その日のうちにミッターマイヤーは整備兵に指示を飛ばしアースラに通信装置や敵味方識別装置など諸々を積み込んだ。
「よし! 準備完了だ! 早く行こう!」
ミッターマイヤーはアースラのブリッジで意気揚々としている。
アースラに乗艦しているのは、はやて達時空管理局の局員の他ミッターマイヤーとヤンの護衛としてユリアンとシェーンコップの少人数である。
「ミッターマイヤーさん」
はやてが声を掛けるとミッターマイヤーは振り返る。
「これから時空跳躍します。揺れると思いますので席に着いてください」
「そうか。そうであるな」
ミッターマイヤーは座るとシートベルトを締める。
「それじゃあ……アースラ発進! 発進後時空跳躍に入る」
はやてが指示を出すとアースラは速度を上げた後、時空を跳躍した。
時空跳躍をしたアースラは再び通常時空の宇宙空間に現れた。
「時空跳躍終了。無事に跳躍が終了したようです」
リインフォースの報告を聞いてはやてはコンソールを操作する。
「よし。それじゃあハイネセンの座標を入力するで」
アースラを巡航させながら座標の調節に入る。
「本当にここが別の時空なのか?」
ミッターマイヤーがモニターを見ながら疑問を述べる。
「宇宙空間ですから見分けがつかないのも仕方有りませんが、星図や時空の座標を確認すると時空跳躍は無事に終わってますよ」
はやてはコンソールを操作しながら答える。
「そうか……して八神女史よ。一つ貴女に尋ねたいことがある」
「えっと……なんでしょうか」
ミッターマイヤーは咳払いすると鋭い視線をはやてに向ける。
「先程は急ぎであり聞きそびれたが、貴女は此度の一件……ロイエンタールがカイザーに反旗を翻したことを時空管理局に報告するのか?」
「え?」
突然の事にはやてが唖然とする。
しかし、そんな事など意に関せずミッターマイヤーは続ける。
「もし可能であるならば、此度の一件は黙っているか、報告するならば全てが片付いてからにしていただきたい」
「えーっと……それは何故……」
「時空管理局が邪魔をしない為……ですよね」
はやてが首を傾げるとヤンが助け舟を出す。
「時空管理局が邪魔をしない為? どゆこと?」
はやては顎の下に手を当て考え込む。
ヤンとミッターマイヤーは、はやてが自分なりの答えを出すのを待つ。
「あっ……」
数十秒程の時間が過ぎはやてが声を漏らす。
「もしかして……時空管理局がロイエンタールさんの側に付く可能性があるから……ですか?」
はやての回答を聞いてヤンとミッターマイヤーの表情が少し柔らかくなった。
「そうだ……ありえぬ事だと思いたいが、卿等時空管理局の事を我々は詳しくは知らぬ。もしも時空管理局がその名が表す通りに我々の時空を管理するならばカイザーは邪魔な存在であろう……あの御方は管理されるような御方ではない。そんなカイザーに敵対
ミッターマイヤーはゆっくりと分かりやすく内ポケットからブラスターを分かりやすく引き抜く。
「ッ!」
その光景を見てヴォルケンリッターとリインフォースが身構える。
はやては一瞬ヤンの視線を向けるが、ヤンとシェーンコップは壁に背をつけたまま事の成り行きを見守っていた。
「待つんや」
はやてがヴォルケンリッター達を片手で制する。
「そ、それは……そうですね、一応時空管理局員としてはそんな事はないと言いたいですが……一個人としてはあり得ないとは……いいえ、報告次第では、恐らくその様な策謀が上層部で渦巻いている可能性がないとは言えません」
「素直に認めるのだな」
「私は時空管理局が帝国を従える事など出来ないと思っています。しかし上層部が私と同じ考えとは限りません。ですので報告はこの一件が終わってから致します」
はやての回答を聞いて、ミッターマイヤーの雰囲気が柔らかくなるのを感じる。
「そうか……すまなかったな。謝罪しよう」
ミッターマイヤーが小さく笑いゆっくりとブラスターを仕舞うと敬々しく頭を下げるとはやてがキョトンとする。
「あ、頭を上げてください!」
顔を上げたミッターマイヤーはそんなはやてとそれを見守るヤンを交互に見て数回頷いた。
「それでハイネセンにはいつ着くんだ?」
「そうですね……」
はやてはコンソールを操作しながら情報を確認する。
「次の跳躍ともしもの時の離脱用の跳躍のエネルギーチャージと座標の固定で数日は掛かりますね」
「もしもの時?」
「はい。もし相手から攻撃を受けた際この艦じゃまともに戦えませんから、その時逃げる為のエネルギーを今のうちにチャージしておこうかと」
「そうなのか? それは間に合うのか?」
「計算上では向こうでは数時間も経っていないはずですので十分に間に合います」
「そうか! それならばロイエンタールを説得できる見込みがあるな」
ミッターマイヤーは嬉しげに口角を上げる。
「きっとうまくいきますよ!」
「待っていろよロイエンタール……ッ!」
ミッターマイヤーは拳を強く握りしめた。
数日後。
巡航しながら座標の入力を終えたアースラは時空跳躍の準備を済ませていた。
「よし。座標の固定も完了や、エネルギーはどうや?」
「はい。問題ありません」
コンソールを操作しながらリインフォースが答える。
「よし! それじゃあ……出発や!」
はやてが振り上げた手を振り下ろすとアースラは速度を上げ時空を跳躍した。
アースラが時空の跳躍を終え通常空間に姿を現すと、窓の外に惑星を確認する。
「あの惑星は……」
「ハイネセンだね。いやぁ懐かしいな」
はやての呟きにヤンはハイネセンを見て郷愁に駆られる。
「すぐに通信を繋ぐぞ!」
ミッターマイヤーは通信装置の起動準備に入った。
同日同時刻。
総督府のロイエンタールの下に部下の兵が駆け込んできた。
「閣下!」
「どうした? やかましいぞ」
ロイエンタールは戦備の書類を手に駆け込んできた兵に顔を向ける。
「ほ、報告します! 惑星軌道上にワープアウト反応を確認しました!」
「何!?」
椅子に座っていたロイエンタールは驚愕し立ち上がった。
「敵か!?」
「敵が何を指すかによりますが……未確認の艦艇ですが、味方識別信号は帝国軍の物です……1隻だけですが」
「1隻だけでだと?」
「はい」
その時、ロイエンタールの手元の端末から着信音が鳴る。
ロイエンタールは端末を操作し着信に出る。
「なんだ?」
「閣下! 衛星軌道上の船名不明帝国艦から総督府……閣下に向けて通信が入っておりますが……」
「繋げ」
「はっ!」
空中に通信エフェクトのホログラムが浮いた。
数秒後ノイズが晴れるとそこにはミッターマイヤーが映し出された。
「聞こえているか?! ロイエンタール!」
「ミッターマイヤー……卿なのか?」
「俺は今ハイネセン軌道上の艦に居る。これよりカイザーの命によって、ロイエンタール、卿をカイザーの御前へと連行する。無駄な抵抗はするなよ」
「本当に……ミッターマイヤーなのか……つい先程までオーディンに居たはず……一体どうやって」
「言ったはずだカイザーは魔術師と懇意にしているとな。それと俺達を……この艦を撃墜しようなどと考えるなよ。さすれば次の瞬間には背後で控えている万を超えるの大艦隊が一挙に押し寄せるぞ」
ロイエンタールは諦めたようにため息を吐くと椅子に座り込んだ。
「わかった……卿に従おう……総督府で待っているぞ」
「ああ、すぐに向かおう」
通信が切れるとロイエンタールはどこか満足そうな表情で天井を仰いだ。
「やはり俺ではカイザーと戦う土俵にすら立てなかったか……」
自嘲ぎみにロイエンタールは呟いた。
「しかし……あの男……ヤン・ウェンリーか……一体どんな魔術を使ったのやら……」
一方その頃アースラは大気圏突入準備に入っていた。
「よし、ハッタリは上手く行った。大気圏を抜けたら総督府の広場に強行着艦させてくれ、建物の損傷など気にするな。損害は後で俺が補填する」
「了解です。着陸には数時間程かかります」
ミッターマイヤーはブラスターを胸ポケットにしまいながらはやてに指示を出した。
「あの、武器を持っていくようですが……戦いになるのですか?」
「いや、あのロイエンタールが最後に無駄な足掻きをするようなことはないと思うが念の為な」
「そうですか……あの、私も同行して良いですか?」
「八神女史がか? それは……」
ミッターマイヤーはヤンに視線を向ける。
するとヤンは無言で頷いた。
「うむ……危険はないと思うが……自衛は出来るのか?」
「はい、自分の身は自分で守れます」
「それなら構わぬが」
「よろしいでしょうか?」
シグナムが手を上げた。
「主が向かわれると言うなら私も同行します」
「シグナム……」
「うむ、女性だけに行かせる訳にもいきますまい、小官も同行いたしましょう。よろしいですかな? 提督殿」
シェーンコップが立ち上がった。
「そうだな。シェーンコップが一緒なら心強いだろう」
「それでは、ユリアンは提督を頼むぞ」
「はい!」
はやて達は突入の準備に入った。
総督府で一人ミッターマイヤーの到着を待っていたロイエンタールの耳にノックの音が響く。
「失礼します」
その時一人の兵士がやってきた。
「何のようだ?」
「高等参事官が閣下に話があると」
「トリューニヒトが?」
兵士の後ろでトリューニヒトが顔を出す。
「ふむ……ミッターマイヤーが来るまでのちょうど良い暇つぶしにはなるだろう……」
「感謝いたしますよ閣下」
トリューニヒトがゆっくりとロイエンタールの前に歩み寄る。
それと同時に連れてきた兵が退室した。
「元気そうで何よりだ高等参事官……」
「はい。総督閣下のおかげを持ちまして」
「お前も聞いているだろうがこのザマだ……俺は地球教に叛逆者に仕立て上げられるくらいならいっそ自分の意志でと不毛な反乱を起こそうとするもカイザーに先手を打たれて出鼻を挫かれた……最早道化とすら言えよう……卿が信奉していた民主主義ではこのような悲劇とは無縁なのかな?」
トリューニヒトはつまらなそうに答える。
「民主主義も大したことはありませんぞ、私をご覧になることですな閣下。私のような人間が権力を握って他人に対する生殺与奪をほしいままにする。コレは民主主義の欠陥でしょうな」
「奇妙だな……卿は民主主義を憎んでいるように聞こえる。卿は権力を欲しそれを手に入れるために民主主義を利用したのだろう? 民主主義こそ卿の恩人であろう」
「専制政治が私に権力を与えてくれるのであるならば、今度は専制政治が私の恩人になろうでしょうな。私は民主主義を称賛する以上の真摯さを持って専制主義を信奉しますとも」
「すると卿はローエングラム王朝においても宰相となって権力を手に入れるつもりか?」
「カイザーがそうお望みなら」
「そして、自由惑星同盟を枯死させたようにローエングラム王朝も枯死させると言うわけか……その為には地球教に利用されることも辞さないというわけだな」
「私が地球教と繋がっているとでも?」
「とぼけなくて良い、裏は取れている」
トリューニヒトは鼻で小さく笑った。
「閣下はなにか勘違いをなさっておいでだ、地球教が私を利用したのではない、私が地球教を利用したのだ。私はなんでも利用しますよ。宗教だろうと制度だろうと、カイザーだろうと……あのヤン・ウェンリーさえも!」
「なぜ……いま死んだはずのヤン・ウェンリーの名が出てくる……」
ロイエンタールはトリューニヒトを睨みつける。
「言ったでしょう、私は地球教を利用していると。皇宮内でカイザーのそばに潜んでいる地球教の信者からの情報であのヤン・ウェンリーが生きているという情報が入ったのですよ」
「皇宮内にまで地球教が入り込んでいるのか……それを……ヤン・ウェンリーの生存を知ってどうする?」
「そうですな、ヤン・ウェンリーの復活を大々的に公表し民主主義の復権を煽動するのもいいでしょうな、そうすれば私は再び権力を握ることも可能でしょう」
「そんな事をしても、帝国軍の圧力にもみ消されるだけだぞ」
「ええ、ですから私はまずこの首都星ハイネセンで総督になろうかと思っています」
トリューニヒトはポケットからブラスターを引き抜くとロイエンタールに向ける。
「閣下、貴方はカイザーに弓を引いた叛逆者だ。叛逆者の首を手土産にカイザーに取り入れば、地球教のバックアップもあればハイネセンの総督になるのも難しくはないでしょうな」
「随分と……準備が良いな」
「それはお互い様でしょう。それに言ったでしょう。地球教からヤン・ウェンリーが生きていると聞いたと。カイザーラインハルトとヤン・ウェンリーの2人を相手に貴方が勝てるとも思えませんからね。事前に手を打っておいたのですよ。まぁこうも早く事態が進むとは思いませんでしたがね。流石は魔術師ヤン・ウェンリーと疾風ウォルフと言ったところか」
トリューニヒトがブラスター片手に笑う。
「カイザーがお前のような男に総督を任せると思うか?」
「人民は強者を求める。故に叛逆者を私自身の手で討伐すれば市民の票は得られるでしょうな。いくらカイザーと言えど多数の民意には逆らえないでしょうな。しかしカイザーか……独裁者にすらなれないあの孺子……才能はあっても人間としては完成には程遠い……未熟な坊やですからな……さぞ扱いやすいでしょう。そして機を見てヤン・ウェンリーが生きていることを公表すれば……元々同盟軍の首都星ですからなぁ。ハイネセンで独立運動が起こり再び民主主義が復権するでしょうな。私はそこでまた権力を得るのも悪くはないでしょう」
「貴様は再び戦乱の世に逆戻りさせるつもりか……」
「再び戦いが起こるとして、それは私が権力を握った結果であって目的ではありませんよ……さて、そろそろミッターマイヤー提督が到着される頃でしょうな。双璧と謳われた貴方達が死体での対面になるのは残念でしょうが、仕方ありません」
トリューニヒトはブラスターの引き金に指をかけた。
「最期に一つだけ聞かせてほしい」
「なんですかな?」
「ヤン・ウェンリーが生きているという事を知っているのは貴様の他には居るのか?」
「このハイネセンや元同盟軍人や同盟の政治家で知っているのは私だけでしょうな、なんせ大々的に発表するので知っている人間は少ないほど良い。そのほうがインパクトが有る」
「ほお……そうか」
トリューニヒトは引き金を引いた。
「ッ!」
それと同時にロイエンタールは身体を左に傾ける。
それにより心臓を貫くはずだったブラスターは左胸を貫いた。
それと同時にロイエンタールは右手で腰のブラスターを引き抜くとトリューニヒトの胸の中心を撃ち抜いた。
一瞬の出来事の後、二人の間に静寂が走る。
「あ……あ……あう……」
トリューニヒトはうめき声を上げながら口から血を吐くとその場に倒れ込んだ。
「貴様が民主共和政治を愚弄しようと国家を食い潰そうと。市民を誑そうとそんな事は俺の関知する所ではない……だがその汚らわしい舌でカイザーの名を汚すことは許さん。俺は貴様ごときに侮辱されるような御方にお仕えていた訳でもないし、背いたのでもない!」
ロイエンタールは倒れ込んだとトリューニヒトを横目に手にしていたブラスターを手放すと撃ち抜かれた左胸を抑える。
「うぐっ……どこまでも不愉快なやつだったが……俺が生涯の最後に殺すのが寄生虫とは……相応しいな……」
ロイエンタールは左胸から流れる大量の血を見ながら呟いた。
「早く来いよミッターマイヤー……俺が死ぬ前にな……」
血を吐きながらロイエンタールは呟いた。