不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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魔術師の術中

  クリスマスイブ

 ヤンは、なのはの家族が経営している翠屋にやってきた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 店内はクリスマスイブと言うことで慌ただしかった、その中でなのはとフェイトが手伝いをしているようで、エプロン姿で接客をしていた。

 

「いらっしゃいま……あっヤンさん」

 

「やぁ、どうも」

 

「今日はどうしたんですか?」

 

「少しはやてのことでね……君達二人に少し話がしたいんだが、今は忙しそうだね」

 

「今はちょっと……あと少しで営業が終わりますから、その後でなら」

 

「そうかい。では近くの公園で待っているよ」

 

「はい」

 

 ヤンはそう言うと一人で店を出ると近くの公園に向かった。

 公園に着いたヤンは寒さに耐えるべく、ホットの缶紅茶を購入するとベンチに座り二人を待った。

 

 

 数十分後、普段着に着替えたなのはとフェイトがやってきた。

 

「ヤンさん。お待たせしました」

 

「いや良いんだ。こっちこそ急で悪いね」

 

「いえいえ、それで今日はどうしたんですか?」

 

「君達は知らされていないのかい?」

 

「何のことですか?」

 

「そうかい……きっと君達の上官は知らせていない様だね」

 

「それは一体?」

 

 ヤンは小さくため息を吐くとぬるくなった缶紅茶を一気に飲み干した。

 

「明日なんだよ……はやてが封印される日は」

 

「え?」

 

「私達そんなこと聞いてはいない……」

 

「きっと事後報告するつもりだったんだろう……友人の死を見届けるには君達は幼いと思ったのかもしれないね」

 

「そんな……」

 

「はやては助からないの?」

 

「いや、私達は最後まで必死に足掻くよ……その為にも君達に協力して欲しいんだ」

 

「私達にできることなら」

 

「ありがとう……だがこれから私がお願いする事は時空管理局を裏切る行為だ。その事を覚悟してくれ」

 

「え?」

 

「管理局を裏切るなんて……」

 

 なのはとフェイトは不安そうに見つめ合った。

 

「だが現に君達は私達に協力しているんだ……私達は共犯だ。今更後には引けないんだよ」

 

 ヤンは力強く言うと二人を見つめる。

 

「で、でも……」

 

「大丈夫……難しい事じゃない。明日、君達の上官がはやてを封印する為に病院にやって来る。そこで私は彼女に蒐集をお願いするつもりだ」

 

「お願いって……リンディさんを蒐集するって事ですか? もし断られたら」

 

「もしも交渉が決裂してたら彼女は恐らく武力行使に出るだろう……私は話し合いで済ませたいが……その時は君達に制してほしいんだ」

 

「でもそれって……リンディさんに…武器を向けるような」

 

「結果的にそうなる可能性もある……だが全ては、はやてを救うためなんだ……頼む」

 

 ヤンは頭を下げる。

 

「ヤンさん……」

 

「頭をあげて」

 

 ヤンは頭を上げると二人を見据える。

 

「リンディさんを傷付けたりはしないんですか?」

 

「もちろんだとも。あくまでも私は話し合いで解決したい」

 

「そう言う……事でしたら」

 

「なのは……うん。そうだね」

 

 二人は同時に頷いた。

 

「ありがとう。明日は屋上で封印を行うはずだろう。だから君達は屋上付近の空で待機していてくれ」

 

「はい」

 

「わかった」

 

 二人は頷くと公園を後にした。

 

「さて、第三段階は終了だな。賽は投げられた後は……神のみぞ知るって奴かな」

 

 ヤンは冬の寒空の下小さくつぶやいた。

 

 

  クリスマス当日

 シグナムがはやての乗った車椅子を押しながらエレベータホールへ向かっていた。

 その二人の脇を固めるように、ヴィータとザフィーラ、シャマルが後に続いた。

 

「なぁ、どこに向かっとるん?」

 

「少し屋上へ行きましょう。今日は雪が降るホワイトクリスマスですから少し気分転換のためにも」

 

「うーん、そういうことなら、寒いのは嫌やから少しだけやで」

 

「はい」

 

 はやて達は雑談をしながらエレベータに乗り込むと、屋上へ向かった。

 

 エレベータが屋上に着くと、ヴィータが駆け出し、屋上の扉を開ける。

 屋上にはヤンとリンディが立って待っていた。

 

「あっおじさん、うわっ」

 

 屋上に出ると冬の寒い風が一気に吹き荒れる。

 

「ふぁ~寒いなぁ」

 

「そうですね」

 

「はやてちゃんこれを」

 

 シャマルは手にしていたカーディガンをはやてに羽織らせる。

 

「ありがとな」

 

「いいんですよ」

 

 はやてが微笑み、シャマルが笑みを返す。

 

 外はすでに薄暗くなっており、ビルの明かりや、クリスマスのイルミネーションが街を彩っていた。

 

「キレイやね」

 

「そうですね」

 

 はやては車椅子の上からしばらく街並みを眺めていた。

 

「皆……ほんとありがとな」

 

「主?」

 

 はやては自らの手で少し車椅子を進めると、ヴォルケンリッター達に向き合う。

 

「最期に皆と会えて本当に良かった」

 

「はやて……」

 

「はやてちゃん、何を言って……」

 

「今日なんやろ。私が封印される日は」

 

「そ、それは……」

 

「なんとなくなんやけどな……分かるんよ……虫の知らせって奴なんかな? 今日がそうなんじゃないかって。それに」

 

 はやてはリンディに目線を向ける。

 

「リンディさんが居るってことは間違ってないんやろ?」

 

「主……」

 

 はやてが笑顔で涙を浮かべる。

 

「八神はやてさん」

 

 リンディははやての前に立ちと深く一礼する

 

「本当に……ありがとうございます」

 

「いえ……」

 

 リンディはポケットから1枚のカードを取り出す。

 

「このカードには凍結魔法が搭載されています。コレは念じるだけで魔法が発動されます。発動させると貴女は急速に凍結されて封印されます。一瞬ですので痛みはないはずです。後は貴女の意思で……」

 

「はい……」

 

「覚悟は良いですか?」

 

 リンディはカード手渡そうとはやてを見据える。

 

 対するはやては小さく息を吸い込む。

 

「……」

 

 無言で頷いたはやてはカードを受け取ろうと手を差し出そうとする。

 

 その時、リンディの背後に回ったヤンがブラスターを取り出すとリンディの後頭部に突きつける。

 

「少し待っていただきたい」

 

「……どう言うつもりですか。ヤン・ウェンリー」

 

 振り返ることなくリンディが語気を強める。

 

「え? おじさん! 何をやって……」

 

 はやてが声を荒らげるのと同時にシャマル以外のヴォルケンリッターが武器を構える。

 

「おじさん! 皆! 何やっとるんや!」

 

 シャマルははやてを庇うように前に立ちはだかる。

 

 そんな様子を見てはやてが周囲を見回し声を荒らげる。

 

「動かないでください。これから貴女を蒐集させてもらいます」

 

 ヤンがブラスターを構えたまま告げる。

 

「私に質量兵器が通用するとでも」

 

「この武器は地球教も手にしている貴女達魔法使いの防御を貫ける武器ですよ」

 

「……考え直しなさい。彼女一人の犠牲で世界が救えるのよ……」

 

「嫌だね。そんな頼みは聞けないね」

 

「……」

 

 リンディは黙ったまま目線だけを動かして周囲を見回す。

 

 その時。

 

「リンディさん!」

 

「どういう状況に!」

 

「なのはちゃんにフェイトちゃん。どうしてここに……」

 

 はやては二人が空を飛んでいるのを見て唖然としている。

 

 なのはとフェイトは武器を手に屋上に降り立つ。

 

「ヤンさん!」

 

「話が違う……」

 

 ヤンは武器を構えたままなのはとフェイトに声を掛ける。

 

「まだ怪我はさせていない、こちらも怪我をさせるつもりはない。蒐集さえ出来ればね」

 

「やめてください!」

 

 なのはとフェイトの二人がヤンに武器を向ける。

 

「くっ」

 

 それに呼応するようにヴィータとシグナムが再び武器を構え直す。

 

「待つんだ。君達二人も」

 

 ヤンは全員に聞こえるように声を張り上げる。

 

「君達二人には言っただろ、時空管理局を裏切ることになると。それを承知して君達は、はやてのために蒐集されたのだろう」

 

「蒐集に協力したというの? それはどういうことなの二人共!」

 

 ヤンの言葉を聞いてリンディは声を荒らげる。

 

「そ、それは……」

 

「それは管理局を裏切る行為よ! どういうつもりなの二人共! 子供だからって大目に見られる範疇を超えているわ!」

 

「あ、あの……事情があって……」

 

「君達はもう後には引けないのだよ。さぁ選択するんだ。自己保身の為はやてを裏切るか、それとも……はやてを助けるために覚悟を決めるんだ!」

 

「くっ」

 

 ヤンが声を張るとなのはとフェイトは苦虫を噛み締めたような表情をした後数回頭を振る。

 

「くっのぉ!」

 

 なのはは苦悶の表情を浮かべながらヤンに向けていた武器をリンディに向けた。

 

「なのは!」

 

「フェイトちゃん! もう、やるしか……無いんだよ! 私達はもう引き返せないの!」

 

「……うん!」

 

 フェイトは少し考えた後構えていた武器をリンディに向けた。

 

「それが貴女達の選択なのね」

 

 リンディは二人を睨みつける。

 

「リンディさん! 私達は……はやてちゃんを助けたいだけなんです! それはヤンさん達だって一緒です!」

 

「だからおとなしく蒐集を……」

 

 なのはとフェイトの二人はリンディを見据えながら口を開いた。

 

「この状況で貴女に選択肢はないはずですよ。それとも逆転の方法があるとでも」

 

「くっ……子供達を騙すような真似をして…これもすべて貴方の目論見通りだと言うのですか? ヤン・ウェンリー!」

 

 リンディは振り返る事なく恨めしそうに呟いた。

 

「どの様に捉えていただいても結構。貴女を気絶させて無理矢理蒐集する方法もあるのですが……大人しくしてくださいね」

 

 ヤンはシグナムに目配せすると、シグナムが闇の書を取り出しリンディに歩み寄る。

 

 シグナムがページを開くと、リンディの体から溢れた光が闇の書に蒐集をされていく。

 

「ぐっ……このペテン師……め」

 

 蒐集が終わるとリンディは力が抜けたように膝を着く。

 

 その際、手に持っていた凍結魔法が搭載されたカードがこぼれ落ちヤンの足元に転がる。

 ヤンはカードを拾い上げると依然として油断せずブラスターを構え続ける。

 

「リンディさん!」

 

 なのはとフェイトの二人が崩れ落ちたリンディに駆け寄る。

 

「二人共……」

 

「ごめんなさい。でも私達は……」

 

 リンディは俯くと小さく頭を振った。

 

「ヤンさん! コレで蒐集は終わったんですよね、これ以上リンディさんに危害は加えないでください!」

 

「あぁ、もちろんだとも。蒐集はどうだい?」

 

 ヤンはブラスターを胸ポケットにしまうとシグナムに問いかける。

 

「あぁ! これで、これで集まったぞ!」

 

 先ほどのリンディの蒐集により完成した闇の書はシグナムの手を離れ宙に浮いた。

 

「おじさん……」

 

「はやて」

 

 ヤンはリンディを一瞥した後、はやてに歩み寄ろうとした。

 しかし、突如はやての足元に黒色の魔法陣が現れる。

 

「はやて!」

 

「おじさん!」

 

 はやてが叫ぶと、闇の書から黒い触手のような魔力が溢れ出す。

 

「何がどうなっているんだ」

 

「やはり暴走したわね!」

 

 リンディが声を荒らげる。

 

「うわっ!」

 

 闇の書から伸びた触手がヴォルケンリッター達を絡め取る。

 

「皆!」

 

 はやてが手を伸ばし声を荒らげる。

 

 絡め取られたヴォルケンリッター達が取り込まれ始める。

 

「いや! やめて!」

 

 はやての悲鳴を上げるがヴォルケンリッターの姿がどんどんと消えていく。

 

「ヤン! 主を……たの……」

 

 シグナムが言葉を言い切る前に吸収され消えてしまう。

 それを皮切りに、全員が姿を消した。

 

「いやぁあ!」

 

 はやての悲鳴がこだますると足元の魔法陣から闇のような黒い魔力が溢れ出しはやてを飲み込んだ。

 

「はやて!」

 

 ヤンガ叫ぶがはやての返事はない。

 

「闇の書が完全に暴走してしまったわ……もう手遅れよ」

 

 ふらついた足取りでリンディが立ち上がる。

 

「リンディさん」

 

「私は一度司令部に戻って対策を考えるわ。貴女達二人は周囲の民間人の救助を、裏切ったとは言え貴女達は管理局員なのですから役目を果たしなさい!」

 

「はい」

 

「了解」

 

 なのはとフェイトの二人はその場から飛び去った。

 

「ヤン・ウェンリー!」

 

 リンディが叫ぶとヤンが振り返った。

 

「貴方も早く逃げなさい。一般人がどうにか出来る範疇を超えているわ」

 

 リンディが語気を強めて言うがヤンは首を横に振った。

 

「暴走したのは私の責任です。私が始末をつけます」

 

「どうするつもり……」

 

 ヤンは先ほど拾い上げた凍結魔法が搭載されたカードを手にした。

 

「その魔法は封印専用よ……射程はないわ」

 

「そうか」

 

 二人の間に重い静寂が走る。

 

「わかったわ」

 

 リンディは踵を返すとその場を後にした。

 

「さて、はやて……」

 

 ヤンは依然として溢れ出している黒い光を睨みつけていた。

 

 




区切りが良いので今回はここまでで
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