数日後
ブリュンヒルトが帝国側出口に向かってイゼルローン回廊を進んで行く。
その背後に、護衛と称してイゼルローン軍の戦艦が数隻追従する。
ヤンははやて達と一緒に、ブリュンヒルトに搭乗していた。
そしてヤンの護衛としてシェーンコップとユリアンが同行を許された。
ヤン達はラインハルトが用意した客室で紅茶を飲みながら談笑していた。
「どうやら出口側の帝国軍と合流したようだよ」
「あっという間やったな……こんな広い宇宙空間なのに」
はやての呟きに対しヴォルケンリッター達が頷いた。
「ワープ航法などが発達しているからね。私からすれば時空を跳躍する技術のほうがすごいと思うよ」
「技術協力が出来ればええかもしれないね」
はやてが小さく笑う。
その時、扉がノックされ、帝国兵が入室する。
「カイザーがブリッジでお待ちです」
「よし。向かおう」
ヤン達は立ち上がり、帝国兵のあとに続きブリッジへ向かった。
ブリッジに入るとラインハルトが蜂蜜色の髪の男性。ウォルフガング・ミッターマイヤーと話をしていた。
「来たか。ヤン・ウェンリーよ」
「陛下……今ヤン・ウェンリーとおっしゃいましたか?」
ミッターマイヤーは疑問を投げ掛ける。
「ああ、この男は間違いなくヤン・ウェンリーだ」
「しかし……ヤン・ウェンリーは死んだはずでは……」
「どうやらヴァルハラから帰ってきたようだぞ」
ラインハルトは冗談っぽく笑みをこぼす。
「陛下がその様な冗談を言うとは思えませんから……本当なのでしょう……それにイゼルローンから陛下が連絡を寄越して、イゼルローン回廊を抜けるから迎えに行けと最初オーベルシュタインから聞いた時は誤報も疑いましたが……」
「ああ、流石のオーベルシュタインも余がイゼルローンから連絡を入れた時は一瞬だが驚いていたようだったぞ。無事に抜けれたのもヤン・ウェンリーの口添えがあったからだ。それとヤン・ウェンリーが生きていることは最重要機密だ。余が許可した一部の者のみに知らせるする予定だ。故に卿も他言無用だぞ」
「は!」
ミッターマイヤーは了承する。
「卿がヤン・ウェンリーか。此度はカイザーを無事に帝国領までの送り届けてくれた事に礼を言う」
ミッターマイヤーはヤンに敬礼しヤンは返礼する。
「ところでミッターマイヤーよ。ロイエンタールから何か報告はあったか?」
「いえ……それがロイエンタールからは何も連絡が入ってはいない状況です。後ほど連絡を取るつもりですが……」
「そうか……」
「陛下! 今回の襲撃はロイエンタールが関わって居るとは思えません! 一部の人間はロイエンタールに謀反の疑いありと口にしていますが、そんなことは無いはずです! それにオーベルシュタインを詰めたところ、ラングの奴が不審な動きがあると零しました、恐らくそれによってロイエンタールが嵌められたのではないかと」
「わかっている。あのロイエンタールが謀反を起こすなら正面から来るであろう。暗殺などという姑息な手を使うとは思えん。それにヤン・ウェンリーの話ではウルヴァシーが地球教の拠点となっていた可能性が高いからな。そうなると此度の一件裏には地球教が絡んでいる可能性もある。恐らくラングも関わっているだろう。戻ったら拘禁して問いただそう」
「そうでしたか。しかし地球教ですか」
「ああ。サイオキシン麻薬やヤン・ウェンリー暗殺の嫌疑もある」
ラインハルトがヤンを見据える。
「そこでヤン・ウェンリーよ。卿と八神女史に協力を要請する」
「私達に」
「協力……ですか?」
「そうだ。イゼルローン軍のヤン・ウェンリーではなく時空管理局のヤン・ウェンリーと八神中佐にな」
ミッターマイヤーが口を開いた。
「陛下、その……時空管理局とは一体……それに彼女達は」
「どうやら、ヤン・ウェンリーが生きていた理由は魔法の力らしい。そしてその魔法使い達の総本山が時空管理局のようだ」
「魔法……ですか」
ミッターマイヤーが訝しむ。
「その表情、卿は信じていないようだな」
「いえ、陛下のお言葉ですから信じます……信じますが……魔法と仰られても……あまりにも荒唐無稽な話でして」
「そうであろうな。して、ヤン・ウェンリーよ。協力してくれるのか?」
「そうですね。時空管理局としてでしたらはやてが私の上官になりますので彼女の意見に従います」
「そうか。して八神女史よ」
ラインハルトがはやてを見据える。
「そ、そうですね……今後時空管理局と友好な関係を築いていただけるなら御協力いたします」
「そうか。では早速だが、卿等にはこのまま首都オーディンまで来てもらいたい」
「お待ち下さい陛下」
ユリアンが声を上げた。
「ヤン提督だけではなく、私達も同行させていただけませんか」
ユリアンとシェーンコップが頷く。
「そうだな……わかった。卿等が帝国内で身分を明かさず、ヤン・ウェンリーの護衛に徹するというのであるならば同行を許可しよう」
「感謝します。陛下」
ユリアンとシェーンコップが敬礼する。
数日後
帝国領首都星オーディンに到着した。
ラインハルトは迎えの車に乗ると先に出発したようだった。
その後ミッターマイヤーが手配した迎えの車に乗り全員が皇宮に招待された。
「な、なんやこの……宮殿かぁ?」
皇宮の中に招待されたはやて達はミッドチルダでは見たことのない豪華な装飾品などに呆然とする。
先を歩いて皇宮内を案内したミッターマイヤーが口を開く。
「陛下からの伝言だ。卿等にはこのまま皇宮に滞在してもらう、悪いが皇宮の外へは出すことは出来ない。卿等は極秘の来賓だからな。卿等には客室を用意してあるからそこで休むようにと」
「了解しました」
はやてが相槌を打つ。
「あぁーそれと、皇宮内をならば出歩いても良いと許可が出ている。皇宮内に出入りする人間は限られるからな情報漏洩のリスクも少ないだろう」
ミッターマイヤーはそう言うとヤン達を客室の前まで案内した。
「陛下からなにか呼び出しがれば連絡の者を送る。それまでは休んでくれ」
ミッターマイヤーは一礼するとその場を後にした。
数日後。
はやてはヤンにルールを教わりながらゲストルームで三次元チェスに興じていた。
「提督……その手だと……」
「え……?」
ユリアンがヤンの差した手に警鐘を鳴らしたが、時すでに遅しだった。
「チェック……や!」
「あっ! ちょちょっと」
ヤンは頭を掻きながら暫く考えた後キングを倒し投了した。
「ふぅ~おじさん弱すぎやない♪」
チェスに勝利したはやては上機嫌にヤンを煽る。
「いやはや、まさかルールを覚えたてのお前さんにまで負けるとは」
はやては上機嫌で鼻歌交じりにチェスの盤面を見ている。
「そう言えば、シャマル達はどこ行ったん?」
「はい、ヴィータが部屋に閉じ籠もっていては退屈だという事でザフィーラ達を連れて皇宮内を散歩に行きました」
「これだけ広いんやから冒険やね~。ん?」
はやての対面にユリアンが座った。
「提督の敵は取りますよ。1局良いですね八神中佐」
ユリアンははやてに笑みを向ける。
「なにぶん素人ですからお手柔らかに頼みますよミンツ中尉殿」
「主」
「微力ながら私達もお手伝いします」
はやての背後にシグナムとリインフォースが近寄る。
「3体1ですか、ハンデには丁度いいでしょう」
「負けませんよ」
ユリアンは微笑み、はやて達も笑みを返す。
「さてさて、提督殿。どちらが勝つと思いますかな?」
二人の対局が始まると部屋の隅に移動したヤンにシェーンコップが声をかけた。
「そうだな……経験を考えればユリアンに分があるが……はやては、ああ見えて全体を把握する能力は高い。指揮官の適性があるし、副官も居るから……まぁイーブンってところかな」
ヤンは二人の対局を穏やかな顔で眺める。
「ほぉ……提督殿の父性が垣間見えましたな。なるほど……これは面白くなりそうですな」
「シェーンコップ……誂うんじゃないよ」
2人は楽しげに三次元チェスに興じている面々を眺めていた。
同日同時刻。
「うわぁ~すっげぇ広さだな!」
皇宮内の廊下をヴィータが小走りで進む。
「ヴィータちゃん走ったら危ないわよ」
「全く……」
シャマルの隣で狼状態のザフィーラがため息を吐く。
「おっ! ちょっとあっちの方に行ってくる!」
ヴィータは廊下を走り出した。
「ちょ、ちょっと!」
突如走り出したヴィータを止めようとしたシャマルに背後から声がかかる。
「失礼……よろしいかな?」
「あっはい」
シャマルが振り返るとそこには長身で半白の髪の男性が立っていた。
「パウル・フォン・オーベルシュタインと申します。見慣れぬ制服を着ておられる。フロイラインがカイザーの言っていた異世界の客人か?」
「はい。私はシャマルと言います。こちらはザフィーラ」
シャマルが一礼し、ザフィーラはそのままオーベルシュタインに目線を向ける。
その時、オーベルシュタインの目が鈍い光を放つ。
「え?」
「失礼……義眼の調子が」
オーベルシュタインは目元に手をやると義眼を調節する。
「先天的な視覚障害者でしてね。義眼で視力を補っているのですよ」
オーベルシュタインは無表情で語る。
「そうでしたか」
「女性には不気味でしたな」
「いいえ、私はそのようには思いませんよ」
シャマルが微笑みかけるが、オーベルシュタインは無表情で口を開く。
「ところでだがフロイライン、その犬なのだがーー」
「犬ではない!」
犬と呼ばれたザフィーラが不機嫌そうに声を上げると、流石のオーベルシュタインも一瞬身構えた。
しかし、それはほんの一瞬でありすぐに無表情に戻った。
「ほぉ……人語を理解し話す犬とは……カイザーの客人が魔法使いだとは聞いていたがあながち間違いではないのかもな」
「だから犬では」
「まぁまぁザフィーラ。ところで犬がお好きなのですか?」
「犬を飼っているのでな」
「そうなんですね! 犬の話をされる時嬉しそうな顔をしていたので犬が好きなのかと」
「こいつがそんな顔してたか?」
ザフィーラが吐き捨てるように呟く。
「そんなこと言っては失礼よ。すみません」
「いや、良いのだフロイラインが謝ることではない」
「ふん!」
ザフィーラは踵を返すと客室に戻っていった。
「もう……ザフィーラったら……」
「いや良いのだ。こちらも突然失礼をした」
「いえいえ、それでどのような犬を飼っておられるのですか?」
「ダルメシアンを。老犬ということもあってか柔らかく煮た鶏肉が好きなようでな」
「あら、それは結構グルメなんですね」
「度々夜であっても買いに行かねばならぬのでな」
「まぁ!」
オーベルシュタインとシャマルは暫く飼い犬の事で話が弾んでいった。
一方その頃。
走り出したヴィータが勢い良く角を曲がると、オレンジ色の髪をした筋骨隆々の男性とぶつかった。
「うわぁ!」
「おっと」
ぶつかったヴィータは尻餅をつく。
「いてて……」
「すまない。大丈夫か」
「あぁ、悪かったな」
ヴィータは立ち上がるとホコリをはらう。
「俺はフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトだ。しかし何故ここに子供が……あっ! カイザーの言っていた異世界の客人か……しかし……こんな子供とは」
「あまり子供子供って言うなよオッサン」
ヴィータは不機嫌そうにつぶやく。
「なっ! オッサンだと!? 俺はまだ34だぞ!」
「30超えたらオッサンだろ!」
「ナニを! 口の利き方がなっていないガキが!」
「ガキって言うな!」
2人は睨み合う。
そんな時、ビッテンフェルトの腹の虫が鳴いた。
「なんだよオッサン、お腹空いてるのか?」
「ちょうど昼時だからな。よし、食事にでもするか。お前もどうだ?」
「食べに行きたいけど、カイザーが皇宮内から出るなって」
「それならば皇宮内で食べれば良い。折角だから帝国の料理を味わっていけ。部下にデリバリーを持ってこさせよう」
「良いのか?」
「あぁ、お前達は魔法を使うと聞いた。そこら辺の話を聞きたいからな」
「それじゃあ、ご馳走になるかな」
ヴィータとビッテンフェルトは皇宮内の一室に向かった。