数週間後。
オーベルシュタインの策により地球教に偽情報を流した。
その内容は、皇帝ラインハルトと皇妃ヒルダが
また、療養ということもあり警備の兵はおらず最小限の使用人のみと言う情報も流し、地球教にとっては二人を同時に暗殺できる絶好のチャンスと言うことだろう。
地球教の間で罠であるかも知れないという話も出たが、皇帝と皇妃、この両名を同時に抹殺できる恰好の好機であるという事実は地球教にとっては例え罠であったとしても飛びつかずには居られないだろう。
その日、ヤンはユリアンとシェーンコップを連れ、はやてはヴォルケンリッターを引き連れてヤンと共に
ヤンが館のインターフォンを鳴らすとオーベルシュタインが館の扉を開く。
エントランスに通されるとそこでラインハルトとヒルダが出迎えた。
「卿等か」
「陛下自らお出迎えいただき感謝いたします。本当に警護の兵も居ないのですね」
「あぁ、表立っての兵は全員引かせてある。後詰として警備隊をケスラーに率いらせて少し離れた位置に控えさせては有るがな」
「なるほど……地球教……奴等は来るでしょうか?」
「私がルビンスキーに扮して奴等に情報は流しております。奴等の反応を見るに今夜、全勢力を持って
「では今夜が」
「うむ……そうであろうな」
ラインハルトが小さく頷いた。
その時、インターフォン鳴り響く。
「ほかに誰か来る予定があるのか?」
「いえ……その様な予定は……」
オーベルシュタインが首を振ると、全員が目配せし、警戒態勢を取る。
その時、再びインターフォンの音が鳴り響く。
ラインハルトが目配せし、ブラスターを片手にオーベルシュタインがゆっくりと扉を開く。
「……貴女様は……」
オーベルシュタインが一瞬息を飲むが、そのまま扉を開ける。
そこにはラインハルトとよく似た金髪の女性が、護衛も無しに一人で立っていた。
「え? まさか……」
「姉上! 何故こちらに!?」
ラインハルトが声を荒らげ驚愕する。
それもそのはずだ、玄関に立っていたのはラインハルト実姉であるアンネローゼ・フォン・グリューネワルトその人である。
「話は聞いています。ラインハルト、私も参加を」
「なりません! 姉上!」
アンネローゼの言葉を遮るように声を荒らげる。
「一体何処から情報が漏れたというのだ……兎に角、姉上にはすぐにお帰りいただく。オーベルシュタイン、すぐに迎えの兵を……」
「その必要はありません」
今度はラインハルトの言葉を遮り、アンネローゼが口を開く。
恐らくこの宇宙で唯一人、ラインハルトの言葉を遮れる人物であろう。
「あ、姉上……」
「私にはもう何もない……ラインハルト……貴方が大切なものを喪った時……私も喪ったわ……そして私はその時から立ち止まったまま今まで世捨て人のように過ごしてきました」
アンネローゼはおもむろに独白する。
「でも、ラインハルト……貴方は違う……貴方はそれでも前を向きひたすらに進んで行ったわ……そして貴方に愛する人ができて……新たな家族が生まれようとしている……そして貴方達は次の世代の為に命を賭けている……弟達が必死に頑張っているのに、姉である私がいつまでも立ち止まってはいられません」
「姉上……」
「アンネローゼ様……」
「だから……ラインハルト……私ももう過去は振り返らない事にするわ……許してくれるわよね……」
アンネローゼの独白の最後の言葉は誰かに語り掛けるわけでもなく、消えゆくように呟いた
ラインハルトはゆっくりとアンネローゼに歩み寄り、その手を両手で取る。
「分かりました……姉上……ですが此度の作戦はとても危険です。ですが私がこの身を持ってお守り──」
「いいえ、ラインハルト」
アンネローゼは笑顔で首を振る。
「貴方が守るべき相手はもう私じゃないわ」
アンネローゼはヒルダに向かい微笑みかける。
対するヒルダは目に涙を浮かべながら笑顔で頷いた。
ラインハルトはその様子を見て小さく頷く。
「分かりました姉上。ですが、カイザ……いえ、ヒルダの事も……そして姉上の事も両方守ってみせます」
「フフッ。欲張りねラインハルト」
「欲張りでなければ皇帝は務まりません」
無邪気ながら強い意志を持って答えたラインハルトにアンネローゼとヒルダは微笑んだ。
とんだ追加メンバーを加えた面々であったが、一段落終えた後、ユリアンとシェーンコップ、ザフィーラとヴィータそしてシグナムが館内を見回りながら構造を頭に叩き込む。
「まさか僕たちが皇帝の護衛をすることになるとは……夢にも思いませんでしたよ」
「まったくだ。数カ月前なら今すぐにでも引き返して、あの皇帝の首をイゼルローンに持ち帰って居ただろうな」
「そんな事をしたら帝国は全勢力を持ってイゼルローンをこの世から消し去っていたでしょうね」
シェーンコップの物騒なつぶやきに対しユリアンは苦笑いで答えた。
「これも、提督が生きてお帰りになられたおかげですね。この作戦が無事に終われば事態はいい方向へ進むことになるでしょう」
「ほぉ、それならば本気で皇帝を守らねばならぬな」
「ですね」
「あぁ、我等の主もそれを望んでいる」
「あぁ、その為には全力を尽くす」
5人は笑いながら館内の見周りを続けた。
一方その頃。
ヤンとラインハルト、オーベルシュタインは今夜の敵の襲撃について話し合っていた。
そんな3人の補佐をシャマルが務めていた。
「しかし……よもや卿とともに軍議を行うとは思わなかったぞ」
「そうですね。まったく人生とは何が有るかわかりませんな」
「死んだはずの卿が異世界より魔女を引き連れて蘇った……三流の作家でも思いつかぬ喜劇だな」
オーベルシュタインが言い放ちヤンは小さく苦笑いを浮かべる。
「まぁ、余はそんな三流の喜劇も嫌いではないがな」
「えぇ。私もです。いっそこの喜劇が末永く続いてくれる事を願いたいものです」
「フッ……ならばこそ此度の作戦ミスは許されぬ」
「勿論ですとも、微力を……いいえ、全力を尽くします」
ラインハルトとヤンは互いに小さく頷いた。
一方的
同時刻、ゲストルームにおいて、はやては人生最大のピンチに陥っていた。
「……」
「……」
「元気そうで何よりですわ。アンネローゼ様」
「えぇ、お陰様で」
「八神はやてさんでしたね。なんでも異世界から来たとか」
「え……あっはい」
アンネローゼに突然話しかけられはやては咄嗟に生返事してしまう。
「何処か体調が悪いのですか?」
「い、いえ……お二人を前に少し緊張を……」
「ウフフ……そんなに緊張しなくていいですよ」
「そうですよ。アンネローゼ様はとてもお優しい方よ」
「あ、アハハ……」
アンネローゼとヒルダが着席しているテーブルにおいて、何故かはやても同席させられている上、3人で円形のテーブルを囲んでいる為ヒルダとアンネローゼに挟まれる形になっている。
つまりはやては、皇帝の姉とその皇帝の皇妃が執り行うお茶会に同席されている。
そのプレッシャーは計り知れないだろう。
対するヒルダとアンネローゼは楽しげに会話をしている。
「ッ! ッ!」
「……」
はやては必死で入口で警備に当たっているリインフォースに目線同席を促すが、目を逸らされる。
「あら、そうだわ。久しぶりにラインハルトと会うからケーキを焼いてきたのよ。良かったら食べましょう」
「良いですね。では紅茶を──」
「私が淹れてきます!」
ヒルダの言葉を遮りはやてが半ば叫ぶように言いながら立ち上がる。
「良いのよ八神さん」
「そうですよ。ラインハルトの客人である貴女にそんな事させられないわ」
「いいえ、お気になさらず! 行くでリインフォース」
「はい」
はやてはそう言いうと引き止める二人を振り切ってキッチンへと向かった。
「はぁぁぁぁぁ〜」
キッチンに到着した瞬間はやては特大の溜息を吐いた。
「なんやねん……なんで私はカイザーの姉とカイザリンと一緒にテーブルを囲まなあかんのや……こんなピンチ時空管理局に入ってから初めてや……」
はやては愚痴を言いながらお湯を沸かし始める。
「これも時空管理局と帝国が円滑に進める為だと……」
「別にそこそこの地位の人と話すのは別にそこまで緊張はせんのよ……でも今回は全く違うやん。少しでも機嫌を損ねたら……」
「まぁ……これも仕事だと思って……」
「特別手当くらい出してほしいわ……胃に穴が……いや大穴が開くで……」
「まぁ……頑張ってください。私もあの場は重すぎると思います。正直言うと逃げ出したいです」
その時調度お湯が沸きはやては紅茶を淹れ3つのティーカップを用意する。
「さて、紅茶が出来たで……後はこれを持っていけばいいだけや。リインフォース持っていって──」
「……」
はやてが振り返るとそこにはリインフォースがこっそりとキッチンを抜け出そうとしていた。
「逃さへんよぉ~」
はやてはガッシリとリインフォースの肩を掴んだ。
「いえ、私はあの場には不必要かと……」
「私一人であの重苦しいお茶会に参加しろ言うんか? ここまで来たら一蓮托生やろぉ?」
はやてが目は笑っていない笑顔でリインフォースに詰め寄る。
「ぅ〜」
リインフォースは勘弁したのか首を縦に振った。
紅茶を用意し部屋に戻ったはやてがアンネローゼとヒルダの前にティーカップを置くと紅茶を注ぐ。
「どうぞ。おまたせいたしました」
「いただきますね」
「フフッ」
アンネローゼとヒルダの二人ははやてが用意した紅茶に口をつける。
「あら」
「美味しいわね」
「よ、よかったです」
二人ははやての紅茶を気に入ったようだ。
その様子を見てはやては胸をなで下ろした。
そして、はやてはアンネローゼが用意したケーキを口に含む。
「お味はどうかしら?」
「あ、お、おいしいです」
「それは良かったわ」
はやては咄嗟に口を開いた。
しかし、実際のところ、極度の緊張ではやての舌は甘さ以外の要素を認識する余裕はなかった。
「八神さん。貴女の淹れた紅茶もとても美味しいわ」
「こんなにおいしい紅茶ならまたいただきたいわ」
「そうですわね。またアンネローゼ様とのお茶会に呼んでもいいかしら?」
「え? ……あっはい」
生返事をしてしまったはやてだがこうして今後、アンネローゼとヒルダのお茶会にははやてが呼ばれることとなり、その都度プレッシャーに煽られるわけだが、それはまた別の話である。
ヒルダを巻き込んだので、いっそのことアンネローゼ様も巻き込んでしまおうと思った所存です。反省はしていない。