バッセSSまとめ   作:アフロダイB

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藍とかな

『さぁさぁ!じゃんじゃん食べてくれよー!』

 

オールド・フィジックでダーザインの任務を終えた古日山かなと太刀花藍は

コードネーム、チアフルガイCの店を訪ねていた。

彼はこの世界で宿屋を兼ねた小さな酒場を営んでいる。

同じ世界の近くまで偶然に来たのだから知人の店で食事を取ろうという事になったのだ。

 

『俺達の世界を救ってくれたお嬢さんたちには

この世界の人間を代表して俺から礼をしよう!

今日は何でも食べ放題だ!好きなだけ食べてくれ!』

 

そう言うとチアフルガイは大きなテーブルの上に次々と料理を並べていく。

瞳を輝かせるかなと、こんなにいいんですか?という顔の藍に

チアフルガイはウィンクをすると厨房にいる何かに目を向けた。

 

『このくらいいいってことよ!今日は俺の奢りだ!

うちの新人の腕も試してみたいし、いくらでも追加で注文してくれ!』

 

それはフューチャー・フィジックから現れた料理ロボ1号だった。

過度に差がある異世界技術は歪みが安定すれば基本的には動かないが

向こうから現れた物を任務で一度破壊し、こちらの技術で修理したのだから話は変わる。

すなわち料理ロボ1号はこちらの世界に認識された存在なのだ。

もちろんダーザインの規則的には使用禁止なのだが、チアフルガイCは無断で使用することに決めた。

もちろん藍とかなにも内緒だ。

 

『じゃあ今日のかなはいつもより食べていいの?

いつもは途中で止めてるけど、今日はお腹いっぱい食べちゃっていいの?』

 

かながあどけない顔で尋ねる。

こんな小さな子がいつもは満腹に食べられないような世界で生きているのだろうか。

チアフルガイCは同情心を隠すように親指を立て力強い笑顔で答えた。

 

『あぁ、もちろんだ!

遠慮はいらねぇ!今までにないってくらい思いっきり食べてくれ!』

 

チアフルガイCの言葉を聞いてかなは尻尾を小刻みにプルプル振る。

猫が嬉しくて興奮してる時の仕草だ。

その様子を見てチアフルガイCは自慢げに笑みを浮かべた。

 

『じゃあ俺は野暮用でちょっと席を外すけど、お嬢ちゃんたちは腹いっぱい食べてくれよな!』

 

チアフルガイCは片手を上げて店を出て行った。

店内は昼過ぎという事もあって客もおらず静かな雰囲気に包まれる。

 

『じゃあ…いっぱい注文しちゃいましょうか』

 

『うん!いっぱい注文しちゃうの!』

 

この時点でお互いに認識のズレはあったが気付かないまま騒動は始まっていく。

 

『じゃあ…私はメニューの35番をお願いします』

 

『かなは1番と3番と8番と12番と14番と17番と20番と22番と23番と…』

 

『え?え?ええっ?』

 

藍が信じられないような表情でかなを見るが注文は止まらない。

 

『かしこまりました』

 

『いいんですか!?』

 

やる気の無さそうなウェイトレスがあっさりとオーダーを受け取ったので藍の方が逆に驚いた。

このウェイトレス、やる気が無さすぎるので心を無にしている。

バイト中は言われた通りにだけ動くマシンのような女なのだ。

 

『か、かなちゃん。食べられないほど注文したらダメですよ』

 

『まだ前菜なの!』

 

ウェイトレスが立ち去ると藍は小声で諫めたが、かなは元気よくニコニコと答える。

想定と違う反応に戸惑う藍だったが、その真意をすぐに理解する事になる。

 

『えーっと、次は24番と25番と27番と30番と…』

 

あれだけ注文した料理があっとういう間にかなの中に消失した。

そしてまだ足りないと更に注文を追加しているのだ。

 

『かしこまりました』

 

やはりウェイトレスは淡々と注文を厨房へ運んでいく。

コックも本当に短時間で作ってくる。

凄い店だなと思う。

 

『あれ、藍ちゃんは食べないの?』

 

『私はこれだけで十分です。かなちゃんはよく食べますね』

 

体のどこに消えているのだろうというのが素直な疑問だ。

藍は学校で習った質量保存の法則がT=/M=の常識でしかない事を目の前の事象から学んだ。

 

(それに食材の買い置き量も凄い…)

 

かなが次々と注文しては消えていく料理を眺めながら藍は感心する。

その理由は料理ロボにあった。

彼はチアフルガイCの残高を利用して自動で食材をゲートを通じて購入する。

すなわち、かなが注文するたびにチアフルガイCの残高が消費されていくのだ。

だが通常ではありえない注文量に料理ロボ1号はオーバーヒートを起こし気味になっていた。

 

『次は31番と33番と34番と35番と38番と…』

 

オーバーヒート気味の料理ロボに更なるありえない演算が与えられる。

ともかくこれだけの食材を買い置きしていたのだから

チアフルガイCはかなの食べっぷりを想定していたのだと藍は考えた。

この食べっぷりを知っていながらご馳走すると宣言し

事前に食材を買い込んでいたチアフルガイCさんの懐の大きさには恐れ入る。

藍も考えるのを止めたその時だった。

 

『あれぇ、かなちゃんに藍ちゃんじゃないか。こんな世界で奇遇だね』

 

コードネーム、ウィークガイCが店内に現れた。

彼も任務でこちらの世界に来ており、仕事を終えてここに来たらしい。

 

『ウィークガイCさんこんにちは。こちら空いてますよ』

 

『こんにちはー!今日はねー!食べ放題なの!

かないっぱい食べちゃって幸せなの!』

 

藍は軽く会釈、かなは口に料理を頬張りながらピンと手と尻尾を伸ばして挨拶をする。

 

『えっ、そうなんだラッキー。

じゃあ僕は何を注文しようかな』

 

つい先ほどウェイトレスがかなのラストオーダーの皿を運んでいったため

テーブルの上には空いたデザートの食器が5,6品並ぶのみとなっていた。

 

(確かに、女の子2人にしてはよく食べたみたいだ)

 

ウィークガイCは微笑ましそうに笑いながら空いた食器を端に寄せて腕の置き場を確保すると

メニューを開いて3品ほどオーダーする。

 

『いつもはメインと小皿を1つずつだけだけどね。今日は僕もいっぱい食べちゃおう』

 

そういたずらっぽく笑うウィークガイCを2人は笑顔で迎え入れる。

しばらくの間、ウィークガイCの料理が届くまでの間にとりとめのない世間話をしていたが

途中でかなが大きなあくびをし始めた。

 

『ふぁ…お腹いっぱいになったら眠たくなっちゃったの…』

 

食べるだけ食べたら眠たくなったらしい。

かなは急に電池が切れたかのように机に伏して眠り始めた。

 

『今日の戦闘は激しかったですから疲れちゃったんでしょうね』

 

『そうなんだ。それなら藍ちゃんも疲れてるんじゃない?少し楽にしてなよ』

 

ウィークガイCが自分に遠慮するなと提案する。

正直に言うと藍も疲れているので、少しだけ休むつもりで机に伏したがそのまま眠ってしまった。

やがて注文した料理が届き、ウィークガイCが一人で食事を取っていた時だった。

 

『ただいまぁー!』

 

チアフルガイCが店に戻ってきた。

 

『おや、嬢ちゃん達は寝てるのか。それとウィークガイCも来たのか』

 

チアフルガイCは幸せそうに眠る2人と静かに食事する同僚の前で足を止めた。

 

『やぁ!任務が終わったから立ち寄らせてもらったよ。

悪いね、食べ放題って聞いていつもより多めに注文しちゃったよ。』

 

『なぁに、そのくらい構わんさ。』

 

そう言うとチアフルガイCは自慢の料理ロボ1号の様子を見るため厨房に向かう。

だが、厨房に向かうに連れて熱気のような物を感じる。

不思議に思い厨房に入ると、そこには蒸気を噴き出し真っ赤に染まった料理ロボ1号がいた。

 

『りょ、料理ロボ1号!?これは一体!?』

 

『…本日の材料費…53万ゴールドです…!』

 

『な、なにぃ!?』

 

料理ロボから出ているレシートを眺めると、確かにありえない量の材料が購入されていた。

 

『バイト!これ間違えてないか?』

 

『いえ、あってますよ。確かに注文されました』

 

ウェイトレスもこう言ってる。間違いない。

チアフルガイCの表情が陽気な中年から鋭い眼光の男に変化する。

チアフルガイCはウェイトレスを連れて店内に戻った。

 

『バイト、悪いけどその2人を外に連れ出してくれねぇか?

今から教育上よろしくない光景が見られるようになっちまうから』

 

『わかりました』

 

チアフルガイCが指示を出すとウェイトレスが寝てる2人の身体を揺さぶる。

 

『それとウィークガイC。立ち上がってバンザイしてみろ』

 

『?こうかい?』

 

ウィークガイが不思議そうに上げた両腕をチアフルガイCが片手で握ってひとまとめにする。

やがてウェイトレスが2人を外へ案内すると『ファイッ!』と言い残して扉を閉めた。

 

『お前、タダだからって、遠慮ってもんが、あるだろ』

 

ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!

 

そこそこ強めの腹パンがウィークガイCに浴びせられる。

 

『ちょっと待っ、ボク、そんなに、食べたかな?』

 

『嬢ちゃん達が、あんなに、食うわけ、ねーだろ』

 

コイツがこんなに食う生物だったとは知らなかったし

そもそも俺はお前にもご馳走するとは言ってない。

繰り返されるそこそこ強めの腹パンと釈明を他所に

厨房では料理ロボが演算結果を延々と導き出し続けていた。

 

『あり得ない量。しかし計算ミスなし。あり得ない量。しかし計算ミスなし』

 

演算ループに陥った料理ロボの熱は想定された規格を超えて機体が制御できなくなる。

大量の熱が迎える結末、すなわちそれは爆発である!

 

ドーンッ!

 

爆発音と共に店が炎に包まれる。

真っ赤に染まった店の入り口前で

壮絶な最期を迎えた店を3人の少女はどうする事もなくただ茫然と眺めていた。

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