不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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魔術師と新たな年

  数週間の時が過ぎ、新年を迎えた。

 

 イゼルローンで年を越したはやてはゲストルームでヴォルケンリッターと共に新年の空気を感じていた。

 そんなはやて達の元にヤンがフレデリカとユリアンを連れてやっていた。

 

「あーおじさん、あけましておめでとう」

 

「あぁ、新年を迎えたね。そうか……私は無事この時空で新年を迎えられたのか……なんか感慨深いな」

 

「どうして?」

 

 ヤンの呟きにはやてが問いかける。

 

「普通に考えれば、私はあの時死んでいたんだ。それをお前さん達に助けられて、無事に帰れて新年を迎えられたと思うとね」

 

「大袈裟やなぁ」

 

「大袈裟なもんか。それとこれを渡しておこう。お年玉だ」

 

「提督、お年玉とは?」

 

 ユリアンが首を傾げる。

 

「あぁ、彼女達が居た日本では新年には大人から子供に小遣いを渡すのさ」

 

 ヤンがはやてに数字が刻まれてたカードを手渡す。

 

「ありがとなぁ~貨幣価値がようわからんのやけどな〜大切に使うで」

 

「それは私達からの感謝の気持よ。本当は倍くらいはあっても良いと思ったんだけど……」

 

「まぁ、はやてなら無駄遣いはしないはずだからこれくらいだろうって話さ」

 

「だからこれはこの人を今まで養ってくれたお礼よ。とてもこれだけじゃ返しきれるものじゃないけれども」

 

 ヤンの隣でフレデリカが言うとはやては小さく笑う。

 

「いや、寧ろお世話になっていたのは私の方でして」

 

「まぁそういうことだからはやて、遠慮なく受け取ってくれ」

 

「ありがとう。後で皆で買い物行こうと思っとったんよ。その時使わせてもらうで」

 

「そうかい、そういう事ならユリアン、案内してあげなさい」

 

「え? 僕がですか?」

 

 唐突に名指しされユリアンは面食らう。

 

「私は表には出られないし、フレデリカも仕事がある。そうなればお前さんが適任さ」

 

「ウ~ン、提督がおっしゃるなら……」

 

 ユリアンは渋々了承した。

 

「しかし、まさか私もこっちの時空で年を越すとはなぁ」

 

「そうだはやて、結構長い間こちらの時空に居るが時差は大丈夫なのか?」

 

「そこは大丈夫。座標は固定しとるから後は魔法で調節すれば時差はほぼ無くなるで」

 

「でもこの前の謀反の際は時差を利用しただろ?」

 

「あーあれはワザと時間を固定させずに移動した、裏技みたいなもんや」

 

「それは、魔法とは便利なものだな」

 

「あはは、それ以外の技術はこっちの時空のほうが上やけどね」

 

 はやては小さく笑った。

 

「そういえば、時空管理局にはどんな報告をしているんだ?」

 

「せやった……以前のロイエンタール閣下の一件……時空管理局に事後報告したらえらい怒られてなぁ……やれ、謀反が起こった直後に即時報告しろ、事後報告では遅すぎるやら、やれ内政干渉やら……まぁ確かに、上層部の言い分も分かるんや……確かに内政干渉と言われら仕方ないけどさぁ……謀反に便乗して何か企んでたんやないか邪推してまうわぁ」

 

「まぁ……過ぎてしまったことは仕方ないさ」

 

「そのせいで半年間の減給処分やって……」

 

 はやては大きくため息を吐き肩を落とす。

 

「上層部はカンカンのようだね。にしては減給処分だけとは案外優しいじゃないか」

 

「せやからお年玉はありがたいで……上層部に怒られた時は降格も覚悟しとったし、罪に問われるようなら亡命しようかとも考えたんやけどなぁ……まぁ……上層部としては帝国との取引で私という緩衝材を失いたくはないんやろなぁ」

 

「確かに、お前さんはカイザーに気に入られているようだしね。上層部には帝国の事をなんて報告してるんだい?」

 

「高い科学力を有している時空で管理ではなく共存をする事を提案するって報告はしとるよ。渋々やろうけど上もその方向で進めてると思うで、後はカイザーが時空管理局と仲良くしてくれる事を願いつつ公表のタイミングを伺う感じやな」

 

「なるほど、そうだ、公表と言えば先ほど情報が入ったんだが、カイザーラインハルトが結婚を公表したそうだよ。それに跡継ぎも6月頃生まれるようだ」

 

「ほーんそらぁ新年早々おめでたいなぁ」

 

 はやては嬉しそうに微笑んだ。

 

「以前だったら困ったが、現状なら素直にお祝いするべきだね」

 

「以前は祝えなかったん?」

 

「まぁ、敵対していたって言うのもあるし、ローエングラム王朝の弱点はカイザーの後継者が居ないっていうのがあったからね」

 

「なるほど、それが今回の結婚で解消されたわけやな」

 

「そうだね。しかし、あのカイザーが結婚か。時勢は大きく揺れ動くな」

 

 ヤンは首を傾げた。

 

  数時間後。

 はやてとリインフォース、ヴィータとシャマルは外出の準備を始めた。

 

「ヴィータ。忘れもんはないか?」

 

「大丈夫だよーはやて」

 

「ザフィーラは寝てるとして、シグナムはどこ行ったん?」

 

「先程訓練をすると言って出て行きました」

 

「新年なのにストイックやなぁ」

 

 3人は笑い合った。

 

「さて、準備はよろしいですか? 八神中佐」

 

「えぇ。出来てますよ。それでは案内頼みますよミンツ中尉殿」

 

「それでは行きましょうか」

 

 ユリアンに案内され3人は退室した。

 

「さて、これで仲良くなってくれれば良いんだが」

 

 ヤンは呟くと溜息を吐いた。

 

 

 町中は新年を祝うムードに包まれており、出店なども見て取れる。

 

「すっごい活気やな」

 

「新年というのもありますが、ここ最近目立った戦闘もないので市民にも活気があるんですよ」

 

 はやての呟きにユリアンが答える。

 

「なるほど……そうなのですね。しっかしコレだけの規模の街……と言うか最早惑星と言ってもいい規模のトップをおじさんが務めていたなんて……想像ができませんね」

 

 ユリアンは少し顔を歪める。

 

「時空管理局での提督はどんな様子だったんですか?」

 

「そうですね〜時空管理局でのおじさんは図書館の司書の様な事をしていますね。家に帰ったら紅茶にお酒を入れて……フフッ」

 

「提督程の方を司書にするとは……時空管理局は人を見る目がないようですね。ですが……提督は幸せそうですね」

 

「おじさんはノビノビとしていましたよ。時空管理局は魔法を使えないと階級を得るのは難しいですからね。魔法至上主義な所もあります」

 

「また魔法……ですか……個人の能力を評価するのは良いですが、それが過ぎれば貴族などの階級制度になりそうですね」

 

「そう言ったところが全く無いとは言い切れませんね……私もそう言う階級制度は嫌いですよ」

 

「意外ですね……疑問が有るのですが良いですか?」

 

「ええ。構いませんよ」

 

「貴女が提督を召喚したと言うのは伺っていますが何故提督を今までお世話してきたんです?」

 

「え?」

 

 突然の問いかけにはやては唖然とする。

 

「普通に考えれば見ず知らずの人を召喚してしまったとは言え10年も生活を共にするのは何故なのかと思いまして……それこそ時空管理局に保護させてそれで終わりでは? それにご両親だって見ず知らずの人物を家においておくなど」

 

 ユリアンの疑問を聞いてはやては小さく笑った。

 

「私の両親は、私が幼い頃に……」

 

「あっ……それはその……失礼を」

 

 ユリアンははやての答えを聞いてバツの悪い表情をする。

 

「いえ、良いんですよ。それに親が居なかったからとは言え、私はさみしくはないんです」

 

「それは……」

 

「私にはヴォルケンリッターの皆や、おじさんが居てくれましたから……」

 

 はやての言葉にユリアンは胸の奥がチクリと痛むのを感じだ。

 

 

「それに私は……おじさんに恩が有るんですよ」

 

「恩?」

 

「はい。私は子供の頃……時空管理局に封印されそうになったんですよ」

 

「封印?」

 

 はやては何処か悲しげな表情で続ける。

 

「簡単に言うと私が生きていたら世界が破滅してしまう……それを防ぐ為に時空管理局は私を封印しようとしたんです」

 

「その封印っていうのは……つまり」

 

「えぇ……限り無く死等しい事です」

 

「子供に……そんな……提督がそのことを知れば猛反対するでしょうね」

 

「まさにその通りです。後々になって当時の担当者に聞いたのですが、おじさんが色々策を巡らせてくれたおかげで今私は生きているんです」

 

「そう、だったのですか」

 

「えぇ……おじさんは私達を命の恩人と言いますが、私達からしたらおじさんこそ命の恩人なのですよ。だからこれは恩返しなんです」

 

 はやては笑みを浮かべる。

 

「なるほど……提督らしいですね……ですが分かりません……なんで貴女は自身を見殺しにしようとした組織に属しているんですか?」

 

 ユリアンは何処か悲しげにはやてに問いかける。

 

「そうですね……表向きは魔法の素質があった私を時空管理局がスカウトしてっていう感じですが……実際は当時は私を守る為に戦った皆……家族やおじさんを時空管理局が犯罪者にならない代わりに入局すると言う……まぁそんな取引ですね」

 

「そ、そんな……」

 

「ですがね」

 

 はやてが力強い呟く。

 

「ですが、今は私は時空管理局に入ることを決めたのは、自分の意志ですし、後悔もしていません。だって……管理局員だったからこそおじさんをこの時空に帰してあげれたんですもの」

 

「そう……ですか」

 

 何処か悲しげな表情のユリアンにはやては微笑む。

 

「フフ……そうだ! 以前のおじさんのことを教えてくださいよ」

 

「え?」

 

「私は時空管理局で生活していたおじさんの事を知っていますが、同盟軍の元帥としてのおじさんを知らないんです。ですから」

 

「フッ……そうですね。ではあちらのカフェで話しましょうか」

 

「良いですね。それに私達は案外似た境遇何かもしれませんね」

 

「そうですね。僕も提督には返しきれないほどの恩義があります」

 

 はやて達は近場のカフェへと足を進めた。

 

「ところで、先ほどおじさんからお年玉として貰ったこのカード、100万って書いてあるんですがどれ程の価値なんですか? 後でヴォルケンリッター達を連れて夕食に行こうと思っているのですが、夕食代くらいにはなりますかね?」

 

 はやてはポケットに仕舞い込んだカードを取り出す。

 

「日本円に近かったら100万円くらいだったりして? イヤイヤそれはないか……だいたい10万か……いやお年玉やし1万円位かや?」

 

 小声で呟くはやてからカードを見せられたユリアンは驚愕する。

 

「え? そんなに……しかしフェザーンマルクで……」

 

「こん……なにって……高いんですか?」

 

「そうですね……大体提督の年収とほぼ同額ですね」

 

「え? 元帥クラスの年収って……」

 

「フェザーンマルクもディナールも大体一緒です。提督の給与は8万3000ディナール程ですから……」

 

 はやての顔が一気に真顔になる。

 

「ちなみに僕が兵長時代は1カ月で1440ディナールでした」

 

「えっと……つまり……」

 

「えーっと……ですね。高級車なら6〜8台買えるくらいですね。場所を選べば庭付きの住宅が買えるかも」

 

「あわ……ああわ……」

 

 カードを持つはやての手が震える

 

「八神中佐?」

 

 震えるはやてをユリアンは心配そうに見据える。

 

「お年玉の域超えとるやろ!」

 

 はやては声を荒らげ、周囲の人々の注目を集める。

 

「ちょっと! 八神中佐! 声が大きいですよ!」

 

 ワナワナと震えながら力強くカードを握り締めるはやてをユリアンが宥め始める。

 

「金額おかしいやろ! もう財産分与やん! 贈与税かかるわ!」

 

「何をおっしゃってるんですか? まぁ……その金額は提督の今までの生活費とイゼルローン軍の軍事と精神的支柱である提督を無事にイゼルローンに送り届けて頂いた謝礼だと思って……」

 

「おじさんもやがフレデリカさんも……感覚ズレとらんか? と言うかおじさんそんなに貰っとったんか!」

 

「まぁ……元帥で提督ですし……あのお二人のお考えは凡人の僕には……」

 

 はやては厳重にカードを懐のポケットに仕舞いつつ頭を掻き、そんな様子を見てユリアンは笑みをこぼした。

 

「あっ……もしかして帝国マルクも……」

 

「大体は一緒です」

 

「つまり……10万帝国マルクは……なんや1/10かぁ……ってそうやけどそうや無いやろ!」

 

 はやては唖然としその場に立ちすくんだ。

 その後、結局はやてはこのカードもアースラの自室に有る金庫に仕舞い、更に厳重にロックを掛けて保管したという。

 

 

  一方その頃、訓練施設で訓練用の剣で素振りをしていたシグナムに背後から声がかけられた。

 

「新年だと言うのに精が出ますな」

 

 シグナムが振り返るとそこにはシェーンコップが立っていた。

 

「貴公か。何の用だ?」

 

「この様なむさ苦しい場所に紅一点だったものでね。声を掛けないのは失礼でしょう」

 

「フッ、そうか」

 

 シグナムは手元にあった訓練用の手斧をシェーンコップに投げた。

 

「おっと」

 

 シェーンコップは片手で手斧を受け取る。

 

「どうせ暇をしているのだろ? ローゼンリッター隊長の実力に興味がある。手合わせ願おう」

 

「フッ、美女のお誘いとあらば断る理由はありませんな」

 

 シェーンコップは微笑みながら手斧を握り直した。

 

 訓練所において、シェーンコップとシグナムの模擬戦は苛烈を極めていた。

 

「おい、見ろよ。あの女、隊長に引けを取らないぞ」

 

 ローゼンリッターの数人が二人の模擬戦を観戦し始めた。

 

 そのうちの一人が声を上げた。

 

「さぁさぁ! どっちが勝つと思う!」

 

「俺は隊長だ!」

 

「いや、あの女もなかなかやるぞ」

 

 いつの間にか人集りが出来、シェーンコップとシグナムのどちらが勝つかで賭けが始まった。

 

 賭けが行われた事など気に留めていない二人は、互いに一進一退の攻防が続いていた。

 

 二人は一瞬距離を取ると互いに武器を横に薙ぐ。

 

 戦いが終わるのはいつも唐突である。

 

 二人の武器は互いの首筋を捕らえており、当たる寸前で止まった。

「フッ、やるな」

 

「そちらこそ」

 

 互いに小さく笑うと武器を下ろした。

 

「人の身で良くここまで練り上げたものだ」

 

「そちらこそ、魔法とやらを使わずに大した腕だ」

 

 二人は訓練所を出ようとする。

 

「おい、お前達」

 

 シェーンコップは観戦していたローゼンリッターの隊員達に声を掛ける。

 

「賭けはどうだった?」

 

 シェーンコップは人集りの中心にある2つヘルメット目をやる。

 

 逆さまのヘルメットの中にはそれぞれに紙幣や小銭が大量に入っていた。

 

「どうやら引き分けに掛けたやつは居ないようだな」

 

 シェーンコップはそう言うと賭けられていた中身を全て掴み取る。

 

「あっ、隊長!」

 

「受取人が居ないのだから賭けは無効だな」

 

「そりゃないですよ!」

 

 シェーンコップはそう言うと隊員達に手を振る。

 

「さて、フロイライン、臨時収入が入りましてな。よろしければこの後食事でもいかがかな? うまい店をご紹介しましょう」

 

「ほぉ、それは良い……」

 

 去っていく二人の背中をローゼンリッターの隊員達は呆然と見送っていた。

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