その日、アフロは張り切っていた。
明日はジェラルド君と藍ちゃんのデートの日だ。
藍ちゃんは家族以外の異性とは初デートだけどあまり緊張はしていないようだ。
それはいい事だと思う。
問題は彼女は自信にある。
今回のデートの口実はハイテクな遊びを案内するという流れからだ。
だが藍ちゃんはハイテクとは縁遠い存在だ。
どのアトラクションがどのように凄いのか、上手に説明できなくて初デートが失敗してしまうかもしれない。
それがトラウマになってしまったら大変だ。
だからアフロはとっても勉強したんだ。
元々ハイテク大好きだし文明の進んだ世界にいたからあっという間さ。
明日はアフロが完璧に案内して見せるよ。
次の日、ジェラルドはげんなりしていた。
今日は藍ちゃんとデートの日だ。
とても可愛らしい女の子で自分に妹がいるならこんな女の子がいい。
だから今日のデートもきっと楽しい物になるだろうと思っていたのだが…
『このアトラクションは油圧式という仕組みで動いていてジョイント部分に負荷が掛からないように』
アフロうるせえ。
さっきから聞きもしないのにアフロが徹底的に専門的な解説を入れてくる。
参考書かお前は。
恐らくは正確な解説をしているのだろうが興味がないから耳を素通りする。
素通りするのだが水を求めて走り回る象の群れの如く情報が勢いよく流れて来るので流石に耐えられない。
せっかくハイテク技術を楽しめる遊園地に連れてきてもらったがいまいち楽しめない。
『ジェラルド君、これをやろう!アフロこれも勉強してきたんだ!』
オレはアフロとデートしに来たのか?
アフロに手を握られオレが引っ張りまわされて、藍ちゃんが後ろから付いてきてるだけになってるじゃねーか。
『ジェラルドさんごめんなさい。アフロが一番楽しんじゃってますね』
手を合わせながら笑顔で藍ちゃんが話しかけてくる。
彼女が笑顔なのは唯一の救いだと思う。
と、ここでジェラルドは考え方を変える。
藍ちゃんが笑顔ならそれでいいんじゃないのか?
アフロと遊ぶのだって別に嫌なわけじゃない。
むしろ割と楽しい。
ならば後は自分の心持ち次第なんじゃないか?
(ベストな展開じゃないだけで、十分に楽しめる環境なんじゃないか?)
女の子とデートという甘い考えさえ捨てれば悪くない状況な気がしてきた。
『よぉしアフロ!次はあれで遊ぼうぜ!』
『いいとも!負けないよ!』
ジェラルドは満喫する事にした!
藍あらためアフロとのデートを!
様々なハイテクアトラクションをアフロと楽しんだ!
戦車を操り怪獣と戦った!
トロッコに乗って洞窟を冒険した!
ドラゴンの背に乗って大空を飛び回った!
『ジェラルドさーん、アフロー、頑張ってくださいー』
そんなオレ達を藍ちゃんが嬉しそうに柵の外で手を振って眺めている。
『って、藍ちゃんが子連れのオカンみたいになってるじゃねぇーかぁー!!』
思わず突っ込んだ。
『ホントだ!今日は君と藍ちゃんのデートじゃないか!
ジェラルド君、しっかりしてくれないと困るよ!』
一番楽しんでたお前が言うな。
ジェラルドはアトラクションが終わると走って藍の元へ戻った。
アフロも正気に戻ったことだし、今からでも遅くない。
デートの時間を取り戻すのだ。
『藍ちゃん!あれ、どこだ藍ちゃん!?』
ジェラルドが慌ててアトラクション乗り場前に戻ると
そこにいるはずの藍の姿がなくなっていた。
『全くジェラルドは!
いつもは女性の前ではすぐに浮足立つのに今日はまるっきり子供みたいになるなんて!』
『あの、ジェラルドさんがアフロと遊んでくれて私は嬉しかったですよ。』
藍はジェラルドの姉、ユカリに連れ出されカフェで休んでいた。
『藍様にそう仰って頂けるのが救いです。…ですが!』
ユカリの言葉に力が入る。
『藍様は今日が初デートと仰ったではありませんか。
初デートと言うのはやはり女性がエスコートされるべきだと思います。
なのにジェラルドはアフロ様と遊んでばかりで…』
ユカリはずっと悩んでいた。
藍様はいわゆるヤマトナデシコと呼ばれる女性だ。
そんな彼女にジェラルドがいつものようにキスなどしようものなら
藍様をキズモノにしてしまう恐れすらある。
文化が違うという事はそう言う事が起こり得るものなのだ。
いても立ってもいられなくなった彼女はデートを追跡することに決めたのだが
ジェラルドが手を出すどころかアフロ様と全力で遊び始めていよいよ我慢が出来なくなった。
『あの、ジェラルドさんが心配してると思うので私はそろそろ戻りますね』
藍が席を立ち上ろうとすると間髪入れずユカリが制止する。
『いいえ、戻る必要はありません。
それでは藍様の初デートが台無しになってしまいますわ。
ジェラルドなど心配させておけばよろしいのです。
アフロ様には後で私から事情をお話ししてお詫び申しあげますわ。』
そう言うとユカリは大きく深呼吸し、何かを決心したような表情へと変わった。
『では藍様、ここからは私とデートを致しましょう』
『…はい?』
何を言ってるのかよくわからない。
ここでしばらく待つように告げてユカリは何故か衣装貸し出しの更衣室へと向かっていった。
仕方なく大人しく待っていると、ユカリが入ったはずの更衣室から容姿の整った男性が現れた。
『お待たせ藍ちゃん。僕はユカリだよ』
飲み物をむせそうになった。
そう来ましたか。
ユカリは髪を後ろで縛り、厚めのロングコートでスタイルを隠す男装で現れた。
『ここからは愚弟に代わって僕がエスコートするよ。
大丈夫、僕に任せて』
正直、声も見た目もとてもカッコイイ。
男性にも色々なタイプがあるが、礼節を重んじる中世的男子というカテゴリーならば理想の極致だと思う。
とりあえず断れそうもないので藍は着いていく事にした。
(ジェラルドさんとアフロ、心配してないといいなぁ…)
その頃、1人と1匹は
『大変だぁーーー!藍ちゃんが誘拐されてしまったぁあああああー!』
『自分が許せねえ!アフロと全力で楽しんでたばっかりに!』
全力で心配していた。
1人と1匹はとにかく走り回った。
通り行く人々に声を掛け情報を集めた。
『藍ちゃんは物凄いイケメン野郎に誘拐されたみたいだよ!』
『素直すぎる所あるからな!困ってますとか言われたら簡単に付いていくかも知れないな』
『いたよ!あそこだ!』
アフロが顔を向ける先に、藍が見知らぬ男に手を引かれ歩いている後ろ姿があった。
『アイツか!
後ろ向いてるからどんなヤツかわからねぇな。
アフロは顔を見たか?』
『さっき横顔を見たけど、いかにも女の子が憧れそうな感じのイケメンだったよ!』
『女心を弄びやがって、許せねえぜ』
すぐさまジェラルドが走り出そうとするが、それをアフロが制止する。
『待つんだ。
ここは失敗が許されない。
僕たちが負けてしまったら藍ちゃんは誘拐されてしまうんだよ?』
その通りだ。
この戦いは絶対に負けられない。
『作戦を立てよう。
まず誘拐するような男は口が達者だと思うんだ。
アフロ達が仕掛けるとあれこれ話しかけてくると思う。』
なるほど、いかにもありそうだ。
まずは落ち着こうだとか誤解だとか言い出すに違いない。
『話し合いに応じる必要はない。
徹底的な暴力で行くべきだ。
アイツラの事情を聞いてる余裕はないよ。』
その通りだ。
誘拐犯の言葉に耳を貸す必要はない。
『藍ちゃんも騙されてる可能性が高い。
だから藍ちゃんも君を止めるかも知れないけど一切無視していい。
まずは攻撃だけを考えるんだ。
場合によっては藍ちゃんを一時的に黙らせるくらいの覚悟は必要だよ。』
確かに彼女を味方に引き入れてる可能性は高い。
彼女に手を加えるのは心が痛むが負けてしまっては元も子もない。
本当に彼女の事を想うならば心を鬼にすべきだろう。
『それと、向こうはバレた時のために対策を練ってると思う。
だから長期戦は不利だ。』
それはそうだ。
誘拐犯なんてのは二重三重に罠を貼ってるに違いない。
『初手で決めるよ!
最初の一撃で勝負を決めてそのまま押し込むんだ!
手加減は無用だよ。』
『よし、わかったぜ!』
初動で最大の一撃をぶちかます。
シンプルでいい。
相手の反応や言葉なんか気にするな。
とにかく全力でぶちかましてやる。
『アフロは藍ちゃんに一撃を加えるよ!
いけ好かないイケメン野郎が驚いた隙に君が思いっきりかましてやるんだ!』
『よっしゃぁ!燃えてきたぜ!!』
2人は目を見合わせる。
そして数秒の時間が流れる。
やがて1人と1匹は静かに頷いた。
『突撃ぃぃぃぃっーーー!!!』
『うぉぉおおおおおお!!』
1人と1匹は、飼い主と姉に向かって全力で突撃していった。
正義と言う名の暴力が、何も知らない2人の女性に襲い掛かる!
『アフロアタァーック!!』
直径150cmの物体が藍に体当たりをし、藍は数メートルほど弾き飛ばされてそのまま気絶した。
『今だ!!』
すかさずジェラルドが背後から男の腕を掴んだが…
『なっ、アフロダイ様!?何事ですかっ!?』
男が物凄く聞き覚えのある声でアフロに語りかけている。
『…もしかして姉貴?』
『…なるほど』
なるほどとしか返ってこない。
怖い。
ヤバい。
2人がどういう流れで一緒だったのか知らないが自分達はとんでもない誤解をしていたようだ。
『お前の話なんか聞く気はないよ!くらえローキック!ドグシッ!』
アフロがユカリを攻撃した。
宣言通り容赦しない構えのようだ。
『バッ、やめろ!この人はオレの姉貴だ!』
ジェラルドの声で流石のアフロも事態に気付いて動きを止める。
『きゅ、きゅ~ん』
ずるいぞお前、小動物みたいな声だしてごまかそうとするな!
アフロの鳴き声から数秒の沈黙の後、停滞した空気を破ったのはユカリの方だった。
『…これはどういう事か説明してもらえるかしら?』
顔は見えないが声だけでわかる。
これは本気の怒りだ。
それから数分後
『今日ほど貴方を愚か者と思った日はありません!』
ジェラルドは地面に正座をさせられてユカリから説教を受けていた。
アフロはペットだからかローキック分の謝罪だけで許されたがジェラルドはそうはいかない。
フォローしてくれそうな藍はベンチの背もたれに寝かされていて動かない。
さらにアフロがこっそりダーザインへ通信を送っていたらしく
(敵を欺くには味方から、と言う理論で黙っていたそうだ)
ダーザインから派遣された仲間達も俺を囲んでいる。
『…要するに誤報だったんだな』
はい。としか言えない。
呼んだのはアフロだが責任は勘違いに加担していたオレに課せられた。
『アフロダイ様、藍様はいつ頃お目覚めになられますか?』
『経絡秘孔の1つを突いた。後2時間は目を覚まさない』
『では2時間はお説教ですね』
『そうだな、俺達も言いたい事が山ほどある』
道行く人が自分を見て笑ってる。
そりゃそうだ。
遊園地でオレくらいの年頃の男が正座させられてガチ説教されてたらオレだって笑う。
この一件は休日に羽目を外し過ぎた悪しき事例としてダーザインの教育資料に掲載された。