不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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魔術師と後輩

  数日後

 アースラを牽引した状態のブリュンヒルトは衛星や隕石群に紛れながら追手を巻きつつイゼルローン回廊の入口に到着した。

 

 ラインハルトに呼び出されブリッジに赴いたヤン達は後ろの方に控えていた。

 

「これよりイゼルローン回廊に侵入します」

 

 操舵手より報告が入る。

 

「微速前進。イゼルローン軍の哨戒艦に補足されたら早急に交信を取るようにせよ」

 

「了解です」

 

 ブリュンヒルトはイゼルローン回廊を進んでいった。

 

 

 しばらく時間が過ぎた後、ブリュンヒルトは哨戒艦に補足されたようで無線手が忙しなくコンソールを操作する。

 

『こちらはイゼルローン軍哨戒艦である。貴艦は宙域を侵犯している。所属と艦名を応えよ』

 

『こちらはローエングラム朝銀河帝国軍総旗艦ブリュンヒルトである、本艦はイゼルローン軍の最重要人物を護送中である。上層部に話を通していただきた』

 

『最重要人物……その重要人物とは何者か?』

 

『最重要人物である為。安易に名を教えることは出来ない。上官への取次を希望する』

 

『……しばし待たれよ』

 

 イゼルローン軍からの応答がしばらく途絶えた。

 

 

 

 

 同日同時刻。

 

 

 哨戒艦からの報告を聞いたダスティ・アッテンボローは頭を抱えていた。

 

「帝国軍の総旗艦ブリュンヒルトが単艦でイゼルローン回廊内で発見されただとぉ?」

 

「哨戒艦からの報告ではイゼルローン軍の最重要人物を護送しているという話ですが……」

 

「どういう事だ? カイザーラインハルトの新たな作戦か? だがこんな訳のわからん作戦を考えつくか? 頭の作りが違うからか?」

 

 アッテンボローは顎に手を置き熟考する。

罠の可能性も考えるが、周辺に隠れているような艦隊なども発見されておらず、ブリュンヒルト単艦のみである。

 

もし仮に本当にブリュンヒルト単艦のみでイゼルローン回廊に侵入しているならば、最良のタイミングである。

 

「どうしますか?」

 

「とりあえず艦隊を率いてブリュンヒルトを迎えに行くしか無いな。罠であれ偶然であれカイザーラインハルトを生け捕りに出来るチャンスだからな」

 

 アッテンボローは不安を振り払いつつ艦隊を哨戒艦から教えられた座標へと勧めた。

 

 

 

 イゼルローン軍からの通信が途絶えてから暫く経過した後、応答が入る。

 

『これより本隊と合流する。同行せよ』

 

 ブリュンヒルトは哨戒艦に連れられ合流宙域へと移動した。

 

 

 暫く進むと眼前にアッテンボローが率いる哨戒艦隊と合流した。

 

「な、あんやあの数の艦は! 30隻近くあるやん」

 

 モニターに映し出された艦隊の規模にはやては驚愕した。

 

「あれはあくまでも哨戒の艦隊だ」

 

「哨戒だけであれって……本隊はどんな数やねん……」

 

 唖然としているはやてを尻目に、ブリュンヒルトに通信が入る。

 

『えー…私はイゼルローン軍所属ダスティ・アッテンボロー中将である』

 

「アッテンボローが相手か……懐かしいな」

 

 ヤンは無線の声を聞いて哀愁に駆られる。

 

「おじさんの知り合い?」

 

「私の後輩さ」

 

「中将が後輩っておじさんの階級って……」

 

 はやてが疑問を投げかけようとした時、無線の声が響く。

 

『貴艦が帝国軍の重要な艦艇であることは理解している。それで、イゼルローン軍にとっての最重要人物とは一体何者か回答を願う』

 

 アッテンボローの声が無線で響く。

 

 ヤンはラインハルトに目線を送るとラインハルトと目が合う。

 

「この人物は信用に値する人物か?」

 

「私の後輩ですからね。理解すれば意図を汲んでくれるはずですよ」

 

「そうか」

 

 話を聞いていた帝国軍の無線手は応答をする。

 

『最重要人物故に名を出すことは出来ない。貴殿一人で本艦に赴いてその最重要人物と面会されたし』

 

『なんだって……』

 

 無線越しではあるがアッテンボローが不機嫌そうな事は声で理解できる。

 

「ねえおじさん?」

 

「なんだいはやて?」

 

「どうして無線でおじさんが生きているって伝えないの?」

 

「それには2つの理由があるよ」

 

「2つの理由?」

 

はやては首を傾げる。

 

「まず1つ目に、私が生きていると言ったところでアッテンボロー…いや…イゼルローン軍は信じないだろう。会って話ができれば、まぁ信じてはもらえると良いが……」

 

「それはわかるけど、もう一つは?」

 

「もう一つは、もし仮に信じてもらえたとして、私が生きていることがイゼルローン軍全体に報告されてしまう可能性があるからね。アッテンボローが箝口令を敷いてもどこから漏れるかは分からない…私が生きていることは極めて少数の人物だけが知っていれば良いのさ。コレは私とカイザーも同じ意見だよ」

 

「でもそれじゃあ……」

 

 はやてはどこか寂しそうな表情をする。

 

「私は家族や友人など一部の人達にだけ生きている事を知ってもらえれば後は良いのさ。それに生きている事が公になればプロパガンダに使われるだろうね」

 

 ヤンはため息を吐いた。

 

 その時、無線からアッテンボローの声が響いた。

 

『了解した。自分が一人で貴艦へ乗り込もう。ただし自分が無事に帰還できない場合は随伴艦が貴艦を攻撃するだろう』

 

 アッテンボローが語気を強めて吐き捨てるように無線を切った。

 

「さて、ヤン・ウェンリーよ。卿に交渉は任せたぞ」

 

「相手がアッテンボローなら問題はないはずです」

 

 ヤンは敬礼した後応接室へと歩みを進め、その後をはやて達が追いかけた。

 

 ヤン達が応接室でアッテンボローを待っていると、扉の外から声が聞こえてくる。

 

「お連れしました」

 

 帝国兵が報告すると同時に扉が開かれる。

 

「全く……重要人物って一体誰なんだ……どうでもいい相手だったら承知しない……ぞって……え?」

 

 扉が開きヤンとアッテンボローが顔を見合わせる。

その瞬間、部屋の中の空気が凍りついたように冷めていった。

 

「え? ええ? 先輩?」

 

「やあ、アッテンボロー。こうして会うととても懐かしい気持ちになるよ」

 

 ヤンが笑顔で数歩歩み寄るとアッテンボローは声を荒らげた。

 

「動くな! お前は一体何者だ!」

 

「何者だって……私はヤン・ウェンリーだよ。まぁ私も年を取ってしまったし信じられないだろうが」

 

「ヤン・ウェンリーは死んだんだ! 帝国軍め! 顔を似せた奴を用意するとは卑怯な……」

 

「似せるならもっと若くてそっくりに仕上げるだろう? それにお前さん一人を釣り出すためにブリュンヒルトを出すかね?」

 

「そ、それもそうだが……お前がヤン・ウェンリーである証拠はないだろ!」

 

「証拠か……そうだな」

 

 ヤンは顎に手を置き少し思い起こす。

 

「お前が士官学校の1年生の時、塀を乗り越えようとしたのを当時、夜間巡回中だった私が見逃して懲罰を免れたことがあっただろ。コレでどうかな?」

 

「確かにこの事を知っているのはヤン先輩位だが……ほ、本当にヤン先輩なんですか!?」

 

「信じてもらえたかい?」

 

 次第にアッテンボローの表情が明るくなっていく。

 

「本当にヤン先輩なんですね! 生きていたんですか! でもなんでそんなに老けて……」

 

「まぁ色々あってね。別の次元で10年ほど生活していてね」

 

「別次元って……信じられませんね〜」

 

「私自身最初は戸惑ったさ。だが真実は小説より奇なりってね」

 

「まぁそんなもんですかね? ところで」

 

 アッテンボローはヤンの背後に控えていたはやて達を見据える。

 

「彼女達は何者です? 服装的に帝国軍とは思えませんが」

 

「そうだな。紹介しよう。彼女達が私が向こうの世界で世話になっていた保護者のようなものさ」

 

「保護者って……先輩は10年居たんですよね? 10年前って彼女まだ子供だったんじゃないんですか? まぁ先輩は生活能力皆無ですからね」

 

 ヤンとアッテンボローは互いに笑いあった。

 

「えっと、私は八神はやてと言います。時空管理局の二等空佐です」

 

「時空管理局? 初耳ですね」

 

「私が一応所属している組織さ。今の私は契約社員みたいなものだがね」

 

「そうなんですか。まぁ詳しい話はイゼルローンに戻ってからにしましょう! こんな帝国軍の艦の中なんて居られませんよ!」

 

「いや、私はこのままブリュンヒルトに残るよ」

 

「何故です?」

 

「そうだな……まぁ理由なんだ」

 

「なんです?」

 

「この艦。ブリュンヒルトはイゼルローンを通って帝国領に帰りたいそうなんだ」

 

「なるほど……皇帝も乗れるんですよね? 先輩はどうお考えで」

 

「イゼルローンを抜けるのは私がカイザーに提案したのさ。カイザーに貸しを作っておいて損はないからね」

 

「確かにそうですね。つまり先輩はこの艦に残ってイゼルローン軍が撃ってこないのをアピールするんですね。ところで先輩が生きていることは公表するんですか?」

 

「いや、一部を除いて公表するつもりはないよ。コレは私もカイザーも同じ意見だ」

 

「先輩がそう判断したのならそうなんでしょう…変に象徴化されるかもしれませんからね」

 

「あぁ……下手に戦火を広げる行為はしたくないからね。と言うことで極力内密に頼むよ」

 

「了解です。それじゃあブリュンヒルトをイゼルローンまでお送りしましょう」

 

「あぁ……頼むよ。それと……」

 

 ヤンが少し不安そうな表情をする。

 

「ユリアンとフレデリカは……その元気そうかい?」

 

「皆の前では気丈に振る舞ってますがね。先輩が生きてるって知ったら大喜びですよきっと」

 

「そうか。しかし少し不安だな」

 

「不安? 何故です?」

 

 ヤンは苦笑いする。

 

「そりゃ……私は10年も向こうに居たからね。こちらじゃ4ヶ月しか経っていないとは言え……それに年だって……」

 

「はあ~そんなこと不安に思っているんですか?」

 

 アッテンボローはため息を吐いた。

 

「皆先輩を待っていますよ。それじゃイゼルローンに向かいましょう」

 

 アッテンボローはそう言うと応接室を後にした。

 

「おじさん?」

 

「あぁ……大丈夫さ。少し不安はあるが妻と息子に会いたいという気持ちはあるからね」

 

「そ、そうやね。ところでイゼルローンってどんなところ?」

 

「あぁそうだね。我々が言うイゼルローンとはこのイゼルローン回廊の中心にある要塞なんだ」

 

「要塞? 回廊?」

 

「あぁ、簡単に言うと宇宙にも航行不可能な宙域が有るが、そこを抜けてるトンネル状の回廊がこのイゼルローン回廊で、その回廊の中心にあるのがイゼルローン要塞さ。そこが私達の本拠地なんだ」

 

「要塞が……本拠地なんや」

 

 はやてはどことなく不安そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 




今回は少し短めに…

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