バッセSSまとめ   作:アフロダイB

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藍と姫子

『ネッコネッコ ランラン ニャンニャンニャン♪』

 

ダーザイン施設内の廊下に妙に間の抜けた歌が響き渡る。

偶然廊下を歩いていた姫子は空き部屋から零れる歌に気が付いた。

 

(?空き部屋に誰かいるのか?)

 

部屋の中を覗くと、そこには見慣れた後ろ姿があった。

後ろ姿の正体は太刀花藍、同じバースセイバーの少女だ。

まだ幼さは残るが実力は申し分なく、姫子も一目を置いている。

 

『そんなにそんなに可愛いと~♪ 尻尾をすりすり撫でちゃうぞ~♪ すりすりすり~♪』

 

普段はこのような妙な歌を歌うような少女ではない。

姫子は様子が気になったので話しかける事にした。

 

『藍殿、こんな所で何を?』

 

『ひゃぁあ!!』

 

声を掛けられた藍が顔を真っ赤にして勢いよくこちらを振り向く。

藍の手元には小さな子猫がお腹を出して寝転がっていた。

 

『む!?その子猫は一体!?』

 

ピントを合わせるかのように眼鏡の位置を直しながら訪ねる姫子に、藍は出来るだけ平静を装って対応した。

 

『この部屋の隅の方にいました。

カラスに襲われないようお母さんが隠していったみたいですね。』

 

『なるほどー、この施設の人間なら襲わないと理解しているのであるな。

なんならそうやって面倒も見てくれる。頭のいい猫にござるな』

 

姫子は藍の手を見て言う。

会話をしながらも藍の手つきは今も猫と遊んだままだ。

 

『なるほどぉ、それで歌を歌ってあやしていたのであるな』

 

『うぅ…やっぱり聞かれてましたか。お恥ずかしい所をお見せしました』

 

藍は視線を下げて顔を紅潮させる。

 

『いやいや、貴公の気持ちはよくわかるであるよ。

猫と遊ぶ時は私も童心に返ってしまうからの』

 

これは本当に仕方ないと思う。

猫と遊ぶ時は赤ちゃん言葉を使う人は多い。

 

『そ、そうなんですね』

 

藍が気を使われたと感じ遠慮がちに応えるのを姫子は見逃さなかった。

そもそも自分が迂闊に声を掛けたせいで藍殿を気まずくさせてしまったのだ。

ここは私が身体を張って彼女を元気づけねばなりまい。

 

『ふむ、ではこうするのはいかがかな?』

 

姫子は力強く答えると藍に小銭を受け渡して提案をした。

 

『藍殿はこのお金で子猫のために売店で水を買ってきていただきたい。

その間は私が子猫の遊び相手をつとめるとしよう。

藍殿が戻ってくる頃には私は猫と遊ぶのに夢中になっているはず。

歌を歌ったり赤ちゃん言葉で子猫に話かけてるはずであろうよ』

 

姫子の言う事が事実かはともかく、子猫に水を与えるべきだとは思う。

藍は姫子の提案を快く受け入れると部屋を出て売店に向かった。

藍の気配が消え去ると姫子はゆっくりと子猫の方に振り返る。

 

(さて、しばらくは子猫と遊ぶとしよう。

そして藍殿の気配が近づいたら年甲斐もなく猫と戯れる大人を演じてやればいい。

さすれば藍殿の気恥ずかしさも紛れるであろう)

 

姫子は周囲を警戒しつつ子猫と遊び始めた。

 

一方その頃。

藍と姫子が子猫と戯れている間、食堂ではある事件が起きていた。

アフロダイBが食事中にTV放送されていた動物番組のウサギに発情してひと騒ぎを起こしたのだ。

どうにもならなかったのでハードガイBがハードにぶん殴って解決した。

 

『まさかアフロダイBが地球のウサギに発情するとは思わなかった』

 

『獣人系のバースセイバーも多い。今後も似たような事は起きるかもしれんな』

 

『これからは迂闊に動物番組も見られないね』

 

ハードガイB、ハードガイC、ウィークガイCが先程の騒ぎについて思いを語っていたその時だった。

扉が開きっぱなしの空き部屋で見慣れた獣人の女性が座り込んでいる。

 

『む、あれは姫子だな。あんな所で何をしているのだ?』

 

ハードガイB達は獣人女性の正体をいち早く察知した。

一方の姫子も子猫を撫でつつ後ろの気配を察知していたが

それが誰であるかまでは識別できていなかった。

 

(ふむ、藍殿はもう戻ってきたか。では始めるとしよう)

 

勘違いをした姫子はスーッと大きく深呼吸をすると全力で子猫を可愛がり始めた。

 

『あああーーー!子猫ちゃん可愛いんじゃぁぁあああーー!!』

 

突然の姫子の奇行に3人は音もなく固まった。

 

(まだまだ!この程度ではないぞ藍殿…!)

 

姫子の奇行は勢いは加速していく。

 

『クンカクンカ!はぁーたまらん!この匂いがたまらん!

生まれたての匂い!すべすべの肌!辛抱できん!ハァハァ!』

 

姫子の奇行に最初は戸惑った3人だったが、やがて落ち着きを取り戻すとお互いに顔を見合わせて静かに頷いた。

 

(よしトドメだ!ここでいかにもヤバそうな発言でフィニッシュでござる!)

 

姫子の奇行はクライマックスへと突入していく。

 

『もうあれだ!おぬし私と結婚するか?するか!?私は本気だぞぉー!?よし、しよう!!

って、藍殿ではないかぁー!><』

 

姫子がオーバーアクションで振り向くと、そこにいたのは真顔の犬、メカ、宇宙人。

まるで事態が飲み込めない姫子。なんで?

そのまま時が数秒ほど止まった。

 

(ほぁぁああああああ!!?)

 

どうして違う人がいる!?

流石の姫子も顔を赤くする。

だが恥ずかしがっている場合ではない。

とにかく己の奇行について言い訳をしなければならない。

姫子はかろうじて平静さを取り戻すと事情を説明し始めた。

 

『…あ、いや、その…違うんでゴザルよ…?』

 

しかし様子がおかしい。

可哀想な物を見る目をされると思っていたのだが

3人の眼差しからは軽蔑と敵意を感じる。なんで?

姫子が疑問と羞恥と恐怖に苛まれている間にハードガイBがゆっくりとこちらへ向かってきた。

 

『お前!こんな小さな子猫をどうするつもりだったぁ!』

 

ハードガイBは怒鳴りつけるように大声で叫ぶと姫子から子猫を奪い取った。

 

『へ?どうするも何も…可愛がって…』

 

『可愛がるだって!?こんな小さな子猫ちゃんによくもそんな事を言えるね!』

 

いつもは大人しいウィークガイCにも責められる。

意味がわからない。

 

『全く。差別をするつもりはないのだが獣人には警戒をせねばならんな。

こんな小さな子猫で己の欲求を満たそうとするとは…』

 

ハードガイCが呆れるように呟いた。

姫子は先程の自分のセリフを振り返り、ようやく事態が飲み込めた。

 

『は?はぁぁあああ!?いやいやいや誤解であるよ!私はそんな!』

 

流石の姫子も大きな声で否定するが先程の己の姿を録画した動画を突きつけられる。

これは酷い。

自分でもそう思う。

 

『いや、これはその…誤解であって…』

 

姫子は必死に説明しようとするが、事実が嘘っぽいので上手に語れる気がしない。

しどろもどろな姫子に3人は深いため息を吐くと、子猫を抱いたまま無言で背を向け部屋の外へと歩いていく。

そして扉に手を掛けると一言だけ言葉を残して勢いよく締めた。

 

『…クズがっ!』

 

バンッ!

 

…3人と1匹が部屋を出ていき、辺りは急に静けさを取り戻す。

入れ違いになって藍が戻ってくると、両手で頭を抱え姫子は発狂するかのように叫んだ。

 

『ちっげぇんだわぁぁああああーーーー!!』

 

 

 

藍は別室で緊急会議を開いていた3人に深く頭を下げて事情を説明する。

 

『…というわけで、姫子さんは私の為に大袈裟に子猫ちゃんを甘やかしていただけなんです』

 

『そうであるよ…私はいくらなんでもそんな子猫ちゃんに発情などしないであるよ…』

 

我ながらなんとも情けないがこのまま放置するわけにもいかない。

いい大人が若干14歳の少女に事情を語ってもらう事になった。

だが、3人からの反応は冷たい物だった。

 

『信用できないな』

 

『そんな…!私に至らぬ点がございましたら謝らせて頂きます!』

 

冷たく言い放ったハードガイBに藍が食い下がるが

ハードガイBは厳しい目を向ける。

 

『君は甘いからな。姫子に言われて騙されている可能性もある。』

 

厳しく言い放ったハードガイBの言葉をフォローするかのようにウィークガイCが和やかに言葉を続ける。

 

『子猫ちゃんの安全が掛かってるからね。僕らも簡単に信用するわけにはいかないのさ』

 

藍は気圧されて俯いてしまう。

ここは大人である自分の出番だ。

姫子は一歩前に出て堂々と問いかける。

 

『では、どうすれば信用してもらえるのだろうか?』

 

姫子の問いかけにハードガイCが指を顎に当てながら考えをまとめる。

 

『…そうだな。そもそもだ。

君が見た藍殿はそんなに恥ずかしい姿だったのか?

それを証明できれば君の奇行にも納得が行く』

 

『…つまり?』

 

なんだか嫌な予感がする。

 

『藍殿が子猫の前で取っていた行動を我々に見せてもらおうか』

 

『い、嫌です…』

 

藍が即座に拒否する。

だがそれは姫子の社会的な死を意味する。

10秒近く悩んだ末に、藍は深くため息をついてから力無く許可を出した。

 

『ではこうしよう。

我々は今から席を外して、適当な頃合いで音を立てずに戻ってくる。

君はいつも通り子猫と遊んでいたまえ』

 

そう言い残すと4人は子猫と自分を残して部屋を出て行った。

 

本当に嫌な提案をして来るが他に方法も思いつかない。

藍は誰もいなくなった部屋で落ち着かない様子で子猫と遊んでいたのだが…

 

『にゃーん!』

 

『はにゃ~ん♪』

 

子猫の鳴き声1回で理性を無くした。

気付けば藍は自分が観察対象であることを忘れ全力で子猫と戯れ始めた。

 

その様子を4人は食堂にてモニターで観察していた。

適当な頃合いで戻ると嘘を付いて、部屋を出る際にこっそりとカメラを仕掛けておいたのだ。

 

『ふむ、すっかり我を忘れて子猫と遊んでいるな』

 

『微笑ましい光景だねぇ』

 

『だが忘れるな。これは姫子殿の身の潔白を証明するための監視なのだ』

 

『うぅ、藍殿ぉ。ふがいない私の為にまことに申し訳ないぃ』

 

モニターが映し出す平和な光景とは裏腹に4人からは緊迫した空気が流れている。

そのまま数分の時が流れ、空気が少しだけダレてきた時だった。

 

『ネッコネッコ ランラン ニャンニャンニャーン♪』

 

『…出たぞ!』

 

4人に緊張が走る。

 

『なるほど、確かに歌っている。どう思う?』

 

『ランランと藍をかけているのかな。』

 

『異世界の言葉遊びか。面白いな』

 

本人が聞いていたら死にたくなるような会話が繰り広げられる。

藍殿、本当にすまない。

聞いている姫子もいたたまれない気持ちになる。

 

『そんなにそんなに可愛いと~♪

可愛い罪で 逮捕だ~♪ワシャワシャ~♪』

 

藍が子猫のお腹を触り始める。

 

『恐らくは最初のニャンニャンニャーンまでは同パターンだが

その後は彼女の気分次第で歌詞が変わるのだろうな』

 

冷静な分析が始まる。

もうやめてあげて欲しい。

 

『で?これは恥ずかしいと思うか?』

 

『どうだろう?ボクは可愛いと思うよ』

 

本人に聞かせたくない。

この歌を聞いているのが4人だけなのが救いか。

姫子が小さなため息を吐いたその時だった。

 

『む!?むむむ!!しまった!!このハードガイC、一生の不覚!!』

 

ハードガイCが珍しく大きな声を上げる。

何があったのだろう。

3人が問いかけると、藍にとって地獄のような回答が返ってきた。

 

『今の映像を間違えて緊急ライブ配信モードにしてしまっていた。

端末を開いた全てのバースセイバーに動画が見られている。』

 

『ほぉぉぉぉぁああああああ!』

 

藍の代わりに姫子が絶叫する。

 

『待て、ピンチをチャンスに変えよう!

配信を見ている視聴者に今の行為が可愛いか恥ずかしいか投票を迫るんだ』

 

ハードガイBが地獄のような提案をする。

 

『ら、藍どのぉぉぉおーーーー!!』

 

姫子が絶叫しながら藍の元へと全力で駆けていく。

 

動画内の藍はのんきに子猫を抱き締めて歌っていた。

己が既に地獄のど真ん中にいる事に気付きもしないまま。

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