不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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魔術師の計略

  翌日、はやてが病室のベッドで目を覚ますと、ベッドの隣で椅子に座って寝息を立てているヤンが目に入った。

 

「あれ…おじさん?」

 

「ん? ああ、はやて。目を覚ましたんだね」

 

「おじさん。私……一体……」

 

「先日急に倒れたんだよ。皆心配したよ」

 

「そうやったんか……なんか急に胸が苦しくなって……そういえばその時、シグナムと言い争いしとったようやけど……喧嘩でもしたん?」

 

「いや。ちょっとした意見の食い違いさ。喧嘩じゃないから気にすることはないよ」

 

「そう? それならエエんやけど。皆は?」

 

「今は家で休んでいるよ。後ではやてが目を覚ましたと連絡しておくよ」

 

「うん」

 

 はやては周囲を見回す。

 

「おじさん。私の携帯持ってきてない?」

 

「あぁ。シャマルから預かっているよ。だが病院で携帯電話は……個室だから良いのか?」

 

 ヤンはポケットから携帯電話を取り出すとはやてに手渡す。

 

「うわっ……やっぱりメールいっぱい来とる。今日は皆で会うはずやったのに……途中から返信しとらんかったから……どうしよう…」

 

 はやては携帯電話片手に唖然としている。

 

「正直に入院したことを伝えるしか無いね」

 

「えーでも急に入院したなんて言ったら皆心配しちゃうやろうし……」

 

「良いじゃないか。それに嘘をついて約束を反故してしまったらあまり良い印象にはならないよ」

 

「うー……そういうことなら……そうする」

 

 はやてはむくれ顔で携帯電話を操作し始める。

 

「よし、入院してもうたから、今日は皆に会えへんってメール送ったわ」

 

「そうかい」

 

 はやてがメールを送ってから数分後、はやての携帯電話が着信音を鳴らす。

 

「あっ。電話がかかってきた。なのはちゃんからや、今は学校やないん?」

 

 はやては携帯電話を耳に当て電話に出た。

 

「もしもし。うん……うん……そうなんよ。え? そんなに心配せんでも……え? ちょっと待ってな」

 

 はやては電話口を手で抑えながらヤンに視線を向ける。

 

「なのはちゃん達学校が終わったらお見舞いに来るって言っとるんやが…」

 

「そうかい。いいじゃないか」

 

「でも……なんか悪い気がして……」

 

「人の善意は受けておくもんだよ」

 

「うーん…そういうことなら」

 

 はやては再び携帯電話を耳に当てる。

 

「うん。それじゃあ来てもらおうかなぁ。うん……うん……それじゃあそれくらいの時間に。うん……じゃあまた後でね」

 

 はやては電話を切ると小さくため息を吐いた。

 

「ふぅー…お見舞いに来てくれるんは嬉しいんやけど……ちょっと悪い気がしてなぁ」

 

「お前さんはまだ子供なんだ。そんなややこしいことを考える必要はないし、友達の気持ちも考えてあげなさい」

 

「うん。そうやね」

 

 ヤンは病室の窓を開け、外の景色を見る。

 

「さて……まずは予定通り……汚い大人になるとするか」

 

 ヤンの呟きは、寒くなり始めた風に溶けて消えていった。

 

 

  数時間後。病室のドアがノックされる。

 

「多分皆来たみたいや。入っええよー」

 

 はやてが答えると扉が開き、お見舞いの花を持ったすずかを先頭にもう一人アリサだと思われる少女が入室してきた。

 

「はやてちゃん大丈夫?」

 

「うん。大丈夫や」

 

 はやてが小さく笑う。

 ワンテンポ置いて、なのはとフェイトが入室し、窓際に居たヤンの姿を見て、二人は凍りつく。

 

「あぁせや。皆には紹介してとらんかったね。この人はヤンおじさん」

 

「やあ。君達がはやてのお友達だね。私はヤン・ウェンリー、はやての叔父だ。はやての事をよろしく頼むよ」

 

 ヤンは小さく頭を下げる。

 

「さて、女性同士で話したいこともあるだろう。私は外にいるとするよ」

 

「うん。わかったで」

 

 ヤンは退室する時、ふとなのはとフェイトに目線を向けると一瞬だが目があった。

 

 目があったヤンは小さく笑うと病院の待合室へと移動した。

 

 小一時間ほど過ぎた頃。

 日も傾き始めた黄昏時。面会時間の終わりを告げる鐘がなる。

 

「そろそろだな……」

 

 ヤンは立ち上がるとはやての病室に向かう。

 

「あっおじさん」

 

「皆今日はありがとう。残念だが面会が終わる時間だし、子供はそろそろ帰ったほうが良い」

 

「そ、そうだね」

 

「じゃあ。私達は帰るね」

 

「うん。今日はありがとな。またね」

 

 なのは達が一礼した後退室していき、はやてが軽く手を降る。

 

「さて、こんな時間に子供だけで家に帰すのは危険だろう。私は彼女達を送って帰るとするよ」

 

「そうやね。おねがいね」

 

「あぁ」

 

「またね。おじさん」

 

 ヤンはそう言うとエントランスホールに向かった。

 

 エントランスホールでは、なのはとフェイトが1台の車を見送っていた。

 

「おや? 君達だけかい?」

 

「え? や、ヤンさん」

 

「どうしてここに……」

 

 なのはとフェイトは驚愕し身構える。

 

「そんなに警戒することはないよ。それに私はこんな時間に子供だけで帰す様な駄目な大人じゃないさ……それに」

 

 ヤンは小さくため息を吐き、呼吸を整える。

 

「少し話したいことがある。君達もそうじゃないのかい?」

 

「それは……そうですが……」

 

「では行こうか。歩きながら話そう」

 

「そう、ですね」

 

 ヤンはそう言うとあるき出し、その後に続くように二人も歩き始めた。

 

「あ、あの!」

 

 少し歩き続けた頃、なのはが口を開いた。

 

「なんだい?」

 

「あの……もしかしてですけど……闇の書の持ち主って……」

 

「あぁ……君達の想像通り……はやてがそうさ」

 

「そ……そんな……」

 

「それじゃあ……まさか……」

 

「そうさ。私達ははやてを助けたい。それだけが目的なんだよ」

 

「そうだったんですか……」

 

「君達に聞きたいのだが……はやてが闇の書の持ち主だと知ってしまったところで、君達個人は時空管理局員としてはやてを封印することに賛成なのかい?」

 

「そ、それは……」

 

「私達には……どうしたらいいか……」

 

「出来ることならはやてちゃんを助けたいです! でも……」

 

「方法がないなら……でも……だけど……」

 

 二人は俯き口を閉ざす。

 

「すまない。子供相手に酷な質問をしたね」

 

「いえ……あの、ヤンさんはリンディさんからの資料は?」

 

「あぁ。あれかい。コピーして読ませてもらったよ」

 

「そうだったんだ」

 

「あぁ……それで一つ君達に頼みたいことがあるんだ」

 

「頼み……ですか?」

 

「そうさ。リンディだったか? 君達の上官と話がしたいんだ。電話ではなく直接、君達も交えてね」

 

「それは構わないけど……」

 

「それで要件はなんですか?」

 

 二人の質問に対し、ヤンは少し悲しげな表情で答える。

 

「資料を読み解いたんだが……悲しいが…結局暴走を防ぐ手段はなさそうでね……」

 

「それじゃあ……」

 

「はやての……事を時空管理局に頼もうかと思ってね……」

 

「頼むっていうのは……まさか」

 

「はやてを封印するってこと?」

 

「残念だ……本当に……」

 

 二人の回答を聞いてヤンは小さく頷いた。

 

「そんな……」

 

「でも……そういうことなら……今からでも……」

 

「近くにいるのかい?」

 

「はい。近くに時空管理局の臨時司令部があります。そこにいると思います」

 

「そうかい。じゃあ案内してくれ」

 

「はい」

 

 二人に案内され、ヤンは住宅街の一角にある時空管理局臨時司令部へ向かった。

 

 

 

  時空管理局の臨時司令部に到着したなのはがインターホンを押す。

 

「はーい」

 

 扉が少しだけ開かれ中からエイミィが顔を覗かせる。

 

「あれ? なのはちゃんにフェイトちゃん、どうしたのこんな時間に? 忘れ物?」

 

「いや……えっと」

 

「それが……その……リンディさんと話したいっていう人が……」

 

「え?」

 

 エイミィがさらに扉を開くとようやくヤンの姿を確認する。

 

「あ、貴方は! ヤン・ウェンリー……さん?」

 

「いやはや、どうも」

 

「あっ……えっと、ど、どうぞ」

 

「失礼しますね」

 

 ヤンが入室したのを見て、なのはとフェイトも入室するとリビングに通される。

 

「今呼んできますね!」

 

 リンディは慌てながら奥へと消えていった。

 

 しばらくすると、奥からリンディが現れた。

 

「えっと……二人共。どういう経緯なのか説明してくれる?」

 

「あっはい」

 

 なのはが慌てながら口を開いた。

 

「えっと、今日の出来事なんですが、私達のお友達が入院したって事でお見舞いに行ったんです。そしたら……」

 

「そこで会ったと言うか……その……えっと」

 

「え? それって……つまり」

 

 リンディは唖然としており、対するなのはとフェイトはしどろもどろしている。

 

「彼女達の友人が……闇の書の持ち主で間違いありません……入院している原因も闇の書によるものです……」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

 リンディは一息つき、落ち着きを取り戻そうとする。

 

「それで、なぜヤンさんは今日ここへ?」

 

「資料を読ませていただきましたが……暴走を防げる手立てが見当たら無かったので……」

 

「そう……ですか」

 

 その場に重苦しい空気が流れる。

 

「はい……しかし、私からあの子に……その事を……人類のために死んで…いえ、封印されてくれなんて……私からは言えません……」

 

「そうですよね……」

 

「ですが……あの子にだって真実を知る権利はあります……ですから……」

 

「えぇ……わかりました……私が伝えましょう。それくらいは私の仕事であり責任ですから……」

 

 ヤンは俯き、リンディも暗い顔をして居る。

 

「日程が決まったら……そうですね後日、彼女達と一緒に病院に伺います……いいわよね二人共」

 

「はい……」

 

「またお見舞いに行きますので……」

 

「それでは……頼みます……それでは……」

 

 ヤンが立ち上がり、震える背中で退室していった。

 

「あの、私達送ってきます」

 

「ええ。お願いね……」

 

 なのはとフェイトはヤンの後を追うように走り出した。

 

「……本当に……残酷なことね」

 

 リンディは暗い気持ちで呟く。

 

「そうですね……なのはちゃん達の友達ということはきっと同年代でしょうね」

 

「そうね。そんな子供に……犠牲になれだなんて……仕方な事とは言え、本当に嫌になるわ……」

 

「そうですね……でも、知らぬまま封印するなんて酷なことはできませんが……知らせる事もまた酷な話だと思います……」

 

「そうよね……でも……これも世界の為よ……少しでも良い世界になってもらわないと……そうでもないと……誰も報われないわ……」

 

「ホント残酷ですよ……いっそ凶悪な人物が持ち主で犯罪者として逮捕して封印できてしまったほうが気が楽ですよ……」

 

「滅多なことを言うものでもないわ……否定はできないけどね……はあ……一応二人が今度来た時、どこの病院に入院しているのか聞いておきましょう」

 

「え? 何故です?」

 

「伝えに行く時一緒に行くとは言え場所は知ってるおきたいのよ。持ち主は入院しているって言っていたからきっと病院にいるはずよ……それに、ありえないとは思いたいけど……彼等が自棄を起こした時制圧できるためにもね……無いと思いたいけど……本当に嫌な仕事ね」

 

 リンディは強く握った拳を震わせるしか出来なかった。

 

 

  夕日が微かに残るが、夜の闇が姿を始めた頃。ヤンは肩を落としながら住宅街を歩く。

 

「ヤンさん!」

 

 背後からの声に振り返ると、そこにはなのはとフェイトが駆け寄ってきた。

 

「あぁ……君達かい。どうしたんだい?」

 

「えっと……家まで送りますよ」

 

「いやいや……子供達に送ってもらっては本末転倒だよ……すこし……話そうか」

 

「あっ……はい」

 

 三人は重い足取りで近くの公園へ向かった。

 

 公園に着いた時、自動販売機の前でヤンが立ち止まる。

 

「何か飲むかい?」

 

「いえ、いいですよ」

 

「遠慮しないでいいよ。好きなのを飲みなさい」

 

「それじゃあ」

 

「遠慮なく」

 

 なのはとフェイトはジュースを購入する。対するヤンは缶入りの紅茶を購入した。缶飲料を購入した三人は公園のベンチに腰掛けた。

 

「あの……ヤンさん……」

 

「なんだい?」

 

「はやてちゃんの事なんですけど……やっぱり……どうしようもないんですか?」

 

「なのは……」

 

 なのはが悲しそうな表情を浮かべる。

 

「そうだな……君達は、もし仮にはやてが助かる可能性があると知ったら……どうする?」

 

「え?」

 

「あるんですか!」

 

 なのはとフェイトの二人は声を荒らげる。

 

「一つ答えてくれないか? あるのは、あくまでも助かる可能性で、失敗すれば暴走するだろう……君達はその事を時空管理局に伝えたりするかい?」

 

「それは……」

 

「時空管理局に知られてしまえば可能性の芽は潰されてしまう……君達はどうする?」

 

 二人は互いに顔を見合わせ頷く。

 

 「黙っていればはやてが助かる可能性があるなら!」

 

「はい、管理局には言いません」

 

「約束する」

 

「そうかい……」

 

 ヤンは小さくため息を吐いた。

 

「実のことを言うと、はやてが助かる可能性はある。私達はその可能性に賭けるために闇の書を完成させるつもりだ」

 

「え? それって……」

 

「もしも暴走してしまったら……」

 

「君達の心配の通り……もしもうまく行かなかったら……だがもしそうなったとしても……私達は可能性に賭けたいんだ」

 

「……」

 

「そこで、もし君達がはやてを助けたいと思うなら私達に協力してくれないか?」

 

「それって……」

 

「なにも、時空管理局を裏切れとは言わないよ……ただ少し協力してくれれば良いんだ……」

 

「それは……」

 

 二人は困惑したように顔を見合わせる。

 

「いや、すまない……だが少し考えておいてくれないか? もし協力してくれるなら……その時は頼むよ……」

 

 ヤンは、ベンチから立ち上がる。

 

「さて……私は帰るとするよ。君達も暗くなる前に帰りなさい。無論協力しなくても構わない……ただ、この事は時空管理局には言わないでくれ……少しでも……はやてを……助けたいんだ……」

 

 ヤンはそう言うと肩を落として夕闇の住宅街へと消えていった。

 

 取り残された二人は、お互いに顔を見合わせた。

 

「どう……する?」

 

「そうだ……ね」

 

「私としては……はやてを助けたい……でも……時空管理局を裏切ることは……」

 

「別に裏切るわけじゃないって言っていたよ……」

 

「そう……だけど……なのはは?」

 

「私も……出来ることならはやてちゃんを助けたい……でも……」

 

 二人の間に思い沈黙が走る。

 

「すこし……考えようか」

 

「そうだね……それと、この事は……黙っていようか……」

 

「そうだね。流石に話せないよね……」

 

 二人は頷くと立ち上がり、夕日の中自宅へと帰っていった。




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