不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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英雄の特権

 その頃、ミッターマイヤーはと言うと通信設備の整った部屋で通信端末を操作していた。

 

 端末を操作してしばらくすると、黒髪で左右の瞳の色が違う金銀妖瞳(ヘテロクロミア )の男性。オスカー・フォン・ロイエンタールが映し出される。

 

「やっと繋がったな。ロイエンタール忙しい所すまん」

 

「なに良いさミッターマイヤー。卿と俺との仲だ」

 

 二人は小さく笑いながら軽く挨拶を交わす。

 

「そうか。さて、早速だが本題に入るぞ。俺と共にカイザーの下に参上せぬか。卿には謀反の嫌疑がかけられている。それはわかっているか?」

 

「ああ、わかっている」

 

「そうか。だがカイザーは卿に謀反の意思はないと言っておられる。それに背後に地球教が関係しているとも。そしてラングが関わっている可能性もな。それ故この間ラングの奴は拘禁された。事態は確実にいい方向に進んでいる。だから──」

 

「ほお……地球教にラングか……」

 

 ミッターマイヤーの言葉を遮り、ロイエンタールが呟く。

 

「だからこそ卿が参上し誠意を持ってを話をすればカイザーはきっとお許しくださるはずだ。頼むロイエンタール……俺は卿とは戦いたくない。まだ間に合うはずだ」

 

「ミッターマイヤー……俺も卿とは戦いたくはない」

 

「それなら!」

 

 ミッターマイヤーの表情が一気に明るくなるが、ロイエンタールは冷たく答える。

 

「だが、あえて俺は卿と戦う。何故かと問うか。戦って卿を倒さぬ限りカイザーは俺と戦ってくださらぬだろうからだ。すでに一部の人間には俺が謀反する旨を話して準備を進めている……今週中にでも宣戦を布告するつもりだ」

 

「っ!」

 

「不貞の末の子と蔑まれ、何者にも期待されず、俺は自分が何の為にこの世に生を受けたか長いことわからなかった。知恵無き身の悲しさだ。だが、今にしてようやく得心がいく。俺はカイザーと戦い、それによって充足感を得る為に生きてきたのではなかったのかと」

 

「くっ! ……考え直せロイエンタール! このままでは卿は地球教の謀略により叛逆者に仕立て上げられるぞ。卿が俺に任せてくれれば、俺は自分の身に変えても卿の正当な権利を守る。だから、俺の約束を信じてくれ!」

 

「疾風ウォルフの約束には万金の価値があるが……いやダメだミッターマイヤー。卿の身は俺等と引き換えて良いものではない。卿は常に正道を征く。俺には出来ぬことだ!」

 

 ロイエンタールはどこか悲しげな表情をしながら続ける。

 

「それよりもどうだ? ミッターマイヤー俺と手を組まないか?」

 

「卿にしては出来の良い冗談ではないな」

 

 ミッターマイヤーはロイエンタールの誘いを興味無さげに一蹴する。

 

「冗談などではないさ。俺が正帝。卿が副帝、いやいやその逆でも一向に構わん。二人で宇宙を分割支配するのも悪くない。あのトリューニヒトですらやっていたことだ」

 

「酔っているな……卿は」

 

「俺はシラフだ」

 

「酒にでは無い……血の色をした夢に酔っている……しかし夢は所詮夢だ……いつか醒めてしまう。醒めた後どうなる? 卿は言ったな。カイザーと戦うことで充足感を得たいと。では戦って勝った後はどうするのだ! カイザーがいなくなった後、卿はどうやって心の飢えを耕すつもりだ!」

 

「夢の話だ……俺の夢であって卿の夢ではない」

 

「そこまでして卿は叛逆者に仕立て上げられたいというのか!」

 

「叛逆者になるのは良いが、叛逆者に仕立て上げられるのは御免被るな」

 

「だったら……」

 

「だからこそ、俺はカイザーに叛逆しよう。地球教などは関係なく俺の意思で!」

 

「ロイエンタール!」

 

「どうやらこの話は平行線のままのようだし無益な長話はやめよう」

 

 ロイエンタールは通信を終了させようと手を伸ばす。

 

「待て! ロイエンタール! 最後に一つだけ言っておこう。これは忠告だ」

 

「ほお……卿からの忠告ならば聞いてみる価値はあるだろう」

 

「カイザーからは箝口令が敷かれており、一部幕僚にのみ許可されている機密事項だが卿には伝えておこう」

 

「そんな重要機密をそうやすやすと話しすのか? ずいぶんと口が軽いのだな」

 

「良いから黙って聞け! あの男……ヤン・ウェンリーは生きていたのだ!」

 

 ロイエンタールは一瞬面食らった表情をしたが、すぐに笑い始める。

 

「フハハハ!! 勿体ぶって何を言うかと思ったが。こともあろうがあのヤン・ウェンリーが生きていただと? 卿にしてはなかなか面白い冗談だったぞ」

 

「冗談なものか! その証拠にカイザーはイゼルローンを通って帝国側に帰還されたのだ」

 

「ほお……では卿は本当にあのヤン・ウェンリーが生きていると、そう言いたいのだな」

 

「それだけではない。ヤン・ウェンリーはカイザーと懇意にしていて、今は皇宮内に居るんだ」

 

「それはそれは」

 

「このままだと卿はカイザーとあのヤン・ウェンリーの二人を相手取ることになるぞ。この宇宙の天才と魔術師を相手取るんだぞ! そんな無謀な戦いをするなロイエンタール!」

 

「ふっ……もし仮にヤン・ウェンリーが生きていたとしてカイザーとヤン・ウェンリー……宇宙に名を轟かせた二人を相手取るならばそれこそ相手にとって不足はない」

 

「考え直せロイエンタール!」

 

 ロイエンタールは再び通信端末に手をかける。

 

「もういいだろう……ヤン・ウェンリーの一件は考慮に入れさせてもらおう……さらばだミッターマイヤー。俺が言うのはおかしいがカイザーを頼む。これは俺の本心だ」

 

 ロイエンタールはそう言うと通信を終了させた。

 

「待て! ロイエンタール!」

 

 ミッターマイヤーは暗くなった通信端末に声を掛けるが、反応はない。

 

「くっ!」

 

 ミッターマイヤーは固く拳を握りしめ振り上げた。

 

「ロイエンタールの大馬鹿野郎!」

 

 怒りに任せミッターマイヤーはその拳を通信端末に振り下ろした。

 

 

 

  シャマル達が用意されたゲストルームに戻ると、はやてとユリアンは未だに三次元チェスで対局していた。

 

「あら? はやてちゃんの表情が険しいわね」

 

「今は1勝1敗でね。お互いに睨み合っている状況さ」

 

 シャマルの呟きにヤンが答える。

 

「主、ここに指しては」

 

「いや、それだと上のやつが邪魔になる……となると……」

 

 若干劣勢であるはやてが長考している。

 

 そんな時、ゲストルームの扉がノックされる。

 

「失礼します」

 

 帝国兵が扉を開けて入ってくる。

 

「カイザーがお呼びです。同行してください」

 

「そういう事なら。さて……はやて、お前さんも一緒に来てくれるかい」

 

「うーん……はーい」

 

 はやては名残惜しそうに三次元チェスの盤面を見ながら立ち上がるとヤン達と一緒にゲストルームを出た。

 

 

 帝国兵に案内された部屋の中でミッターマイヤーとラインハルトが話し合いをしていた。

 

「そうか……ロイエンタールは反旗を翻す……か」

 

「説得したのですが……力及ばず……申し訳ありません」

 

「卿の責任ではないぞミッターマイヤー。しかしそうか、ロイエンタールが……」

 

 ラインハルトは呟きながら横目で入室してきたヤンを見据える。

 

「陛下、参上いたしました」

 

「来たか」

 

 ヤン達は敬礼し、ラインハルトを見据える。

 

「さて、さっそく本題だが地球教の策謀によってロイエンタールが反旗を翻した」

 

「陛下!」

 

 ラインハルトの言葉にミッターマイヤーが声を荒らげる。

 そんなミッターマイヤーをラインハルトは無言で制す。

 

「さてそこで卿等に助力を願いたい」

 

「聞かせてください」

 

 ヤンが答える。

 

「すでに準備を進めているようだが……恐らくロイエンタールが宣戦布告が数日中。大掛かりな戦備を整えるのに掛かるのは数週程度だろう。そして戦線を構築を終えるこの数ヶ月……ここから新領土(ノイエラント)の……ハイネセンに着くのはフェザーン回廊を抜ければかなりの時間が掛かるだろう。そこでイゼルローン回廊を同時に抜けて双方から同時攻撃を仕掛け短期決戦をする予定だ。そこで帝国軍がイゼルローン回廊を無傷で通過させてほしいのだ」

 

「なるほど……しかし、それでは戦いは避けられませんね」

 

「仕方あるまい。ロイエンタールの宣戦布前にハイネセンに行ければ説得なりで謀反を留まらせる可能性も有るだが……それこそそんな魔法はないだろう」

 

 ラインハルトは小さく呟いた。

 

「確かにそれは難しいですね……」

 

 ヤンも苦笑いし頭を掻く。

 

 その隣で、はやてが顎の下に手を置き思考する。

 

「えっと……つまり宣戦布告がされる、数日中にハイネセンって所へ行ければ良いんですよね」

 

 はやてが声を上げ、全員の視線が集まる。

 

「そうだが、そんな便利な魔法があるというのか? 八神女史よ」

 

「いえ、魔法自体はありません……しかしハイネセンの座標がわかりさえすれば……出来る可能性はあります」

 

「何だと! それは本当か!」

 

 ミッターマイヤーが声を上げる。

 

「出来るのかい? はやて? ここからハイネセンまではそれこそ宇宙を跨ぐようなもんだぞ」

 

「えっと……あくまでも可能性ですが……」

 

「申してみよ」

 

 ラインハルトは興味深そうに言う。

 

「はい。この時空で今の場所からハイネセンという場所へ行くのではなく、一度私達の時空を経由して行けば短時間で行けるかと思います」

 

「卿等の時空?」

 

「はい。ヤンおじ……いいえ、ヤン提督は私達の時空では10年の時を過ごしましたがこちらの時空では4ヶ月程度しか経過していません。つまりそれだけの時差があるのです。その時差を利用します」

 

「なるほど……考えたね」

 

 ヤンははやてに微笑みかける。

 

「発想の転換やね」

 

「しかしその時差とやらは人に影響はないのか?」

 

「はい。アースラ……私達の艦には時空の干渉を抑制する魔法が施されておりますし、時差の影響も魔法で抑え込めます。今回はあえて時差を生み出して宇宙を飛び越える……いわば裏技です」

 

「なるほど……確かにそれならばいつ頃ハイネセンに到着するのだ?」

 

「えっと……詳しくはやってみないと分かりませんが、恐らく明日か明後日までには到着するかと」

 

「素晴らしい!」

 

 ミッターマイヤーに笑みがこぼれる。

 

「ですが、問題があります」

 

「申してみよ」

 

「時空跳躍が出来るのは私の乗艦、アースラのみです……護衛艦などは同行できません」

 

「そうか……単艦では撃破される危険性があるな」

 

「陛下!」

 

 ミッターマイヤーが声を上げる。

 

「どうか私に行かせてください! 必ずやロイエンタールを……殴ってでも説得し謀叛を阻止してみせます!」

 

「確かにミッターマイヤーの直訴ならばロイエンタールが聞くかもしれぬ……わかった。卿に任せる。ロイエンタールを余の前に生きて連れてくるのだ」

 

「お任せください!」

 

 ミッターマイヤーはラインハルトに敬礼するとはやてに駆け寄った。

 

「では行こう!」

 

「え……あ……はい!」

 

 駆け出したミッターマイヤーの後に続きはやて達は退室した。




時空を飛び越える際の時差とかは独自設定であり、ご都合主義です。
そこはご了承ください。
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