不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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今回は短めで申し訳ないですがここが丁度いい区切りなので


魔術師の選択

  家に帰ったヤンは、コピーした資料に目を通している。

 一方はやてはキッチンで夕食の準備を進めており、シャマルがそれを手伝っている。

 

「それでな、さっき連絡が来てな。明日、皆でなのはちゃんの家でお茶しようって話になったんよ」

 

「あら、それは良いですねぇー」

 

 シャマルとはやてが楽しそうに会話している。

 

「どうだ? 有益な情報はあったか?」

 

 そんな二人を見ながら、シグナムがヤンに声を掛ける。

 

「うーん……正直微妙だね。まだ全てに目を通したわけじゃないがね。ある時を境に歴代の闇の書の主は、完成させた後に闇の書が暴走して結局は周りを巻き込んで自滅しているんだ」

 

「ある時?」

 

「あぁ、それまでは蒐集した後、寿命やら事故やら、何らかの出来事で持ち主が死亡した後に別の持ち主へと転々している様だ。コレは憶測なんだが闇の書は本来、魔法を蒐集して保管する外部ストレージデバイス……外部記憶メモリのようなものだったんだと思う。だが持ち主を転々としていくうちに暴走して呪とやらが発生したんじゃないかと思う」

 

「なぜ、呪が発生したんだ?」

 

「うーんそうだなぁ。憶測だが、闇の書は強力な兵器だと時空管理局は言っていたからね。歴代の持ち主が私利私欲の為に闇の書を改造していったんじゃないかと私は思う」

 

「なるほど……つまり歴代の持ち主のせいで主がこんな目にあっていると……」

 

「あくまでも資料を読み解いた憶測だがね」

 

 シグナムは小声でつぶやき苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「それで、どうすれば主は助かる?」

 

「声が大きいよ。はやてに聞かれてしまうから少し声量を落としてくれ」

 

「す、すまない……」

 

 ヤンは頭を掻いてため息を吐いた。

 

「正直……わからない。この資料を読み解いてわかったのは蒐集が終わったとしても結局闇の書は暴走してしまうということだ」

 

「なん……だって……」

 

「正直……時空管理局の言い分も分からないわけじゃない……賛同はできないが」

 

「ヤン……それはどういう事だ……」

 

「……」

 

 ヤンは口を閉じて、思案する。

 

 正直、はやてを時空管理局の言う通り闇の書諸共封印すれば多くの人間が助かる。

 しかし、ヤンはその選択肢を選ぶことが出来ずにいる。

 無論それが最善の手段であることは、頭では理解しているが心と信念がそれを否定している。

 

 無意味に逃避するように闇の書の主がはやてではなくユリアン(義理の息子)だったらと考える。

 軍人であるユリアンならば、多くの市民を助ける為に犠牲になる事を自分で選ぶだろう……勿論猛反対するが……

 だが、はやては違う。守られるべき市民であり、大人の庇護下にあるべき子供なのだ。

 もしもはやてではなく見ず知らずの一市民の命と大勢の命を天秤にかける立場だったとしても、ヤンはその選択はしないだろう。

 しかし、ヤンは、はやてを知ってしまった。はやての笑顔や仕草、優しさなどを知ってしまった。

 

「まさか……貴様も!」

 

 シグナムは声を荒らげ、ヤンの胸元を掴みかかり、それを見たはやてとシャマルが驚いたように肩を震わせた。

 

「大量虐殺者の汚名を背負わせるくらいなら……だが私にはその選択はできないよ……」

 

「どうにかならないのか?」

 

「……」

 

「くっ!」

 

「ちょ、ちょっと二人共どしたん? シグナムも落ち着いて!」

 

 はやては慌てた様子で車椅子を動かし二人のもとに駆け寄った。

 騒ぎを見ていたヴィータとザフィーラも仲裁するべく立ち上がった。

 

「いえ……なんでもありません……」

 

 シグナムはヤンの胸元掴んでいた手を離す。

 

「なんでもないわけ無いやろ? 何があったん? 喧嘩は……ぐぅ!」

 

 その時、突然胸元を抑え込み、苦しみながらはやてが倒れる。

 

「主!」

 

「はやて!」

 

「はやてちゃん!」

 

 その場にいた全員がはやてに駆け寄った。

 

「カヒュー…カヒュー」

 

 はやては胸を押さえ浅い呼吸をしている。

 

「どうなってんだよ!」

 

「今すぐ治療を!」

 

 シャマルが手をかざし治癒魔法をかけるが、依然として収まる気配がない。

 

「救急車だ!」

 

 ヤンは立ち上がるとはやての携帯電話を手に取り救急隊に電話をかける。

 

「はやて……」

 

 ヤンは心配そうにはやてを見つめていた。

 

  数分後、到着した救急隊によってはやては病院へと運ばれていった。

 ヤンも救急車に同乗し病院へと向かった。

 

 救急車が病院に到着すると、いつもはやてを担当している女性医師が待機していた。

 

「はやてちゃん! ヤンさん!」

 

「急に胸を押さえて苦しみだして……はやてを頼みます!」

 

 ストレッチャーに乗せられたはやては処置室へと運ばれていった。

 ヤンはただその姿を見送るしかなかった。

 

 

 しばらくするとヴォルケンリッターの面々も病院に到着した。

 

「ヤンさん!」

 

「主は!?」

 

「今は処置室に……」

 

 しばらくヤン達が処置室の前で待っていると女性医師がやってきた。

 

「あの、はやては?」

 

「なんとか峠は越えました」

 

「良かったぁ」

 

 全員がホッと胸をなでおろした。しかし、女性医師の表情は依然として厳しいものだった。

 

「ただ、病状は思いのほか進行が早く……」

 

「そんな」

 

「私達も……最善を尽くしますが……」

 

 女性医師は暗い表情でヤンを見据える。

 

「できるだけ……はやてちゃんと一緒にいてあげてください……」

 

「それは……」

 

「覚悟だけは……しておいてください」

 

「そ、そんな……」

 

 女性医師は一礼するとその場を後にした。

 

「そんな……そんなことって……」

 

 女性医師の話を聞いてシャマルが泣き崩れ、シグナルとヴィータは拳を握りしめ、ヤンとザフィーラはただ俯く事しか出来なかった。

 

  その日の夜。

 

 ヤンははやてが眠っている病室で一人、資料を眺めていた。

 はやての年齢と病気の原因が不明ということで、個室に割り当てられている。

 

「ヤン、入るぞ」

 

 シグナルが入室してくる。

 

「主は……」

 

「今は無事に眠っているよ。明日には目を覚ますんじゃないだろうか」

 

「そうか、今日はすまなかったな。掴みかかったりしてしまって」

 

「いや良いんだ。君の気持ちは……痛いほどわかるよ。私だって同じ気持ちさ」

 

「そうか……」

 

「君達は……はやてより以前の持ち主については何も知らないのかい?」

 

「あぁ、あまり良く覚えていないんだ……だが主のように家族として扱ってくれた人物は一人もいなかったと思う」

 

「そうだったのか……まったく……以前の持ち主達は酷い奴だったようだね」

 

「フッ、そうかもな」

 

「あぁ、以前の持ち主達が私利私欲で闇の書を改造したツケをはやてに背負わせるなんてな」

 

「余計な……呪のようなものだな」

 

「呪ねぇ……私からすれば処理しきれない余計なバグにしか思えないよ……ん? バグ……」

 

「どうかしたのか?」

 

「そうか……呪や魔法だと難しく考える必要はないんだ……もっと単純に、闇の書をハードウェアとして呪いソフトウェア……だと考えれば……」

 

「おい、ヤンどうしたんだ?」

 

 ヤンは、再び資料に目を通す。

 

「どうにか……なるかもしれない」

 

「何? それは本当か!」

 

 シグナムがヤンの肩を掴む。

 

「ちょっと、痛いから離してくれないか」

 

「あぁすまない、それでどうにかなるというのは本当か!」

 

「正確に言うと可能性が見えてきた程度だが……」

 

「それでも構わない。そうするんだ?」

 

「闇の書がハードウェアだとすれば普通の機械のように扱えるはずだ。資料によると闇の書を完成させた後、暴走するまで若干だが時間がある。今のはやてには闇の書を扱う権限が無いようだが、完成したら全権を掌握出来るはずだ。全権を掌握したら暴走するまでの間にはやてに闇の書の所有権を私に移譲させるんだ。そうすれば少なくともはやてが暴走に巻き込まれることはない」

 

「仮にそれが可能だったとして……お前はどうなるんだ?」

 

「これはあくまでも仮定だが闇の書は所詮ハードウェアだ。君達魔法使いが魔法を使う際にはリンカーコアとやらからエネルギーを取り出すのだろう?」

 

「あぁ、使用回数が限られてはいるが、一般人でも扱えるストレージデバイスはあると聞くが、闇の書はリンカーコアがエネルギー源になるはずだ……あっまさか」

 

「そうさ。私はただの人間だ。リンカーコアは持っていない。つまり暴走しようにもエネルギーの供給源であるリンカーコアが無ければ」

 

「闇の書は暴走しない……だが、それは確実ではない。もし仮に暴走してしまったら……」

 

「まぁ、その時は後世の歴史家が大量殺人犯、人類種の天敵として私…ヤン・ウェンリーの悪名が残るだけだし。未然に時空管理局が私諸共闇の書を封印すれば……」

 

「ダメだ! お前を……お前を犠牲にしてしまえば……きっと主は……」

 

「この子は優しすぎるんだ……少なくともうまい紅茶を淹れてくれる相手にはそれなりの義理を果たさないとね」

 

「それが……お前の覚悟だというのか?」

 

「私だって死にたくはないさ。だが生きるということは他人の死を見るということだ。はやてには強い子に育ってほしいものだね」

 

「わかった……それがお前の覚悟だと言うなら……私はもう何も言うまい」

 

「そうしてくれると助かるよ」

 

「だがな。その計画には一つ問題がある」

 

「問題?」

 

「あぁ……不甲斐ない話だが蒐集が思うように進んでいなくてな……せめてあの時……奴等を蒐集出来ていれば……」

 

「奴等って?」

 

「高町なのはとフェイト・テスタロッサだ。あの二人の魔力が蒐集できていれば……」

 

「そうか……」

 

 ヤンは顎の下に手を置き少し思考を巡らせる。

 

「もし仮に……あの二人を……時空管理局から裏切らせて蒐集出来れば闇の書は完成するかい?」

 

 ヤンの突然の発言にシグナムは目を丸くする。

 

「あ、あぁ、あの二人分が蒐集出来ていれば、我等ヴォルケンリッターの名にかけて完成させよう……だがそんな事が可能なのか?」

 

「一つだけ……方法が無いわけではない……ただこの方法は大人として子供の純粋さを利用する下劣で嫌な作戦だ……」

 

「話してくれ」

 

 ヤンは作戦の全容をシグナムに話す。

 

「確かに……な。だが選択の余地はない……ほかの守護騎士達には私から説明しておこう……主に闇の書の持ち主を移乗する件の説明は……お前に任せるぞ」

 

「あぁ」

 

 シグナムは病室をあとにすると自宅へ戻っていった。

 

 ヤンは小さくため息を吐くと、未だ眠っているはやての寝顔を少し眺め、椅子に座ったまま眠りについた。




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