1週間後、はやてのもとにある任務が言い渡された。
指令を受け取ったはやては自宅に帰るとヤンとヴォルケンリッターを召集した。
「ホテル・アグナスで行われる骨董品のオークション会場を警備する任務……ですか?」
指令書に目を通したシグナムが呟いた。
「せや。今回この任務が私達であたるように指示が出たんよ。おじさんにも参加要請が来とるで」
はやてはソファに座り背中を伸ばす。
「何故私達が警備任務を? しかも何故ヤンさんまで?」
シャマルが不思議そうに呟く。
「さぁ? おじさんは無限書庫で骨董品の本を良く読んでて知識があるって判断されたんかや?」
「確かに最近は骨董品の本を読んでいたが……閲覧履歴を見られたかな?」
「たまにはマトモな仕事せんとアカンよおじさん」
「まあ仕方ないか」
ヤンは面倒くさそうに呟いた。
「それで、私達はどんな警備を?」
「まあ、今回のオークションは管理局が特別に許可を出したロストロギアを扱うオークションらしいんよ。ないとは思うが賊の襲撃があるかもしれん。だから実戦経験のあるヴォルケンリッターを召集したいんやろな」
「なるほど、だから主に指令が出たと」
「上は大方そんな考えやろなぁ」
はやては小さくため息を吐いた。
「正直面倒な任務やな」
「仕方ありませんよ」
あくびをするはやてとは対象的にリインフォースが呟く。
「噂じゃ、表に出せないような密輸や裏取引の温床にもなっとるオークションらしいし……はあ……面倒事に巻き込まれなきゃ良いんやが」
「もし、そういった品が見つかった場合私達はどのように対処を?」
「基本は出品者を問い詰めつつ、落札予定の人物の調査やね」
「なるほど」
シグナムはやる気に満ちた表情で頷く。
対象的にはやては乾いた笑みを浮かべていた。
数日後。
はやて達はスーツに身を包みホテル・アグナスの多目的ホールにやって来ていた。
本日行われるオークションの準備が進められる中、周囲を警戒していた。
「ふわぁ~」
「主、気を抜きすぎですよ」
あくびを噛み殺すはやてにシグナムが釘を刺す。
「あぁ~すまんなぁ昨日夜遅くって」
「賊が現れないとは限りませんから、気をつけてください」
「わかったで〜」
「はぁ~全く……年々無気力に……ヤンの影響か?」
シグナムは小声で愚痴をこぼした。
「なんか言うたか?」
「いいえ別に」
そんなやり取りをしている二人の下にスーツ姿のヤンがやってきた。
「うわぁ~おじさんスーツ似合っとらんなぁ」
「ハハ、結婚式の時に似たようなタキシードを着たが軍服のほうが似合っているとまで言われたものさ」
「おじさんらしいや」
はやてとヤンは互いに小さく笑い合った。
「ところで何故私達はスーツなのですか?」
「まぁこの会場で行われるオークションは結構なお偉いさんや上流階級の人が来るからなぁ。管理局の制服は悪目立ちするんよ」
「なるほど……」
シグナムは納得したように頷く。
「さて、会場の警備は任せたで〜私はちょっとオークションの品を確認して来るで〜」
「ちょ、ちょっと」
シグナムは慌ててはやてを止めようとする。
「おっ良いね。私も行こう」
「おじさんも来る?」
「あぁ、他の時空の美術品がタダで見れる機会はあまり無いからな」
「ええね。じゃあ行こか〜」
「あっちょっと……」
ヤンとはやては会場の警備をシグナムに丸投げしオークション品が置かれている美術倉庫へと向かった。
二人は美術倉庫にやってきた。
美術倉庫では忙しそうに作業員が白い手袋を装着して美術品を丁寧に運んでいた。
「はーい、お疲れ様でーす」
はやては大声で作業員に声を掛ける。
「お忙しい中失礼しまーす。時空管理局でーす。美術品の検査に来ました。作業の手は止めないで良いですよー」
はやてが言い終わると作業員達は作業を再開させ、その中をヤンと一緒に歩き始めた。
「はえー立派なもんやなぁ」
はやては運ばれて行く壺や彫像を観ながら声を上げる。
「そうだね。真贋のほどは分からないが立派な品が多いね」
二人は歩きながら、作業員が運び出して行く品を見ながら、倉庫の奥へと歩いて行った。
「おっ、すごい美男子の絵やなぁ!」
はやては美術倉庫の奥の方に壁にかかった立派な額に入れられた1枚の人物画を指差した。
「はえ~金髪に整った顔立ちで鋭い眼光やなぁ。これも出品物やろな。美術品はあまり分からんがモデルになった人物がイケメンなのは分かるわぁ〜」
「……」
見惚れるはやてとは対照的にヤンはその絵を目にして動けないで居る。
「ん? おじさん? どないしたんや?」
「カイザーラインハルト……」
「え?」
ヤンは小さく呟くと絵に歩み寄った。
「間違いない! この絵の人物はカイザーラインハルトだ!」
「カイザーラインハルト? おじさんが度々話している相手国の皇帝だよね?」
「まぁそんな所だね。何故この人物画がこの時空に……それにこの姿は私が知っている年代だ……後年の姿はないのか……それともカイザーは早死にしてしまったのか……」
ヤンはまじまじと壁にかかっているラインハルトの人物画を見ている。
「しっかし……これがカイザーラインハルトかぁ……話には聞いとったけどイケメンで権力もあるとはすごいなぁ……」
「これは恐らく公式に画家が書いたものではなく、個人的に書かれた絵の複製品だろうね」
「え? これ複製品なん?」
「描かれたものではなく印刷物だねこれは」
「はえ~でもそんなものがなんでこんな立派な額に入れられてオークションに?」
「それは恐らく……」
ヤンは壁にかかっている絵を取り外すと裏返しにして床においた。
「ちょ、おじさんなにしてん?」
「真贋を確かめるのさ」
「出品物なんやから乱暴に扱ったら…え?」
ヤンは額の裏蓋を外すと、絵と裏蓋の隙間に薬が詰まったビニール袋が敷き詰められていた。
「おじさん! これって……まさか……」
「恐らく麻薬だね……サイオキシン麻薬だろうね」
「サイオキシン麻薬?」
「あぁ……私が居た時空に蔓延している麻薬だね……まさかこんなものが……」
「なんで、絵画の裏面になんて……」
「古くから良くある手法さ。絵自体には大した価値はないが……本命はこっちだろうね」
「そんな……」
「しかし……カイザーラインハルトの絵の裏に麻薬を隠すとは……意図はないにせよ悪意を感じるね」
「とにかくこれは報告して、薬は鑑定するで。あとは出品者を調べなきゃ……それに落札予定の人物も」
「あぁ、頼むよ」
はやては踵を返し、走り出した。
その日の夜。
自宅に戻った面々の前ではやてが資料を片手に口を開いた。
「さて、まずは今日の警備任務ご苦労さん」
「いえ、オークション自体は無事に終わったようで何よりです」
「ちょっと歯ごたえはなかったけどな」
ヴィータは笑い、シグナムは小さくため息を吐いた。
「オークション自体は無事終わったんやけど、出品物の一つに麻薬が紛れ込んでてなぁ。それをおじさんが見つけてくれたんよ」
「ヤンさん。お手柄ですね」
シャマルが微笑みかける。
「この麻薬は検査の結果ミッドチルダに最近蔓延している新しい合成麻薬……管理局はまだ名称をつけては居ないが、おじさんの時空でも蔓延していたサイオキシン麻薬やと思う」
「ほぼ100%間違いないね」
はやてが資料の束をリインフォースに手渡すとリインフォースが全員に配る。
「さて、今回の麻薬の1件で上から新たな指令が出たんよ」
「新たな指令ですか?」
「そうや、出品者を締め上げたところ、未発見の時空の座標を吐いたんよ。魔法技術のない時空みたいやな。その時空に魔法技術と金銭を対価に麻薬を仕入れていたという話や。恐らくそこがこの麻薬の出どころでもあり、おじさんの時空やね……指令って言うのはその時空を調査して場合によっては管理下に加える言うてたが……正直なところ……おじさんどう思う?」
「まぁ無理だろうね」
「やっぱり?」
ヤンははっきりと言い切りはやてもそれに同意した。
「たしかに私が居た時空は魔法技術はないが、その分科学技術が発展しているからね。下手に管理しようなんてしたら反発されるだろうね」
「やっぱり〜? どうするのがええかな?」
「そうだな……強いて言うなら管理局は魔法技術の提供などの貿易をして対等な関係ができればいいと思うが……まぁ一番は手を出さないことだろうね」
「上は管理下に置きたいようやけどね……まぁその試金石として私達がその時空へ行かされる訳や」
はやてはため息を吐き頭を抱えた。
「今回の作戦はあくまでも偵察任務みたいなもんや、極力現地人との交流は避けたいんやが……」
はやては横目でヤンを見据える。
「おじさんはそれでも大丈夫?」
「何故私に聞くんだい?」
「それは……一応おじさんの居た時空やし……家族とかと会いたいかって思って……勿論! 管理局がうまいこと関係を築けたらおじさんの帰還も出来ると思うけど……」
「すまない、少し意地悪だったね」
ヤンは小さく笑うとはやての頭を撫でる。
「もう、子供やないんやから……」
少し頬を赤らめ、満更でもない表情ではやてはヤンの手を払い除けた。
「すまなかったね。まぁ私が元の時空を離れてから10年くらいになる……今更私が戻ったら大騒ぎだろう」
「おじさん……でもね、時間は巻き戻らないけど、時空が違えば流れる時間も違う可能性があるんよ」
「というと?」
「おじさんと出会って10年近くなるけど、おじさんがいた時空じゃ1年も経ってないかもしれないし……逆に100年経っているかもしれない……そこはその時空に行くまではわからない」
「そう……か」
ヤンの表情が少し曇る。
「あっ、でももし100年以上経っていて帰る場所が無かったとしてもここに居てええからね!」
「そう言ってもらえるとありがたいね」
ヤンは苦笑いを浮かべた。
「さて、これでおじさんも行くことになったわけやし、一応上にはおじさんに協力要請を出すと報告しますか」
「それで上は私がその時空の出身だと知っているのかい?」
「知らせとらんよ〜安心して」
「それはありがたい。以前取り調べを受けた際ある程度元いた時空については話したがそれが今回のと同一とは思われてはいないだろう」
「ん? 何故です? 知らせたほうが良いのでは?」
二人のやり取りを見ていたシグナムが疑問を投げかける。
「考えてもみ、未発見な厄介そうな時空の出身者が手元におるんやで」
「ええ?」
「上がその時空を調べるために根掘り葉掘り聴取……もとい尋問が行われるやろなぁ」
「ありえないとは思いたいが、身柄が管理局にあるっていうことは」
「体良く言えば保護してるんやが……まぁ人質……やね」
はやてはため息を吐き首を左右に振った。
「さて、それじゃあ向こうについたら極力現地人とは関わらず、麻薬の取引が行われている地域を」
「あっ、すまないはやて、一つ言い忘れていた」
「ん?」
「私が居た時空は宇宙を航行する技術があるからね、どの惑星で麻薬を入手したのか聞いたほうが良いよ」
「え? 惑星?」
はやては手にしていた資料を落とした。
「惑星規模って……え? この人数で膨大な宇宙を調べなきゃあかんの?」
「だから、どの惑星から入手したか分かれば後はその星を調べればいいだけだから……」
「規模がでかすぎるで……というかおじさん、今まで宇宙規模の世界やなんて言わへんかったやん!」
「いやー聞かれなかったから」
ヤンは頭を掻いて誤魔化した。
「ま……まぁええ……また後で出品者を締め上げる必要があるな……」
はやては頭を抱えてため息を吐いた。
数週間後
はやてはヤンとヴォルケンリッター達を連れて次元航行艦船アースラのメインブリッジに集合していた。
「まさかアースラを譲り受けての初任務が別次元への偵察任務とはなぁ」
はやては小さくため息を吐いた。
ヴォルケンリッターのメンバーは各自コンソールを操作して船の操舵を行っていた。
「出品者を問い詰めてサイオキシン麻薬の出どころは掴めたのかい?」
メインブリッジの艦長席に座るはやての横に立ったヤンが疑問を投げかける。
「バッチリ尋問……やなかった取り調べをして聞き出したところ、取引相手は黒いローブに身を包んだ胡散臭いお坊さん? みたいなこと言うてたわ」
「うーん……確証はないが、それは地球教の信徒だろうね」
「地球教っておじさんが嘘で言うてたあの?」
「嘘ではなく、作戦と言ってくれ。まぁ宇宙全体に蔓延るカルト教団さ」
「なるほどなあ……じゃあこの事件の裏には地球教が絡んでいると?」
「そう考えてもおかしくはないね。地球教が起こす奇跡の一環として魔法が使われていたのかもね」
「ほーん……そうすれば信者も集まるわな……あと確か、ウルヴァシーやったか? そんな名前の惑星の周辺宙域で取引を行っとったって言うてたわ。後その惑星で近々大規模な催しが有るとかなんとか」
「ウルヴァシーか……聞いたことがあるような……済まない、もう10年くらい前の事だから」
「ええんよきにせんでも」
はやては正面を向き、小さく咳払いをする。
「さて、処女航海と行こか。発進せよ!」
はやてが指示を出すと、アースラは速度を上げ発進する。
「さて、いよいよや」
はやてが小さく呟くと、アースラは次元を跳躍した。