるだろうからと備え付けの布団に押し込まれたクユリです。
ナグサお姉ちゃんのおやすみのナデナデで、無事熟睡…といくわけもなく、何が起こってるのかを探るべくひっそりと後をつけたのですが…。
光の漏れる障子の隙間から恐る恐る覗いてみれば、そこには百花繚乱の錚々たる面子が揃っていた。
話を盗み聞く限り、どうやら黒服のアレのせいでクユリ行方不明事件が勃発していたらしい。しかも肩書きだけでいえば、百花繚乱紛争調停委員会委員長、副委員長、作戦参謀、切り込み隊長が全力捜索を行うという……。
いくら副委員長の妹君とはいえそんな必死になる?
しかも――――――
「神隠し……ねぇ。アヤメ先輩もそこの脳筋の言う事を信じるんだ」
「誰が脳筋だ!誰が!」
「キ、キキョウもレンゲも落ち着いて……。クユリが起きちゃうから…」
「チッ………」
「わ、わりぃ…」
「あははっ!やっぱりこの二人はこうでなくっちゃね〜」
すみません、ゴリゴリに起きてます。なんなら、現在進行形で盗み聞いちゃってます。
それはそうとして神隠しって何!?確かに現象は神隠し?に見えなくもないけど、たかだか数時間行方不明になっただけでいくらなんでも大げさなんじゃ…。
「まぁでも、私は割とありえると思ってるけどね」
「……どうしてそう思うの?アヤメ」
「花鳥風月部の奴らに決まってるじゃない、ナグサ先輩。
あいつら、この頃活動が活発化しているから何かあるんじゃないかと探ってはいたんだけど…。まさか、クユリが目的だったなんて、迂闊だった…」
「言われてみれば、最近アタシが出張る事も増えてきた気がするかも…?」
あれ?なんか花鳥風月部が流れ弾食らってない?確かにそういった摩訶不思議な事をしてくるのは花鳥風月部だけれど……。
まま、あいつら、未来で大事件起こすし今更罪が増えたところで大した事ないか…。
――――――そう思っていると。
「と、いうわけだから!クユリが嫌と感じない程度に近くにいてあげて、交代制で補給……もとい護衛をする事にしようと思うんだけど〜」
――――――ゑ?
「ふ〜ん?流石はアヤメ先輩だね。百花繚乱の作戦参謀としてもそれには賛成するよ。私をここまで心配させたんだから、相応の対価が必要だよね…」
「…なんか本心が漏れてねぇか?まぁ、アタシもクユリには付き合ってもらいたいことがあるし、ちょうどいいかもな!」
――――――あるぅぇゑ?
「あ、あの…。私は……」
「「「ナグサ(先輩)はダメ」」」
「ハァ〜ッ。ナグサ先輩、今回こうなったのはナグサ先輩にも原因があることくらいわかるでしょう?ナグサ先輩が普段クユリに引っ付き虫みたいくっついてるから、クユリが一人になりたがった。そこを花鳥風月部に狙われたってわけ。何をされたのかクユリには後で聞くにしても、同じ事を繰り返せば今度こそ手遅れになるかもしれない。原因のあんたがクユリの近くにいてどうするの?そんな事も考えられないなんて、ホントにシスコン極まってるね。随分幸せな脳味噌をお持ちなことで、羨ましい」
――――――うわぁ……。いつ聞いてもキキョウのマシンガン弾圧は火力が高すぎる。
当のお姉ちゃんなんか、もう言葉も出ないのか机に突っ伏して泣いちゃってるし。
なまじ正論だから言い返すこともできないし、アヤメやレンゲもフォローに入れない…
「ホント…反吐が出る」
あ、トドメ入った…。
まぁ、これである程度行動の自由が利くようにはなったのかもしれない。キキョウやレンゲ達もちゃんと分別をつけてくれるっぽいし。黒服との会談を終えてしまっているから今更感はあるけどね。
懸念点があるとすれば、花鳥風月部に対する警戒が想定より高まってしまうことだろうか。それでも、クユリは別に狙われていないわけだし、付喪神程度のボヤが叩かれるくらいで済むと思う。特にコクリコとシュロは全くと言っていいほど尻尾が掴めない。原作知識があってもこれなのだから相当だ。したがって、例の一大イベントにさしたる影響はない。
「まぁまぁ、キキョウもその辺で勘弁してあげて?ナグサもこう見えてちゃんと反省してるから…ね?」
「グスッ…うん…。クユリには悪いことをしたと思ってるから、今後は控えめに接するつもり」
「……ふん、どうだか」
「そんじゃあ、話も一区切りついたことだし!解散にするとしますか!」
「そうだね〜。もう夜も遅いし、改めてみんなありがとうね」
「あ、ありがとうね。キキョウ、レンゲ」
「……ふん」
「おう!いつでも頼ってくれ!」
そんな事を考えていると解散の雰囲気が漂ってきた。バレないように静かに、しかし素早く寝室に戻る。
何食わぬ顔で布団に入り直し、無理矢理目を閉じているとやっと疲労が追いついてきたのか、だんだんと瞼が落ちていく。
明日からどうやってみんなに接するべきかなぁ。なんて事を考えているうちに、意識は心地よい闇に落ちていった。
「――と、いうわけだから。今日一日あんたをこの私が守ってあげる。感謝してよ?」
「え、いや…その………」
「なに?なにか問題があるの?あんたのせいじゃないとはいえ、百花繚乱の皆に心配かけさせたんだから、これくらいの対応は当然だと思うけど」
「う、うん。その気持ちは嬉しいんだけど…」
「まだなにか?あぁ、流石に四六時中一緒にいるわけじゃないから安心して。私は百花繚乱の作戦参謀だよ?同じミスは繰り返さない。言ってくれれば離れるし、あんたの邪魔もしないから」
「………」
――――――身体に尻尾巻き付けながら言われても何の説得力もないんですけどぉ!?
朝一番、爽やかな青空の広がるこの百鬼夜行にクユリの心の絶叫が響き渡った。
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なんて“いい子”なんだろう。
私、桐生キキョウが御稜クユリに抱いた最終的な印象はこうだった。
はじめの方こそ、姉の影で控えめに微笑んでいるごく一般的な百鬼夜行の一生徒に過ぎなかった。
いや、あのナグサ先輩の妹ということもあって、戦闘面の実力はそれなりに高く、正面衝突でなければレンゲにも勝てるほどだったから、ただの一生徒とは言えないかもしれない。
ある程度日が立つと学校生活に慣れてきたのか、だんだんと活発になってきた。流石にアヤメ先輩みたいな全方位太陽な感じとまではいかないけれど、誰とでも親しく、やや幼さの残る顔でふわりと微笑むその様子は、百鬼夜行のちょっとしたマスコットキャラクターのような存在になった。
愛想も悪い、目つきも悪い、苛ついた時にはどうしても舌打ちをしてしまう。そんな私とは正反対だ。
だから、いくら同年代とはいえこんな私と彼女は無縁だろうと、そう思っていたのに……。
「キ、キキョウさん……あの、もしよかったら私と将棋しま…せんか?」
百花繚乱紛争調停委員会に入って少ししたある日、自分の特技である戦略の知識を更にのばすため、一人兵法書を片手に将棋を指していると、同じ羽織をかけた件の彼女が恐る恐るといった様子で話しかけてきた。
一人で将棋を指す様子が孤独に見えたのだろうか。誰とでも優しく接する彼女といえども、流石に私に声をかけるのは多少勇気がいったらしい。それでもそう言って微笑んでくる彼女。
「余計なお世話。私は好きでやってるの。あんたは私なんかに構ってる暇なんかないんじゃないの?大好きなお姉ちゃんとか友達がいるんでしょ。なに?それともそうやって誰にでも優しくしてあげる事に満足するタイプ?だとしたら、ホントに反吐が出る。生憎とあんたのステータスの一部になるつもりはないから、わかったらさっさと出ていって」
ごめんね、また今度ね。この一言で十分なはずなのに、余計な言葉が一言も二言も突いて出てくるのは私の悪癖というのはわかっている。
舌打ち混じりにそう言い放ち、痛いほどの静寂が場を支配する。きっと、彼女は悲しげな表情をしているだろう。もしかしたら、強がってるように見えて憐れんでいるのかもしれない。
やがて、彼女が動く気配がした。当の私は兵法書に目を向けていたが、どうせ出ていくのだろうと思い、顔を上げると―――
「……あんた、なにしてんの?」
先程の見る人が見れば眉を顰めるような暴言を全く意に介さず、平然と将棋盤を挟んで正座してくるクユリを見て、思わず素の疑問が出た。
見れば最初のやや怯え気味な様子はかき消えており、普段周りに接する時のような純粋無垢な笑みを浮かべていた。
「なにって、本来将棋は二人でやるものでしょ?」
違う、そういうことが聞きたいんじゃない。なぜあんなに突き放されてなお私に関わろうとするのか。
わからない。けど、彼女の対局の誘いに心の中の闘志が燻り始めているのは自覚できた。
ちょうどいい。日頃の努力の成果がどんなものなのか確かめるいい機会だ。それにここで完膚無きまでに潰して、二度と関わろうと思わせないようにしよう。こんな私なんかに付き合うよりももっと有意義な事があるはずだ。
「へぇ……。わかった、誘いに乗ってあげるよ。手加減なんかしないからね。次期参謀の力、存分に味わうといいよ」
そうして、互いに一礼し、パチリと小気味いい開戦の狼煙が上がった。
「な……なんで……」
逃げ場がない。何処に王将を動かそうが次の瞬間には討ち取られてしまう。討ち取った駒の数では圧倒的にこちらが多い。こちらの犠牲は最小限なのに、完全に詰んでしまっていた。
「キキョウは優しいんだね」
「……は?」
「多分、自分の思い通りに動かせる駒であっても出来るだけ犠牲を少なく、最低限にしたいんだと思うんだ。いざ、それが現実になったことを考えて……」
見れば、生き残った駒が多過ぎて王将の行き場が制限されてしまっている。互いが干渉し合って満足に動けていないところに、比較的自由な位置から狙い撃たれていた。
無意識だったのかもしれない。次期参謀として、部員の安全を預かるものとして意識していた責任がこんなところで裏目に出るとは思いもしなかった。
冷酷になりきれない者は指揮者には向かないと理解はしていたはずなのに。
胸の奥から湧き上がる悔しさに任せ、ギリリと歯を鳴らしていると―――
「うん!私はやっぱりキキョウと友達になりたいかな!」
「な、なにを言って……」
どうして今の流れでそんな言葉が出てくるのか。次期参謀なんて言われているのに、こうして明らかに戦略について何も知らなさそうなやつに負けてしまう私なんか最早なんの価値もないだろうに。
すると、彼女はそんな事を露ほども考えていないように満面の笑みで言った。
「仲間想いの優しい性格の人と友達になりたいと思うのは当然でしょ?」
「え、いやでも私は……」
「確かに冷酷な方が結果的に見れば、最善のものになる事もあると思う。現に私もこうしてたくさん駒を取られてるわけだし。 でもね、そういう人は指揮者として長く続かないと思うんだ。現実では皆感情を持っているから、正しいとわかっていても部下を平気で使い捨てるような人にはついて行こうとしない。最善で効率的な結果だけを見据えるよりも、最善の過程を経て、最高の結果を目指そうとする人が指揮者にはふさわしいと思う」
私の言葉に被せるように紡いだその考えは、一見綺麗事のようで、しかし的を射ているものでもあった。
「だから、キキョウがとても仲間想いで優しい性格ってことがわかって安心したし、もっと仲良くなりたいなって思ったの」
彼女の言葉はどこか心に染み渡るように響いて、しかし直球の好意をぶつけられることに慣れていなかったからか顔が熱くなっていくのを感じた。
「桐生キキョウさん、私と友達になってくれませんか?」
長い銀髪を揺らし、屈託のない笑顔でそう手を差し出してくるものだから――――――
「ふふっ、あんたが好かれる理由がわかったよ。うん、私でよければよろしく」
この日、桐生キキョウという名の王将は完全に討ち取られた。
その日から、私とクユリは度々顔を合わせるようになった。委員会の仕事で協力したこともあったし、プライベートで、クユリ行きつけの甘味処に誘ってもらったこともあった。格好をつけて、利き手でない方の手で逆手持ちで三色団子を食べる様子には思わず笑ってしまった。
一体どこでそんな食べ方を思いついたのか。その技術が活かされるとしたら、片腕しか使えなくなった時くらいだろう。
そんな時折見せる年相応の魅せたがりと、いつまでも変わらない優しく、純粋無垢なクユリの態度はとても庇護欲を掻き立てられるもので……。
同学年ではあるが、いつしかクユリの事を妹のように考えてしまうようになっていた。
あのナグサ先輩がシスコンだなんだと言われるのも納得してしまう。
だって、こんなにも可愛いんだもの。
クユリがほぼ無差別に振り撒く愛情を独り占めしたい気持ちも無くはないが、流石に私もそこら辺の分別はついている。せめて、クユリがなんの心配も抱くことなく何事もない学園生活を送れるように守ってあげるのだ。
そんな風に思っていたから、アヤメ先輩からクユリが行方不明になったという緊急通信を受けた時は、本当に頭が真っ白になった。
何とか了解の意を伝え、参謀の権限を使って部員を指揮しながら捜索に加わった。
いや、とても指揮なんて大層なものではなかった。
ただがむしゃらにあらゆる方角に捜索させ、自分自身も走り回るというだけの、レンゲの事を脳筋呼ばわり出来ない醜態を晒しただけで、ろくに成果も出せなかった。
最終的にナグサ先輩達が発見したことでとりあえずの事態終息は訪れたが、この時ほど自身の力不足を呪ったことはない。
しかも、話はこれだけでは終わらない。確かにナグサ先輩とクユリの喧嘩が事の発端にはなったのかもしれないが、百花繚乱が全力の捜索を行ったのにも関わらず痕跡すら見つけられなかったのは異常事態だった。
話を聞く限り誰もいなかったはずの甘味処にふと、何事もなかったかのように座っていたのだという。加えてクユリ自身何も覚えておらず、気がついたらあそこにいたのだと。
私は冷静になった頭で一つの可能性をはじき出した。
アヤメ先輩へ成果報告をするために同時通話していた時に、レンゲが言っていた言葉が妙に引っかかっていた。
そう、花鳥風月部による神隠し、若しくはそれに類似する現象なのではないかと。
花鳥風月部は何とも不気味という言葉が似合う部で、奇々怪々な術を操り、何度もこの百鬼夜行を混乱に陥れてきた。幻魎付喪神による小さな騒動など数えたくもない。
重要なのは最近その花鳥風月部の活動が活発化している傾向があるということだ。
こんな説明不可能な現象を起こしてきたのは何時も花鳥風月部だった事もあって、私はほぼ確信していた。
だからこうして、気づけばいなくなってしまうことがないように、少し軽めに拘束している。
クユリが嫌がるようならやめるが、困惑はすれども拒絶はしていない為問題ないと判断した。
おどおどする様子も愛らしい……。そんな風にクユリを愛でていると、ふと違和感に気づく。
「クユリ、あんたちょっと髪黒っぽくなってない?」
「え〜?それお姉ちゃんにも言われたんだよね…。特に染めたりはしてないんだけど、どうしてなんだろ…」
私の中では花鳥風月部に拐われている間に何かをされたのだと推測している。ナグサ先輩曰く何も覚えていないらしいが、私はクユリが何かを隠しているか口止めされているという可能性も視野に入れていた。
だから少し、カマをかけてみることにした。
半ば強引にクユリの顔を自分の方に向けて、両手で固定する。勢いに任せることで相手に身構える時間を与えない。
「ねぇ、クユリ。あんた本当に何も覚えてないの?」
「う、うん。そうだよ?キキョウ」
―――ここからだ。
「嘘ね。あんた嘘つくのが下手なのよ。素人でもわかるくらい、それで参謀の私を騙そうなんて随分舐められてるもんだね」
「……え?いや、え?」
「クユリ、今ならまだどうにかなるかもしれないの。あんたもわかってると思うけど皆心配してる。原因が判れば私達は全力で対処できる。話したくない内容なら無理に聞かない。けど、何かあったのかすら分からないんじゃどうしようもないの。あんたなら……、クユリならわかるよね?」
「…………」
「もう一度聞くよ?本当に何も覚えていないの?」
「……うん。ごめんね」
「そう……。あんたが謝ることじゃない。覚えてないものはしょうがないし、完全な0から何かが生まれることはないからね。でも、これだけは聞いてくれる?」
「なに?キキョウ」
「もう……、無言でいなくなったりしないで。常に私の目の届く場所に…、体温の伝わる距離にいて。
望みは、それだけだから…」
「キ、キキョウ…?そ、ソレって…」
「ふふっ、今のは冗談。半分は……ね」
「それじゃ、今日も一日頑張ろうか、クユリ」
「え…、あ、う、うん!」
あんなに顔を赤くしちゃって…。ちょっと体を預けて言ってみただけなのに、やっぱりソッチ方面は弱いらしい。
これからのからかいに使える情報が手に入ったことにほくそ笑みながら、並んで歩を進める。
先程の問答で私が下した判断は――――――黒だった。
本当に覚えていないのかと再度問うた時に、僅かにクユリの瞳が揺らいたのだ。尋問の知識も履修済みの私にとって、その変化を見逃すわけには行かなかった。
とはいえ、話してくれない事に失望したりはしない。
私が抱いた感情は、怒りだ。クユリにではない、花鳥風月部にだ。クユリの優しさにつけ込みでもしたのだろう、髪の色が変わってしまうほどの事をあいつらはクユリにしたのだ。
腸が煮えくり返るとはこのことか。必ず、報いを受けさせてやると心に決め、クユリの護衛の任を全うする。
さっきの仕返しなのか、巻き付けた二股の尻尾をいじられた時は、危うく理性のタガが外れそうになったのはここだけのハナシ。
シュロ「え?なにそれ、手前そんなの知らない…」