数日後。
イゼルローン要塞にラインハルトの名で帝国から秘密裏に結婚式の招待状が届いた。
「提督、カイザーから招待状が届いていますよ!」
ユリアンが招待状を持ってヤンとはやて達のもとにやって来た。
「どれどれ……招待者はっと……ユリアンと後は−−」
「うわ、私達の名前まである……なんでや?」
ヤンの背後から招待状を覗き込んだはやては驚愕する。
「これからは時空管理局と帝国はそれなりに関わって行かなければならないからね。時空管理局の代表として呼ばれたんだろうね。まだ表立っては公表されていないがね」
「私が代表とは……胃が痛くなってきた……おじさんも一緒に行こうや」
「私も招待されてるよ。ヤガミ・ウェンリーと書かれているね。おそらく私のことだろう」
「なんで私の苗字なんやろう?」
「ヤン・ウェンリーだと他の参列者に怪しまれるからね。カイザーなりに気を使ったのだろう」
「なるほど……」
「しかしカイザーからのお誘いとは……イゼルローンの立場が良くなってきていると考えて良いんですよね?」
「そう考えたいね。一部の旧同盟軍の人達にはカイザーの許しを得て私の生存が伝えられているおかげで落ち着いている。後はカイザーが結婚を期に性格が丸くなってくれれば良いのだがね」
ヤンは招待状片手に苦笑いする。
数週間後。
イゼルローンの帝国側出口において小型の巡洋艦に乗った招待客であるヤンとユリアン、はやてとヴォルケンリッター達が向かっていた。
「そろそろ、出口に到着します」
「そろそろか」
ユリアンの報告を聞き作戦台の上で胡座をかいているヤンが呟く。
「提督。出口付近の帝国軍から通信が入りました」
「繋いでくれ」
ユリアンがコンソールを操作するとモニターにミッターマイヤーの姿が映し出された。
「カイザーの招待を受けてくれたことを感謝する」
「こちらこそ、御招待ありがとうございます」
「カイザーからの命を受けてな。我が艦隊の精鋭で卿等をオーディンまで護衛しよう」
出口付近には30隻を越える艦隊が待機していた。
「これは……手厚い護衛感謝いたします」
「卿等にはロイエンタールの一件で俺と個人としても恩が有るからな。それにカイザーも以前のような失態は犯したくないのだろう」
「コレだけ手厚い護衛なら安心します」
「それじゃあ、フェザーンへ向かおうか」
ヤン達は護衛艦に続き進んで行った。
数十日間程、宇宙を移動した後、フェザーンについた面々は会場であるホテル・シャングリラに向かった。
「ここが会場かぁ、カイザーの結婚式言うからもっとすごい豪華な宮殿みたいな会場を想像していたんやが……意外と庶民的なんやな……いや庶民的言うにはおかしな規模やけどな」
はやてはホテルの外観を見て意外そうに呟いた。
「カイザーは案外そう言うことにお金を使わない性格なのかもね」
「なんやね。意外やわ」
「さて、それじゃあそろそろ会場に向かおうか」
「あっちょっと待っておじさん」
はやてがヤンに手をかざすと一瞬光を放つ。
「何をしたんだい?」
「おじさんは身バレしたら危ういものね。認識阻害の魔法をね」
「それはありがたいが、招待者であるカイザーには認識されるのかい?」
「おじさんの存在を知っている場合は普通に認識されるよ。それ以外の人にはあやふやな人物に思われる感じやな」
「なるほど……既に死んだ私が生きているなど思いも寄らないか。相変わらず魔法は便利だね」
「注意していれば気付かれちゃうけどね」
ヤンは小さく笑った。
受付を済ませ会場に入ったヤン達は多くの参列者に威圧される。
「すごい人の数やな。圧巻やな」
「カイザーの結婚式だからね……そりゃ参列者は多いさ」
「多くの官僚や有力な貴族達の姿もあります」
ヤンの耳元でユリアンが耳打ちする。
「こりゃすごい場所にお呼ばれしたもんだ……」
「そうですね……」
「事前にシトレ元帥にはキャゼルヌ先輩を通じて連絡しておいて正解だったな」
「どんな連絡です?」
ユリアンが首を傾げると、ヤンが呟く様に答えた。
「私とユリアンが代表でイゼルローン軍からカイザーの結婚式に極秘裏に招待されていることをさ。先輩の話じゃシトレ元帥が止めに入らなきゃ旧同盟軍人による暴動まがいのことがハイネセンで計画されていたとか」
「ウェ……もし本当にハイネセンで暴動が起きたら僕達は危険な状況でしたね……」
「生きて帰れなかったかもな」
「二人共……そういう物騒な話はせんでほしわ」
はやては苦笑いをしながら首を横に振った。
その時、荘厳な音楽と共に扉が開かれ、ラインハルトとその花嫁ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフが入場してきた。
「あの人がカイザーの奥さんか……綺麗な人やね」
「彼女が皇妃……カイザリンか。聡明そうな人物だ」
ヤンとはやては各々感想を呟いた。
その後、結婚式は無事に終わり参列者に対して立食パーティーが行われた。
主賓席の二人の元に次々と官僚達が挨拶に向かっていく。
「おじさん。私達も行ったほうがいいのかな?」
「うーん、どうだろうね。ただでさえ私達はお忍びで来ているのだからな。挨拶に行って下手に目立つ訳にもな……しかしそれでは礼にかけるか?」
ヤンが悩んでいる所にミッターマイヤーがやって来た。
「失礼する」
「あっ、これはこれは」
「この前は助かった。改めて礼を言わせてくれ」
ミッターマイヤーはその場で一礼した。
「表向き今回のカイザーのご結婚の恩赦によってロイエンタールがウルヴァシーで起きたカイザー襲撃事件を未然に
怒りで震えるミッターマイヤーは拳を固く握りしめた。
「なるほど……そういう結果に着地されたのですね」
「あぁ、ロイエンタールの件に関してはウルヴァシーでの反乱分子……地球教の不穏な動きを見抜けなかったと言うことになっている。よって総督の地位の剥奪と数ヶ月の間減給だそうだ。そして現在は臨時の総督として幕僚であったベルゲングリューンが務めているが、存外あやつならそのまま臨時ではなく正式に総督を続けても問題はなかろう」
「なるほど」
ミッターマイヤーは鼻で笑いヤンは苦笑いする。
「此度の一件でイゼルローン軍が陛下を無事に送り届けてくれた上に、不穏分子の鎮圧に協力をしてくれたことで終息へと向かった……それ故に卿等が招待された……まぁそんな流れだな」
「いささか無理がありますが……まぁ筋が通っていますね」
「あぁ、ついでに言えばトリューニヒトの奴が地球教と繋がっていた故にロイエンタールに処されたと言うわけだ」
「なるほど」
「元とはいえ、あんな奴でも卿等旧同盟にとっては有力者だったのだろう? まぁあまり評判は良くなかったようだがな」
ヤンは苦笑いしながら頭を掻いたヤン。
「あぁ、それとカイザーから伝言があってな」
ミッターマイヤーは小さく咳払いをする。
「ここでは人目があってな。式が終わった後に卿等と話がしたいという事だ」
「はい。了解しました」
「それまでは式を楽しんでくれ」
ミッターマイヤーはそう言うと踵を返した。
「それじゃあ、後で行くとして今は大人しくパーティーを楽しもう」
ヤンは小さく呟いた。
ヴィータはシャマルと共に軽食を楽しんでいるとそこにビッテンフェルトが皿に盛られたローストビーフを食べながらやって来た。
「ヴィータではないか。お前達も招待されていたのだな」
「あっビッテンのオッサン」
「オッサンではないと言っているだろ」
ビッテンフェルトは諦め気味に呟いた。
「ところでヴィータよ。向こうのローストビーフはもう食したか? なかなかいけるぞ。お前の言葉を借りるならギガうまというやつだ」
「そいつは良いなぁ! シャマル。取りに行ってくる」
「ヨシ。俺も追加しに行こう」
ヴィータとビッテンフェルトは小走りで走り出した。
そんな2人をシャマルは微笑んで見送った。
「フロイライン。貴女も来ていたのだな」
シャマルの背後にオーベルシュタインが立っていた。
「あら、オーベルシュタインさん。えぇ。私達の主にもカイザーからお誘いがありましたので」
「そうであったか」
「はい。良い式ですね」
「そうであるな。ついでにお世継ぎの問題も解消された」
「喜ばしい事ですね」
「これで陛下が腑抜けにならなければよいのだがな」
「あら、滅多なことを言うものではありませんわ」
「事実を言ったまでのこと。しかし時空管理局にとっては陛下が腑抜けな方が御しやすく都合が良いのやも知れぬがな」
オーベルシュタインは表情を変えずに言い放つ。
「フフ……私のような一局員には過ぎたお話ですわ。しかし貴方のように聡明な方が側にいらっしゃればカイザーも安泰かもしれませんね」
オーベルシュタインの言にシャマルは微笑みながら返した。
「私はカイザーにとって利益になるのであれば別次元の時空管理局であろうと利用するまで。せいぜい利用価値を失わないことだな」
「それは私も同じことですわ。はやてちゃん……いえ、私達の主の為になるのでしたら帝国であろうと利用いたしますわ。害にならないでいただきたいですわ」
「ほぉ……では貴女の主にとって帝国が害する存在になった際はどうなさるおつもりかな?」
「フフ。それはそちらにも言えることですわ。それにもしもの話ですわよね?」
「今のところはな」
「そうですわね。私としてはもしもの話より友好的な関係を築きたいと思いますわ」
「そうだな……めでたい席で少しばかり物騒な内容だったな」
「えぇ……では今回はお互いに聞かなかったということで」
シャマルはオーベルシュタインの問をはぐらかし微笑んだ。
数時間後。
式は無事に終わった。
「ふぅ~お硬い場はやっぱ疲れるね〜」
ヤンは両手を上に上げながら背中を伸ばす。
「もう、おじさん、まだ会場なんだだからまだちゃんとしていてよ」
「そうですよ提督。どこで誰が監視しているか分かりませんからちゃんとしていてください」
「認識阻害も掛かっているしこの程度大丈夫さ。さてさっさと帰ろう」
「カイザーにお呼ばれしとるんやなかった?」
「そうなんだがね……」
ヤンは欠伸をしながら答える。
そんなヤンの背後からミッターマイヤーが声を掛ける。
「ここに居たのか。先程も言ったがカイザーが卿と話したがっている様でな。一緒に来てもらうぞ」
「アハハ〜そうでしたね……だから早く帰りたかったのに」
「何か言ったか?」
「いいえ別に……」
ヤンは観念したようにミッターマイヤーの後をついて行った。
ミッターマイヤーに案内された部屋の中にはラインハルトとヒルダが待っていた。
「ヤン・ウェンリーをお連れしました」
ミッターマイヤーがそう言うとラインハルトは小さく頷く。
「陛下。ご結婚おめでとうございます」
ヤンは敬礼し、それにならいはやて達も敬礼した。
「それで陛下。お話というのは?」
「あぁそうだな……以前余は同盟軍の老将に言われた事がある。民主主義とは対等の友人を作る思想であって、主従を作る思想ではないとな」
「陛下……」
「余には優秀な者は大勢いるが……だが余にとって友と呼べる者はもう……」
「……」
沈黙がその場に流れる。
「ヤン・ウェンリーよ」
「はい。陛下」
「卿に余の元に来いとは言わぬ。以前断られた故な」
ヤンは苦笑いを浮かべる。
「しかし余は卿を友とする事はできないだろう」
「ええ」
ヤンの返事を聞いてラインハルトが小さく笑う。
「そこでどうだろう……良き隣人として」
ラインハルトが右手を差し出す。
ヤン頷くと口を開く。
「再び陛下に部下になるようにお誘いを受けても、私は以前と変わらずお断りしたでしょう……しかし良き隣人と言うことでしたら、私は貴方の手を拒む理由はありません」
ヤンはそう言うとラインハルトの右手を取り握手をする。
イゼルローン民主共和自治区の成立が宣言されたのは先の出来事だが、ラインハルトの結婚が起因していると言う定説を後世の歴史家は口をそろえて言っている。
「さて、良き隣人である卿等に頼みたい事がある」
「そちらが本命ですね」
ヤンがそう言うとラインハルトは不敵に笑みを浮かべる。
「卿等にとっても悪い話ではないぞ」
「して、その内容は?」
「あぁ、卿の暗殺未遂やロイエンタールを貶めようとするなど、いささか地球教は目に余るのでな」
「確かにそうですね」
「宗教弾圧をするつもりは無いが、同盟と帝国、そしてフェザーンと長い間宇宙に蔓延っている悪辣な輩を見逃す訳には行かない……余としては次の世代に負債を残したくないのでな」
「えぇ……今の負債は私達の世代でカタを付ける必要がありますね」
「あぁ、故に地球教を討滅するつもりだ。その作戦にイゼルローン軍と時空管理局に協力要請をしたい」
「「え?」」
ラインハルトの言葉を聞いてはやてとユリアンが同時に疑問の声を上げた。
そんな2人にヤンは振り返る。
「陛下はそうおっしゃっているが?」
「余の協力要請を受け入れてもらえるか?」
ラインハルトは鋭い眼光ではやてとユリアンを見据える。
「えっと……どうしますか? 提督」
「おじさん、どうしようか?」
ユリアンとはやては同時にヤンに視線を向ける。
対するヤンは小さく首を振る。
「私は既に死んだものだと考えるんだ。次の世代を担うお前さん達で決めるんだ」
ヤンがそう言うとラインハルトは小さく笑った。
「卿もなかなか厳しい教育をするものよ」
「多少厳しくとも後のことを考えれば」
少しの間考えた後二人は口を開いた。
「えっと……時空管理局としては協力要請に応じますが……」
「イゼルローン軍としましても構いませんが……」
「二人共なぜ陛下が協力要請をしたか? と言った表情だね」
「そうですね、提督のおっしゃるとおり帝国軍の勢力ならばわざわざ協力要請するメリットがないかと……」
「まぁそうだね。でもこれからの事を考えると協力したという事実が大切なのさ」
「これからの事を……なるほど。これから帝国はイゼルローンの自治を。そして時空管理局はその存在が公のものになる……」
「差し当たって今回の合同作戦は公表するにあたっての実績作りって事やね」
「まぁそう言う事……ですよね陛下?」
ヤンとラインハルトが小さく笑みを浮かべる。
「さて……陛下。地球教を討滅すると言いますが、作戦はどのように?」
「実は水面下で地球教の拠点に兵を送りかなりの人員を逮捕しておってな……後は残党狩りを残すのみという状況だ」
「そうですか」
「あぁ……だがその残党狩り厄介でな、しかし作戦はある」
「その作戦とは?」
「オーベルシュタインに命じてアドリアン・ルビンスキーを地球教と繋がっている嫌疑で拘禁してある。実際、奴の周辺を調べたところ。地球教の大主教ド・ヴィリエと連絡を取っていた形跡を見つけた。そこでオーベルシュタインがルビンスキーに扮して奴等に余が見せしめに地球そのものを熱核兵器で破壊すると言う情報を流した。今頃奴等は激昂し余の暗殺の計画でも立てている頃であろう」
「では陛下自らが囮になると?」
「残党狩りをするには適した作戦だ。しかし軍を大規模に動かしてしまえば奴等は土竜のように再び地下に潜ってしまうかもしれぬ」
「だから正規の帝国軍ではなくイゼルローン軍と時空管理局の出番ということですね」
「そういうことだ。それに怪しい人物は全て排除したが皇宮に地球教徒が入り込んでいたのも事実。故に地球教徒ではないと言う確証が持てる卿等を呼んだのだ」
「しかし……陛下お一人に残党が集中するのは少しまずいですね」
「何故そう思う」
ヤンの提言にラインハルトが答えを求める。
「陛下お一人だけでは残党が総力を挙げてくる可能性は少ないかと。せめてもう一つ……ターゲットを用意できれば良いのですが……」
「卿では駄目なのか?」
「トリューニヒトが居ない今、私に最早囮としての価値があるかどうか」
「ふむ……そうは言うが……」
ヤンとラインハルトが同時に思案する。
「陛下」
その時ヒルダが口を開いた。
「囮がもう一つ必要ということでしたら、私がその役目を」
「何を言っている!?」
ラインハルトは声を荒らげるがヒルダは落ち着いた口調で答える。
「陛下と等々の人物となれば皇妃である私しか居ませんわ」
「ならぬぞカイザリン! 貴女は身重なのだぞ」
「分かっていますわ。だからこそ地球教のターゲットとして最適なのです。それに……陛下は仰ったじゃないですか。次の世代に負債を残したくないと。私もこの子に負債を残したくはないのです。陛下が行くなと言っても私は赴きます。帝国の皇妃として……そして一人の母親としても!」
ヒルダは真っすぐラインハルトを見据える。
「まったく……女傑であるな貴女は。そんな目をされては断れないではないか」
ラインハルトは諦めたように笑みを浮かべた。
正直今回の作戦でヒルダを巻き込むのは無理矢理感あるかもしれませんが、柊館炎上事件の再現をしたいので。
物語も佳境に入りました。
最後までお付き合いいただけると幸いです。