不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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魔術師帰らず

  はやてを飲み込んだ黒い光は数十秒ほどすると、次第に勢いが収まり、煙の向こうに人影が現れる。

 

「はやて!」

 

 ヤンが声を張り上げると煙の向こうの人物は立ち上がり、ヤンの方に振り開けると同時に、煙が晴れる。

 

 そこには、黒い甲冑に真紅の瞳、全身に赤黒色の光が迸った女性が立っていた。

 

「はやてじゃ……ないな……」

 

 若干だが、はやての面影を残した女性が、はやてに似た声で呟く。

 

「あぁ……また全てが終わってしまった……一体幾度、どれだけ同じ悲しみを繰り返せば良いのか……」

 

 独白にも感じる呟きをしながらその女性は涙を流していた。

 

「君は一体誰なんだ! はやてはどうしたんだ」

 

「私は闇の書。この力はすべて主の為に……そして御身の願いのままに、すべてを終わらせましょう」

 

「闇の書だと……主の為だと……それははやてのことじゃないのか?」

 

「そのとおりです」

 

「ならば、すべてを終わらせるというのもはやての願いだと言うのか? あの子はそんな事を願ったりはしないはずさ」

 

「主は……自分の愛するものを奪い去ったこの世界を悪い夢だったと願っている……その願いを叶える為に私は存在している。主には穏やかな夢の中で永久の安らぎに満ちた眠りを……」

 

「はやてがそれを望んでいると? 少なくともあの子はこの世界を恨んでは居ないはずさ」

 

「貴方は、ヤン・ウェンリーですね」

 

「私のことを知っているんですね」

 

「はい、主や守護騎士達を通して貴方のことを観ていました……主達は貴方を傷付けたくはないと思っているはずです。ですが残念ながらもうじき私は意識をなくし暴走を始める……そうなればこの世は終わってしまうでしょう……」

 

「そうは……させない」

 

 ヤンは懐からブラスターを取り出すと闇の書に向ける。

 

「その程度では無意味です」

 

「そうかも知れないね。きっと私じゃ君には勝てない……こんな事なら私じゃなくシェーンコップあたりが来てくれればよかったんだがね」

 

 ヤンはそう言いつつ闇の書に歩み寄る。

 

「誰であろうと、暴走は止められません。これは闇の書の運命なのです」

 

「運命か……運命なんて言うのは所詮、後出しの予言と何ら変わらない。それにはやては運命(それ)を自分で選ぶ事ができるくらいの強い子だと私は信じているよ」

 

 ヤンは歩みを止めることなく、ブラスターを撃ちながら闇の書に近づく。

 

 闇の書はその場で動かず立っている。

 ヤンの放ったブラスターのエネルギーが数発、闇の書の近くを通り過ぎ、全弾撃ち尽くしてようやく1発が闇の書の肩を貫いた。

 しかし、貫かれた傷口は時間を巻き戻すように塞がっていく。

 

「もうお分かりでしょう……無意味なことだと……」

 

 闇の書が軽く手を降ると衝撃波が発生し、ヤンは吹き飛ばされ床に叩きつけられる。

 

「うっ!」

 

「ヤンさん!」

 

 吹き飛んだヤンを見かねて、なのはとフェイトが空から駆け寄ってきた。

 

「君達は……」

 

「民間人の救助があらかた終わったんです。今はリンディさんの指示で闇の書の相手を」

 

「だから、貴方は避難を」

 

 二人の言葉を遮るようにヤンが手で制する。

 

「これを引き起こしたのは、これは私の責任だ。責任は取るよ」

 

「責任って」

 

「どうするつもりなんですか?」

 

 ヤンはブラスターを懐にしまうと、先程手にした凍結魔法が搭載されているカードを取り出した。

 

「大人として最低限のことはするよ……後のことは、君達時空管理局に任せるよ」

 

「待って!」

 

 なのはの静止を振り切り、ヤンが駆け出した。

 

「貴方も抗おうというのですね。ならば貴方も眠りなさい。甘美な夢の中で」

 

 闇の書が自愛に満ちた表情でヤンを向かい入れようと両手を広げると白い光が溢れ出す。

 

「はやて、お前さんだけに寂しい思いはさせないよ」

 

 ヤンが光の中に飛び込んだ瞬間、巨大な氷柱が現れ、その中には安らぎに満ちた表情で目を閉じている闇の書の姿だけが有った。

 

 

 

 

  微睡みから引き上げられる感覚を覚えたヤンが目を覚ますと、安楽椅子で眠ってしまっていたようだ。

 手元には読みかけの歴史書。傍らのテーブルには既に冷たくなった紅茶とお茶請けの菓子が置いてある。

 

「ここは……」

 

 ヤンがハッキリしない頭を左右に振りながら部屋の中を見回すとそこは、イゼルローン要塞にある、ヤンの自宅にある一室であった。

 

「私は……確か……」

 

 ヤンは頭を抱え少し呆然としていると、扉の向こうから声が聞こえてくる。

 

「提督はまだお休みですか?」

 

 声の主は、ヤンの養子であるユリアンの声だ。

 そしてもう一つ、忘れもしない女性の声が聞こえてくる。

 

「そうみたいねユリアン。今日はイゼルローン共和政府の成立周年の記念式典で皇帝陛下に賓客として呼ばれているというのに」

 

「イゼルローン共和政府だって?」

 

 妻であるフレデリカの言葉を聞いてヤンは混乱した頭で今までの出来事を思い起こす。

 だが、記憶があやふやになっていて、はっきりと思い出せずにいる。

 

「私は確か……カイザーラインハルトに会いに行って……それからどうなったんだ? 確か……講和が上手くいってイゼルローン共和政府として認められた……のか?」

 

 ヤンは依然として椅子に座ったまま混乱している。

 

「そろそろ起こさないといけなわね。あの人を起こしてきてくれる?」

 

「はーい」

 

 フレデリカの声に呼応して少女の声が響く。

 

 数秒後、扉が開かれる。その扉の向こうはまばゆい光で溢れており、その逆光の中から一人の少女が現れた。

 

「あっもう起きてるんや」

 

 ヤンが眩しそうに逆光の中から現れた少女を見据える。

 少しずつ目が慣れていき、ようやくその顔を捉えることが出来た。

 

「はやて……かい?」

 

「そうやで? どうしたん?」

 

 はやては少し小走りで椅子に座っているヤンの腕に抱きつく。

 

「皆が待っているよ。早く行こうよ! ()()()()

 

「ん? あ、あぁ……」

 

 ヤンは困惑しながらゆっくりと立ち上がる。

 

「はやては確か……結婚してから養女として引き取った子……だったか……なんだ……頭がスッキリしない」

 

 ヤンが小さく呟く。

 

「さぁ! お母さん達が待っているよ。早く行こうよお父さん」

 

 はやては立ち上がったヤンの手を取り、引っ張ると光の方へ歩き出そうとしている。

 

「あぁ……そうだな」

 

 ヤンは光の中へと歩んでいった。

 

「ッ!」

 

 突然目の前の景色が光りに包まれたかと思うとヤンはハイネセンの市街地に立っていた。

 

「ここは……確か私はさっきまで家に居たはず……あれ?」

 

「うわぁ~パレードかなあれ!?」

 

 ヤンの手を握ったままのはやてが指差す先には人集りが出来ており、その中を仮装した集団が音楽を奏でながら行進していた。

 

「うわぁ~……凄いね! お父さん」

 

「あぁ……そうだな」

 

 ヤンはふと空を見上げると上空を帝国軍の戦闘艇ワルキューレが多彩な色煙の帯を伸ばしながら展示飛行していた。

 

「さぁ! 行こうお父さん!」

 

 はやてに手を引かれパレードの中心へとヤンは歩いていった。

 

 すると再び場面が切り替わり、今度は巨大な式典会場にヤンの姿があった。

 

「おかしい……私はさっきまで外に居たはずだが……」

 

 ヤンが疑問に思っているとドレスに身を包んだはやてが駆け寄ってきた。

 

「凄いねパーティーだね! お父さん」

 

「あ、あぁ……そうだな」

 

「おかしいな……お母さんとお兄ちゃんも来とるはずやけどなぁ」

 

 はやてはヤンの手を握りながら周囲を見回していた。

 

 ヤンも周囲を見回すと来賓席と思われる場所に白髪の老紳士アレクサンドル・ビュコックの姿を目にした。

 

「なっ!」

 

 ヤンが驚愕しているとその隣に楽しげに会話している男女、ジェシカ・エドワーズとジャン・ロベール・ラップの姿があった。

 二人は帝国軍の制服を着た兵士とも談笑していた。

 

「そんな……そんなはずは……」

 

 ヤンが唖然としていると会場の司会がマイクで話し始める。

 

「これよりヨブ・トリューニヒト議長のお話が行われます」

 

 視界がそう言うと壇上にヨブ・トリューニヒトが姿を現し、会場が拍手に包まれる。

 

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。私は先ほどカイザーラインハルトと講和を行い、イゼルローン共和政府のさらなる躍進をお約束いただきました」

 

 トリューニヒトがそう言うと会場が拍手に包まれる。

 

「これからは、ローエングラム王朝と手を取り合い互いに友好的な関係を構築していきたいと思います。その為にも私は粉骨砕身の決意を持ってカイザーラインハルトとの良好な関係を築いていきたいと考えております。そして私自身、市民の代表と言う自覚を持ち−−」

 

「……」

 

 ヤンは呆然としながらトリューニヒトの話を聞いていたが、ほとんどが耳に残らず放心状態だった。

 

「お父さん? 大丈夫?」  

 

「あぁ……大丈夫さ、はやて」

 

 ヤンは心ここにあらずといった感じで答える。

 

「じゃあ、行こか?」

 

 はやてがそう言うと再び手を引いて走り出した。

 

 

「うぅ……ここは……」

 

 ヤンの視界がはっきりとすると暗い空間に一箇所だけ光が溢れる扉があった。

 

「さ、帰ろか、お父さん。皆の元へ」

 

 はやてが手を差し出し光が溢れる扉を指差した。

 

「……」

 

 ヤンは無言ではやての手を取り一歩歩き出したが、もう一歩歩き出さずに立ち止まる。

 

「ん? どうしたん? お父さん?」

 

「あぁ……いや、平和な世の中というのは素晴らしいと思ってね……まるで夢のようだとね……」

 

 次第にヤンの頭にかかった靄のような思考の歪みが消えていく。

 

「お父さん? 早く帰ろ?」

 

「きっと……きっとお前さんと一緒に帰ればずっと醒めない夢の中で幸せで居られるんだろうな……でもそれは出来ない……ここで私が逃げ出したら……私は流させた血に対して申し訳が立たない……」

 

「お父……さん? 何を言っているの? 皆お父さんの帰りを待っているんだよ。お母さんだって! 皆の元に帰りたくないの!?」

 

「帰りたいさ……フレデリカにユリアン……他にも大勢が私の帰りを待っているはずだ」

 

「それなら一緒に帰ろう! お父さんも私も今まで悪い夢を見ていただけや! 不自由な身体も、皆が消え去ったことも! 全部悪い夢やったんや! 皆の所に帰りたい……」

 

 はやてはそう言いながらヤンを光の向こうへと引っ張るが、ヤンはその場から動かずにいる。

 

「悪い夢か……確かにそう思いたい気持ちも分かる……でもね、私は……私達は帰れないよ……悪夢であれ良い夢であれ、夢は醒めなければいけない……夢が醒めたら悪い現実であっても受け入れて進んで行く……お前さんだってそれくらいわかっているんだろう」

 

 ヤンの言葉を聞いてはやては俯く。

 

「……うん……わかってる……わかっているよぉ……()()()()

 

 はやてはヤンの手を握ったままその場に力なく座り込んだ。

 ヤンははやてに視線を合わせるようにその場にしゃがみ込んだ。

 

 それに呼応するように、光が消え去り、暗い空間に二人だけが取り残された。

 

「何故です!」

 

 突如、闇の書の声が響き渡り、暗闇から二人に向かって歩み寄る。

 

「あの光の向こうでは貴方達の望むものすべてがあるというのに……」

 

「望むものすべて?」

 

 はやてが首を傾げる。

 

「そうです。健康的な身体。愛する家族とのずっと幸せな暮らし。ヤン……貴方にだって主と一緒に平和な世界があったんですよ……どうか眠ってください……そうすれば夢の中でずっと……」

 

「たしかに魅力的な夢だ……でもねあくまでも夢は夢でしか無いんだよ……」

 

「そうやね……おじさん。所詮これは……ただの夢や……現実やない」

 

 闇の書はその場に座り込み涙を流し始める。

 

「私の心は騎士達の感情を受けています。だから騎士達と同じように貴方達には幸せになってもらいたいんです……でも……だからこそ主の身を滅ぼしてしまう自分自身が許せない!」

 

「せやね……」

 

「最早……自分ではどうしようもならない……力の暴走は止められない。それは貴方を喰い尽くしてすべてを崩壊させてしまう……」

 

「その苦しみ……私も少しは理解できるで。望むように生きられへん悲しみ。私にもよう分かるよ……けどなそれはみんな一緒や……ずっと悲しい思いをしてきたんや」

 

「……」

 

 ヤンははやての言葉を無言で聞き続けた。

 

「ですが……私はどうすればいいか……闇の書である私は……」

 

「忘れたらアカンよ。今の主は私や。主の言うことは聞いてもらうで」

 

「何を言って……」

 

「せや。名前をあげよう。闇の書なんて辛気臭い名前はいらへん」

 

「え?」

 

「せやな。祝福の風。リインフォースなんてどうや?」

 

「いい名前じゃないか」

 

「せやろ」

 

 はやてはヤンに微笑みかける。

 

「さて、名前も決まったことやし。この後どうしよか?」

 

 はやては顎の下に手を置き考える。

 

「というか……今これってどういう状況なん? なんでおじさんがここにおるん?」

 

「思い出してきたぞ。私は確か闇の書を封印するために凍結魔法のカードを使ったんだ。だが気が付いたらここに居たんだが……」

 

「ヤンは捨て身で魔法を発動させましたが、その寸前に私が取り込んで……闇の書内部のメインルームとでも言うべきでしょうか……今に至るということです」

 

「おじさん捨て身って……」

 

「まあ良いじゃないか。それで外の様子? はどうなってるんだい?」

 

 リインフォースが手を掲げると外の様子が映し出される。

 

 リインフォースが入った氷柱を取り囲むように時空管理局員と思われる人達が立っていた。

 

「周囲は時空管理局員に取り囲まれているね」

 

「そうやね。あっ、なのはちゃんにフェイトちゃんもおる。あの二人も時空管理局? ってことは魔法使いのなん?」

 

「そうだよ」

 

 氷柱を取り囲んだ時空管理局員は警戒状態で色々と検査をしているように見える。

 

『状況は?』

 

 外ではリンディが氷柱の前に現れた。

 

『闇の書は現在封印されています』

 

『そう……ヤン・ウェンリーがやったのね』

 

 リンディは悲壮に満ちた表情で見上げる。

 

『このままなら問題ないのだけど、少しでも不穏な動きがあったらアルカンシェルを使うわ……』

 

『アルカンシェルってなんですか?』

 

 リンディのそばに駆け寄ったなのはが疑問を投げかける。

 

『簡単に説明すると着弾地点から約100キロ範囲の空間を消滅させる魔導砲よ……』

 

「なんだって!」

 

 話を聞いていたヤンが声を荒らげる。

 

「そんな兵器を大気圏内で……しかも町中で使うつもりなのか? 何を考えているんだ時空管理局は……」

 

「それだけ……闇の書が危険ということですよ」

 

 リインフォースは悲しげに呟く。

 

「なあ、どうにかする方法はないん?」

 

「駄目です……何をやっても駄目なんです……闇の書の呪は止まりません……いずれ貴女を……」

 

「うーんせやね……どうするべきか?」

 

 はやてはヤンの方に視線を向ける。

 

「おじさんなんかいいアイデアない?」

 

「そうだな……」

 

 ヤンは頭を掻いて考えを巡らす。

 

「うーん、私は魔法や呪というのがわからないが、いろいろと資料を調べていった結果なんだが……魔法や呪と難しく考えずにもっと簡単に考えていいと思うんだ」

 

「それってどういう事?」

 

「闇の書をハードウェア。呪や魔法といった事象をソフトウェアと考えるんだ」

 

「えーっと……そう言われてもようわからんのやけど?」

 

「あーすまないね」

 

 ヤンは笑いながらはやてに謝罪する。

 

「つまり、要らない呪の部分だけを削除してしまえば良いんじゃないかな?」

 

「削除……っかあ……リインフォース出来そう?」

 

「え?」

 

 リインフォースは突然話を振られて唖然としている。

 

「そうですね……この呪は消すことは出来ないです」

 

「そうかあ……」

 

「別に削除しなくても凍結させてしまえばいいよ」

 

「凍結?」

 

「あぁそうさ。いらないけど削除出来ないアプリやソフトウェアは凍結処理して動かさないようにするっていうこともあるからね」

 

「ふーん。それは出来そう?」

 

 リインフォースは首を横に振る。

 

「駄目です……凍結させようにも……その方法がありません。生憎そういった魔法は蒐集していません」

 

「うーん……どうしたもんか……」

 

「凍結かぁ……」

 

 ヤンは浮かび上がっている映像を見つめる。

 

「これは使えないのかい?」

 

 ヤンが浮かび上がっている映像を指差す。

 

「どれ?」

 

「リインフォースを封印している氷柱さ。これだって凍結魔法だろ?」

 

「この凍結魔法をどう使うと?」

 

「この氷柱を蒐集できないのかい?」

 

「やってみましょう」

 

 リインフォースが手を掲げると、その手の先に光が集る。

 

「蒐集……出来ました」

 

「おぉ、いい感じやん。コレで要らない呪の部分だけを凍結させればええんやな」

 

 はやてが嬉しそうに呟いた瞬間。外に動きが見られた。

 リインフォースが封印されている氷柱に大きなヒビが入った。

 

『皆下がって!』

 

 突然、ヒビが入った為、リンディが声を張り上げ周囲の時空管理局員に指示を出す。

 

『これはまずいわね……アルカンシェルの使用許可を!』

 

「あわわ……蒐集したせいか!? あかん事になってもうた」

 

「コレは急いだほうが良いね」

 

「はい、急いで呪を凍結してみます」

 

 リインフォースは目を閉じると周囲に光が溢れ始める。

 数秒ほどすると、周囲の闇が晴れて、明るい空間が広がった。

 

「でき……ました! 成功です!」

 

「よっしゃ!」

 

 リインフォースは喜び、はやてもガッツポーズをしている。

 

「まあ、これで一安心だね……ところで」

 

 ヤンは周囲を見回した。

 

「どうやってここから出ていけば良いんだろうか?」

 

「そうやね」

 

 ヤンとはやてはリインフォースに視線を向けた。

 

「それは……」

 

 リインフォースは一箇所を指さした。そこは他の場所よりも一層明るい光が溢れ出していた。

 

「あの光に向かっていけば良いはずです。じきに周囲の封印は解かれるでしょう」

 

「そうなんや」

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 ヤンははやてを抱きかかえる。

 

「少し恥ずかしいな」

 

「ここに車椅子はないからね。仕方ないさ」

 

「そうやね、さぁ行こか」

 

 ヤンは光に向かって一歩歩き出し、その背中をリインフォースが見送っていた。

 

「リインフォース、一緒に行こ」

 

「私も……ですか?」

 

「せやで」

 

 はやてはリインフォースに微笑みかける。

 

「ですが……私は……」

 

「いいんよ。それに今の主は私やで。ささっ行こう」

 

「……はいっ!」

 

 リインフォースは立ち上がると、ヤンの横に駆け寄り一緒に光に向かって歩き出した。

 

 

 闇の書が封印された氷柱の前でリンディは苦悶の表情を浮かべていた。

 

「避難はどうなっているの?」

 

「時空管理局員の退避はほぼ終わっています。ただ民間人の避難は……まだ100%とは……」

 

「ギリギリまでは粘りましょう……」

 

 リンディが苦虫を噛み潰した表情で恨めしく氷柱を睨みつけた。

 

 その時、氷柱のヒビが大きくなり、崩壊が始まった。

 

「危ない、皆逃げて!」

 

 リンディ達はその場から飛び去った。

 

「封印が……」

 

 氷柱が崩れ落ち光が溢れ出す。

 

「あの光は……」

 

 なのはとフェイトが呟く。

 

 そして、光が収まると、そこにはヤンに抱きかかえられた病院着のはやてとその隣にリインフォースが立っていた。

 

「はやて!」

 

「はやてちゃん!」

 

 なのはとフェイトは喜び勇んではやてのもとに駆けつける。

 

「なのはちゃん! フェイトちゃんも!」

 

 はやては嬉しそうな表情で二人に軽く手を振る。

 

「よかった!」

 

「無事だったんだね」

 

「無事って言うてええんか良くわからんけど……なんか体の調子はええよ」

 

 はやての回答を聞いて3人は談笑を始めようとする。

 

「あーすまないが」

 

 そんな3人を横目にヤンが呟く。

 

「誰か車椅子を持ってきてはくれないか」

 

 ヤンの言葉に3人は呆然とした。

 

「ちょ! ちょっとおじさん! それはどういうことや!」

 

「別にお前さんが重いって言っている訳じゃない。ただ私の体力がないだけであって」

 

「レディに対して失礼や無いの!」

 

 はやては少しむくれつつも笑顔でツッコミを入れる。

 

「どうぞ持ってきました」

 

「ありがとなリインフォース」

 

 リインフォースがヤンとはやてのもとに車椅子を押して持ってきた。

 

「ふう……」

 

 ヤンははやてを車椅子に座らせると一息ついた。

 

「今のふうは何か不愉快やね」

 

「まぁまぁ。気にしなさんな」

 

 ヤンとはやては笑い合い、それをリインフォースが微笑みながら見守っていた。

 

「あの、はやてちゃん」

 

「ん? どうしたん?」

 

「こちらの人はだれ?」

 

 なのはが首を傾げた。

 

「私はリインフォース……貴女達が言う闇の書の主人格です」

 

「なっ」

 

「くっ」

 

 闇の書と聞いてなのはとフェイトが臨戦体制を取った。

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

 はやてが二人を制するように声を上げた。

 

「安心してください。私に敵意は在りません」

 

「そういう……事なら」

 

 二人は武器を収める。

 

「ふう……そや。リインフォース」

 

「はい。何でしょうか?」

 

「皆は……ヴォルケンリッターの皆は……」

 

「大丈夫ですよ。今は主である貴女が全権を握っています。いつでも呼び出せますよ」

 

「そういうことなら……」

 

 はやては目を閉じ両手を広げ呟く。

 

「さぁ……おいで私の騎士達」

 

 はやての言葉に呼応するように4つの魔法陣が現れる。

 

「我等、夜天の主の下に集いし騎士」

 

「主ある限り、我等の魂尽きること無し」

 

「この身に命ある限り、我等は御身の下に在り」

 

「我等が主、夜天の主、八神はやての名の下に」

 

 再び現れたヴォルケンリッター達はその場で宣誓する。

 

「皆! 良かった! 本当に良かった!」

 

 はやては目に涙を浮かべ歓喜し、ヴォルケンリッター全員がはやてのもとに駆け寄った。

 

「本当に良かったです、こうしてまた御使いできる。ヤン、お前にも感謝しているぞ」

 

「いや、私は何もしていないさ」

 

「いいや。お前が居なければきっとこう万事がうまくは行ってなかっただろう」

 

「まぁそう言ってもらえると悪知恵を働かせた甲斐があるってものさ」

 

 ヤンの話を聞いてシグナム達は小さく笑った。

 

「和んでいるところ申し訳ないんだけど」

 

 談笑している面々にリンディが声をかけてきた。

 

「1件落着したって言いたげだけど……どういう状況?」

 

 リンディは少し笑いながら話しかける。

 

「あーえっと……」

 

「まぁ良いわ。ここじゃ寒いから、一度司令部に戻ってそこで話を聞かせてもらうわ」

 

「そうですね」

 

 こうして、面々は時空管理局臨時司令部へと向かった。

 




ご都合展開ですが、まぁい幸せな展開のほうが良いでしょう
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