バッセSSまとめ   作:アフロダイB

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藍と美空

この日、現れた敵は対象の持つ何かを初期化する能力を持っていた。。

例えばベテランの鍛冶師の手先を初期化すれば鍛冶師は経験はあっても手が追いつかない老人のようになる。

逆に経験を初期化すれば手先が器用なだけの新人となるのだ。

 

この恐るべき敵を美空と藍は何とか殲滅する事が出来たのだが…

 

『…い、嫌です…来ないでください…!』

 

『そんなこと言わずに僕らと帰ろうよ藍ちゃん。ほぉーらー』

 

藍がまともに初期化能力を受けた。

今の藍は精神年齢という概念が初期化され子供の頃の性格に戻っている。

どうやら初期化能力は物心がついた頃の精神を初期とみなしたようだ。

 

美空は藍を自分とは少し違う存在と思っていた。

自分も一応は戦国時代から続く剣術流派の一人娘であるが

太刀花家は今も大昔と変わらぬ厳しい訓練に明け暮れ、実戦で戦い続けてきた一族と聞いている。

いわば戦いの英才教育を受けてきた血統種と思っていたが…

 

『…でも…藍は行きたいところがあるんです…帰りません…』

 

子供に戻った藍は酷く怯え自分の背中に身を隠しながらもわがままを言う。

一応は丁寧語を使っている辺り子供の頃から礼儀を重んじていたようだが

何とも頼りの無い困った女の子だった。

 

美空は以前、藍の育った街は住人のほとんどが古くからの知り合いのような田舎町で

藍は別の土地に住む因縁ある一族から命を狙われていると聞いたことがある。

藍にとって知らない大人は自分を襲うかもしれない怖い存在なのだろう。

 

ふと周囲を見渡すと藍の他にも被害者は多い。

厳格な老紳士だった人は責任感を初期化され近くの女性に赤ん坊のように甘えている。

その隣に見える老婆は慎ましさを初期化され薄着で派手なダンスを踊っている。

他にも様々な初期化現象が暴れており現場は非常に混乱している。

 

美空は自らが対象とならなかったことを心の底から安堵した。

自分の場合はどんな恥ずかしい行動を取っていたか自分でも予測がつかない。

最も今は後ろにいる少女が何かしでかさないように細心の注意を払わなければならないのだが。

 

『ダメだな。この年頃の娘の扱い方なぞ俺達にはわからん。』

 

『おまけに怯えてるしな。お手上げだ』

 

コードネーム、ハードガイBとハードガイCが両手を軽く挙げてやれやれとジェスチャーを取る中で

ウィークガイCだけが下を向いたまま拳を握り締めて語り出した。

 

『ボクは自分が情けないよ。

いつもしっかり者の太刀花さんの事を、ボクはどこか特別な子のように感じていたんだ。

でも違った。本当の太刀花さんはこんなにも臆病で弱い子なんだ。』

 

それは美空も感じていた。

美空も藍の性格を勝手に決めつけていたことを恥じた。

 

『だから美空さん、お願いだ!

せめて今から夕方までの間、君が太刀花さんと遊んであげてくれないか!?』

 

予想外の申し出に思わず『えっ?』と声が出る。

あなたこの子の親か何かですか?

 

『お金は気にしなくていい。

ボクは彼女にいつも助けられているんだ。

このくらいなんともないさ。

…だから…このカードを持っていって!

今日はいくら使ってもかまわないよっ!!』

 

そう言うとウィークガイCはクレジットカードを美空の手に握らせる。

 

『ま、マジかよ…ウィークガイC、お前ってヤツは…!』

 

『今のお前…ウィークじゃねぇ!ストロングガイCだぜ!』

 

男性陣が盛り上がっているので断りにくい状況になるが

美空は素朴な疑問を口にする。

 

『あの…別に私だけでなくてもいいのでは?』

 

『俺がこの世界を歩くと保健所送りだ』

『私がこの世界を歩くと解体される』

『僕がこの世界を歩くと解剖される』

 

ハードガイB、ハードガC,ウィークガイCが順番に主張する。

どれも否定できない。

 

確かに彼らには色々と荷が重たいと思う。

美空は自分が適任と考え快く承諾した。

 

『いいかい太刀花さん。

美空さんに渡したカードは今日一日だけ使いたい放題のお金だよ。

遠慮なく使いなさい』

 

『…え?そうなんですか…?

…宇宙人さん…ありがとうございます』

 

藍が少しだけ顔出してウィークガイCに小さく頭を下げる。

 

『ふっ、お前のストロングっぷり。見させてもらったぜ』

 

『今日のお前、最高に輝いてるぜ』

 

ウィークガイCの地獄はここから始まる。

 

やがて男達がその場を離れると藍は緩い笑みを浮かべ美空に抱き着いてきた。

 

『やった…美空お姉ちゃんと一緒…!』

 

それなりには尊敬されていると思っていたがこんな風に扱われるとは思わなかったので美空は素直に驚いた。

彼女は年相応の振る舞いを求められていなければ、このように私に甘えたいらしい。

 

『はーい、美空お姉ちゃんですよー。太刀花さーん』

 

そう思うと急に愛おしく感じて子供をあやすように笑いかける。

 

『…あの、太刀花さんじゃなくて…藍ちゃんって呼んで下さい…

家の名前…重たいです。』

 

『はい、藍ちゃんー。藍ちゃんー』

 

一生懸命に敬語を使ってるのが愛らしい。

いつもは何となく呼びづらかったが子供になった今なら自然と藍ちゃんと呼べる。

 

『それで、藍ちゃんはどこに行きたいのかなぁ?』

 

『えっと、あそこです…』

 

藍が指差す先は大きな広場に様々な店が並んでいるように見えた。

 

ラブキュアランド。

女児向けアニメの金字塔とも言える人気シリーズであるラブキュアの20周年を記念して

都心の広場を借りて期間限定で開かれているテーマパークだ。

 

『こ、ここに来たかったの?』

 

『…うん!』

 

幼児化する前からここの存在を知っていなければ辻褄が合わない。

そんなそぶりは見えなかったが、どうやら元々の藍ちゃんも実はここに来たかったらしい。

 

(意外な趣味…)

 

ストイックな印象しかなかっただけに予想外の場所だった。

美空は逸る藍を手で繋ぎ留めながらランドへと足を踏み入れた。

 

最初に訪れたのはラブキュアになりきれる貸衣装のショップだったが…

 

『申し訳ありません。レンタルは全て貸し出し中でして…』

 

『あらあら、それじゃあ仕方が…』

 

仕方がないと言おうとしたが慌てて思いとどまる。

藍が今にも溢れそうな涙を必死に堪えていた。

 

『えっと、購入と言う形でしたらまだ在庫がございますが…』

 

そう言って店員が指を差す衣装のお値段はなんと3万円。

どう見たってそんな高い服じゃない。

だが自分に藍ちゃんを説得できる自信はない。

美空は心の中のウィークガイCさんに相談してみると

 

『お、お安い御用さ!』

 

冷や汗をかきながら親指を立てていた!

今日のあなたは本当にストロングガイCさんです。

美空は空にいる心の中のウィークガイCさんに感謝の祈りを捧げた。

と、その時ウィークガイCにとってさらに過酷な一言が告げられる。

 

『美空お姉ちゃんはどれにするんですか?』

 

『えぇ、私も着るの!?』

 

少し恥ずかしいが藍ちゃんのために自分は我慢は出来ます。

しかし、心の中のウィークガイCさんはどうですか?

美空が空を見上げるとウィークガイCは涙を流しながら親指を立てていた!

ああ、今日のあなたはストロングタフガイCさんです!

 

藍が着替えたのはラブキュアプリンセスナイトの主人公、パールプリンセスの衣装だった。

確か敵を浄化するラブプリンセスとプリンセスを守るキュアナイトが

3人のプリンセスとナイトがそれぞれでペアを組んで戦うタイプのラブキュアだ。

 

美空は藍に合わせてパールナイトの衣装を選ぶと藍は嬉しそうに微笑んだ。

正解だったようだ。

嬉しそうにはにかむ彼女はどこからどう見ても本当にただの子供だ。

 

(誰だって最初から強いわけじゃないんだね)

 

美空は夢の中で見るもうひとりの自分。

ブリアティルトと呼ばれる世界の英雄ミソラを思い出した。

 

自分はミソラの事も特別な存在と考えていたが

特別と思っていた目の前の少女がそうであるように、ミソラも本当は自分とそんなに変わらないのではないか。

そうなるとミソラと美空の差は心の問題なのだろうか。

 

『…ラブキュアが本当にいたらいいのにな…』

 

ふと藍ちゃんが誰に聞かせるでもないように小さく呟く。

バースセイバーとしての活動の事を言ってるのだろうか。

確かに現実はアニメのように甘くない。

 

『そうだね。ラブキュアはいないもんね。』

 

そう言って少しだけ強く藍の手を握る。

今の私にはアニメのような強さもミソラのような強さはないけれど

せめて今日一日はこの子を楽しませてあげたいと思った。

 

『今日は思いっきり楽しもうね!』

 

『…はい!』

 

支払いはお任せします、ウィークガイCさん。

 

ウィークガCの言葉を鵜吞みにして遠慮を無くした藍の散財っぷりは凄まじかった。

大きなマスコットぬいぐるみに変身小道具一式

作中キャラをイメージしたデザートを食べ、キャラモチーフのグッズを買い漁る。

遠慮がちな普段の彼女からは全く想像が出来ない。

いや、今日一日だけ使い放題のカードと聞かされてるのだから

他の客に配慮しつつも出来るだけ使わなければならないくらいに考えているのだろう。

 

(う、ウィークガイCさん?)

 

心の中のウィークガイCが泡を吹きながら親指を立てている。

テーマパーク事態がそこまで広くなかったのが救いだった。

かろうじてウィークガイCのクレジットカードが限度額を迎える前にパーク内を一周することができた。

 

『楽しかったね、藍ちゃん』

 

『…うん!』

 

藍も大いに満足したようだ。

後は彼女の手を引いてダーザイン本部に戻るだけと思われたその時だった。

 

『うわぁあああ!な、なんだコイツは!!』

 

人々の悲鳴が響き渡る。

最初は何かのイベントかと思ったがそうではない。

今のは本気の叫びだ。

 

美空と藍が慌てて現場に向かうと、そこには数体の幻想態が現れていた。

 

『藍ちゃん!戦える?』

 

無駄と思いつつも一応尋ねてみるが

 

『…嫌…怖い…』

 

藍の目は怯えきっていて身体は震えている。

恐らくはご家族に厳しく鍛えられたおかげで後天的に戦えるようになったのだろう。

精神年齢の初期化と共に積み重ねた経験を失った今の彼女に戦いを強いるのは難しそうだった。

 

『大丈夫。ここは美空お姉ちゃんに任せて。

藍ちゃんは少し離れて待っててね』

 

美空は藍の頭を優しく撫でると敵を睨みつけ静かに戦力差を分析する。

敵は3体、自分は一人。

敵がどのくらい強いのかがわからないが上手く一か所にまとめられれば勝機はある。

美空は大きく息を吸って覚悟を決めると幻想態に突撃していった。

 

3体を相手に必死に戦う美空を藍が涙目で眺めていたその時だった。

別方向から4体目の幻想態が逃げ惑う人々の前に現れた。

人々が慌てて引き返す中、小さな女の子が誰かにぶつかって転んでしまう。

女の子に気付いた幻想態が大きく腕を振り上げると女の子の前まで歩み寄る。

 

『た、助けて!ラブキュアー!』

 

事態に気付いた美空が慌てて振り向くがとても間に合わない。

女の子の叫びも空しく幻想態が腕を振り降ろそうとしたその時だった。

幻想態と女の子の間に人影が割り込んだ。

 

『パ、パールプリンセス参上!』

 

それは怯え竦んでいたはずの藍だった。

藍は幻想態の前で必死に刀をがむしゃらに振り回す。

いつもの藍とは程遠い無様な姿だが、美空にはその姿がいつもの藍と重なって見えた。

 

(太刀花一刀流、太刀花藍!参ります)

 

きっとあれも同じなのだ。

恐怖を誤魔化すように名乗りを上げて掻き消す。

今の空振りもいつもの一撃も、美空は本質的には何も変わらないと感じた。

 

英雄ミソラは自らの手で平和を勝ち取るという強い信念を常に貫き通して戦っていた。

目の前の女の子は恐怖に怯えながらも人を守るために戦っている。

…じゃあ自分は?

 

美空は大きく息を吸うと幻想態の前に立ち塞がり藍と女の子の壁となる。

 

『キュアパールナイト、参上!』

 

いつか私はブリアティルトのミソラのように自分の世界を救う英雄となる。

今はまだ私に出来る事はまだ少ないけれど、せめてこの目に映る人々くらいは救っていきたい。

だから、今日の私はこの子の英雄になってみせる!

 

『ラブキュアは…ここにいるよ!』

 

美空は刀を大きく振りかぶると強烈な一撃で敵を薙ぎ払った。

 

戦いが終わり、人々の記憶が修正されるのをベンチに座りジュースを飲みながら美空と藍は眺めていた。

 

『…あのね…美空お姉ちゃん。

助けてくれてありがとう…かっこよかったです。』

 

どういたしまして。と頭を撫でると藍は恥ずかしそうに顔を赤くする。

 

『あのね…私の一番好きな…本物のパールナイトみたいでした』

 

そう言うと恥ずかしかったのか藍は下を向いた。

彼女なりの告白?も嬉しいが、美空には一番好きという言葉が引っかかる。

それならどうして自分でパールナイトの衣装を着なかったのだろう。

当然のように湧いた疑問を訪ねると、少し重たい回答が返ってきた。

 

『…戦うの…頑張りたいです…

でも、藍は…危ない時も多いから…ナイトに守ってもらいたいからです…』

 

藍が嫌だという言葉を避けるように本人なりの丁寧語で本音を言う。

彼女の気持ちを汲み取った美空は静かに藍の頭を抱き寄せた。

 

『大丈夫。藍ちゃんは一人じゃないよ。

危ない時はきっと誰かが藍ちゃんを守ってくれるよ』

 

大丈夫。大丈夫。

美空が何度も静かに語り続けると、藍は安心したのかゆっくりと眠りについた。

 

(明日からはまた太刀花さんに戻るんだろうな)

 

果たして今日の一日は彼女にとって休息となったのだろうか。

 

(ミソラさん、私も少しは英雄になれたかな…?)

 

自分ではわからなかったから、美空は遠い異世界で戦うミソラに語りかけた。

 

(あっ、そういえば残高は大丈夫ですか…?)

 

ついでに美空はウィークガイCにも語り掛けた。

 

 

それから数日後

美空がダーサイン本部に立ち寄ると藍がこちらを見かけるなり小走りで駆け寄ってきた。

 

『あの、美空先輩。

先日は私が子供に戻っている間、美空先輩に見てもらっていたと伺いました。

その節は大変お世話になりました。』

 

どうやら先日の事を彼女は覚えていないらしい。

深々と頭を下げる姿には先日のような臆病な女の子の影が見当たらない。

 

『そんなのいいですよ。

太刀花さんにはいつもお世話になってますから』

 

あの1日はほんの少しの間の夢。

日々を忙しく生きている彼女にとってはうたた寝のような休息だったのだろう。

少し寂しく思うが彼女には今日からまた頑張ってもらわねばならない。

 

『ですが美空お姉ちゃ…あっ』

 

藍が慌てて口を押さえる。

 

『し、失礼しました!あ、あれ?なんで?』

 

思わずこぼれ出たその姿が美空の目にはあの日の藍ちゃんに被って見えた。

いや、自分にはわかる。

きっと彼女は今も臆病なままで、それを色々な物で覆っているのだ。

 

『…気にしなくていいよ。藍ちゃん』

 

美空は藍の頭を撫でながら言った。

周りがどれだけ彼女を戦士扱いしようとも

自分だけは目の前の少女を臆病な女の子として扱おうと決めた。

あの日の彼女を知っているのは私だけなのだから。

 

そんな2人のやり取りを、死んだような目で見つめながら指を差す男が一人いた。

 

『尊いだろ?あれ、ボクが守ったんだぜ…』

 

『しっかりするんだ!ウィークガイC!』

 

『いくら使ったんだ!ウィークガイC!』

 

『ふふ、ボクの今月のカード請求額は53万です…』

 

美空は藍に事情を説明すると、2人でウィークガイCに頭を下げに向かった。

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