自称「平凡だけど、どこか神秘的で儚げな……ただの百鬼夜行の一生徒」の妹による曇らせツアー   作:藍終

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今回はレンゲ&ユカリ回ですの〜。

クユリとユカリは今回で顔合わせです。

タイトルの意味は後半に詰まってます。


青春という言葉は免罪符ではありませんの〜!

 

 御稜クユリ護衛作戦、もとい合法的妹セラピー条約が締結されてからはや数日。

 

 初日から湿度フルスロットル状態の桐生キキョウに、心も体もべちょべちょになったクユリです……。

 

 画面を挟んでいた前世でさえ、カビが生えるんじゃないかっていうほど重い感情をぶつけてきたのに、それを直に食らった暁には……。

 

 愛する我が姉の存在があったからいいものの、危うく溺れてしまいそうになった。

 

 あんな告白紛いな事を言われた時なんか、原作のセリフを聞けた喜びなんて感じる暇もなかった。

 

 割と本気なのかと疑ってしまうくらいには威力が高く、思わず顔が熱くなった。キキョウがこれ幸いとからかってこなければいいのだが……。

 

 

 

 しかし!キキョウ曰く、キキョウの護衛は昨日までらしかった。いくら自由を利かせてくれても、顔を合わせるたびにあの湿度を提供され続けては、こちらも気疲れしてくるもの。

 

 

 

 そう、この時はこう言っては失礼かもしれないが得も知れない解放感に浸っていて、この後に来る刺客の存在を忘れていたのだ。

 

 

 そう――――――

 

 

「おはよう!今日からよろしくな、クユリ!」

 

 

「レ、レンゲ……」

 

 朝一番、残った湿度を吹き飛ばすように快活に挨拶して来る、百花繚乱の切り込み隊長こと不破レンゲ。

 

 荒ぶる龍のような紅蓮の髪に、いっそ爽やかさを感じるくらい露出の多い服装、燃えるような情熱を宿す赫眼を持つ彼女は、じっとりした湿度など微塵も感じさせなくて――

 

 

 

 こんなん風邪ひくじゃんね☆

 

 

 

 

 

 

 

✵✵✵✵✵ ✵✵✵✵✵ ✵✵✵✵✵✵✵

 

 

 

 アタシにとって、クユリはまさに友達って感じの存在だった。

 

 一見か弱そうで儚げな容姿とは裏腹に、ナグサ先輩譲りの戦闘力を持ち、アヤメ先輩程じゃないが誰にでも明るく接する彼女。

 

 アタシの青春活動にも、苦笑はしながらも付き合ってくれる。

 

 一緒にいて、心地いい奴。それが不破レンゲのクユリへの印象だった。

 

 ナグサ先輩やアヤメ先輩はやっぱり尊敬の目で見てしまうし、同学年のキキョウに至ってはあまり相性が良くないんじゃないかと感じてしまう。

 

 いや、アタシには逆立ちしてもできない事をキキョウはできるし、そういう面では素直に凄いと思っているけど…。

 なんか馬が合わないっていうか、いつも喧嘩腰になっちまう。

 

 最近出来た新しい百花繚乱の後輩も、アレは可愛げのある後輩どまりで……なんかこう、“友達”って感じじゃない。

 

 

 

 

 だから、クユリはアタシがまっさらな気持ちで接する事ができる、まさに親友みたいな、そんな関係だと思っている。

 

 

 

 

 そんな中、クユリが行方不明になったと聞いたら居ても立ってもいられなくなるのは当然だったと思う。

 

 アタシには、キキョウみたいに難しい事を考えることは向かないことくらいわかっている。

 

 アタシが出来るのは己の身体を使って、がむしゃらに行動することだけだし、それがアタシの長所だとも。

 

 

 それでも、クユリが無事発見されたという報せを受けて、安心した一方で、もっとアタシにできる事はあったんじゃないかとどうしても考えてしまった。

 

 別に自惚れるわけじゃないけど、百花繚乱の切り込み隊長としてそれなりの立場にいるのは自覚している。

 幾らアタシに求められている役割が戦闘面とはいえ、何も考えずに突っ走るのは、キキョウに脳筋呼ばわりされても文句は言えないんじゃないか?

 

 

 だから、足りない頭でクユリに何をしてやれるか考えた。

 

 幸いといっていいのか、しばらく護衛という名目でクユリと一緒にいれる時間が確保できるようになった。

 

 キキョウが護衛の任についている間、クユリとどうやって過ごすかを計画していると、ふと天啓がおりた。

 

 

「そういや、最近入ったユカリのやつ、まだクユリに紹介してなかったよな…」

 

 

 勘解由小路ユカリ。由緒正しき名家のお嬢様で、争いごとにまみれた百花繚乱紛争調停委員会とは無縁の存在だと思っていたのだが…。

 理由を聞けばナグサ先輩に憧れて入部する事を決心したらしい。

 本当は彼女の事を考えれば辞めさせるようにしたほうが良かったのかもしれなかったが、あまりにもキラキラした目で事の展望を語ってくるものだから、そうか、頑張れよと返すことしかできなかった。

 

 ちょうどいい事に、今度百花繚乱の模擬戦闘訓練が予定されている。アタシも切り込み隊長もとい、教官として1年生達をしごく立場にあるのだ。

 当然、初めてにはなるがユカリも参加してくる。

 

 それなら、クユリもまじえて模擬戦闘訓練を行えば、1年生達にもいい刺激になるだろうし、ユカリとの顔合わせも済ませられる。

 

 あわよくば、その後、前々から思っていたクユリへのリベンジマッチもできるかもしれない。

 

 

 

 

 

 そうと決まれば、行動に移るのは早かった。

 

 キキョウの番が終わり、アタシの番の日の朝一番にクユリのもとを訪れる。

 

 そして、何やらグロッキー気味な雰囲気をまとっていたクユリを笑い飛ばし、早速訓練場に引っ張ってきたところだ。

 

 

 

「…ねぇ、レンゲ?私を訓練場に連れてきてどうするの?」

 

「あれ?言ってなかったっけか…。今日、1年生のやつらの模擬戦闘訓練がある事は知ってるだろ?」

 

「うん………。ま、まさか…」

 

「そう!クユリに1年生の相手をしてほしいんだ!」

 

「……そういうのはもっと早く言って欲しかったなぁ…。レンゲらしいといえばそうだけど」

 

「ヘヘっ、“師匠”に褒められるとうれしいな!」

 

「別に褒めてはないけど…。というかその師匠って呼び方、むず痒いからやめてほしいんだけど」

 

 アタシがクユリのことを師匠と呼ぶのは、まだアタシが切り込み隊長になって間もなかった頃、若干とはいえ天狗になっていたことがあった時に、クユリに完敗したのがきっかけだった。

 

 馬鹿正直に、力任せのパワープレイで押し込もうとしたアタシを手玉に取り、軽くいなしながら舞うように戦うその姿に、多分見惚れてしまったのだと思う。

 

 その時から、訓練場では尊敬の念をこめて師匠と呼んでいる。当のクユリは恥ずかしがっているのか、むすっとしているがそんなのは可愛らしさしか生まない。

 

 

「まぁ、いいじゃんか。それに、クユリに紹介したい奴もいるし、ちょっと付き合ってくれよ」

 

「へ?」

 

 

「多分もうすぐ来るんじゃないか?……お、そんな事言ってたら…」

 

 そんな風に駄弁っていると、訓練場にぞろぞろと1年生達がやってきていた。

 

 百花繚乱の部員は大抵この模擬戦闘訓練を経験することになっているが、その内容は指導を担当する教官によって苦楽の差が著しくなるのが特徴だった。

 

 そして、親ガチャならぬ教官ガチャの中でも、屈指のハズレ枠。それが泣く子も黙る鬼教官の不破レンゲだった。

 

 休むという行為を知らないのか、一切の甘えを許さない戦闘訓練をぶっ続けでやらされるこの教官に配属されたが最後、生きる屍となって帰ってくるのは最早伝統になりつつあり、不運な部員は仲間だった奴(当たり枠のナグサに配属された)を呪いながら、訓練場に赴くのだ。

 

 そのため、絶望の感情を隠そうともしない部員達だが、いつもの鬼教官の隣に珍しい姿があるのに気がついた。

 

 

「あ!クユリ先輩!訓練場に来られるなんて珍しいですね」

 

「うん、まぁちょっと色々あってね」

 

「もしかして、見学しにこちらへ?」

 

「あ〜、いやえっとね…」

 

「実はな!今日の訓練はクユリにやってもらうことにしたんだ!」

 

 まだ、クユリがやるとは言ってないけどなし崩し的に話を進める。

 慌てた様子で何かを言おうとしたクユリだったが、それも部員らから上がった歓声にかき消された。

 

「え!?マジですかレンゲ先輩!」

 

「やったぁっ!クユリ先輩って訓練を担当していないから気になってはいたんだよね〜」

 

「しかも、あの当たり枠のナグサ先輩の妹だよ?少なくとも鬼教官よりはマシになると神は言っているっ!」

 

「やっと…束の間かもしれないけど、拷問から解放される……」

 

 

 半分くらいはアタシの訓練からの解放を喜ぶ声だった気がするが、優しいアタシはスルーしてあげるのだ。

 

 

 

 ―――次の訓練は倍のスケジュールにしてやろう。

 

 

 

 さらなる地獄が決定した哀れな部員達を見ていると、何かが足りないことに気づいた。

 

 

 

「ん?おい、お前ら。ユカリは見てないのか?」

 

 そう、件のユカリがいないのだ。ユカリは真面目なのか純粋なのか、集合時刻に遅れることはこれまで一度もなかった。不思議に思って尋ねるが、部員達はふるふると首をふるばかりだ

 

 アタシが思いついた時に限ってこうなるとはなんとも運が悪い。

 珍しいこともあるもんだと思っていると……。

 

 

 

――――――ですの!!

 

 

 

 

 

 

「!? 今の声は……!」

 

 離れていてもよく響く芯の通った声。特徴的な語尾。ユカリだと一発でわかるそれは、何やらあまりいい雰囲気では無さそうだった。

 

「クユリ!悪いがちょっと手伝ってくれ!お前らはそこで待機していろ!すぐに戻る!」

 

「え?はい…。あの、クユリ先輩ならもう……」

 

「へ?」

 

 後輩の一人が指をさす。その方向を見ると、既にクユリは駆け出していて、ぐんぐんと離れていく。

 

「ちょっ…。ったく、流石は師匠だな!」

 

 そう叫んで、道に敷かれた石を踏み割る勢いでアタシも駆け出す。

 

 

 

 

 以外とそう遠くなかったのか、前方のクユリが足を止めるのも遅くなかった。

 

 一息ついて、視界に映る現状を理解しようとする。

 そこには、一人の少女と百鬼夜行の住民、そして黒亀組なるロゴを肩に入れたチンピラのオートマタ2体が言い争っていた。

 

 

「――ですから、あなた達がこのお方にわざとぶつかり、その隙に財布を盗んだのを、身共は見たと言っているのです!」

 

「だから、知らないっつってんだろ」

 

「俺達がソイツの財布を盗った証拠でもあんのか?ああん?」

 

 

 あぁ、なるほど。よくあるスリ騒動だなと思った。いや、よくあってはいけないんだけど、困った事にいつまで経っても卑怯な奴というのはいなくならないものだ。

 

 正義感の強いユカリのことだから、偶々その現場を目撃し、見て見ぬ振りなどできずこうして糾弾しているのだろう。

 

 

「証拠は……ありません……。ですが、身共は本当に……!」

 

 必死に食い下がるユカリを見て気の毒に思ったのか、恐らく被害者の住民がユカリを宥めようとした。

 

「……もういいよ、お嬢さん。急ぎの用事があったんだろう?気を遣わせてしまってごめんねぇ。何処かに落としてしまったんだよ、きっと」

 

 それに勢いづいたチンピラ共が、調子にのって捲し立てる。

 

「ほら、本人もいいって言ってんだろ!もう行っていいよなぁ?」

 

「言いがかりつけたんだから、謝るくらいしたらどうだ?ハハッ!」

 

「ここまで俺らに突っかかってきたんだからなぁ?」

 

「そ、そんな……。身共は……確かに…」

 

 それでも、なおも食い下がろうとするユカリにチンピラ共も痺れを切らしたのか、だんだんと威圧的な態度を取り始めた。

 

「チッ!しつけぇな!」

 

「痛い目を見なきゃ分かんねぇようだな!」

 

 流石に雲行きが怪しくなってきた。仮にも百花繚乱の一員としてこの場をどう処理してみせるのか、先輩として見守ってはいたが些かユカリには難易度が高かったかもしれない。

 

 ただ、後輩を助けるのも先輩の役目だ。荒事はアタシの本分だとその騒動に割り込み、チンピラ共を軽く捻ってやるべく足に力を込めた瞬間―――

 

 

 目の前にいたクユリの姿がかき消えた。

 

 

 

 「――――――は?」

 

 あまりにも突然の事で思考が停止したが、それも一瞬だった。

 

 

 いつの間にかチンピラ共とユカリの間にクユリが立っているのを見たからだ。

 

 これには当然チンピラ共も面食らったようで、驚きながら半ば反射的に塗装されたアサルトライフルを構える。

 

「うおっ!一体何だよ、お前!」

 

「これ以上邪魔しようってんなら――」

 

 

 

 

 

 

 

 それ以上言葉が続くことはなかった。

 

 クユリの愛用の百花繚乱制式ライフルが凄まじい速度で閃き、片方の頭を撃ち抜き、もう片方の頭に銃身を突き刺したからだ。

 

 

 

 「黙れ。それ以上その口でユカリを穢すな」

 

 

 そう何も音を発しなくなったオートマタ2体に向けて言い放った時の、クユリの能面のような表情はしばらく忘れることができないだろうと、アタシは一人身震いした。

 

 

 

 

✵✵✵✵✵ ✵✵✵✵✵ ✵✵✵✵✵✵✵

 

 

 

 

 身共は曲がったことが大嫌いですの。

 

 嘘をついて人を騙したり、人の悲しむ顔を見て快楽を感じたりする人のことは、どうしても理解ができませんの。

 

 

 人から物を盗むなんて、以ての外ですわ。

 

 

 

 その日、身共は朝のお稽古に時間を思いのほかかけてしまい、やや焦りながら百花繚乱の訓練場に急いでおりましたの。

 

 集合時刻にはギリギリ間に合いそうでしたが、こういう時は最低でも五分前までに到着しておくのが常識と教わっておりましたので、道行く方々の迷惑にならない程度に走っていると…。

 

 本当に偶然、ロボットの二人組がここの住人さんに明らかにわざとぶつかり、財布を抜き取った場面を目撃してしまったのですわ。

 

 私自身、急いではおりましたが、そんな狼藉を見て見ぬ振りなどできませんの。

 

 面と向かってそのことを指摘し、財布を持ち主様に返すよう忠告してみましたが、この方達はこのような行為に慣れていらっしゃるのか、余裕の態度で知らん顔を貫いておりました。

 

 身共も咄嗟のことで撮影するという選択肢が選べなかったため、証拠がありません。

 

 しまいには財布を取られたお方が諦めてしまう始末。

 

 それでも、曲がったことに屈するのはどうしても嫌で、何とか食い下がろうとしておりますと、ロボット達も威圧的になってきて、思わず体が固まってしまったのです。

 

 

 逃げたくはありませんがどうしても恐れが勝ち、目を塞いでしまいました。

 

 しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこず、恐る恐る目を開きますと、目の前には何処か見たことがある美しい銀髪が靡いており、驚愕するのも束の間、あっという間に二人組を打ち倒してしまいました。

 

 

 

 その姿はどこか、あの日身共を助けてくれた憧れの先輩に重なって―――

 

 

「ナグサ先輩?」

 

 

「…………ふぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、街がいつもの穏やかな空気に落ち着いてきた頃。

 

 改めて身共を助けてくれたお方と対面してようやく、ナグサ先輩ではない事に気付きました。

 しかし、聞けばナグサ先輩の妹様であったではありませんか!

 

 どうりで容姿や醸し出す雰囲気が似ているわけですわ。

 

「クユリ先輩…ですのね!身共はユカリと申します。先程は助かりましたの。とても格好が良かったですの!」

 

「あはは…、ちょっとカチンと来ちゃって、随分と荒っぽくなっちゃった…」

 

「……ハッ!そうですの!この方達はご無事なのでしょうか…」

 

 見れば、先程今にも襲いかかろうとしていたオートマタ達が頭部に風穴を空けられて完全に沈黙していた。

 

 もしかして、身共は恩人に殺人をさせてしまったのでしょうか…?身共が不甲斐ないばかりに……。

 

 顔が青ざめていくのが自分でもわかり、せめて謝罪はしなければと思っておりますと…

 

「これはま〜た派手にやったな、クユリ!」

 

「レンゲ先輩!?」

 

「おう、災難だったなユカリ。珍しく遅いからこうして様子を見に来たんだが、まぁ無事で良かったよ!」

 

 身共がこれから行くはずだった百花繚乱の訓練のご指導をなさっているレンゲ先輩まで来てくれましたの。

 やはり、こうしている間に集合時刻はとっくに過ぎていたらしいです。恥ずべきことですわ……。

 

「あの……この方達は…」

 

「ん?あぁ、こいつらの大事な…めもりーかーど?ってやつを壊さないようにクユリは上手く撃ってるからな。どうせほっとけばこいつらの仲間達が回収しに来るだろ」

 

「多少記憶は吹き飛ぶかもしれないけどね……」

 

「お、お見事ですわ…」

 

 流石は先輩方ですの!

 

 

 

   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「よーし!それじゃあ今から百花繚乱模擬戦闘訓練を始めるぞ!今回は特別回としてクユリがお前らの相手だ!今までの訓練で学んだことを実践して見せてみろ!」

 

 あれから訓練場に皆さんとともに戻り、今まさに訓練が始まろうとしておりますの。

 

 身共はあんな事があった後にいきなり戦闘訓練は流石にはーど?らしいとクユリ先輩に止められ、今回は見学ということになりましたの。

 

 クユリ先輩一人に対して、数十人がそれぞれ位置について迎え撃つという構図。数の上では圧倒的にクユリ先輩が不利ですが、身共の直感は逆だと言っておりますわ…。

 

 なんというか、こう、強者のおーらが凄いのです!

 

「それじゃあ、クユリ!準備はいいかー!?」

 

「うん、やるからにはきちんとやるよ。いつでもいいよ、レンゲ」

 

「へへっ、そうこなくっちゃな!では………、始めッ!」

 

 

 そうレンゲ先輩が号令を下した瞬間、フッとクユリ先輩の姿が消えてしまいました。

 次の瞬間には、一番クユリ先輩と距離が近かった方が銃床で意識を刈られていました。

 

 しかし、それは訓練生の方々も折り込み済みでしたようで、動きの止まった先輩を四方八方から一斉に狙い撃ち始めました。

 

 流石はレンゲ先輩のご指導を一身に受けなさっていることです。息ぴったりですの!

 

 

 一方クユリ先輩はというと、近くに設置されていた掩蔽物を盾代わりにしながら、高所から狙撃してくる方を確実にライフルで撃ち抜いていっております。

 その精度も素晴らしいのですが、一発の威力が身共とは比べ物になりません。

 見た感じ、クユリ先輩の銃は真っ黒な銃身に紫の線が百合の形に走っている事以外は、身共のものと同じごく普通の制式ライフルですのに…。

 

 やはりナグサ先輩の妹ということなのでしょう。身軽に戦場を舞うその姿は思わず見惚れてしまいます…。

 ますます尊敬すべきお方ですの!

 

 

 そんな風に繰り広げられる銀髪と銃弾のおりなす舞踊に魅入ってしまっていたからか、隣にいつの間にか誰かが立っていることに気づきませんでした。

 

「……クユリが戦ってるところを見るのは久しぶりだね」

 

「ひゃっ!?ナ、ナグサ先輩ですの!?」

 

「うん、久しぶりだね。元気にしてた?ユカリ」

 

 

 そこには身共の最初の恩人のナグサ先輩が微笑んでいましたの。

  

「はいですの!ナグサ先輩はもしかしてクユリ先輩をご覧になりにいらっしゃったのですの?」

 

「ううん、偶々近くに用事があって、訓練場が使われてたからふと見に来てみただけ。そしたら、クユリがいたって感じ…」

 

「そうですのね。身共、本日クユリ先輩に助けていただきましたの!」

 

「…へぇ。クユリはやっぱり優しいね。どこか怪我したとかなかった?」

 

「のーぷろぶれむ!ですの!」

 

「ふふっ、ユカリは相変わらずだね」

 

 やはりナグサ先輩もお優しいですの〜。考えてみれば身共にとっては、御稜姉妹はそろって恩人ということになって……これはまさに運命と言わざるを得ませんの!

 

「あ、もうすぐ終わりそうだよ、ユカリ」

 

「え?もうですの?あっという間に……」

 

 そう言われて訓練場に目を戻すと、最後の一人がついに撃ち倒されるところでした。クユリ先輩は少し疲れてはいらっしゃる様子ですが、ほとんど被弾することなく勝利してみせました。

 

 

「そこまでッ!」

 

 試合の様子を見守っていらっしゃったレンゲ先輩の声が響き、思わず拍手してしまいましたの。

 

「いや〜、やっぱ師匠はすげぇよ!あんだけ人数不利だったのにほとんど攻撃を食らってなかったし、アタシにもそれはできねぇよ!」

 

「…レンゲの後輩達の連携も凄かったけどね。少しも気が抜けなかった。それこそレンゲはこの子達のいい師匠だと思うよ」

 

 

「くぅ~ッ!そう言われると教官冥利に尽きるってもんだな! ホントはこれからアタシとの一対一のリベンジマッチをしたかったんだけど…」

 

 

「流石に勘弁して……」

 

「わかってるよ。アタシは馬鹿かもしれないが愚かにはなるつもりはねぇ。また、機会があったらそん時にでも頼むよ」

 

「…うん、そうだね。レンゲをがっかりさせないように鍛錬しておくことにするよ」

 

「おう!とりあえず、お疲れ様!」

 

「うん、お疲れ様」

 

 

 そう言って二人が歩み寄って、はいたっちをするべく歩み寄っていきます。

 

 何だか目頭が熱くなってきましたの……!

 

 

 ナグサ先輩も優しげに目を細め、しみじみとしておりますの。

 

「…クユリが危ないからって理由で模擬戦とかを避けさせてたけど、クユリも楽しそうだし、レンゲに少しクユリの事を頼んでみてもいいかm――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガツッ!

 

 

「おわわっ!」

 

 

 

「レンゲ、危な――――――んアッ///」

 

 

 

 

 

「へ?」

 

 

「―――――――――は?」

 

 

「………ですのっ!?!?」

 

 

 

 

 

 なんという事でしょうか。はいたっちをするべくお互いに歩み寄っていた途中、レンゲ先輩が足を何かに引っ掛けてつんのめってしまいましたの。

 

 それを見たクユリ先輩がレンゲ先輩を支えようと駆け寄ったところで……………。

 

 その……、レンゲ先輩がはいたっちの為に上げていた手が、クユリ先輩の……お、お胸をがっしりと掴んでしまったのですの!!

 

 み、身共はなんて破廉恥な場面を………。

 

 

 

 思わず両手で熱を持った顔を覆ってしまいましたの。

 

 

 

 

 でも、次の瞬間にその熱をかき消して、逆に凍えてしまうほどの殺気が隣から吹きつけてきたのですの!

 

 

 恐る恐るそちらを見てみますと………

 

「ナ、ナグサ先輩?どうか落ち着きなさっ―――ヒィッ」

 

 

 決して恩人にむけるものではない悲鳴が自然に出てしまいました………。

 

 

 クユリ先輩が、身共を助けてくれた時の能面のような顔。

 あれが可愛く見えてしまうほど、ナグサ先輩の表情は凍気を放っておりますの!

 

 

 

 肌を刺すような静寂の中、ナグサ先輩が足を踏み出しました…。

 

 身共は何もできません。

 

 下手に声をかけてしまえば身共の身も危ないと、ユカリれーだーがびんびん反応していますの。

 

 

 

 今だその姿勢のままのレンゲ先輩のもとにゆっくりと近づきます。

 レンゲ先輩も我にかえったのか、顔を引き攣らせながら弁明、というより命乞いを始めましたの…。

 

「ナ、ナグサ先輩!?い、いや!これは違うんだ!」

 

「………へぇ、何が違うの?言ってみて?」

 

 

 結末のわかりきった裁判とはこんなにも虚しいものなのですのね……。

 

 

「ナ、ナグサ先輩も見てたならわかるかもしれないけど、アタシが躓いちまって…、そ、そん時に……」

 

「うん、その時に?」

 

「ヒイッ!そ、その………、ク、クユリの……」

 

「うん、クユリの?」

 

 今しがた気付きましたが、今回の被害者のクユリ先輩もお姉様のあまりの豹変ぶりに介入できておりません。

 今のレンゲ先輩には検察官はいても弁護人がおりません…。

 

 そして、判決の時が参ってまいりました。

 

 

「む、胸を揉んでしまいました………」

 

 

 

 

 

 

「…何か言い残す事はある?」

 

 

 

 

 

「ラ、ラッキースケベってある意味青春だよな〜なんて…」

 

 

「……レンゲ、同じ百花繚乱のよしみで、情はかけてあげるよ」

 

 

「ほ、ほんとか!」

 

 

「一撃で終わらせるから、じゃあね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――え?」

 

 

 

 

 

 その時何が起こったのかは身共の存じ上げるところではありませんの。

 

 ただ、わかることがあるとすれば……。

 

 塞いだ目と耳を貫通してくる衝撃波と轟音。

 

 

 そして、訓練場が大規模修理のため、しばらく使用不可能になってしまったことくらいですの。

 

 

 

 

 ただ何故か、レンゲ先輩が全身包帯姿でいる様子がしばしば目に入ってくるのです……。

 

 きっと気のせいですの。

 

 




因みに、今回登場したオートマタのチンピラ組ですが、あの後、欠損したメモリーカードの為今回の出来事を覚えておらず、原作の冒頭でまた同じようにスリをし、同じようにユカリに咎められます。

 馬鹿は叩いても治らないってホントだね…。
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