不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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剣は鞘に

  総督府の広場に強行着陸したアースラからミッターマイヤーが駆け出す。

 その後に続くようにとシェーンコップ、シグナム、はやてが駆け出す。

 

 総督府は突然の事に混乱し多くの兵士が出迎える。

 

「ミ、ミッターマイヤー提督! これは一体……」

 

「ロイエンタールはどこだ!?」

 

「ロイエンタール閣下は最上階に……これはどういう事です? 演習ですか? それとも……」

 

「詳しいことを話している時間はない! よし! 行くぞ!」

 

 狼狽える兵士を無視しエレベーターに乗り込んだ。

 

 エレベーターが最上階に到着して扉が開く。

 

 その時、二発のブラスターの発射音が響いだ。

 

「なんや!」

 

「銃声だ……総督の部屋からだ!」

 

 その発射音を聞いたミッターマイヤーとシェーンコップは互いに目線を合わせ頷くと同時にブラスターを手にした。

 

「俺達が突入する」

 

「女性陣はここで待機していてくれ」

 

 二人の言葉にシグナムとはやては頷いた。

 

「よし、行くぞ!」

 

 ミッターマイヤーがそう言うと二人は走り出した。

 

「大丈夫かや……」

 

「あの二人は相当の実力者だと思います。大丈夫でしょう」

 

 シグナムがそういった時、はやての耳に何かが聞こえた。

 

「なんや……今なにか……声が?」

 

「声? ですか?」

 

「しっ」

 

 はやてが口元に手をやり耳を澄ます。

 

 すると総督室の隣の部屋から声が聞こえてくる。

 

「なんやこの声は……赤ちゃんのぐずっているような声や……」

 

「子供が居るのでしょうか?」

 

「こんな状況や……見てみよう」

 

「はい」

 

 シグナムが部屋の扉をゆっくりと開ける。

 すると部屋の中に一人の女声が幼い赤子を抱いて椅子に座っていた。

 

「トリューニヒトは……あの男の死を見せてやると言っていたが……どうやらしくじったようね」

 

 女性は子供を抱きながら呟いた。

 

「あの、ここに居ては危険です」

 

 シグナムを先頭にはやてがそう言いながら入室する。

 

「もし仮にトリューニヒトが上手く事をなしてあの男が死んだとしても、結局私達は叛逆者の家族として政治利用されて……皇帝に取り入るつもりだったんでしょうね……でも結局上手くいかなかったようね」

 

「あの……さっきから何を?」

 

 はやてが首を傾げると、女性は立ち上がる。

 

「あ、あの」

 

 女性は歩き出すとシグナムの前で立ち止まった。

 

「あの……なにを……」

 

 女性はシグナムに子供を差し出した。

 

「え?」

 

「あの男に、オスカー・フォン・ロイエンタールにこの子を」

 

「え? 何を言って」

 

 子供をシグナムに押し付けた女性は覚束ない足取りで部屋を後にした。

 

「なん……だったんだ……」

 

 シグナムが唖然としていると、腕の中で子供がぐずり始める。

 

「あわわ」

 

「と、兎に角あやすんや」

 

「あやすと言われましても……」

 

 シグナムは子供をあやすように体を揺らす。

 

「あの女の人、この子をオスカー・フォン・ロイエンタールに言うてたな」

 

「はい、目的の人物です」

 

「取り敢えず、総督室に向かおう」

 

 二人は子供を連れながら総督室に向かった。

 

 二人が部屋の外に出た時にはすでに女性の姿は無かった。

 

 

  一方、銃声がした総督室に突入したミッターマイヤーとシェーンコップはブラスターを構える。

 

 そこには、床の血溜まりの上で倒れているトリューニヒトと左胸から血を流し、椅子に力無くもたれ掛かっているロイエンタールの姿があった。

 

「ロイエンタール!」

 

 ミッターマイヤーはロイエンタールに駆け寄る。

 

「ロイエンタール! 目を覚ませ! ロイエンタール!」

 

 ミッターマイヤーの声にロイエンタールは重い瞼を開ける。

 

「あ……あぁ……ミッターマイヤー……卿か……間に合ったようだな。疾風ウォルフは伊達ではないな」

 

「何があったんだ……」

 

「なぁに……ローエングラム王朝を食い潰そうとしている寄生虫を駆除したまでだ……」

 

「ロイエンタール……待ってろ! 今すぐ医者を」

 

「いや、もう手遅れだろう……血を流しすぎた。最期に卿に会えてよかった」

 

「ロイエンタール……」

 

「俺は……心の何処かでは卿に謀叛を止めて欲しかったのやもしれぬ……今となっては良くわからぬがな……」

 

 その時、総督室の入口にはやてと子供を抱いたシグナムが入って来た。

 

「あ、あの、金髪の女性がこの子をオスカー・フォン・ロイエンタールさんにと……」

 

 はやてがそう言うと、シグナムが抱いている子供が少しぐずり鳴き声を上げる。

 

「その子供は……」

 

「その女は……リヒテンラーデ……一族の生き残りだろう……だとするとその子は俺の子だ……母親が去って子供が残る……二世代に渡ってそうだ……お前は父親に似すぎたようだ……」

 

 ロイエンタールは子供を見据えると呟いた。

 

「ミッターマイヤー……最期に一つ……頼みがある」

 

「頼み……だと」

 

 ロイエンタールは苦しそうな声で続けた。

 

「古代の偉そうな奴が偉そうに言った言葉がある……死ぬに当たって幼い子供を託しうる様な友人を持つことが叶えば、人生最上の幸福だと……」

 

「ロイエンタール……何を言って……」

 

「ミッターマイヤー……卿にこの子を頼む。卿に任せればそれがこの子にとって最良の人生を保証する事となるだろう……あの女と俺の組み合わせよりも遥かに人の親となるべき資格に優れた夫婦だろう……」

 

「ロイエンタール……くっ……あぁ! 任せろ、必ず幸せにしてみせる……だから!」

 

「あぁ……」

 

 ロイエンタールはどこか満足げな表情で答えた。

 

「ミッターマイヤー……その棚の中にウィスキーがある。グラスを2つ出してくれ」

 

「ああ……」

 

 ミッターマイヤーは棚からウィスキーとグラスを2つ取り出すと、片方を自分の目の前に、もう片方をロイエンタールの前に置いて、少量ウィスキーを注いだ。

 

「カイザーに」

 

「カイザーに」

 

 二人はそう言うとグラスを持つ。

 

 そして乾杯しようとした瞬間、ロイエンタールの力が抜け、乾杯されること無く、グラスが床に落ちた。

 

「ロイエンタール! 死ぬな! ロイエンタール! 俺はカイザーからお前を生きて連れて来るように命を受けたんだぞ!」

 

 力の抜けたロイエンタールはそのまま、椅子に力無くもたれ掛かった。

 

 その時、はやてが駆け出し、ロイエンタールに手をかざす。

 

「八神女史! 何を!」

 

「治療します! まだ間に合うかもしれません!」

 

 はやての手の平から光が溢れ出す。

 

「これが……魔法……ロイエンタールは……ロイエンタールは助かるのか!?」

 

「分かりません……ですが最善を尽くします」

 

「頼む! ロイエンタールを頼む!」

 

 ミッターマイヤーの声が室内に響いた。

 

 数分後、はやての手の平から発せられる光が止むとはやては息を吐き汗を拭う。

 

「ふぅ……」

 

「どうなったのだ!」

 

 ロイエンタールの顔色は良く、浅くではあるが呼吸していた。

 

「なんとか……なりました。これで後は病院へ行けば大丈夫でしょう」

 

「本当か! 感謝するぞ八神女史!」

 

 ミッターマイヤーははやての手を取ると大きく上下に振るう。

 

「あはは……私は私に出来ることをしたまでですよ」

 

「それだとしても、大した功績だ、カイザーに報告しておこう。きっと褒美をくださるだろう」

 

 ミッターマイヤーは嬉しそうに声を上げた。

 

 その時、シェーンコップが声を上げた。

 

「ところで、こちらの死体はどうされますかな?」

 

 シェーンコップはトリューニヒトの死体を足で小突いた。

 

「カイザーの指示を仰ぐが、卿等イゼルローンで好きなようにしていいだろう」

 

「そうでありますか」

 

 シェーンコップはトリューニヒトの死体を横目に呟いた。

 

 その後ミッターマイヤーは撤収準備を始めた。

 

 

 

  数週間後、ハイネセンにラインハルトを載せたブリュンヒルトが到着した。

 

 到着後、ラインハルトはビッテンフェルトを始め7人の提督を引き連れ、ハイネセンの総督府の一室に来ていた。

 

 これから総督府の一室で極秘裏にロイエンタールが起こした謀反の沙汰が知らされることになる。

 その場に一人、場違いであるにも関わらず呼び出されたはやては緊張した様子で周囲を見回していた。

 

「オスカー・フォン・ロイエンタール元帥をお連れしました」

 

 帝国兵が報告するとラインハルトは頷いた。

 

 すると、扉が開き、退院直後で覚束ない足取りだが手錠で拘束されたロイエンタールが入室した。

 

 ロイエンタールはラインハルトの座る椅子の前に立つと沙汰を待った。

 

「ロイエンタール。卿はローエングラム王朝に対し謀反を企てた。間違いないな」

 

「はい、間違いありません」

 

 ロイエンタールの言葉に参列してたミッターマイヤーは苦悶の表情を浮かべた。

 

「なにか弁論はあるか?」

 

「いいえ……私が陛下に対し謀反を企てたことは間違いありません」

 

「そうか」

 

「ただ……謀反を企てた身でありながら一つ陛下にお願いがございます」

 

「申してみよ」

 

「実行しなかったとは言え謀反を企てた責任は全て私一人にあります。部下達は何も知りません……どうか部下達には寛大な御処置を……」

 

「良かろう。悪いようにはせぬ」

 

 ラインハルトが答えるとロイエンタールは一礼した。

 

「さて、謀反を企てたものに対してはどの様な処罰が最適か……ミッターマイヤー、申してみよ」

 

「はっ!」

 

 ミッターマイヤーは帝国式の敬礼をした後答えた。

 

「謀反は企てただけでも大罪であり、一般的には死罪が最適かと」

 

「そうか、死罪か……」

 

 ラインハルトは呟き、諸提督達は頷いていた。

 

「では、ロイエンタール。卿には死罪を申し渡す」

 

「はっ」

 

 ロイエンタールは取り乱すこと無く一礼した。

 

「さて、余の決定に異がある者はおらぬか?」

 

 ラインハルトはそう言いながら参列者を見回す。

 

 周囲の全員が微動だにせずにいる中、はやては周囲を見回す。

 

「あぇ……う」

 

「異論がある者は居ないのだな」

 

 ラインハルトは最後にそう言うと小さく息を吐き周囲を見回した。

 

「あっ、あの!」

 

 はやては静寂を切り裂くように手を上げた。

 その場の全員の視線がはやてに集まる。

 

「八神女史か……異があるのか?」

 

「あ……はい!」

 

「よろしい。申してみよ」

 

 ラインハルトが許可を出し、はやては恐る恐る口を開いた。

 

「あの……えっと、ロイエンタール閣下は私が魔法によって治療を行いました」

 

「ほう、それで?」

 

 ラインハルトは何処か優しげな口調で問いかける。

 

「その、魔法による治療を行う前のロイエンタール閣下は瀕死の重傷を負っていました。それを私が魔法で治療しました! 私は死なせるために魔法で治療したわけではありません!」

 

 はやてが半ば叫ぶように答えると、ラインハルトは顎に手を置き少し考える。

 

「陛下、差し出がましいようですがよろしいですか?」

 

 ミッターマイヤーが手を挙げる。

 

「よかろう」

 

「はっ!」

 

 発言を許可されミッターマイヤーは口を開く。

 

「八神女史の発言には一部間違いがあります。ロイエンタールは八神女史が治療する前に一度私の目の前で死亡しました。それを彼女の魔法で蘇生させたのです。よって八神女史の言う瀕死重傷は誤りであります」

 

「ミッターマイヤーはそう言っているがロイエンタールは一度死んだのか? 八神女史よ」

 

 全員の視線がはやてに集まり、一気に背筋が凍る。

 そんな中はやては絞り出すように呟いた。

 

「あぇ……えぇーっと。多分そうだと思います」

 

「そうか……ロイエンタールよ。卿は一度死んだそうだが、間違いないか?」

 

「死んだ……という実感は有りませんが……ミッターマイヤーと彼女の話では一度死んだようです」

 

「そうか……ふむ……」

 

 ラインハルトは小さく笑うと口を開いた。

 

「ヴァルハラから帰ってきた者を再びヴァルハラに送ってしまえば大神オーディンの怒りを買うやもしれぬな。それは縁起が悪い。とてもな。そして、ロイエンタールの罪は一度目の死によって償われた。ロイエンタールよ。卿は二度目の生でも余に忠誠を誓い仕える気はあるか?」

 

「陛下がそれをお許しくださるのならば」

 

「よし、ならば卿には再び余のもとでその力を発揮してもらおう。後ほど卿の配置を考えよう。今は治療に専念し体調を万全にせよ」

 

「はっ!」

 

 ロイエンタールは手錠されたまま帝国式の敬礼を行った。

 

 こうして、ロイエンタールの沙汰は下された。

 

「それでは八神女史」

 

「は、はい!」

 

 ラインハルトの突然の呼びかけに声を上ずらせてはやてが答える。

 

「此度の一件。無事に終わったのは貴女の尽力によるところが大きい。よって褒美を授けよう」

 

 ラインハルトがそう言うと、奥から何かが詰まった布袋を台座に乗せた帝国兵が現れた。

 

「あ、あの……これは……」

 

「爵位や軍での階級をとも考えたが、貴女はまだ正式にこちらの時空の関与していないのでな。その様なものではなく褒賞金ということにした。遠慮なく受け取るが良い」

 

 全員の視線を一身に浴びながらはやてが布袋を手にする。

 

「重たっ……」

 

 布袋の重さにはやてはつい口走る。

 そして、布袋の僅かに開いた口から覗く金貨を目にし唖然とする。

 

「あ……あのぉ」

 

「10万帝国マルクはある。謀叛を防ぎ、無用な血を流さずに済んだ功績に対しては少ないだろうが残りは正式に時空管理局と関係を築いてから追って渡す予定だ」

 

 胸に布袋を抱くはやてにそう告げるとラインハルトはその場を後にし、8人の提督達も後に続いた。

 

 取り残されたはやては布袋と虚空を交互に眺めた。

 

 

  ゲストルームに戻ったはやてはため息を吐きながら布袋を抱きしめその場に座り込んだ。

 

「ふうう……怖かったぁ……怖かったよぉ」

 

 半泣きのはやては目頭を押さえる。

 

「お疲れ様だね。はやて」

 

 ヤンは座り込んだはやてに声をかけた。

 

「なんでや……なんで、あんなピリピリした雰囲気の重苦しい場所に私が呼ばれなあかんのや……」

 

「そりゃ当事者だからね」

 

「すごい気疲れしたわぁ……でもおじさんが言った通りになったよ、私が異論を言えばロイエンタール閣下は死なずに済むって、わかっていたの?」

 

「うーん。まぁ……カイザーも双璧と言われるロイエンタール閣下ほどの有能な人材を手放したくはないだろうし、実際に謀反が行われた訳じゃないからね、だが帝国としては謀反を企てた人物を無罪放免とは行かないからね、真実を知っている幕僚達であっても。だからこそ帝国でもイゼルローン軍でもない第三勢力であるお前さんからの異論が必要だったんだよ」

 

「良うわからんけど……もし私が何も言わなかったらどうなっとったんやろう?」

 

「恐らく、このまま死罪が決行されただろうね」

 

「え?」

 

「まぁ、だから私がお前さんに助言をしたのさ」

 

「それ、カイザーは知っとったん?」

 

「いいや、知らないし私もカイザーも打ち合わせなんてしていないよ。だがカイザーも同じ考えに至ったんだろうね。諸提督もお前さんが参列している時点でおおよそ感付いて居たとは思うよ」

 

 はやては頭を抱える。

 

「あぁぁあ……もう訳がわからへん……頭痛い……」

 

「ハハ」

 

 頭を抱えるはやてを尻目にヤンは小さく笑っていた。

 

「それになんなんコレ……中身全部金貨やん……」

 

「カイザーからのご褒美だね」

 

「褒美貰うほどのことをしとらんのやけど……」

 

「イヤイヤ……謀叛を防いだ上に、ロイエンタール閣下の命も救ったんだ。無駄な1回の戦闘を防ぐだけでその戦費を考えれば十分ペイできるさ」

 

「こんなに金貨……初めてみたわ……」

 

「褒賞金なら小切手よりも金貨の方がインパクト有るからね」

 

「コレっていくら位なんや……為替が分からん……」

 

 はやてはそう呟き項垂れた。

 その後、長考した結果、アースラの自室に有る金庫に何重にも魔法でロックをかけて厳重に仕舞うことにしたという。

 




少し無理やりな解決で終わりましたが

まぁ、ご都合主義と言うことで
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