不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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炎上

  その夜。

 一室に集まった面々は地球教の襲撃に備えていた。

 

「そうか。では引き続き頼む」

 

 無線を受け取ったオーベルシュタインが振り返る。

 

「陛下。予定通り地球教がこちらに接近しているようです。そのメンバーの中に大主教ド・ヴィリエの姿も確認されました」

 

「そうか。してケスラーの部隊は?」

 

「はい。手筈通りに地球教が襲撃後、奴等の退路を1カ所に絞る様に展開する予定です」

 

「後は、私が上空から奴等を追跡して隠れ家を特定します」

 

 リインフォースはそう言うと一礼すると窓を開け放ち、空へと飛び去った。

 

「よし」

 

 ラインハルトは立ち上がるとヒルダに目線を向ける。

 

「陛下?」

 

「ヒルダ……これを貴女に」

 

 ラインハルトは首から下げているペンダントを外すとヒルダに手渡した。

 

「陛下! これは……」

 

「お守りのようなものだ……きっとこれが貴女達を守れくれるはずだ」

 

 ヒルダは両の手で大事そうにペンダントを受け取ると胸に抱く。

 

「陛下……ありがとうございます。お借りいたしますわ。これが終わったら必ずお返しいたします」

 

「あぁ……」

 

 ラインハルトはゆっくりと息を吸い込むと誰に言うでもなく小声で呟いた。

 

「姉上も前を向かれた……余も立ち止まってはいられない……だからこれがお前に甘える最後だ……皆を護ってくれ。頼むぞキルヒアイス」

 

「……」

 

 ラインハルトは踵を返しながら呟いたがその言葉はアンネローゼ以外の耳には入らなかった。

 

 こうして、ラインハルトは喪った片翼を未来への希望という新たな翼で補い、再び舞い上がったのであった。

 

 

 数時間後。

 突如として館全体の電気が停電する。

 

「陛下!」

 

「来たようだな」

 

 停電したと同時にガラスが割れる音が館内に響き渡り、複数の足音が迫る。

 

「ラインハルト! 覚悟!」

 

 突如として扉が開かれると黒いローブを纏った複数の人々が刃物を片手に雪崩込む。

 

「死ねぇ!」

 

 黒いローブの人物が刃物を振り上げラインハルトに迫る。

 

「えぇい!」

 

 その時、アンネローゼが燭台を手に取ると刃物を振り上げた地球教に投げつける。

 

「ぐぁっ!」

 

 アンネローゼが投げた燭台は吸い込まれる様にラインハルトに凶刃を振り上げた地球教の顔面に吸い込まれる。

 燭台が直撃した地球教はその場で気を失った。

 

「あ、姉上……」

 

 ラインハルトを始め、その場にいる全員がアンネローゼを唖然とした表情で見据える。

 そんな中、アンネローゼは声高らかに言う。

 

「相手は凶悪な人達よ! ラインハルト! 成敗しなさい!」

 

 この宇宙で唯一ラインハルトに命令を下せる人物であるアンネローゼの命を聞いてラインハルトがその両目を見開く。

 

「皆聞いたな! 賊を討滅せよ!」

 

 ラインハルトが激を飛ばしつつ迫りくる地球教をブラスターで撃ち抜く。

 

「えぇい! 人数はこちらが上なのだ! 怯むな!」

 

 深くローブをかぶった大主教ド・ヴィリエが声を震わせながら叫ぶと信者達が再び威勢を取り戻し、走り出す。

 

「陛下!」

 

 ヤンが叫ぶと走り出した信者の首をシェーンコップが手にした戦斧で切り落とした。

 

「ようやく永遠ならざる平和とやらが目の前まで来ているんだ。邪魔させるものか」

 

 シェーンコップは戦斧の血を振り払いながら次の獲物を見定める。

 

「お前達のせいで提督は危険な目に遭ったんだ。容赦はしない」

 

 ユリアンも戦斧を構えシェーンコップの横に立つ。

 

「提督は戦力にならないので変に動かないでくださいね!」

 

「せやで、おじさんは戦力にならんのやから! 部屋の隅っこに居てな!」

 

「ユリアン……はやて……そんなはっきり言わないでくれよ……」

 

 ヤンは苦笑しながら頭を掻きつつ、部屋の隅に移動した。

 

「さて……それじゃあ大掃除と行くか」

 

 シェーンコップは小さく呟いた。

 

「相手は犯罪者や、容赦はいらんで」

 

「はい。お任せを」

 

 デバイスを構えたシグナムとヴィータ、ザフィーラがはやての前に立つ。

 

「ここでこいつ等を……皇帝を始末すれば地球教はまた蘇る……全員行け!」

 

 大主教ド・ヴィリエは半ば自棄気味に叫ぶと信者達が一斉に部屋に雪崩込み、窓からもハシゴを使い信者達が入ってくる。

 

「コレだけの大人数を用意するとは……相手も必死なようだな」

 

「そのようですね!  でも逆に考えると大掃除には最適ですね」

 

 シェーンコップの呟いにユリアンが答える。

 

「全員! 目の前の敵を各個撃破せよ! ヒルダと姉上には指一本も触れさせてはならぬぞ!」

 

 ラインハルトは数人の地球教徒を撃ち倒した後、ブラスターをリロードしながら全員に指示を飛ばした。

 

 それから事態は急速に進んだ。

 

「あ、ありえぬ……」

 

 ド・ヴィリエが部屋中に倒れ込んでいる30を超える信者達の死屍累累を目の当たりにして狼狽える。

 

「打ち止めのようだな」

 

 残り数名の信者を従えながら狼狽えるド・ヴィリエに戦斧を向けてシェーンコップが呟く。

 

「く、くっそぉ……」

 

 ド・ヴィリエが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

 その時、館中にけたたましい非常ベルの音と爆発音が響いた。

 

「な、なんだ!?」

 

 その直後、部屋のスプリンクラーが一瞬だけ作動したが、少量の水をばら撒いた後動作が止まった。

 

「まさか奴等、館に火を放ったのか!」

 

「消火設備も潰されたようです!」

 

 シェーンコップとユリアンが声を荒らげる。

 

 その時。

 

「死ねぇ!」

 

 死体に紛れていた信者の一人がナイフを手にヒルダに迫る。

 

「ッ!」

 

「ヒルダ!」

 

 ラインハルトは声を荒らげる。

 

 迫りくる信者の凶刃を前にヒルダは瞬時に自身の腹部を守るような体勢をとる。

 

「危ない!」

 

 ヒルダの前にシャマルが駆け出す。

 

「ッ!」

 

 シャマルは目を閉じ来るであろう衝撃に身構える。

 

 しかし、その衝撃は来ることがなかった。

 

「え……」

 

 シャマルが目を開けるとその目の前にはオーベルシュタインの背中があった。

 

「ぐっ……」

 

 腹部を刺されたオーベルシュタインはそのままブラスターを引き抜き、刺してきた信者を撃ち抜いた。

 

「ぐぅッ」

 

「オーベルシュタインさん!」

 

「オーベルシュタイン!」

 

 信者を撃ち抜いたオーベルシュタインはその場に崩れ落ちる。

 そんなオーベルシュタインをシャマルが受け止める。

 

「浄化の炎に焼かれるが良い!」

 

 ド・ヴィリエはそう言い放つと残りの数少ない信者を引き連れて逃げ去って行く。

 

「オーベルシュタイン!」

 

 ラインハルトが倒れ込んでいるオーベルシュタインに駆け寄る。

 

「へ、陛下……最期までお供できないことをお許しください……行ってください。外にケスラーの部隊を用意してあります。後は貴方が陣頭指揮を取り地球教を討滅なさるのです」

 

「オーベルシュタイン……分かった……ご苦労であった」

 

ラインハルトは敬礼し、ヒルダの下へと向かう。

 

「さぁ、ヒルダ」

 

 ラインハルトがヒルダの手を取るとは踵を返し部屋を後にする。その後にアンネローゼが神妙な面持ちで続いた。

 

「さぁ……私達も行こう。いずれここは火の海になる」

 

「はい……提督」

 

 ヤンとユリアン、シェーンコップは小さくオーベルシュタインに敬礼するとラインハルトの後に続いた。

 

「私達も行くで……シャマル……」

 

「私は手当てをしてから後を追います……必ず追いつきますから、気にせず行ってください……」

 

 シャマルはオーベルシュタインに回復魔法をかけながら答えた。

 

「……分かった……」

 

 はやて達もヤンの後を追いかけた。

 

「何をしているのだフロイライン……私の事は放っておいて貴女も早く逃げるが良い……」

 

「いいえ、必ず助けてみせます! この程度の傷……」

 

「奴等のことだ……ナイフに毒でも塗っているだろう……それならば最早助かるまい。それに私が死んだとて困る人間は居ても、悲しむ者は居ない」

 

「黙って!」

 

「助からぬ者を助けようとするのは偽善であり労力の無駄だ……それより貴女の力は陛下にもしもの事があった際に必要だ……早く陛下の元へ。そうでなければ盾になった意味が無い」

 

「今は治療に専念しているの! 黙ってなさい!」

 

 シャマルは語気を強める。

 

「強情な人だ」

 

 オーベルシュタインは震える手でブラスターを手に取るとシャマルに力無く向ける。

 

「これ以上無駄な事をするな」

 

 警告するオーベルシュタインを無視してシャマルは依然として治療の手を止めずにいる。

 

「フロイライン、聞いているのかっ!」

 

「撃ちたければ撃ちなさい」

 

「な……」

 

「撃って貴方の気が済むならそうすれば良いわ……私は例え死んだとしても最期の瞬間まで貴方を助ける事を諦めないわ!」

 

 シャマルの言葉にオーベルシュタインは唖然とする。

 

「フロイライン……貴女は何故そこまで」

 

「私は貴方に生きてもらいたい! それに貴方が死んでだら私が悲しいのよ! それだけです!」

 

「全く……強情な人だ……」

 

 オーベルシュタインはゆっくりとブラスターを降ろすと目を閉じた。

 

  十数分後、シャマルは魔法を止めた。

 

 館に放たれた火は全体に広がり、部屋の中にも煙が侵入してきている。

 

「これで傷は塞がったはずです。毒も現状できる限り解毒しました。あとは……」

 

「ここから脱出だな」

 

 オーベルシュタインは立ち上がろうとするが体勢を崩してしまう。

 

「肩を貸しますよ」

 

「すまぬ」

 

 オーベルシュタインに肩を貸してシャマル達は部屋の外へと出る。

 

「思った以上に火が回っているな」

 

「そうですね……」

 

 カーテンや柱の一部にも火が燃え移っており、天井も崩れ始める。

 

「フロイライン。貴女の魔法とやらでどうにか脱出はできないのか?」

 

「すみません。未知の毒だったので……先程の治療で力を使いすぎてしまって……」

 

「貴女が謝ることではない」

 

「兎に角エントランスへ向かいましょう」

 

「そうだな」

 

 二人は炎が迫る中、覚束ない足取りで煙をかき分けエントランスへ向かった。

 

 

 

 シャマルとオーベルシュタインの二人は炎が渦巻く中命からがら到着したが出口の扉は燃え上がる瓦礫で塞がれており、周囲の炎の勢いも増してきた。

 

「ここまで……か」

 

「諦めないでください!」

 

 オーベルシュタインは半ば諦め気味にに呟いた。

 

「あの時、私になど構わず陛下達と行けば貴女は助かっただろうに……」

 

「例えそうだったとしても助かるはずの命を見捨てるなんて私にはできません。ですから後悔はしていません」

 

「フロイライン……貴女という人は……」

 

 炎が渦巻く中し二人は小さく笑いあった。

 

 その時、天井が燃え落ち二人目掛けて降りかかる。

 

「くッ!」

 

 オーベルシュタインは降りかかる瓦礫からシャマルを庇うように立ち回る。

 

 降りかかる瓦礫が二人に直撃する寸前、青色の魔法陣が現れ、瓦礫を吹っ飛ばす。

 

「なんだ……」

 

「この魔法は!」

 

 二人が顔を上げると、出口を塞いでいた瓦礫が吹き飛ばされ、煙の向こうからデバイスを振り下ろしたシグナムと同じく戦斧を振り下ろしたシェーンコップが立っており、その後ろでザフィーラが魔法を発動させていた。

 

「無事か?」

 

「助けが遅くなり申し訳ないな」

 

「ヤンと主に言われてな。二人を助けに行くようにとな」

 

「皆!」

 

「助かったようだな……」

 

 シャマルとオーベルシュタインは安堵したように溜息を吐いた。

 

 シグナム達は二人に駆け寄る。

 

「肩を貸しましょうぞ」

 

「……あぁ……ところで陛下達は?」

 

「無事に外に控えていた部隊と合流できたぞ」

 

「そうか」

 

 シェーンコップがオーベルシュタインに肩を貸し、二人は歩き出した。

 

「さぁ、私達も逃げるぞ」

 

「そうね」

 

 先行するシェーンコップ達に続きシャマル達も館から逃げ出した。

 

 

 

「クソぉお!」

 

「失敗だ……」

 

「いや、だが火は付けたし皇帝も燃えたのでは?」

 

「皇帝は無事に逃げ出しただろう。そして今にも追撃部隊がここに突っ込んでくるはずだ」

 

 大主教ド・ヴィリエは部屋の隅で震えながら声を荒らげる。

 

「残った信者は我々のみだ! 今はこの場から逃げ、新たに信者を−−」

 

 ド・ヴィリエの発言は突如として起こった爆音にかき消された。

 

「な、なんだ」

 

 先程の爆発によりアジトの入り口が吹き飛ばされた。

 

 爆炎の向こうには大部隊を率いたラインハルトが悠々と立っていた。

 

「賊の根城だ! 全員突撃せよ!」

 

 ラインハルトが号令を下すとユリアンを先頭に突撃が始まった。

 

「だ、大主教!」

 

「あ、あぁあ……あっ……」

 

「大主教!」

 

 ド・ヴィリエは目の前に迫る突撃をただ呆然と眺めるしか出来なかった。

 

 

 こうしてこの日。

 この宇宙から地球教が消滅した。




アンネローゼ様には燭台を投げる姿がよく似合う。
それを書きたいがために無理やりアンネローゼ様を参戦させたまである。

残すところ後2〜3話程で終わりとなります

最後までお付き合いいただけると幸いです。
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