心の折れた魔法少女と、幼馴染の俺が誰もいない街で二人きり 作:イーナ
翌日、目を覚ますと体中が悲鳴を上げていた。
「が、おおおお……」
「筋肉痛ですねぇ」
なんとなくそんな気がしていたのだろう、珍しく一人で起きてきたユマがそんな事を呑気に言う。
手には朝飯のサンドイッチ。
ユマが作ってくれたのだろう、手間を取らせてしまったわけだ。
「悪い」
「何を謝ってるの? ミキトくんの体力なら、こうなるのは最初からわかりきってたことじゃん」
「……運動、しないからなぁ」
言いながら、痛みに耐えて何とかベッドから起き上がる。
ユマの作ってくれたサンドイッチは俺の作ったただ出来合いの物を挟んだだけのものではなく。
複数の食材を挟んで、キレイに見た目を整えたものだった。
どうみても、こっちの方が美味しそうだ。
「相変わらず、ユマは器用だな」
「大抵のことは、最低限はできる所存です」
――ユマは、色々な習い事をしていたのもあってか、手先が器用だ。
料理も、俺なんかが適当にやるよりもずっと丁寧に美味しいものが作れる。
花嫁修業は嗜みですから、なんて昔言っていたけれど。
これを食べれる人間は幸せものだと思う。
「ミキトくんにしか作らないよ。私には、ミキトくんしかいないもん」
「……そっか」
少しだけ、複雑な気分になる。
悪い気はしない、恥ずかしさと嬉しさが大半だ。
でも、少しだけ申し訳無さもある。
ユマが俺の隣にいてくれるのは、俺とユマが幼馴染だったからだ。
もしも俺が幼馴染でなかったらユマはこんなに俺へ懐いたりはしないだろう。
と、そんな事を考えてしまうことすら、ユマにとっては失礼な気もする。
どちらにしても、今日は俺がユマに世話されてしまっているわけだからな。
申し訳無さは、拭えない。
「普段はお世話してもらってるんだもん、こういう時くらいは、私だって頑張るからさ」
「ありがとうな」
「昔から、私のできないことがミキトくんにはできて、ミキトくんにできないことが私にはできる。それでいいじゃん」
いいながら、自分の作ったサンドイッチを口に放り込む。
ほんの少し、かじるようにして。
それを時間を駆けて咀嚼、やがて飲み込んだ。
「勉強でわからないことは教えてもらうもん」
「……勉強くらいしか、できることないからな、俺は」
ユマは色々なことができるけど、勉強は少し苦手だ。
対する俺は、勉強は少し得意。
正直、どっちもそこまで差はないけれど、ユマに教えられるように頑張らないといけなかったから。
見栄を張るために勉強したから俺のほうが、少しだけできる。
そして運動は、俺もユマもどっちも中の下ってところだな。
「ん……ごちそうさま」
「まだ半分も食べてないけど、大丈夫か?」
「具材、入れすぎちゃった。こんなにいっぱいだとすぐにお腹いっぱいになっちゃうよ」
確かに、普段なら一品入ってるかどうかだからな。
二枚の食パンで具材を挟み、それを四等分して。
そのうち一切れを食べるのがユマの朝食だ。
残り三つは俺が食べる。
今日は、一切れの半分がユマの限界だったらしい。
「それに……ご飯作ったら、しんどくなっちゃった」
「……そうか、残りは俺が食べるよ」
「ごめんね、ありがと。……体、痛くない?」
「流石に、食べるだけで我慢できないほど痛くなったりはしない」
起き上がる時は相当気力を使ったけど。
座って飯を食べるだけなら、流石に痛くなったりはしない。
少し響いて体がこわばる時はあるけど、気になるほどではなかった。
「痛いのは、我慢しちゃダメだよ。私が魔法少女として戦ってた時も、痛いのは我慢するとそれだけで動きが悪くなっちゃってたから」
「……そういう時、ユマはどうしてた?」
「痛みを魔法で消して、我慢してたかなー。治療する魔法って、効果が出るまで時間かかるんだよね」
時折、こうしてユマは魔法少女として戦っていた時の事を話す。
こともなげに、何でもない様子で。
その真意が読み取れないけれど、ユマが魔法少女に変身しようとこっそり練習してるなら。
魔法少女である自分と向き合うつもりはあると思うんだ。
これがその発露なら、俺は話を聞かないと行けない。
というか、そういうユマの姿は悪魔獣と戦っている頃は踏み込めなかった部分だから。
あの頃は、ユマが魔法少女として戦うことをサポートするのに必死で、そういう部分まで気を回せなかったのもある。
もっと俺が気を回せていたら、ユマは心穏やかでいられたのだろうか。
「痛みはないから、全然気にならないんだけどね。怪我自体は普通にするから見た目が酷かったんだよ」
「……知らなかったな、それは」
「治療すれば跡は残らないし、流石に見せられないもん。腕が変な方向に曲がって、色も変になってるんだよ?」
「そりゃあ、確かに見せられない」
本当に、気にした様子なくユマは語る。
自分の痛みが、気にならないのだろうか。
魔法少女とは言っても、結局は魔法で戦う普通の人間だ。
そんなことを、考えていると。
「じゃあ、今日はミキトくんもお休みだよね」
「そうだな……流石にこれで食材は取りに行けないし……」
「ずっと、ベッドでお休み?」
「体を動かすのも、痛いしな」
いいながら、サンドイッチを食べきって痛みに耐えつつベッドに入る。
すると、ユマが――
「じゃあ、私も1日中ミキトくんのベッドに入ってていい?」
そう言って、布団を持ち上げる。
俺は、少しだけ停止した。
♪
夜、ユマを受け入れる時は心配が勝る。
最初のウチはドギマギしていたけれど、ユマの様子を見ている内にそんな気持ちも吹き飛んでしまった。
でも、今のユマは少しだけつらそうだけど、ある程度落ち着いているユマだ。
昨日風呂に入ってきたときのように。
こちらを意識させようとしているのくらいは、俺も解っている。
でも、それを受け入れたら今度こそユマが起き上がれなくなってしまうのではないかという恐怖が勝る。
それでいて、間近に迫るユマは昔から変わらず愛らしい。
「……わざわざ俺の体が痛くて動けない時にやってきたのは、こっちを配慮してくれてるのか?」
「んー、どうだろ、わかんない。私はミキトくんと一緒にいたい」
「そっか」
「ずっと、ずーっとね。ずっとだよ? ずっと」
「……解ってる」
ユマは、いつものように俺にくっつこうとはしない。
距離を取って、俺の体が傷まないようにして。
その分、いつもより更にベッドは狭いと思うのだけど。
気にせず、ユマは布団の中にいる。
時折、眠りについて。
時折、起きて俺を見つめてきて。
時折、話をする。
そんな時間が、過ぎていく。
「……楽しいか?」
「多分、楽しいと、思う? きっと、おそらく」
「どうして断定できないんだ……」
「だって……何が楽しい、なのかわからなくなっちゃって」
「……悪い」
ふと、そんな事を聞いてしまった。
ユマはそこそこにオタクで、ゲームや漫画も嗜むタイプだが。
ここ最近は、何をやっても楽しそうには見えない。
ユマ自身も同じことを思っていたんだろう。
今だって楽しいと断言できないんじゃ、よっぽど重症じゃないか。
少しばかりの、自己嫌悪を覚える。
「でもね? でもね? 幸せ、だとは思うよ」
「……断言は、できないんだよね」
「うん。でも、流石に今が幸せじゃなかったら、私は自分の人生を幸せって言えなくなると思う」
こうして、俺と二人きりの世界に閉じ込められて。
それでもユマは幸せだと言う。
いや、だからこそ幸せなのかもしれないけれど。
でも、それが幸せなのか”わからない”のは決して悪いことではないのかもしれないな。
自分でも、これでいいのかわからないと、ユマが思ってくれているということだから。
「ん――そろそろ、お昼だね」
「もう、そんな時間か」
痛みはあるけれど、横になっていればたえられない程じゃない。
時折俺もうつらうつらとしていたから、自然と時間は過ぎていく。
ユマが先に時計の時刻に気付いて、もそもそと起き上がった。
「どこに行くんだ?」
「お昼、作るね。私はいらないけど、ミキトくんは育ち盛りだから」
「育ち盛りて」
「すくすく大きくなるんですよ」
なんて冗談めかしていいながら、ぼんやりとした様子で出ていった。
止めようかと思ったが、ユマが自発的に行動することは悪いことじゃないはずだ。
ぼんやりとしていて怪我してしまう可能性を考えたが、だからといって俺にできることは少ない。
結果待つしかない、という結論になった。
ただ、それからしばらく。
もう三十分くらいは待ったんじゃないかというくらいまって。
それでもまだ、ユマは帰ってこない。
だんだん、不安になる。
ユマを一人にすることは、正直こわい。
ユマがどこかに行ってしまいそうで、気付いたらもう二度と会えない気がして。
それでも、外を探索するのは……俺のワガママだな。
もし脱出する方法があったら、ユマだけでも脱出してもらいたいんだ。
ついに気になってしまい、様子を見ようと何とか起きがったところで――
「できたよぉ」
「あ、ああ……時間かかったな?」
「大作でした……」
ふー、と額の汗を拭って見せるユマ。
ジェスチャーだけ、ではないな。
それだけ、精神を削ったのだ。
俺のために、またユマに無茶をさせている。
「カレーを作ったよ。ミキトくんの好みに合わせて、ちょっと辛め」
「……大丈夫か?」
「私はそんなに食べないから……」
ユマは辛いのが苦手だ。
とはいえ、ユマは実際そこまで食べないだろう。
本人がいいというなら、いいと思うしかない。
「それに、ミキトくんにはずっと甘えっぱなしだもん」
「少しでもお返しに、ってことか?」
「んーん、これくらいじゃ返せないから、そこまでじゃないよ」
ユマの中では、どれだけ俺に甘えっぱなしのつもりなのだろうか。
正直、踏み込むのが怖くてわからない。
ユマが俺に甘えているのは、わかる。
それがユマを支えているっていう自負もある。
それでも、どれくらいなのかは、わからないんだ。
だから、言えることは一つだけ。
「……いいんだよ、これは俺が――したくてやってることなんだから」
「…………ホント?」
「ああ」
少しだけ考えて、口から溢れた言葉をそのまま形にする。
「私は……ちょっと怖いんだ」
「何が?」
俺の問いに、ユマは少しだけ笑みを浮かべて。
「ミキトくんは、ずっと私を支えてくれるけど。それが義務感から来てるんじゃないかって」
――それは。
「そんなこと、ないよ」
「……うん、知ってる」
しなきゃいけないことなのか。
したいことなのか。
少し考えた、答えは――出したつもりだけど、自信はない。
ずっとずっと、こうしてきたから。
自分でも答えを出しきれないんだ。
それから俺達は二人でカレーを食べて。
その日は、ベッドから動かずに終わった。
カレーは、結局夕食に食べても食べ切れず。
一日が、過ぎていく。
日間三位になりました、お読みいただきありがとうございます。
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